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赤い瞳の女神様

作者: 土楯人

3年前に童話グランプリに出した話の供養です。

「○○さん、あなたは亡くなりました。」

 そこは生と死の間の世界。八畳程の簡素な部屋に、輝くばかりの金色の髪と幻想的な赤い眼をした美しい女神様がいました。彼女の仕事は死者の魂を導くこと。今、部屋の中にはもう一人、辺りを不安げに見回す少女が立っていました。

「ここは……どこ?あなたは誰?」

「ここは生と死の狭間の部屋。私は死者の魂を導く神です。貴女は先ほど心臓病の悪化で死んでしまいました。」

 困惑を隠せない少女は声を張り上げました。

「そんな……!私、まだ何もできてない……早く体に戻してください!」

「それはできません。死体に魂を戻せば貴女は現世をさ迷う霊になってしまいます。」

 努めて優しく、けれどはっきり断りました。

「ですが、うら若い命が喪われるのは私にとっても悲しいことです。次の生では健康な体に生まれ変わるよう計らいましょう。記憶は引き継げませんが、宜しいですか?」

 殆ど自由に走り回るなど出来なかった彼女にとって、来世で健康な体が約束されるのは記憶を失う恐怖を差し引いても魅力的でした。

「どうして、最初から丈夫な体にしてくださらなかったのですか?」

「人に願われない限り介入する権利は神にありません。そして前世で健康だった方は大抵来世の健康を願ってくれないのです。」

 少女自身は心臓病に苦しみましたが、彼女の家はとても裕福で、両親は不治の病に惜し気も無く治療費を注ぎ込んでくれました。前世の自分の願いを察した彼女は唇を噛み締めました。いくらお金があっても、使えなければ、返せなければ意味なんて無いのにと。

「……じゃあ、二つお願いします。健康な体に生まれ変わること。それから……優しい両親に恵まれること。私はもう何も返せないまま消えちゃうけれど、せめて来世では恩返しぐらいできる人間でいたいから。」

「承りました。貴女の両親はきっと素晴らしい方だったのでしょうね。」

「はい!」

 女神様の微笑みに少女は初めて笑顔を返しました。大粒の涙を流しながら。

「それでは、あちらの扉へどうぞ。」

「お父さん、お母さん、ごめんなさい……ありがとう。」

 少女は部屋にたった一つの扉へ向かって肩を震わせながら、それでも確かな足取りで歩いて行きました。


「××さん、あなたは亡くなりました。」

 そこは生と死の間の世界。八畳程の簡素な部屋に、輝くばかりの金色の髪と幻想的な赤い眼をした美しい女神様がいました。彼女の仕事は死者の魂を導くこと。今、部屋の中にはもう一人、驚いた表情の青年がいました。

「えっと、これってもしかして?」

「ここは生と死の狭間の部屋。私は死者の魂を導く神です。貴方は先ほどトラックに跳ねられ死んでしまいました。貴方が庇った男の子は無事ですよ。」

 女神様が厳かに告げると、青年は興奮を抑え切れなくなったように捲し立てました。

「これ異世界転生ですよね⁉魔王倒してくればいいですか?良いですよ、行きますよ。でもチート特典無いとすぐ死んじゃうし言葉通じなかったら辛いので何かお願いします!」

「――話が早くて助かります。貴方は異世界に転生する特別措置に選ばれました。年齢や言語の自動翻訳等は御希望に沿います。また、武器か能力を一つ差し上げるのでお選びください。制限時間は五分です。」

「制限時間⁉」

 女神様が宙からタブレット端末を取り出すと青年は大慌てで画面に食らいつきました。

 五分後、青年は望みを述べました。

「年齢は今のまま自動翻訳は有りで。スキルは『万物焼失の黒炎』で。」

「万物――はい、承りました。それでは、あちらの扉へどうぞ。」

 女神様が言い終わると同時、青年はニヤリと笑って腕を突き出しました。

「ハッハー、馬鹿め!貴様を焼き尽くして俺が神になる!」

「えっと、まだスキルは差し上げていませんよ。付与するのは転生先の肉体です。」

「あっごめんなさい。」

 青年は部屋にたった一つの扉へそそくさと駆けて行きました。


「△△さん、あなたは亡くなりました。」

 そこは生と死の間の世界。八畳程の簡素な部屋に、輝くばかりの金色の髪と幻想的な赤い眼をした美しい女神様がいました。彼女の仕事は死者の魂を導くこと。今、部屋の中にはもう一人、初老の男性が立っていました。

