愛夢 3
「く。まさかこの俺が負けるとは。七野和道。その名前、憶えておこう」
山助がそう言って去る。
「ご協力ありがとうございましたー」
「うう、折角美七さんと握手できるはずだったのに」
あ、ねぎらいの言葉を言ったら急に嘆き始めた。
うーん。やっぱり敗者の背中は寂しいなあ。
「和道、やったね、おめでとう!」
「ああ。なんとか勝てて良かった。強敵だった」
「ちなみに、負けてたらどうするつもりだったの?」
「もう美七無視して愛夢と付き合おうと思ってた」
おお、それはそれで強引。
「和道い、この程度で勝った気になるなよ!」
美七が三下セリフを吐いた。いや勝ったんだよ和道は。
「そっちこそ、もう後がないぞ。さあ、最後はどんな試練なんだ?」
「ふん。これこそが本命。真の関門。財力の試練、それは、愛夢に貢いで喜んでもらうことだあ!」
「え!」
ちょっと驚く。そんなの、簡単すぎない?
だって私。和道から何もらったってうれしいし。
「なん、だと?」
そして和道、この試練でそんなにうろたえないでくれない?
「財力といっても誰もがもってるわけではないわ。というわけで、彼氏からのプレゼントで好きな彼女を喜ばせる。ただそれだけができればいいというわけ。金額は問題じゃないわ。重要なのは、ハートキャッチよ!」
「ハートキャッチ」
和道がそう言って私を見る。しかしそれを美七が制した。
「おおっとお、本人から訊くのは無しよ。それじゃあ試練にならないからねえ」
「ぐ。まあ、そうだろう」
「和道、大したものじゃなくていいからね。高いものもらうわけにはいかないし」
「愛夢がそう思ってたとしても、判断するのは私だからー。和道、全力で私に財力を示しなさい!」
「く。よし、やってやろう。愛夢、楽しみに待っててくれ」
「う、うん」
「あ、やっぱり、ちょっと楽しみ、くらいでいい」
「うん。わかったよ」
「おいおい、いきなり弱気だなあ和道さんよお。そんなことじゃ愛夢はやれねえぜえ?」
「私は美七のものじゃないよ」
「遅かれ早かれ、彼女にプレゼントくらいするものだ。その機会が早まったにすぎない。むしろこれは良いチャンスだ」
「か、和道」
今、キュンときた。和道って、思ってた以上にかっこいいかもっ。
「ふん。強がっていられるのは今の内だけだぜ。せいぜい考えな。そしてもし愛夢をがっかりさせたら、お前は終わりだ。まあ、がっかりさせなかった時は普通にムカつくけどなあ!」
「この試練、受けて立つ!」
「ああ。もちろんその間、愛夢には近寄るんじゃねえぞ!」
それにしても、美七、随分楽しそうである。
「わかった。ああだがその前に、美七に俺から知の試練を与える」
「ん?」
「もちろん、受けて立つよな?」
「まあ、和道程度からの挑戦、受けなくもないけど? いいじゃない。試練って何よ、言いなさい」
「それでは問題だ。十一日でできるもの、なーんだ?」
またなぞなぞである。
「は? 11日でできるもの?」
「この答えがわからなかったら、これ以上俺と愛夢との間に割って入らないでもらいたい」
「別に割って入ってねえし! そっちが私と愛夢との間に入ってきてるだけだし!」
「それじゃあ、プレゼントを思いついたら持ってくる」
和道はそう言って自分の机へと行った。
そして私と美七は、顔を見合わせて考えた。
「11日でできるものって、そもそも1つだけなの?」
「さあ。でも、明らかにこれなぞなぞだよね。答えは導き出せるようになってるんじゃない?」
「そうねえ。ということは、11日が肝心なのか。ううん、イレブン、11ひ。うーん」
美七は悩んでいる。私もちょっと考える。
11日。じゅういちにち。ジュウイチニチ。十一日。
ん。十一日?
私、答えわかったかも。
そろーっと、美七を見る。
「11日。11日」
答え教えるのはあ、和道にちょっと申し訳ないかなあ。
よし。決めた。美七には黙っておこう。
「11日でできるもの。愛夢、わかった?」
「ううん。わかんない」
「そうかあ。愛夢でもわからないかあ。うーん。これはひょっとしたら、想像以上の超難問なのかも」
「頑張れ、美七」
そういえば、美七なぞなぞ苦手だったねえ。ん。も結構長い時間わからなかったし。
そう話している内に、今日の学校が始まった。よし、今日も授業頑張るぞ。
そして和道、何くれるかなあ。楽しみだな。
それから美七は、ずっとなぞなぞの答えを考えていた。
「うーん」
「美七、考え過ぎもよくないんじゃない?」
「いや、答えがわからないのは和道にバカにされてるみたいで悔しい」
「それは被害妄想だよ」
そんな感じで、休み時間がすぎ、お昼休みもすぎ、放課後になる。
「うーん」
「じゃあ美七、またね」
「うん。またね。愛夢」
私と美七は部活が違う。だからここで別れる。
でも、なんか私と美七は気が合うんだよねえ。なんか脳の波長とかがマッチするのかな?
まあ、毎日楽しいから、これでいいんだけどね。
あ、でも、和道が美七公認彼氏になったら、どうなっちゃうのかなあ。
ちょっとドキドキする。だって、初彼氏だもんね。期待にこたえてよね、和道。
部活も終わって、家に帰る。
その後お母さんと買い物したり、スマホいじったりしてえ。そうしていると、美七から連絡がきた。
美七 和道のなぞなぞの答え、わかった。車。
それを見て思わずほっこりする。
一日を組み合わせたら旦。旦に十を組み合わせたら車。つまり十一日で車という感じができちゃうということ。
だから和道のなぞなぞの答えは車。ようやく美七もわかってくれたか。友としてうれしいかぎりである。
愛夢 美七、凄い! よくわかったね!
思わずそう褒めると、すぐに返信がきた。
美七 お母さんが答え言わないから教えてって言ってきて、教えたら、すぐにわかりやすいヒント教えてくれた。すぐに。
あー。
美七にも、結構ダメージ入ってるねえ。すぐにって、2回書いてるし。
私はひとまず、こうメッセージを送っておく。
愛夢 どんまい!
美七 ちくしょー、こうなったら全力で和道にどやってやる!
良かった。いつもの美七だ。
愛夢に2人が答え連絡するので愛夢視点にしてました。
基本和道視点です。