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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
3章 東北征伐

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98話 光に闇は照らされるのね

 出雲はスエルタの法術を観察して、おや?と首を傾げることがあった。それはなにか? おっさんがスエルタの装甲に疑問を持ったわけではない。そんなにいつもいつも胸部装甲を見ているおっさんではさすがにないのだ。


 胸部装甲っていう名称にすると、少しエロいおっさんであることを誤魔化せるよねと、まったく誤魔化せていないだろう出雲は、さりとて今回は違うことで気になったのだ。


 それは何かというと。


「君には被験体となってもらいたい。なに、簡単なことだ。痛みはない」


 泥を跳ねさせることなく、柔らかな泥の地面に足跡を残すことなくウルゴスは男達に近寄る。


「ひ、ひぃっ!」

「近寄るなっ」

「助けてくれ。命だけはっ!」


 凍えるような酷薄な表情の俺を見て、その姿に異様さを覚えて、男たちは恐れ慄く。腰を抜かして身体を震わし、逃げることもできないで、出雲へとワタワタと手を振り、命乞いをする。


 目の前で自身らが抵抗もできなかった恐ろしきラプトルデビルたちをあっさりと倒した男と、血塗れの人形の群れ。どう見ても普通ではない。この男が天使とかラプトルデビルたちは言っていたが、妥協して悪人である。悪魔であると言わないだけマシだろう。


 そして自分たちは少女を生贄に食料を手に入れようとしていた。少女を助けて、ファンタジーの魔法を使った三人娘を助けた男は、怪しいおっさんだが、一応正義感はあるように見える。非道なことをした男たちを酷い目に合わせることは間違いないと思われた。


 だが、ラプトルデビルを軽く叩いただけで倒した男に抵抗しても無駄だとわかって、自分たちの未来に絶望していると、出雲は胡散臭い笑みを浮かべて、男の一人の顔を掴む。


 アイアンクローをしたが、そこまで強くは掴んでいない。だが、痛みは無くとも男は不思議なことに動くことができない。


「あ、がが、た、たすけて」


「あぁ、助けよう。ウルゴス神の御名の元に」


 ふふふと、震える男を安心させるように柔らかな笑みを浮かべてあげる。なぜか周りの男たちも、後ろからてこてことついてきた三人娘たちも顔を引きつらせて後退るが不思議だね? リムだけは楽しそうにニヤニヤと笑っているけど。


 泣き叫ぶ男へと、俺は体内からマナを発生させて、掴んでいる手から神聖力を流し込む。マナを流し込むといった感じだろうか。


「昔な、ある紙のゲームであったんだよ。悪人の少年が神殿に遂に捕まって……処刑されるかと思いきや助かるんだ。そうして善人になって妖精と共に冒険の旅に出るやつ」


「あぁ、サイコロのゲームじゃろ? そんなのあったの。キャラメイクでそんなキャラを作って遊んでいたプレイヤーがいたのじゃ」


 あったあったと、かなりディーブな話についてくるリム。こやつ、やるな。


「博識だね。で、そこで俺は怖かった。弱点として『正義感』とか『善人』が付く。『悪人』だったのに」


「あぁ、話の流れがわかったの。つまり神殿がやったことを行うわけか」


「ゾッとする神聖魔法だよね。人格再形成をしちゃうんだから。しかも本人はそれを受けても感謝しかしない。それこそが善なる力」


『改心』


 さらに俺の神聖力をマナを介してぶちこんでいく。ゴウッと純白の粒子が突風となって荒れ狂い、皆はその風を受けて、バタバタと髪や服をはためかせる。


 マナを食らった男はというと


「おァァァァ! お、俺はなんてことを………すまねぇ、嬢ちゃんすまねぇ!」


 大声で泣き叫び、滂沱のごとき涙を流す。そうして俺の手から逃れると、生贄として捕まえた少女へと駆け寄り、泥の地面へと叩きつけるように頭を勢いよくつけて土下座をした。何度も何度も頭を傷つける勢いで謝罪をした。


