和道 3
お昼ごはんを食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「え、和道もう食べ終わったの?」
「ああ」
「早いね」
「早食いは太るわよ」
「俺太ってねえし」
むしろまだ食べ足りないくらいだ。
弁当箱を閉じて、手持ち無沙汰になると、なんとなく隣の愛夢を見た。
愛夢はブロッコリーをもぐもぐしている。可愛い。
「ちょっと、食べてるところまじまじ見られると、恥ずかしいかも」
愛夢がそう言って、ちょっと赤くなった。
可愛い!
「じゃあ、見てない方がいいか?」
「う、ううん。別にいいけど。そんなに見たいの?」
「ああ。愛夢は可愛いからな」
愛夢はますます赤くなった。可愛い。
「けっ。うぜえーっ。変態の臭いがプンプンするぜえー!」
そして美七はうるさい。
「愛夢は本当に可愛いよな」
「もうっ。和道ったら」
「彼氏面しやがって。愛夢、惑わされるな。和道はどうせ愛夢のパンツのことしか考えてない!」
「人聞きの悪いことを言うな」
「もううっ」
愛夢はうつむいて食べ始めた。ちょっと悪いことしたかな?
でも、俺は愛夢の彼氏だ。だから、こうやっていっぱい見てて良いはずだ。
「おい和道、ちょっとジュース買ってこいよ」
「自分でいけ」
「私が行ったら愛夢の近くにケダモノだけになっちゃうでしょ。そんなことできないわよ」
「俺がいるから大丈夫だ」
「あんたそれ本気で言ってる?」
「そっちこそジュースでもなんでも買いに行ったらどうだ?」
「ぐぬぬぬぬ」
そんなことを言っている内に、愛夢がふとこちらを見た。
「あ、もしかして和道、まだおなかすいてる?」
「ん?」
「だから私の食べてるとこずっと見てるとか」
いや、別にそういうわけじゃないが。いやでも、まあ当たってはいる。
「たしかに、まだ腹はすいてるな」
「あ、やっぱり?」
「どれだけ食うのよ。デブにでもなりたいの?」
「そういうわけじゃないけど、成長期はずっと腹が減りっぱなしなんだ」
「そうなんだあ。やっぱり男の子だからねえ。じゃあ、明日から私がお弁当、和道の分余計に作ってあげようか?」
愛夢が俺のお弁当を作ってくれる?
「愛夢が俺のお弁当を作ってくれる?」
「うん。迷惑、かな?」
「いや、ぜひ頼む。作ってくれ!」
むしろこのチャンス逃したら一生の後悔になる!
「いーや、ダメだね。調子に乗るなエロ猿」
そしてここでも美七が障害となって立ちふさがるのか!
「エロ猿じゃない。愛夢の彼氏だ」
「うるせえ下心見え見えのくせに!」
「もう、美七。和道にひどいこと言わないで。それにお弁当くらいどうってことないんだから。二人分作ればいいだけだし」
二人分作る。
つまり、愛夢とおそろいのお弁当!
「ぜひ作ってくれ」
「うん、いいよ!」
「超ムカつく!」
はっはっは。美七よ。もっと悔しがれ。羨望の眼差しが心地よいぞ。
「じゃあ、お返しに何かやらないとな。お金でいいか?」
「そんな、いいよ。大したものじゃないし」
「いやでも、それだと心苦しい」
一方的に愛夢から愛をもらうのは、流石に気が引ける。
「そうだ、一万円払え!」
「そんなには出せない」
「だから、いいって。あ、でも、毎回美味しく食べてくれたら、うれしいな?」
ズッキューン!
ダメだ。今一撃で、やられた。
彼女、凄い。愛夢、可愛い。
これが骨抜きにされるというやつか。今わかった。
「わかった。美味しく食べる」
「うん。絶対だよ!」
「ああ。絶対だ」
「あ、無理はしなくてもいいけど。嫌いなものがあったら、先に言ってね?」
「嫌いなものなんてない。愛夢の作ったもの全てが、俺の好きなものだ」
「もう、和道ったらっ」
「うぜえー!」
ふっはっは。今とっても幸せだ。
「それじゃあ次から、よろしく」
「うん! 期待しててね!」
「超期待します」
「愛夢ー。私のも作ってー」
「美七は自分で作れるじゃん」
「ううー、悔しいー」
愛夢が彼女になってそうそうに、素晴らしい展開になった。
勇気を出して告って良かった。
弁当を食べた俺達は、2人で校内を歩いた。
どこか2人でゆっくりできるところを見つけたかったのだ。美七は用があるとか言ってどっか行った。
「どこかゆっくりできる場所ないかな?」
「探してみないと、わからないね」
まあ、俺としては愛夢とゆっくりイチャイチャできる場所が見つかればいいなあ。と思うので、気合いを入れて探す。
校内校庭、いろんなところをあるき回り、なんとか良さげな場所がないか探し回った。
すると。
「うふふ、ダーリン、だーいすき!」
「俺もだよ、ハニー」
良さそうな場所には既にカップルがいた。
「俺達、この世界で一番あっつあつなカップルだね」
「んもう、それ良いすぎっ。でも、ないかも?」
ここにもいた。
「やっと二人っきりになれたね」
「そうね。ここなら、誰も来ないもんね」
ここにも。
「今日もお前が一番可愛いよ」
「あなただって、一番かっこいいわ」
ここにも!
「カップル多すぎ!」
俺は思わず叫んだ。まあ俺達もカップルだけど。
「まあ皆、恋人同士で気兼ねなく会ってたいんだよ」
「気持ちはわかる。が、俺も愛夢と二人っきりになりたい!」
「放課後にできればいいんだけどねえ」
「残念ながらサッカー部の練習が終わる頃には日が暮れる。だから会えるのは昼休みだけだな」
「どうする? 図書室も保健室も、屋上も行けないし」
「どうしような。でも校内中あるき回って、二人っきりになれるところはなかったわけだし」
「うーん。あ、もうお昼休み終わっちゃう」
「そうか。じゃあ、今日の探索はここまでだな」
「明日も探す?」
「うーん。見つからないと、気兼ねなく一緒にいられないよな。やっぱり探すんじゃないのかなあ」
「そっかあ。見つかればいいんだけどねえ」
「そうだな」
その後、美七と会って、俺達の問題は一気に解決した。
「あ、美七。ねえ、誰にも気兼ねなくいられる場所って知ってる? 学校の中で」
「教室でいいんじゃね?」
俺と愛夢は見つめ合う。
「そっか」
「そうだな」
こうして結局俺達は、昼休みは教室で過ごすことにした。
二人っきりというわけにはいかないが、まあ、仕方ないな。