93話 強くなっている祓い師たちだね
シュウたちは下位悪魔、アリゲーターデビルと対峙することとなった。今でもゾンビや、グールなども悪魔呼びをしてきたが、悪魔と呼ぶには無理のある化け物であった。
しかし、眼前の悪魔は、真の悪魔だ。下位とはいえ本物の悪魔。人を堕落させ、愉快そうに殺し、邪悪を広げる化け物だ。魔界における正しき住民である。
はちきれんばかりの筋肉は、アリゲーターの鱗を纏い、物理、魔法に耐性を持ち強固で銃弾すらも弾き返し、その口から覗く牙はギラリと輝き、切れ味鋭いナイフのようだ。知性がある証拠とでも言うのだろうか、その目には知性の光が垣間見え、その口元はニヤニヤと醜悪そうなイメージを与えてくる。
「ゆくぞ、人間ども!」
その鉤爪を剥き出しに、アリゲーターデビルたちは身構えると、ドンと音を立てて高速で駆けてきた。
「僕に任せて! アリゲーターなぞ、悪魔の将軍たる僕の相手ではない!」
このトニーが相手だと、最近恋人ができて絶好調の青年は同じく飛び出す。魔王たるトニーと下位悪魔たるアリゲーターデビルでは相手にはならないと自信満々だ。一撃で倒してやるぜと拳を強く握りしめて、強者の笑みで戦闘を開始する。
「おらぁっ!」
「人間がっ!」
アリゲーターデビルは爪を振り上げてトニーへと繰り出し、トニーは怯むことなく、拳を突き入れた。ゴスッと肉を叩く音が響き、二人は同時に拳が当たる。クロスカウンターとなったお互いの拳。
その衝撃がパンと弾けて、強力な一撃はお互いを吹き飛ばし、地面へと転がる。枯れ葉を舞い散らし、泥がジャージにつくが、気にすることなくトニーは素早く立ち上がった。
「無駄だっ! 硬度20合金パワーっ! 僕に傷をつけることは不可能だ」
肉体を核ミサイルにも耐えうる特殊合金へと変えたトニーは、傷一つなく立ち上がると、再び駆け出す。吹き飛ばしたアリゲーターデビルは強力な一撃を受けたことにより、身体をよろけさせて立ち上がることができない。
「ぐっ! 貴様の神聖力とその強靭な身体、噂の天使か!」
もう天使の話は広がっているため、隠蔽をやめているトニーは強大な神聖力を宿している。そして、人間ならば殴りあえば、ザクロのように顔は破裂したはずなのに、ピンピンとしていることから、アリゲーターデビルはトニーの正体を推察した。
「そのとおりだ。天使たる僕には傷一つ与えることはできない。鰐靴に変えてやるよ!」
「トニーたんの固有スキルは物理超耐性なのです。無敵なのですよ!」
フハハとトニーが笑い、トニーたん頑張ってと、ふんすふんすと鼻息荒くちっこいおててをぎゅうと握りしめて、幼女が応援する。漫画のように説明係も忘れない良い子のハク。皆に説明しなくちゃいけないのですと、謎の使命感を持っている愛らしい幼女だ。
向かってくるトニーへと構え直しながら、アリゲーターデビルはギラリと瞳を輝かす。
「なるほど、物理的に硬いのか! ならばこれはどうだ?」
アリゲーターデビルはそのナイフのような牙に魔力を巡らせる。禍々しい闇の力が牙を覆い、魔力が込められた武器と化す。
「ああっ! 敵が早くもトニーたんの力を看破しての対抗策です。さすがは下位悪魔ですよ!」
「バラしましたよねぇっ?」
これは大変と、むにょんと両手でぷにぷにな頬を包み、アンビリーバボーと小柄な躰をゆらゆらと揺らせるハク。さすがは下位悪魔ですと、その知性に驚いちゃう。なぜかトニーが非難がましい悲鳴をあげるが、下位悪魔の凄さを肌で感じたのだろうと気にしない。
「受けよ」
