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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
3章 東北征伐

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94話 悪魔長との戦闘じゃ

 おぉ、と出雲は連携のとれた戦闘を観察して、感心して、ぱちぱちと拍手した。おっさんの拍手はどうでも良いだろうが、聞こえてもいないだろうし。


「凄いな、悪魔を倒しちゃったよ」


「人類覚醒の腕輪がそれだけ凄いという意味でもあるの」


 隣でふよふよと浮くリムも感心しているが、それでも腕輪の力じゃなと呆れた視線を送る。なんであんなチートアイテムを作ったのじゃと非難顔だ。奇跡さんが作れたのだから良いでしょ。


「あの神具を持つことが祓い師たちの一人前の証とかなりそうじゃの。ウルゴス教の神官とかにするか?」


「流れからいってそうだよね。でも、そうなると完全な宗教国家になりそうだし止めとくよ」


 これこそ神官としての証じゃ〜と、大神官冬衣が人類覚醒の腕輪を跪く人に渡す……。面倒くさいことになりそうな予感がするし、止めとこう。権益関係が発生しそうだし。ららら〜とか、聖歌を毎日歌う世界。白き世界にて、聖人ばかりのいる世界は極めてつまらなそう。


「ふわっとした宗教で良いんだよ。正月には初詣、夏にはお彼岸、冬にはクリスマスプレゼントを渡し合う。その中にウルゴス教が混ざれば良いだろ」


「ウルゴス生誕祭には、特撮ヒーローの映画を放送するのじゃな」


 日常生活の中に溶け込めば良いんだよ。その程度でさ。だってインフラを保たせるには神聖力によるマナが必要だしね。


 パパッと手に付いたポップコーンの滓を落としつつ、俺は顎を撫でて、冷たい風を感じながら口を開く。


「で、人間たちを君は追わないのかね?」


 呟くように言いながら、目を細めて酷薄なる声音で告げる。


 すると、斜め後ろの木の先端がゆらゆらと揺れて、空間から滲みだすように2本足のトカゲが現れた。灰色の肌を持つ120センチ程度の体躯を持つトカゲだ。中世の傭兵のように、厚手の服を着込み、その上に鎖帷子をつけ、頑丈そうなズボンを履いている。トカゲというより、どことなく恐竜っぽい。


「うけけけけ、ここに大手柄があると思ってな。俺様の名前はコンピーデビル。魔王に近いうちになるだろうここ一帯を統括している悪魔長よ」


 ガリガリとガラスを傷つけるような耳障りな声音で自己紹介をしてくる。得意げなる表情は自分の優位を信じているからだろう。たしかに木の枝の上に立っても、木は折れることはなく微かに揺れる程度。なかなかの体術の持ち主だ。


「こやつの名前はコンピーデビル。中位悪魔じゃな」


「うん、自己紹介してたしね。でも、なんでコンピー? 恐竜だよね?」


 説明係の性分なのだろう。たとえ相手が自己紹介をしても説明する褐色娘。コンピーは俺も知っているよ? 映画でデブなエンジニアが殺されるのを見たことあるし。鶏みたいな小さい恐竜だよね? なんで悪魔?


「恐竜の概念を持つ魔王が眷属を作ったのじゃ。コヤツの核は魔道具じゃな」


「俺と同じようなことができるやつと言うわけか」


「悪魔が眷属を創るのは普通のことじゃ。力を取り戻し始めた大悪魔たちがせっせと眷属を増やし始めたのじゃろ」 


 当然じゃろと言ってくる小悪魔の可愛らしい顔を見て、いくつか疑問が浮かぶ。だが、まずはこの悪魔を倒しておくか。


「コンピー。なぜ俺を殺しに来た?」


「ふん、あいつらよりも強そうだが、俺でも倒せそうだからな。ウケケケ」


 なるほどねと、目に力を込めて、俺を嘲笑うコンピーを見つめる。可哀想なやつだこと。見たところ、内包魔力は200程度。誤差はあるだろうが、その程度だ。本人は隠蔽しているつもりなのだろう。たぶん5程度に魔力を抑えているが、無駄なことだ。


