83話 天守閣爆破といこう
城内を俺たちは突き進む。城内を進むにあたり、計算違いがあった。
「多すぎるのじゃーっ!」
泣き叫ぶリム。ワラワラとゾンビたちの群れが迫ってくるので、絶叫していた。
『爆炎符』
『爆炎符』
『たまに氷結符』
広告のビラを撒くように、ていていと褐色小悪魔は符をばら撒いていく。爆発音が響き渡り、城内が振動し爆炎が廊下を燃やし、ゾンビたちの群れを焼き尽くす。たまに氷が吹き荒れて凍らせていく。
焦げた黒い塊が床に転がり、氷像が立ち並ぶ。その合間を俺とリムは走り抜ける。しかし、通路の角から次から次へと足軽ゾンビや武者ゾンビたちが現れて、俺たちが進むのを阻んできた。
「報連相ができないってことは、ここらへんの悪魔たちも動いていないってことなんだよね。これは失敗だった」
「言うとる場合かの! 落ち込む暇があったら少しは手伝うのじゃ!」
「活躍の場があって良いじゃん」
「限度があるわ!」
うわーんと涙混じりに叫ぶリム。よしよしと頭を撫でて宥めてやる。この娘の髪は本当に滑らかで気持ちいいなぁと、さり気なく興味のあった角も触っちゃう。おぉ、すべすべしてひんやりして気持ち良い。
角に感覚はないのか、照れる様子もなく、恨みがましい表情で睨んでくる。小悪魔な美少女の恨みがまじい表情も可愛いねと俺は撫でくりまわす。悪魔だからここでできることである。これが人間の美少女ならばおっさんは通報ものだからなぁ。
「悪魔のハーレムは少し哀しいのではないかの?」
「俺は身の程を知っているのでね」
人間の美少女は手を出せないだろ。社会的にも。トニーぐらいに若ければとも思うけどね。悪魔も危険だけどさ。頭を撫でるぐらいなら良いと思うんだ。軽いスキンシップ。軽いスキンシップ。だいたいおっさんが言う軽いスキンシップはセクハラと言われるんだけど。
「さて、それでも限界となれば仕方ない」
奇跡ポイントを使用して、神聖水晶を交換する。広範囲雑魚殲滅用のやつだ。手の中でパリンと割ると、膨大なる神聖力が粒子となって広がっていく。一つ一つの粒子がゾンビを浄化できるパワーを持っており、足軽ゾンビたちはその粒子に触れた途端に灰へと変わって空に散っていく。
「なんじゃ、妾の符術、まったく無意味ではないか」
ぶーぶーと不満げに文句を言ってくるので、膨らんだ頬をつつきながら、もう一方の手を前方に向ける。
「あれあれ。あれは倒せていない」
前方にはよろけて、鎧がボロボロとなってよろけている武者ゾンビたちの姿があった。神聖水晶では武者ゾンビレベルは倒せない模様。
「ああいうのを残せば良いのじゃ。まったくもー」
プンスコ怒りながら、リムはその手に符を持ち、スナップを効かせて投擲する。
『火炎鶏符』
「こけー」
床に炎の鶏がずらりと並ぶと、コケーと鳴いて走り出す。炎の鶏は意外なことに結構プリティだ。
「なんで鶏? 鳥じゃないのか? 空を飛ぶ不死鳥みたいな感じで」
でも鶏だ。鶏だ。コケーコケーと鳴く鶏だ。一応炎の鶏だけどさ。すててててと小走りで懸命に小さな足を動かして走っていく。
「数が多いからの。式神にしたのじゃ。自動的に殲滅してくれるのじゃよ。ほら、鶏って勇者も倒せるじゃろ?」
「お前のネタって、いっつも古いよね?」
ジト目になりながらも、式神炎の鶏へと視線を向ける。鶏は燃え盛る身体でコケーコケーと武者ゾンビに体当たりをして燃やしていく。意外なことに、突進も強力であるようで、その巨体を貫通もしていた。
「コケーコケー」
ボゾンと武者ゾンビに体当たりをして、その胴体に大穴を空けて、余波で燃やし尽くす。小さな普通の鶏と変わらない大きさなのに、恐ろしい攻撃力だこと。
数十羽の炎の鶏の群れは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて武者ゾンビたちを駆逐する。神聖力の高いリムが作っただけはあるね。
