(19)#同棲始めることになりました
「あー痛いなぁ。タンコブ出来たかもなぁ」
出口に向かう道中、ダンはわざとらしく大きい声でアピールしながら頭をさすっていた。
「うるさい。もう一発やってやろうか」
私は右腕を大きく上げ、ゲンコツをする素振りを見せる。
「あれ?全然痛くない。なぁ、今日の晩飯どうする?」
ダンはあからさまに話題を変えてきた。
「昨日お客さんにいい肉もらったから、家で何か作るか」
「セーラが作ってくれるってこと?」
「他に誰が作るんだよ」
私は照れ臭さいのがバレないように言った。
「楽しみだな。彼女の手料理なんて初めてだよ」
「ホントに初めてなのか?」
「ああ。彼女いなかったし」
「彼女いなかったのか?」
「だから、いなかったって」
「そうか。いなかったのか」
私は緩む口元を見られないように、顔をダンから背けて言った。
「ねぇねぇ。まだ?」
「うっとうしいな。料理出来ないだろ」
「ぐふっ」
エプロンを着て料理をしていたら、ダンが抱きついて甘えてきたので、軽くエルボーを脇腹にいれてやる。
「ジッと座ってろ」
「は、はい」
子供みたいに叱られたダンは、腹をさすりながら食卓の椅子に腰掛けた。
「待たせたな」
私はつい照れ隠しで、ぶっきらぼうにステーキ料理を差し出してしまう。
「美味そう」
ダンは目を輝かせ隠したつもりだろうが、どうせ私が予想以上に料理が上手かったことに驚いたのだろう。
「ほらっ。さっさと食べるぞ」
「ああ。いただきます」
料理をぼーっと見ていたのを急かしたら、ダンは背筋を伸ばして手を合わせた。
「獣神よ、感謝します」
私は獣人習わしの挨拶をし、食事を始めた。
「ホント美味いよ、セーラ」
「で、いつから住む?」
「ほぇ?」
突然に私がした提案を聞き、ダンは変な声を出した。
「だから、ここに住めって言ってるんだよ」
「は、はい。わかりました」
じれったくなった私の迫力に押し負けたような感じで、ダンは同棲をすることを決めた。