「指揮官タイプでそこまで俺が強いとは考えていないな?」


「当然だろ。そこの女もそうだ。たいした力を持っていねぇ。だが偉そうだし、あいつらよりはずっと強い。手柄にちょうど良い」


 くけけとトカゲの口を歪めて、ベロリと舌で口の周りを舐めるコンピー。生臭い臭いが漂ってきて顔を顰めてしまう。


「くけけ、おめえの神聖力は120程度だろ? 俺に勝っちまうかもなぁ」


 おぉ、怖い怖いと身体をわざとらしく震わせて、恐怖の演技をする大根役者コンピーデビル。


「その演技は失格だ。お祈りをしてやるから見逃してやろうか?」


 俺の呆れた返答に、なにを勘違いしたのか、コンピーデビルは心底面白そうに声を震わす。わかるよ、次に言いたいことが。


「悪魔も見逃すお優しい天使さんってか? だがよぅ、俺様の真の力を見ても、そんな優しいセリフを吐けるかねぇ? ギャハハハ」


 ふんと、コンピーデビルは気合を入れると、隠蔽していた魔力を解き放つ。コンピーデビルの身体から禍々しい闇のオーラが吹き出して、木々を枯れさせ、空気を澱ませていく。


 はっ、と息を吐き、コンピーデビルは得意げな顔で胸を反らして、自身の真の力とやらを見せつけてくる。隠蔽を止めて解放した魔力200のパワーを自慢げにして。


「くけけ、どうだ? 俺様の真の力は? 驚いただろ? さっきのお優しい言葉をもう一度言ってみろよ? あぁん?」


 挑発的に俺を睨んでくるコンピーデビル。俺が真の力とやらを見て、驚きで身体を竦ませるとでも思っていたのだろうか。……しかし隠蔽能力は高いな、こいつ。見たところ、分体能力も持っている?


 なかなか便利そうな悪魔だねと俺が考え込んだのを、コンピーデビルは恐怖で押し黙っているとでも思ったのか、ますます調子に乗り、手に生えている爪を見せびらかす。


「おめえたち2人がかりでかかってこい、天使共。絶望というものを教えてやるよ」


「いや、一人で良い」


 はらりと舞い散っている枯れ葉をそっと一枚摘むと、俺は手首のスナップを効かせて、コンピーデビルへと投擲した。よれよれで今にも砕けそうであった枯れ葉は不思議なことに、ピンと張っており、まるでナイフのように空を飛ぶ。


「は! そこそこやるようだが無駄だ!」


 鉤爪を光らせて、コンピーデビルは嘲笑いながら、シュンと軽く手を横薙ぎに振る。僅かな風が巻き起こり、枯れ葉に鉤爪は当たり………そのまま枯れ葉は通り過ぎていった。


「は? あ? あぁ?」


 パラリと鉤爪が鋭利な刃物で切られたように地へと落ちていき、戸惑うコンピーデビルの片腕がズルリと落ちて灰へと変わっていった。枯れ葉が刃となって、悪魔の爪ごと腕を断ち切ったのである。


「ああぁ! 俺様の腕がァァ! 法術だったのか、畜生め!」


 片腕を失い、黒き血を流しながら苦痛の悲鳴をあげるコンピーデビルは俺を憎々しげに見てくるが、少し勘違いをしているね。


「今のはただの枯れ葉だ。俺の神聖力を少し注入しただけのね」


「そ、そんなはず? あんなちっぽけな枯れ葉に神聖力を込めただけで……てめぇ、力を隠蔽してやがるな! ……うヒャァァ!」


 俺の言葉にすぐに真相に辿り着いたコンピーデビルは身体を翻し、逃走に移る。


 冗談ではない。枯れ葉に神聖力を込めただけで、悪魔長たる自身の自慢の鉤爪を切って落とし、体すらもあっさりと切り裂いたのだ。コンピーは自分があまりにも危険な、相手と対峙していることに気づいてしまった。圧倒的な、膨大なる力を隠していても、あれだけの力を纏わせていると理解したのだ。


 この場を逃れて、魔王様にご報告をとコンピーは自身のスキルを発動させる。


『群体分裂』


 自身を形成していた身体に亀裂が入っていくと、恐竜の頭となり手足となって分裂していく。小さな小さな鶏のような大きさだ。隠蔽能力に長けており、一人でも逃げることができれば、再生可能であるコンピーの奥の手である。偵察にも向いており、監視にも重宝する特殊能力だ。


 50体程の小さな手乗り恐竜であるコンピーに分裂すると、木の枝を踏み台にして地へと慌てて降りようとする。


 だが、後ろからのんびりとした声がコンピーにかけられてきた。


「ここでお別れとは寂しいじゃないか。まだまだ枯れ葉はあるんだよ?」


 ちらりとコンピーは後ろを向いて、振り向いたことに後悔した。出雲は舞い散る枯れ葉を軽やかに手を動かして摘むと、先程と同じように投擲してきていた。枯れ葉は宙を舞っており……残念ながら50枚を超えている。


