(13)#意識してしまいます②
「アイタタタ」
私が宿屋に着くと、マスターが産まれたばかりの子鹿みたいにフラフラと、風呂場に置くタオルの束を持って歩いていた。
「ちょっと何で仕事してるのよ」
「おおセーラ。どうした?」
マスターは何でいるんだみたいな顔でこちらを見て言った。
「どうしたじゃないわよ。ダリアが教えてくれたから急いで来たんじゃない」
私はタオルひったくるように取り上げた。
「そうか。休みなのに悪かったな。動けないことはないからダリアには大丈夫と言ったんだが」
よっこらせと言いながらマスターはカウタンターの椅子に座った。
「後の仕事は私がやっとくから」
「ああ悪い。ちょっと休んだら帰るよ」
「まったく。もういい歳なんだから」
ちょっと呆れた口調で言ってしまったが、大丈夫そうな顔を見て安心した。
一通り片付けが終わり、カウンターで一息ついていたらダンが帰って来た。
「あれ?マスターは?」
「昼間にギックリ腰やらかして寝てる」
私はやれやれという感じで説明した。
「そうか。異世界でもギックリ腰は共通の悩みなんだな」
そう言うダンは、どこか嬉しそうに見えた。
「そういえばトールが心配してたけど」
「ああ。ダンジョンでいろいろあったからな」
「そうかい。大変だったね。飯はどうする?」
「悪い。軽くすませたから、もう寝るよ」
最近はほぼ毎日のようにダンと夕食を共にしていたので、少しがっかりしてしまう。
「わかった。おやすみ」
私は変に恥ずかしくなった表情を悟られないように、平然を装い言った。
「おやすみ」
疲れ切ったダンは何も気づいていない様子で部屋へと歩いて行った。




