95話 裏技は便利だね
コンピーの紙切れが神聖力により光り輝く。古ぼけた図鑑の切れ端は奇跡の力にて魂が宿り、純白の粒子が肉となってその身体を形成させていく。
光が収束し、手が生えて足が伸びる。頭が作り出されて、髪の毛が風にたなびくと、人型へ変わって、出雲の前に跪く。
「お館さま。飛藤翔ここに参上致しました」
燃えるような赤毛の髪の毛をポニーテールに纏めて、俺へと恭しく頭を下げて、凛々しい表情で自己紹介をしてくる。切れ長の目にスッキリとした鼻梁、口は引き結ばれており、意志が強そうだ。その服は黒い和服だ。
鎖帷子を下に着込み、手甲をつけており、靴はブーツ、頭につけている手裏剣型のヘアアクセサリーがワンポイントの可愛さを見せている。背中には刀を背負っており、まさにくノ一といった出で立ちであった。少し胸部装甲が……ノーコメントにしておこう。
新たなる天使にて魔王にしてくノ一。そして7徳の忍耐を持ち、7罪の嫉妬を持つ主力候補である。
飛藤翔
体力:200
マナ:200
筋力:200
器用:200
敏捷:400
精神:200
神聖力:200
固有スキル:群体分裂、隠形、忍耐(術の効果時間大幅アップ)、嫉妬(敵のスキルを一つ真似できる、固有スキル不可)
スキル:体術3、刀術3、忍術5、変装術3
コンピーの特性は忍者にピッタリと考えて、体術、刀術、忍術、変装術を付けた。良いスキル構成と言えよう。
使用ポイントは総計4250万ポイント、俺の手持ちの奇跡ポイントはこれで貯めた月収の残り1000万ポイントちょい。貯めたら使う。それが出雲クオリティーです。え? どこかの青年は? 彼は可愛らしい彼女ができたことにより魔王生における奇跡全てを使い切ったと思います。
「のう……なんで美少女なんじゃ? しかもくノ一って、濃すぎじゃろ」
「あ〜………くノ一を想像して創った訳じゃない。偵察に相応しい仲魔を想像したら、奇跡さんが補正したようだね」
痛い男を見るように、曇ったジト目で俺を見てくる変態に対する態度をとる褐色娘。おっさんは美少女にそういう態度をとられるとグラスハートが砕けちゃうですけど。冤罪、冤罪だよ?
「リム殿、その下品な乳袋を見せつけるのはどうかと? ちょっと姿を消した方がよろしいのではないかと思うでござる」
あぁんと、チンピラのようにリムへとガンつけしてくる翔。……ござる、ね。リムさんや、その痛い子を見るような目で俺を見ないでくれる。奇跡さん、奇跡さんや? これはどういった方針で創られたのでしょうか。
「お主……先程までの凛々しい顔はどこに行ったのじゃ?」
「あれはお館さま専用です。装甲が分厚い女は敵!」
ガルルと唸り、嫉妬に満ちた表情で翔は顔を歪ませてリムの強力な装甲を睨む。睨めばもげるのではないかという勢いである。
「妾の契約者殿よ……。いや、なんにも言うまいて。ただ創造してハーレムは人形遊びと同じじゃからな?」
「言ってるだろ! 俺が意識した訳じゃないから。……た、たぶん? まぁ、無意識にそう考えても仕方ないとは思うけど?」
嫌われるより好かれたい。それが創造する美少女なら尚更だ。無意識に考えても仕方ないだろうと、用心深いおっさんは予防線を張った。
仕方のない奴じゃのと、疑わしい視線を向けてくるリムに、こほんと咳払いを一つして話を戻すことにする。誤魔化す訳じゃない。これからが本命なのだ。本当だよ?
それにわかりやすい勘違いしそうな翔の態度だが……だからこそおっさんはピンとくるんだよ。
「翔、俺のこと好き? 愛している?」
「もちろん敬愛しております! これだけ強大な力を拙者に頂けて、感涙の至りです」
俺へとギラギラとした目で答えてくる翔。その表情には嘘はない。顔はまったく赤らめていない。
「ほらな?」
冷めた目でリムへと言うと、どういうことなのか理解したリムが頷く。
「なるほど。ハーレムではないようじゃな」
「俺もそこまで厚顔じゃないんだ」
青年なら好かれているかもと勘違いするだろうが、おっさんはそこまでモテるとは思っていないし、最初から好感度はあるにするにしても、愛情度はゼロが良い。こいつらは裏切れないようにしているだけだけで後は自由だからね。洗脳に近い作られた愛情はいらないのさ。まぁ、裏切れないように縛っている時点で自由とはなんぞやという感じたけど、これは譲れない。
なので敬愛だ。翔の表情は尊敬している上司であって、そこに異性としての愛はなかった。残念じゃないよ? 奇跡さん、ありがとうございます。少しぐらいは照れてくれるかなとか思っていないから。本当だよ?