「あ、えと……大丈夫じゃ……ないですけど……その、はい、ど、どうしよう?」


 許しますと言えない少女。さすがに生贄にされかけたのだ。心情から言って、簡単に許すことはできないだろう。


 だが、少女は俺へとチラチラと視線を向けて、許すと言った方が良いのかしらと戸惑ってもいるので、自由にしてねと手をひらひらと振ってあげる。そこにはまったく興味はない。


「実験は成功だ。スエルタの神聖力に当てられて、避難民たちは魔力が薄まり神聖力を僅かに放つこととなった。ならば、膨大な神聖力を流しこめばどうなるか。結果がわかったね」


「これ、罪悪感から自殺するんじゃないかの?」


「そうはならないと思いたいね。それに注ぎ込んだ神聖力はすぐに消える。また本来の性格に戻り魔力を発するようになるかもね」


「ならば意味は無いのではないのかの? 一時的な効果なのじゃろ?」


「それが違うんだ。この強烈な罪悪感はトラウマレベルになるかもしれないと俺は考えている。悪意を持って行動しようとしても、罪悪感が楔のように行動を妨げるだろう」


「悪は甘味で、善は痛みか。なるほどのぅ、楔にすれば、そしてまともな生活に戻れば、いずれは善人になるというわけか」


 納得したよと褐色娘は頷く。だろう? 俺のナイスアイデアだ。完璧だと言う他ない。罪悪感という記憶が残れば、悪いことはあまりしにくいと思うんだよね。たぶんそうなると思う。


「さて、では検証のために他の方にもウルゴス神の有り難い神聖力を流し込むことにしましょうか」


 泥塗れとなり泣き叫びながら謝罪をする仲間を見て、恐怖で気絶しそうな表情でいた他の連中は、俺の言葉に身体をますます震わす。


「大丈夫。痛みはありません。ちょっと改心してもらうだけですので」


 ニコリと癒やしの聖人出雲スマイルを連中に向けると、ドサリと地面に倒れ込み、なぜか気絶する人間も現れた。解せぬ。


 そうして、連中全員に神聖力を流し込んだ結果。


「おぉ、ありがとうございます、ありがとうございます!」

「助けて頂きありがとうございます。神に感謝を!」

「光が! 私の前に神々しい光が! これこそ神の光!」


 連中は皆改心して、涙を流して俺の前に土下座をしていた。実験は成功だね。


 おいおいと泣きながら、有り難やと俺に感謝の言葉を捧げる男たち。うむうむと俺は厳かな風を装い、頷いて手を振る。その姿は優しい大神官にしか見えないだろう。


「カリスマで部下を従える悪の首領にしか見えんの」


「そ、そうですね……」


「凄い光景です」


「あれかしら、あの人は倒した方が良い予感がしますわ?」


 なぜかリムは三人娘と仲良くなり、何やら失礼なことを口にしているが、失礼な。連中は俺の言葉に感動しているでしょ。これまでの行いを悔いているんだ。


「私の名前は冬衣。ウルゴス神の大神官をしております。そちらは妻の櫛灘です。ウルゴス神の教えを広げ、皆を救うためにこの地へと訪れました」


 自己紹介をしつつ、手を男の方へと置いて語りかけてあげる。


「ウルゴス神は悪魔に支配されている間の罪を神的に赦します。神的に。人間の法律外的に」


 予防線を張るおっさんであった。なんで許すんだよと、他の人に怒られないために保身に走る敬虔なる信徒冬衣さんである。


「おぉ、お赦しを頂けるのですね!」

「この感謝の念をどうすれば………」

「はっ! そうです、同じような暮らしをしている罪深い者たちがいます。同じくお助けください!」

「逆らう異端者には死を!」


 万歳三唱、有り難やと、幸福感に包まれて喜び叫ぶ男たち。何やら不穏な言葉も聞こえたような気がするけど気のせいだと思いたい。


「のぅ……これ、ほんっとうに大丈夫なのかの? この強烈なイメージは神聖力が消えても残るんじゃないかの?」


「に、人間というのは慣れるものだから。き、きっと大丈夫。た、たぶんね?」


 狂信者を見る胡乱げな目でリムは男たちを眺めながらポツリと呟く。うん、たぶん大丈夫。おそらく、メイビー。


 でも、次からは注ぎ込む神聖力は少しにしておこうかな? ま、まぁ、これも検証を繰り返さないとわからないよね、ウンウン。


 おっさんの完璧なる作戦は成功したんだよ。だから問題ない。自己暗示が得意なおっさんは成功したと記憶には記載しておくことに決めた。


 とりあえずは、改心した男たちは自分の拠点に戻るらしい。助けが来たと告げて、後で救助隊が来ると伝える。護衛として殺人ドールたちがわらわらと付き添うので大丈夫だろう。大丈夫ではない発言を男たちはするかもだけど、そこは抑えるように命令しておいた。怪しい新興宗教的な会話はしないようにと。