 ひらりひらりと出雲は腕を動かして、視認も難しい速度で枯れ葉を次々に投擲してきており、舞い散る枯れ葉は嵐のようにコンピーに迫ってきていた。


「分体を隠しておくべきだった……」


 その言葉を最後に、枯れ葉舞う空間に包み込まれてコンピーたちは全て灰へと変わっていくのであった。




 あっさりと悪魔長とやらを倒した俺はパンパンと汚れを落とし、地へと降りる。枯れ葉が積もる地面にて、キラリと魔力を宿す光る物が見えたので手にとって眺める。それは古ぼけた恐竜図鑑から破りとったと思える紙切れであった。


『奇跡ポイント120万取得しました』


 かなりの魔力だと喜びつつ、拾った紙切れを見る。コンピーのページだ。正式名称はコンプソグナトゥス。肉食でうんちゃらかんちゃらと記載されており、バーンとコンピーの写真が乗っている。


「これが魔道具?」


「ふっるい紙切れじゃの。この図鑑はかなり昔のやつだったのではないか?」


 たしかになぁと、紙切れを観察すると、古く茶色く劣化しており、百年前の図鑑と言われても頷いてしまう感じだ。何しろ、文字が英語だしね。研究機関か、博物館に置いてあってもおかしくない代物だ。


 紙切れをひらひらと振って、俺は嫌そうな顔になってしまう。これ嫌な予感しかしないんだけど?


「紙切れを悪魔にって、もしかして他の紙切れもあるんじゃないか? 大本の図鑑がありそうなんだけど?」


「魔道具をバラして悪魔に変えるとは効率的な大悪魔じゃの。頭が良い。それに裏切られないようにもしておるのかの」


「否定して欲しかったんだけどね。……そうかぁ、ぬらりひょんたちが天使に変わって裏切ったのがバレてるのか」


 手持ちの配下が天使に鞍替えするのを恐れたな。悪魔だけに簡単に裏切るもんね。畜生め。


「そりゃバレるじゃろ。強力な魔道具はともかくとして、雑魚魔道具は作り直して自身の眷属に変えているんじゃろうな。元々よりも弱くなるやもだが、そこは魔力を食わせて強化すれば良いしの」


「悪魔王さんや、バレるのとバラすのは意味が違うんだぜ?」


 情報が伝わるのが早すぎないかな? 天使は俺を裏切れない。約1名を除くとだけど。犯人は誰かな?


「妾を疑っても、良いことなんぞないぞ契約者殿よ?」


 ジト目の俺に、ぽよよんとプリンよりも柔らかい胸を押し付けてきて、うふんと妖艶なる蠱惑的な笑みを浮かべる美少女悪魔リム。


 全くいつもいつも俺が色仕掛けで騙されると思ったら大間違いだ。まったく、まったくもぅ。俺はきりっと凛々しく男らしくリムの胸の感触を味わいながら考える。


 これ、防ぐことできないから仕方ないねと。スパイが一番の側近……。わかっているのに防げないとは泣けてくるね。だから、これは誤魔化されているわけでは決して無いのです。


 鼻の下を伸ばしながら、おっさんは言い訳を口にして、暫く感触を味わった。俺は神様、ここは天国かな? リムの胸は柔らかいなぁ、体温の温かさもあり最高だよね。


 暫くしたら、ようやく気を取り直して、次なる作戦に移ることにする。スパイがいても良いんだ。こいつは戦略的な情報は流さない。ルールを作ろうとして、ゲームの舞台を用意するだけのつもりなのだろうからさ。


 まぁ、それならそれでも良いんだけど。対抗策は常にある。


「新たなる俺の眷属を創る。コンピー、君に決めた!」


 ピッと紙切れを摘んてマナを巡らせる。古来より常に神様の方が優位なのは変わらない。チートな奇跡を見せてやろうぜ、奇跡さんや。

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[気になる点] >正月には初詣、夏にはお彼岸、 お彼岸は春と秋で 夏はお盆ですよね、わざと? かなり前の話で「泥田坊」を幼女が「泥堤防」と呼んでいたのと同じような効果を狙っている?
[一言] 武器の起動キーに合言葉つけたら? ウルゴスパワーメイクアップ! とか
[一言] 困った相棒だけど頼りになることもあるし? 大迷惑ではあるけどもーw
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