「にしても、直球で聞くんじゃの。もう少しオブラートに包んでも良いのではないのか?」
「こういうのははっきりとしておいた方が良いんだ」
呆れた表情で、おっさんのコミュニケーション能力に対して疑問を口にする褐色娘だが、俺は手をひらひらと振って、真剣な表情へと変える。
「翔。仙台に強力な悪魔はいるか? 今までの記憶はあるか?」
「はっ。図書館に並べられている本のように記憶は存在します。閲覧しないと残念ながら確認できませんが」
ビシリと顔を真面目にして、翔は俺へと予想通りの答えを告げてくる。やはり元の記憶は残っていたかと、俺はニヤリと笑う。やったね、これで敵軍の情報は筒抜けだ。
「えぇぇぇぇ! それはずるくないかの? 拷問もせずに信頼度100%の情報を得るのはずるくないかの?」
翔の答えに、えぇぇぇぇと唖然とした表情で口を大きく開けて、リムが驚きの声をあげた。卑怯極まる情報の取得の仕方だと言うことだろうね。
「まぁ、これこそ神の御技です。わかりますかリムさんや」
なぜか両手を胸の前で合わせて答えるズルいおっさん。いつの間にウルゴス神は仏教に加入したのであろうか。
「そのとおりです、お館様の力はまさしく神の奇跡、御力なのでござるよ。装甲にエネルギーをほとんど使用しているリム殿。頭へのエネルギーが回っていないために、スカスカな頭なのでしょう?」
「テンプレの煽り文句じゃが、頭にくるのは間違いないの。良いじゃろう、どちらが上か決めようではないかの?」
チンピラ同士が顔を突き合わせてメンチを切るのを白けた表情で見る。なんというか、翔はわかりやすいな。見かけはだが。
「そろそろ戯れるの止めてくれる? 翔、仙台のことを教えてくれ」
二人の頭を軽く叩きながら、翔へと尋ねる。オロオロしないのかのと、つまらなそうな顔になる小悪魔はスルーです。やはりわざとかよ、まったく。
すぐに翔は真面目な態度に戻り、俺へと顔を向けてくる。
「仙台はお館様のお察しの通り、図鑑を元にした恐竜系統の悪魔が徘徊する地域となっております。人間たちはその中で、食料と引き換えに生贄を用意したり、他の集団を襲う蛮族のように変わっておりますね」
「やはりな。恐竜系統の悪魔が徘徊しているのか」
敬愛するお館様なら見抜いておりましたよねと、俺を尊敬の眼差しで見てくる翔へと、うむうむと腕組みをして頷き返す。
「さっきヴァンパイアと」
「神である俺にはまるっとお見通しだ。恐竜系統か、予想通りだな」
薄紙よりも薄い演技でおっさんはジト目の小悪魔の視線から逃れて空を仰ぐ。やはり恐竜系統の悪魔か……。
フッと決め顔になるおっさんに翔はぱちぱち拍手をして、リムはますます俺へと責めるような目を送ってくる。だが上司には時に偉大さを魅せないと行けない時があるのだ。今がそう。創られたばかりの翔にはカリスマあふれる姿を魅せないといけないんです。
頭をカリフラワーにすればカリスマあふれるおっさんになれるのではないかと、視線だけで告げてくるリムに、知らずテレパシーを覚えたのかその思念を理解しながらも話の続きを促す。
「魔力はそこそこ採取できているでござる。そのため、オリジナル悪魔を魔王は創り始めております」
「半年でかよ……。まいったね、東京を支配しておかなかったら、どんどん大悪魔たちと差がついたな。危ないところだったね」
東京都は1000万を超える人口の土地だ。地脈も多数あり、スタートダッシュするならばこの土地は他よりも遥かに良い環境である。田舎の魔王になってたらやばかったね。
「しかし、人間たちは魔力を生み出しているかぁ」
先程の避難民たちも魔力持ちだった。酷い生活をしていたのは予想に難くない。色々罪を重ねているんだろうなぁ……。
「しかし、先程の検証で魔力持ちはなんとかできたよね?」
スエルタの放った神聖なる槍の光を受けて、避難民たちの体に宿る魔力が消えていったのを確認している。なるほど、闇は簡単に照らされるのか。
「人間はどれだけ悪行を積んでも、たった一度のショッキングなことで、善人になったりするからの。これこそ悪魔たちが不利な事柄じゃ。頑張って堕としてもすぐに戻ってしまう」
やれやれと不機嫌そうに肩をすくめるリム。その顔は理不尽じゃと語っている。
「たしかにドラマとかだけでなく、現実でもそういうことあるしな。悪魔側からしたら酷い話だ。悪人に堕ちるのも簡単なら善人になるのも人間だ」
そして、罪悪感を持つ者ほど、なにかの機会で善人になりやすいしねと苦笑しながら慰めるようにリムの触り心地の良い髪の毛を撫でる。すべすべでいつまでも触っていたい感触だ。にゃーんと子猫のように気持ち良さそうに目を瞑るリムが可愛らしい。
「神は全てを許すか……。ウルゴス君も悪魔に支配されていた間の罪は許す………難しいところだね。懺悔の念は人間たちでなんとかしてもらおう」
ウルゴス神は責任をとらないで、ただ一言全てを許すと言うだけにしておこう。許す、貴方を許しましょうと、その罪の全ては許されましたと。ただし神界に限る。人間界の罪は人間たちでなんとかしてください作戦だ。神様の言葉に助けられる人は大勢いるだろうし、この作戦は上手く行くだろう。
宗教に対する罰当たりなことを考えて、ウヒヒとおっさんはほくそ笑みながら、この先の戦略を考えて真面目になる。
「仙台に潜入しよう。どのような方法で人間たちを堕落させているか見たい」
「ははっ。コンピーはこの地域の全てを把握しておりました。拙者にてご案内できるでござる」
うむうむと重々しく頷いて、おっさんはきりりとした顔でくノ一の肩に手を添える。そして、気になることを尋ねた。凄い気になっていることを。
「任せたぞ、翔よ。で、なんでござる? どうして語尾がござる?」
「ニンニンとござる、どちらにしようか迷いましたが、ござるにしました。拙者の個性をアピールしないといけないので」
雑な理由だった。そして、おっさんの気になることは極めてしょうもなかった。
「奇跡さん、あんまりピーキーな悪魔を作らなくても良いんだよ?」
仲魔がアホばかりになっちゃうじゃんと、アホ化が進むおっさんは嘆息しつつ仙台へと3人でてってこ向かうのであった。




