和道 1
俺は美七から最後の試練を言い渡された後、ずっと悩んでいた。
愛夢にプレゼントをあげる?
望むところだ。そこまではいい。
一体何をあげたら喜ぶ?
俺は想像する。
花束をもらって、にっこり微笑む愛夢。
「ありがとう、和道!」
良い。実に良い。
だがこれは、手堅いか?
正直な話。例え俺が花束をもらったとしても、大して喜ばない。
相手は女性だからそんな価値観反転してるかもしれないが、そもそも俺が愛夢に何かを渡せるタイミングは教室での休み時間中。
クラスの皆がいる中、普通にそんなことはできない。
いや、愛があれば可能か?
ダメだろう。仮に俺以外の誰かが教室に花束を持ってきたとしよう。普通に引く。女子からも引かれるんじゃないか?
ダメだ。愛夢に引かれるのはダメだ。美七に笑われるのもダメだ。
じゃあ、何がいい。ワンピースか?
ワンピースを持って、にっこり微笑む愛夢。
「ありがとう、和道!」
ありだ。その後着てくれたりしたら更にありだ。
だが少し待て、俺。
俺ワンピース買える?
一般的に言っても、服は高い。男でもそう思うのだ。女性ものも総じて高いはずだ。
何より、贈った服が愛夢の好みではなかったら?
それはまさにオウンゴール。おこづかいが限られている俺にとっては致命傷である。
やはり相手が好きだとわからない限り、何かを買って贈るのはほぼ博打だ。危険度が大きい。身につけるものだと特に。
だから、服とかそういうのはやめよう。
となると、なんだ。食べ物か。
からあげさんを持って、にっこり微笑む愛夢。
「ありがとう、和道!」
食いしん坊さんスタイルすぎるだろ!
こんなもん速攻で却下だ。食べ物はなし。安かったらダメだし、高いのでもどっちみち博打だろう。
いや、流行りのお菓子とかならワンチャンスいけるか?
無理だ。そんなおしゃれスイーツ近場にはないし、買いに行けたとしても時間が経ってしまう。時間が経っても平気なものならいいか? いやそもそも食べ物だって好みがある。嫌いなものだったらどうするんだ。俺のバカ。
考えれば考える程悩ましい。正解が見えない。一体何をプレゼントすればいいんだ?
考えていると、時間はどんどん過ぎた。
休み時間が終わって、昼休みも終わって、授業が終わって、部活動が始まる。
サッカーの練習中も悩んでしまい、あまり身にならなかった。
これはまずい。サッカーに身が入らなければ、俺の青春はほぼ無価値だ。サッカー強くなりたいからこの高校に来たんだろ。しっかりするんだ。俺。
でも、愛夢のことは気になる。
もう少しで、もう少しで愛夢と付き合えるんだ。いや、正確には美七が邪魔してくるだけだけど。くそ、美七め。絶対に最後の試練も突破してやる。
そうしたら、俺ははれて愛夢と付き合える。誰の邪魔も入ることなく。
ん、邪魔が入るっておかしくね?
「美七めえ」
あいつは悪魔か。こうなったらここできっちりかたをつけるしかないな。
愛夢が喜び、美七が黙る、最高のプレゼントを見つけるんだ。
最高のプレゼントを見つけるために、近くのコンビニに入った。
まずは発見することから始めるんだ。わからないなら探す。これ鉄則である。
ネットで探してもいいが、見つけても価格の問題で断念することもあるかもしれないからな。だがコンビニ内なら値段も手頃だろう。あと帰り道にあるというのがいい。
さて、まずはどこから見るか。ふむ、雑誌か。漫画も並んでる。
バトル漫画を持って、にっこり微笑む愛夢。
「ありがとう、和道!」
いやいや、ないない。というか欲しかったら買ってるだろう。本系が一番ダブるといらない物筆頭だ。
雑誌コーナーはパス。そうすると今度は、ドリンクか。
いや、ドリンクなんて必要だから買うレベル。プレゼントとしてはランクが落ちる。
ここは別のものだな。
ちょっと視線をめぐらせると、カード付きのポテチがあった。カードはアニメのキャラクターが描かれているらしい。
「こういうもの、愛夢は好きかな?」
ちょっと思ってから、すぐに首を横に振る。例えほしかったとしても、後で一緒に集められるだろう。買うのはこのタイミングではない。
今は、誰でも喜ぶ最強プレゼントが必要なのだ!