「我らの」
「魔技を!」
3体のアリゲーターデビルは床を蹴り、空を飛び、頭から魚雷のように猛然と突撃してくる。連携のとれた動きで、トニーへと迫りくる。
『3重魔鰐牙』
パカリと開いた鰐の口。その鋭く輝く牙がナイフのような切れ味を見せてトニーへと噛み付く。躱せることができずに、トニーはガブリと身体に噛みつかれてしまう。
「ぐあーっ!」
左肩、右腕、右脇腹に噛み付かれて、鮮血がバッと舞い散り、苦痛に顔を歪めてトニーは身体をのけぞらせる。
ニヤリと嗤うアリゲーターデビル。その顎の力は強靭で、戯れに人間に噛み付いては、まるでスポンジを千切るかのようにバラバラに食いちぎっていた。この天使も同様に、壊れた人形のようにしてやると、嘲笑と共に顎に力を入れる。
その後に祓い師たちは皆殺しにし、逃げようとした人間たちは娯楽用に玩具としてやると考えながら。
「ぬぬっ?」
だが、アリゲーターデビルはギクリと身体を強張らせた。噛み付いた箇所からは血が流れている。しかし、それは薄皮一枚。牙はそこで止まり、いくら力を込めても食い込むことはない。
しかも苦痛の表情であったはずの男はガシッと3体を抱えるように掴んできた。見た目と違い、万力のような強い力により、アリゲーターデビルたちは反対に痛みを覚える。
そして、信じられないことに、男は薄笑いを浮かべて、得意げな顔をしていた。
「へっ、引っ掛かったな。下位悪魔なんぞに魔力撃とはいえ、僕の防御力を貫くことができるわけないだろ」
アリゲーターデビルたちは、見たところ魔力50から60。その程度でトニーに牙が届くことはない。何しろ装備もボスから貰っているのだ。
『奇跡ポイント100万:盾のジャージ。防御力+50、自動回復(微)、装備自動再生』
『奇跡ポイント30万:銀の腕輪、防御力+10、装備自動再生』
なぜジャージなのかとトニーは文句を言おうとしたが、それじゃ鎖帷子とかが良いのかとボスに聞かれて、ジャージで良いですといった経緯もあるが、防具である。鎖帷子を着込んで街中を歩くのと、ジャージで出歩くことを比較して、ジャージにしたトニーだ。
誰でもこの現代の世で鎖帷子を着込んで歩きたくはないだろう。どこのコスプレだよとヒソヒソ話をされるのは間違いない。小心者にして繊細なる飴細工のような脆い心のトニーはそんなひそひそ話に耐えることはできないのだ。どこかの特撮ヒーローのおっさんとは違うのである。
防具の力も加わり、圧倒的な防御力をトニーは誇っていた。何しろ他の魔王の面子は装備がない。使用に時間制限のない武具はポイントが恐ろしく高いためであるが、そのためトニーはウルゴス軍で有数の硬さを誇っている。
なので、最初から下位悪魔ごときにダメージを負うことはない。1ダメージ受けたけど。
「は、謀ったな!」
「騙し合いは悪魔の常。本当に説明係が現実にいると思ったのか!」
トニーとハクの巧妙で天才的な策に引っ掛かったアリゲーターデビルたちは驚き、悔しそうにさらに顎に力を込めるがビクともしない。本当に巧妙で天才的な策かは本人視点なのでわかりません。鰐がアホなだけかもとは思わないことにしているトニーとハク。
3体を抱え込んだトニーは直上にジャンプをして、身体を捻り、ふんぬぅと力を込めてアリゲーターデビルたちを持ち上げる。
『スクリューパワーボム』
3体を回転させながら地面へと投げつける。アリゲーターデビルたちは錐揉みをしながら地面へと放り投げられて、ズズンと音をたててクレーターを作り積み重なって山となった。
