(1)#異世界人に出会いました
「はぁ。暇だな」
今日はあまり客がなく、仕事が早めに終わっていた。
「マスター、そろそろ片付けしてもいいかい?」
日暮れも近づき客も来なさそうなので、私はマスターに声を掛けた。
「ああ悪いな」
マスターは眠そうな顔で返事をする。
「はいよ」
私は軽く答えて、外に出た。
「ふぁあ」
肩をほくじながら片付けていると、見知らぬ道具を持ってキョロキョロしている男が目に入った。
「何だあいつ」
人間ではあるようだが、顔立ちが見たことのない人種のものをしている。
「ちょっと声を掛けてみるか」
客引き目的とは別に何となく男に興味が湧いたので、声を掛けてみることにした。
「あんた異世界人だよね?」
噂で聞いていた異世界人の特徴に似ていたので、当てずっぽうで訊いてみた。
「そうですけど」
男はかなり驚いた様子で、視線は私の耳に向けられていた。
久しぶりにジッと見られたので、何だか私はドキドキしてしまう。
「泊まる所は決まったの?」
私は動揺を悟られないように、早速本題に入った。
「いえ、これから探そうかと」
男は全く気付いていない様子で答えた。
「じゃあウチに泊まりなよ」
私は男の態度に平静さを取り戻し、選択肢を与えない勢いで話を進める。
「や、ちょっと」
男は戸惑っていたが、私は有無を言わさず宿屋へ連れて行った。