第三話:好きと嫌いの裏返し~ほんの些細なすれ違いでも一大事~
新学期が始まって一週間ほどが経った朝。
莉乃は口開くことなく、静かに席に着いていた。前の席には未華が座っているも、スマホを弄っているため会話はない。
あえて未華は、そういった態度をとっているようにもみられた。
先日指導された莉乃の髪色を黒に変わっていたが、既に所々が色落ちしている。服装はブレザーの前を開放的に、首もとで緩く結んだタイから見え隠れるする鎖骨。目もとを始めとした顔全体にしっかりとメイクが施されるも、纏う空気が物語るご機嫌斜め感。
安易に声をかけようものなら噛みつかれかねない。
そんなことを気にも留めず、杏莉は莉乃の肩を軽く叩く。
「どした、莉乃」
「何でも」
素っ気ない態度に、杏莉は未華へと視線を向ける。
まるで助けを待っていたかのように未華は顔をあげ、ようやく口を開いた。
「そういうわりにはぁ~朝から眉間にシワが寄ってるんだよねぇ~」
「……そんなことない」
未華の指摘を気にした莉乃は眉間に触れるも、尖る唇が素直に感情を表現してみせる。
肩から下げていたスポーツバックを下ろすことなく、杏莉は腕を組んで首を傾げた。
「……生徒会長さんと何かあった?」
「ないもん」
「あ~」
間髪入れない莉乃の否定に、未華は納得がいったような反応を返した。
それがよくなかったのか、莉乃の眉間には更に深いシワが寄る。
「べっつにぃ~ちょ~とぉ~あっただけだしぃ~」
露骨すぎる、紫乃に対する思うところがあった口ぶり。
それがあまりにも分かりやすく、杏莉は未華と目配せする。
「まぁ、手短に聞かせてもらうよ」
「何でそんなに雑なの!」
「いや~だって~ねぇ~」
「もぉ!!」
鞄を自分の席において戻ってきた杏莉は、勝手に莉乃の席でお弁当を広げ。未華はたからんとばかりに杏莉のお弁当に興味を示す。
一切と聞く耳を持たない二人を前に、莉乃は声を荒げて憤慨した。