「グハッ」
口から黒い血を吹き出して、アリゲーターデビルたちはダメージを受けて苦しむ。
「今です!」
「はい、あなた!」
「了解だよ!」
神凪家族がアリゲーターデビルを中心に三角形に囲むように移動しており、神楽鈴をシャラリと鳴らす。
「祓いたまえ、清め給え」
「禍つ風、瘴気の風」
「清き、浄き、神聖なる鈴の音により滅び給え!」
3人の声が唱和し、涼やかなる鈴の音が森林に響き渡る。神聖力による音色は純白の色となり広がっていく。アリゲーターデビルたちを押し包むように音色は鳴り響き、神聖なる力がその魔なる身体を砕いていく。
「ぬぉぉぉ!」
悪魔の鱗が音色によって細かく砕けて、肉が裂けて、黒き血が吹き出して、アリゲーターデビルたちは苦痛に苦しむ。押し包むように放たれた法術による音色の壁に押し潰されるように身体が歪んでいく。
「今度こそもろたぁっ!」
紫煙が指に符を挟み、マナを込める。先程よりも威力のある符を選んでおり、紫電がバチバチと鳴り始めていた。
ふっ、と呼気を放ち紫煙は符を投擲する。紫煙、最大の法術の一つだ。この符を作るのに3日かけている取って置きの符である。
『雷獣符』
空中を駆けていく符が雷の狼へと変わる。雷の獣は咆哮をあげるかのように大きく口を開けて、アリゲーターデビルへと突進した。雷の獣はアリゲーターデビルへと命中するとその高熱を纏う雷で焼いていく。
身体に雷が奔り、痺れと痛みに苦しむアリゲーターデビル。プスプスと身体から煙を吹き出して、身体の各所が焦げてよろめかせる。
「ふぉぉぉ! これで終わり。マナよ、我の力になりて、敵を打ち倒す神罰の槍となれ」
『聖光槍』
スエルタが片手を天へと掲げて、法術を使う。魔法陣が宙に描かれると、5メートルはある長大な神々しい光の騎士槍が現れた。
その大きさからかなりの重さがあるように見えたが、スエルタはパシッと掴むと軽々と振って見せる。
「悪魔を倒す必殺の法術。この神罰の槍にて滅ぶべし」
眼光鋭くスエルタは光の槍を持ち、アリゲーターデビルへとその穂先を向けると、強い口調で告げる。神聖力が可視化されて、純白の粒子が宙を舞い散る。
『クロスジャベリン!』
地を蹴り大きく飛翔して光の槍を振りかぶると、全力で投擲した。シュッと音をたてて光の軌跡を残し、神聖なる槍はアリゲーターデビルへと飛んでいく。
カッと爆発的な閃光が奔り、人々が目をそばめて、腕で光の奔流を防ぐ中で、
「おのれっ」
「だが、まだ中位悪魔が」
「うぉぉ」
アリゲーターデビルは悲鳴をあげて、その身体を灰に変えて滅んでいくのであった。
「なんて神々しい光なんだ……」
「綺麗……」
「心が透き通っていく……」
避難民たちはその光を見て、知らず涙を流す。すうっと身体から立ち昇る魔力が消え失せて、今まで重かった身体が軽くなるのを感じるのであった。
「むふーっ、神聖戦士スエルタ!」
特撮ヒーローのようにポーズを構えて、スエルタはふんすと息を吐く。トドメを刺せてスエルタは得意げだ。
下位とはいえ、悪魔を退治したシュウたちは嬉しげに笑みを溢して撤退するのであった。
「ふふふ、我こそは悪魔長たるコンピーデビ」
「えいっ、です」
ハクは退却する際に、木の陰から飛び出してきた手乗りサイズの恐竜をプチと踏み潰した。空気の読めない敵はいらないのですととてとてと獅子に乗って駆けるのであった。なにやら隠蔽能力が高かったようだけど、もうバトルは終わったのですと、新たなる敵はノーサンキューな幼女であった。