お弁当、パンはスルー。んー。やっぱり無計画すぎたか?
今のところ、コンビニでピンとくる物がない。無駄足だったか。
「ん?」
そう思った時、チラリとあるものを見つけた。
そしてすぐに、ハッと閃く。
「こ、これは。これがあれば、きっと!」
俺は即座にそれを握りしめ、購入した。
翌日。俺は自信をもって学校に登校した。
朝練もバッチリ。昨日の遅れを取り戻す勢いで励む。
「和道。今日ははりきってたな」
朝練が終わると佐々部が話しかけてきた。
「ああ。今日で美七を倒すからな。そして愛夢とはれて付き合う」
「お、おー。燃えてんなあ。あ、なあ和道。もしお前が上手くいったらさ、俺に美七を紹介してくれよ」
「そんなこと自分でやれ」
「つめたっ。冷たすぎるぞお前!」
「俺は自分自身で精一杯だ」
「そ、そう言われると妙に説得力があるな」
よし、持つべきものは持った。後は、教室に行って愛夢と会うだけだ。
やはり愛夢は、教室にいた。美七も横にいる。
「あ、和道ー、おはよー!」
「ああ、おはよう。愛夢」
「和道、昨日のあんたの試練、答えがわかったわよ!」
「そうか。それで愛夢。早速プレゼントを持ってきた。もらってほしい」
「え、もう? ありがとう」
「私を無視するなー!」
なんだよ。俺は愛夢と話をするのに忙しいのに。
「で、なんだ美七。答えは?」
「車!」
「正解。それじゃあ愛夢、これなんだが」
俺は保冷バッグからそれを取り出した。
頼む。これで上手くいってくれ。
「それは、ポピコ?」
そう。これはポピコだ。2つくっついてて、手で取れるやつ。開け口から中身のアイスをチューチュー吸うやつ。
「ああ。これを2人で食べよう」
「う、うん。いいよ」
愛夢がそう言うと、笑った。
愛夢が笑った!
やったあ!
「うぜえー!」
そして美七が横でうるさかった。
「2人でポピコ? カップルぶりやがって。ヘドが出るぜえー!」
「だが、愛夢はうれしいはずだ。そう、だよな?」
「う、うん。そうだね」
よっしゃあ!
俺の勝ちだあ!
心の中でガッツポーズする。
愛夢はポピコを袋から出して、2つに割って、1つを俺に差し出す。
「はい。和道」
「ありがとう。愛夢」
俺は受け取ろうとしたが、予想以上のスピードでポピコが迫ってきて、俺のほっぺにつけられた。
「えいっ」
か、かわいすぎるううー!
「やったな、こいつ」
俺はとっさに愛夢の頭をなでる。
「えへへへっ。なんてねっ」
彼女最高ー!
俺は叫びたくなった。
だが叫ばない。かろうじてこらえた。よくやった、俺。
「やっぱり、2人でアイスっていったら、これだよな」
「だね。夏の今はありがたいね。ありがとう、和道」
「これくらい、なんともない」
やったあ、ありがとうって言ってもらったあー!
うひょー、最高だぜー!
「く、こいつら、人前で、ポピコを食いやがって!」
美七を気にせず、2人で食べる。
んー。美味しい。目の前に愛夢がいるから更に美味しい。
「これで、第三の試練もクリアだな」
「うるせえ、が、たしかにこれは、カップル同士じゃないとできねえ!」
美七は凄く悔しそうにしていた。
「もう、美七。そんな顔しちゃダメだよ。折角の美人が台無しじゃない」
愛夢がそう言って、食べかけのポピコを美七に差し出す。
「はい。これ食べて元気出す?」
「愛夢、ありがとうう」
美七はすぐに食べかけポピコに吸い付いた。
「チュー。んー、甘くて美味しい。しかも愛夢と関節キスー。どうだ和道、うらやましいだろー?」
「いや、別に」
やせ我慢でそう言うと、愛夢が感情がない冷たい目をこちらに向けた。
「ふうん。そうなんだあ」
「いや、本当はうらやましい。ちょっと、凄く」
反射的にそう言うと、愛夢が笑った。
「なんだ、そうなのお? もう、エッチ」
ホッとする俺。良かった。フォローは完璧だった。
「この変態」
そう言ってポピコを最後まで吸う美七。
「お前には言われたくない」
とにかくこうして、俺は美七の試練を全て乗り越えた。