愛夢 2
その日の夜、お風呂に入る前に和道からの連絡を見た。
和道 なぞなぞの答え、ん。だよね?
やっとわかったか。
そう思いつつ、返信する。
愛夢 そうだよ。ちゃんと1人で解けた?
和道 お母さんに、答え言わないから聞かせてって言われたから話したら、すぐにいっぱいヒントくれた。すぐに。
おおう。思ったより和道へのダメージは大きそうだ。すぐにって2回書いてあるし。
愛夢 頑張ったね。でも、これで試練はあと2回だね。
和道 うん。愛夢、好き。おやすみ。
好きって書かれるの、ドキッとした。
勝手に気分が上がる。ああもう、彼氏って良いな。想像以上だ。
そういえば、私は彼氏に何をしてあげられるんだろう?
そう思ったら、途端に恋人作っても、何やればいいのかわからなかった。
「彼女って、難しいな」
そう1人ごちて、ひとまず私も本日最後の返信を送る。
愛夢 好き。おやすみ。
送った後恥ずかしくなった。
あとなんとなく今日は、自分の体を念入りに洗った。
「おはよう美七ー」
「おはよう愛夢。今日もきれいだよ」
「あはは、どうしたの今日は?」
「いや、和道よりも多く愛夢のことをドキッとさせようと思って」
「残念だけど美七じゃムリかなー」
「そんなにあいつが良いの?」
「美七も彼氏できたらわかるよ」
「そりゃあ金持ちでかっこよくて頭良いやつが現れたらゲットのチャンスだけどさあ。ていうか、愛夢、もう和道に何かされたわけ?」
「うーうん。それより、和道なぞなぞの答えわかったってー」
「なに、ちっ。でも一晩たたないと答えがわからないって、十分バカなんじゃ?」
「人のことをそんなバカバカ言わないの。わかったんだからいいじゃん。私もホッとするよ」
「くううっ。それじゃあ後は力の試練と財力の試練ね」
「本当にまだやるんだ」
「当然よ。力の試練は、もう考えてあるわ。早速約束とりつける、けど、あいつもまだね。仕方ない、待つか」
「あいつって誰?」
「山助」
「山助って、プロレス部の? まさか戦わせるつもり?」
「別にケガする程のことはしないわよ。けどまあ、これで和道はノックアウトよ」
「和道大丈夫かなあ?」
「大丈夫大丈夫。何より私が、あと愛夢が楽しければいいの」
「私楽しんでないよ?」
「昨日和道が問題に答えられなくて楽しんでなかった?」
「してないしてない、少ししか!」
「やっぱりこれは良いイベントになるわ。まあ、2人を待ってる間私達だけでイチャイチャしましょう」
「私美七とはイチャイチャできないよ?」
「やってみれば意外とできるわよ、それそれー!」
「わー、急にほっぺつまんだらダメだよお」
「このやわらか妖精めえ。男を誘惑するとは罪な女よのお」
「誘惑はしてない。と思う」
時間が経ったら、教室に和道と山助が来た。ほぼ同時だ。
「あ、おはよー和道!」
「おはよう愛夢!」
和道がこっちに来る。すると、私達の間に美七が立った。
「きたわね、和道。どうやら昨日の試練は突破したみたいね」
「ああ。答えは、ん。だったな。結構時間かかったけど、見事正解してやったぜ」
「く、どうやらそのようね。でも、それなら次は第2の試練よ。ちょっと待ってなさい」
「ああ」
美七はスタスタと歩いて、山助の前に行った。
「おはよう、山助」
「ん、なんだ。美七、さん。おはよう」
「突然だけど、山助にお願いがあるの」
「なんだ、なんでも言ってくれ」
「和道を倒してほしいの。アームレスリングで」
「アームレスリング? 腕相撲か?」
「ええ。もし和道を倒してくれたら、ハンドシェイクしてあげる。十秒」
「は、ハンドシェイク、要するに握手、じゅじゅじゅ、十秒も、するする!」
「じゃあこっちきて。一瞬でこてんぱんにしてやってちょうだい」
「ああ、任せろ!」
あ、山助が美七についてきてこっち来た。
「おまたせ和道。というわけで、力の試練は腕相撲よ。この山助に勝てたらクリアよ」
「わかった。ちなみにチャンスは、何回でもオーケーだな?」
「何言ってるの、男なら一発勝負よ」
「そうか。ならもう1つ尋ねる。山助、お前はプロレス部所属だろ。だから、ハンデをくれないか?」
「何、ハンデだと?」
「ふん、いきなり何を言い出すのやら。和道、ハンデなんて男がされることじゃないわ」
「美七はそこで見ていろ。交渉も知力の内だ。試練は終わったとはいえ、こういう点も加味するだろ。山助、もしハンデつきで俺が負けたら今日の俺の弁当やるよ」
「ふん、いいのか?」
「男に二言はない」
「いいだろう。のった」
「なっ!」
美七はうろたえているけど、私は正直この展開がコントにしか見えなくて、反応に困っている。
「山助、あなた私の手に触りたくないの?」
「ははは、美七さん。あなたの手を唯一手に取る男、山助はこんなハンデ程度ではびくともしませんよ」
「く、慢心が体と同じくらい大きい!」
「では和道、ハンデをつけてやろう。で、具体的にはどうすればいいんだ?」
「指三本で俺と勝負してくれ。俺はそれを五本で握る」
「く、ゲスがあ!」
「美七、言葉が下品だよ」
「わかった。指三本だな。では机に肘をつけ。秒殺してやる」
「ここまで話をつけたんだ。弁当も守るし、愛夢の彼氏にもなる!」
ちなみに私はもう、和道を彼氏とは認めているんだけどね。美七の手前言えないだけで。
「それではお互い準備はよろしいですね!」
折角なので、私は審判をやることにした。
「ああ!」
「いざ!」
山助が伸ばした人差し指、中指、薬指を、和道が五本の指でがっしりつかむ。
「それではレディー、スタート!」
「ふん!」
「ぬぐぐぐぐ!」
2人は頑張った。
「ぐ、なかなかやる!」
「これでもサッカー部だからな!」
「サッカーはキーパー以外手関係ないだろ、だが、これでどうだ!」
「ぐ、ぬぬぬぬ!」
少しずつ、和道が押されていく。
「ふー、はー!」
「うお、おおお!」
ゆっくり、和道の手が机につこうとする。
「よし、いいぞ山助。そのまま決めろお!」
美七がそう応援した。
すると。
「美、美七さんが応援してくれているっ。うごー!」
山助のパワーが更に増した!
「く、うおー、うあー!」
和道が圧倒的にピンチだ!
でも、美七が応援したんだから、私も応援した方が良いよね!
「和道、頑張って!」
「っ、愛、夢ー!」
その時、和道が吠えた。
そこから少しずつ、山助の指がおされていく!
「何、こいつ、どこからこんな力が!」
「愛夢が応援してくれるなら、俺は、プロレス部員にだって勝ってみせる!」
「お、俺はプロレス部だぞ。ハンデをつけたからって、負けるわけにはいかない!」
「負けられないのは、俺の方だー!」
「うおー!」
「はあー!」
熱く、時が止まって感じる程の戦い。
けど終わりの時は、訪れた。
どん!
山助の指を押し切り、和道の指が机につく!
「勝者、和道!」
「おっしゃあー!」
「バカなー!」
私が告げると、和道と美七が叫んだ。
美七、今、完全にやられ役みたいになってるね。