「亡くなった……?」

「ここは生と死の狭間の部屋。私は死者の魂を導く神です。貴方はトラックの運転事故で死んでしまいました。子供は無事ですが、もう一人の方はお亡くなりになりました。」

「そんな……申し訳ねぇ。俺はなんて取り返しのつかねぇことを……」

「身の危険を覚悟しての行動です。彼もきっと貴方を恨んではいないでしょう。」

 強い確信を伴った響きは気休めに聞こえず、自然と青年もここへ来たのだと思えました。

「でも、遺族は許さねぇはずだ。妻と子供も殺人犯の家族だって辛い思いをさせちまう。」

「ドライブレコーダーは積んでいたのでしょう?ならば、どうしようも無かった事故だと証明は容易いはずです。……恐らく。」

 細い路地裏から飛び出した子供を咄嗟にかわした先で、子供を助けるべく向かいの道路から飛び込んで来た青年に衝突。動揺した彼はブレーキを踏み損ねビルに激突。どうにも避けられない事故でしたが、裁定を下すのは生者であり結末は女神様にも分かりません。

「一言でいいから何とか謝れねぇかな?このままじゃ死に切れねぇよ。」

 男はポケットに手を突っ込み、差し出せる物を何も持っていないことに項垂れました。

「承りました。貴方の順番を後にして関係者の皆様に会えるよう調整します。彼女達の寿命が尽きるまでは天国でお待ちください。」

「いいのか?俺なんかが天国へ行っても……」

「地獄をお望みでしたらお送りしますが、地獄で声を潰しては元も子も無いでしょう。」

 クスリと笑う女神様を見ながら男は心がうち震えるのを感じました。一度諦めた願いが、それ以上の形で叶えられました。何も持たない自分の望みを聞き入れてくれました。

「ありがとうございます……ありがとうございます!」

 男に返せるのは感謝のみでした。

「それでは、あちらの扉へどうぞ。」

 男は部屋にたった一つの扉へ歩いて行く間も、溢れる感情を少しでも表現するように感謝を唱え続けました。


 女神様が端末で次の死者の情報を見ていると、恐ろしい唸り声が部屋に響きました。じわりと床から滲み出すように現れたのは、髑髏の面と真っ黒のボロボロな外套に大きな鎌を携えた死神でした。死神は女神様を見ると、

「助けてくださいよ~せぇ~ん~ぱぁ~い~」

 と泣き出しました。

「最近の人間おかしいですよ!心臓止まってるのに五分十分もごねてたら生き返っていくんですよ⁉化け物じゃないですかぁー!」

 失敗続きだと頭を抱える死神とともに、女神様も額を抑えました。死神の言動に対して。

「人間について学びなさいと言ったでしょう。今は医学の発達で死ぬ運命でも無理矢理延命出来るの。だから、昔みたいに怖がらせて心が折れるのを待つと失敗するのよ。」

「そんなぁーどうすればいいんですか⁉」

 女神様は指をビシッと突き付けました。

「手始めに服装を整えなさい。死神の言うことなんて嘘か脅しと思われておしまいよ。」

「だから先輩急にお洒落になったんですね。」

「好きでやってたら部屋も飾り付けるわ。死者が来たらまず死んだと明言すること。否定されようがされまいが意識に刷り込むの。神を名乗ると胡散臭くなるけど、上手くいけば極限状態で頼れる相手を演出出来るわ。次に、相手の死生観に合わせること。日本人は宗教がばらばらで異世界転生なんて何教か知れない人もいるから資料は予め読み込んでおきなさい。見誤ると異教の邪神呼ばわりよ。」

 女神様は一瞬苦労の滲む遠い目をしました。

「あとは会話で極力未練を解消させること。最大限親身に考えなさい。嘘もお咎めは無いけどバレたら大変だし少ない方がいいわ。」

 死の世界の扉をくぐると記憶が消えるので女神様に出来ることは特にありません。

「まさか死神が嘘吐き扱いなのって先輩のせい?それはともかく、何の対価も無しに特別扱いしたら怪しまれませんか?」

「人間は基本的に特別を求めるから、ただ死んだだけで特別扱いしても拒絶されないわ。」

「死なんて一番特別から遠いのに。」

 数え切れない死者を相手取ってきた女神様は溜息で同意を示しました。どんな人間にも等しく死は訪れてきました。

「少なくとも本人には一大事なのよ。」

「なるほどーありがとうございました!ここからバンバン成績伸ばして行きますよー!」

 優雅とは程遠い騒々しさで床に沈み行く彼女に苦笑しつつ女神様もパタパタと手を振り返し、死者の情報確認を再開しました。


「□□さん、あなたは亡くなりました。」

 そこは生と死の間の世界。八畳程の簡素な部屋に、輝くばかりの金色の髪と幻想的な赤い眼をした美しい死神様がいました。彼女の仕事は死者の魂を導くこと。今日も彼女は仕事に勤しみます。

自己反省点

・冒頭を繰り返したら童話になると思っていた。

・童話なのに異世界転生を振りにしたギャグやってる。

・子供に何を伝えたいのか不明。

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