 そうして、俺は三人娘へと改めて自己紹介をする。


「えと、私は田中たなかひかるですっ」

「私は佐藤さとうるなです」

鈴木すずき雲母きららですわ」


 泥だらけで汚れているので、誰が誰だかさっぱりわからない。ゲリラ戦が得意な祓い師かな? せめて髪が赤毛とか緑とか金髪であって欲しかったよ。

 

 現実ではそんな人間いねーよとツッコミを食らいそうなおっさんだが、スエルタがいたので、いないよとは言いにくいかもしれない。


 まぁ、この三人娘は普通の黒髪だが。しかもシラミを防ぐためか、哀れなほどに短髪にしてある。しかも適当に切ったのかザンバラだ。少女なのに可哀想に。少しだけ心が痛むよ。


「キラキラネームじゃの。親は苗字との釣り合いは考えたの?」


 そして、リムは言ってはいけない台詞を平然とジト目で言った。俺も思ったけど口にはしなかったのに。


 いや、自身の名前を気に入っているかもしれないと、俺はそっと光たちを盗み見る。


「あの……みょ、苗字は考えないでください……」


 顔を羞恥で真っ赤にして、もじもじと指を絡ませている光たち。だめだ、これは自分たちも気にしているタイプだ。


「やめてやれよ、リ、櫛灘さん。彼女らは親御さんが懸命に考えて付けた名前のはずです。そういった発言は失礼ですよ?」


 光は普通だ。実際に少しだけキラキラネームだけど、よくある名前とも言えよう。だが、月と雲母は親御さんはなにを考えてつけたのだろう? いや、大事な子供につけるんだから、考え抜いたはず。


 光が目立つ理由は一つだけだ。この二人と組んでいるから、一層キラキラネームのように思えるんだよ。一人なら良い名前だねと終わるだろう。相乗効果でキラキラネームに感じちゃうのだ。


「そうじゃの。字画とかもあるしの」


「そうそう、俺は同僚が産まれる赤ん坊の名前に悩んでいる時に、ターミネーターが字数的に完璧だよと勧めたことがあるし」


 字数字数と同僚が惚気けて煩かったから、最高の名前を探してあげたのだ。字数的に完璧な人生を送れそうだったんだよ。なぜか同僚は怒ったけど、ぐぐったら本当に完璧な字数だったのだ。


「字数的に完璧でも、幸せな人生をその子供は送れない可能性が極めて高いの」


「身体が頑丈になると思うよ」


 軽口を叩くと、クスリと安堵したのか笑いを零す三人娘。どうやら俺のイメージは緩和したようだと安堵する。なぜか三人娘は警戒心を露わにした猫みたいな空気を醸し出していたしね。


「では、祓い師の方々。よろしかったら拠点に案内してもらえませんか? なにか助けることができるかもしれませんしね」


「ハイ! 案内しますっ!」


 光が元気よく答えてくれて安心して、にこやかなる笑みを返す出雲であった。なぜか再び警戒心が上がったけど。




「あの………私の名前は高橋和子です」


「ごめん、忘れてた」


 案内される途中で助けた少女が自己紹介をしてくれました。ごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] タ3 ー1 ミ3 ネ4 ー1 タ3 ー1 計16 困難を乗り越えるリーダータイプ なるほど
[良い点]  良かった単純な悪人正機の流れで(^皿^;)汚物は消毒だー、とかやりそーな空気でしたからねwww。 [気になる点]  鋭い人が指摘してたけど浄化パワーが驚きの白さで“ジークウルゴス”しそう…
[一言] ふつーの子が! 影薄いからしゃーないのだった。
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