「強ければ問題ないか。まずはここの柱だな」
立ち止まるとダイナマイトを柱に取り付ける。大体だけど、この城の支柱を破壊していきたい。
コケッコーと鶏が先導する中を駆け抜けていく。ほいさほいさと突き進み、支柱へとダイナマイトを仕掛けていく。
「サクサクといけそうだな」
「魔王もおらぬようだし、問題ないの。……本当は玄室ごとに魔王が守っていそうな感じじゃが」
ガラリと襖を開くと、赤黒い肉に囲まれた部屋や、鏡でできた部屋などがあったが、ガランとしており誰もいない。
たしかに本当は魔王がいたんだろうなぁと、頬をかく。これまで倒していった魔王が守護する部屋だった予感。
「攻めに入って失敗したらこうなるよな。悲しいけど、これは戦争なんだよね」
「本当に悲しすぎるの。ゲームならばパッチ当てもんじゃ」
俺たちは何事もなくテクテクと進む。うん、唐傘は城内で俺たちを迎え撃てば良かったと思うんだ。唐傘はアホなのかな?侵略行為も必要なんだから仕方ないけどさ。
「これで最後っと」
中心っぽい所に辿り着き、最後のダイナマイトを貼り付ける。これで城は崩壊すると思う。
スイッチを神様ポーチから取り出すと、指をかけて躊躇う。
「なぁ、ここで爆破するとやばいかなぁ?」
「ふむ………物理的な重さなど、もはやそなたには意味ないじゃろ。大丈夫ではないか?」
「それじゃ大丈夫か検証しよう。ポチッとな」
もう俺も人外だもんねと爆弾から少し離れると、躊躇いなくカチンとスイッチを押す。物理的な攻撃は魔力か神聖力が籠もっていなければ、通用しなくなっているのが俺の身体だ。
ドカンドカンとダイナマイトが爆発し、城が揺れて崩壊を始める。梁が崩れて壁が崩壊し木床が捲れ始めた。ゴゴゴと遂には城全体が柱も折れて潰れ始める。
「………ねえ、本当に俺って物理的な攻撃は無効化できるのかな?」
「うむ、その質問はスイッチを押す前にするべきだったの」
「久しぶりの検証だったからね……浮かれていたのかも」
なんだかにわかに不安になってきたよ? 数十万トンとか言わないよね? あいたっ。
落ちてきた梁が俺の頭に直撃する。結構痛いよ?
「ひょえー!」
おっさんは逃げ出した!
「アホになったな、お主!」
「悪魔との契約の代償か!」
たぶんハクを作ったあたりから、俺はアホになってきたと思うんだ。きっと魔王を創れば創るほど知識が吸い取られてアホになるシステムだと思います。
「というか、普通はスイッチ押さないじゃろ! 出雲は自爆装置を押すラスボスか!」
ぬぉぉぉと叫んでおっさんは必死になって駆け出す。ヒョエーとリムも後に続く。まだボスを倒していないのに、魔王城は自爆装置が発動したみたい。
幸いにも通路のゾンビたちは倒し終わっていたので、俺たちはノンストップで駆け抜けることができた。ウルゴスの身体能力は伊達ではなく、スポーツカーよりも速く走ることができて、通路を風のように進む。リムがヒョエーヒョエーと俺の背中に貼り付いて、胸の柔らかさを教えてくれるので、恐怖が薄れる。
「脱出時に美女を運びながら進むと恐怖が薄れるんだな。なんで主人公が美女を見捨てて置いていかないのか理由がわかったよ」
長年の謎だったのだ。命がかかっているんだから、見捨てる主人公とかいても良いよねとずっと思ってた。これが理由だったのか。
「良かろう。ほれほれスピードアップじゃ」
アホかとツッコミを入れるかと思ったら、ニヤニヤと笑って胸をグイグイと押し付けてくるので、俺の速度は速くなる。どんな補正法術よりも強力だよね。
そうして、出口が目に入る。入ってきたところだ。ダンと強く床を蹴り込むと俺は加速して城から脱出した。
『氷結蓋』
倒壊した際の砂煙を防ぐべく、俺は体育座りになり氷のドームで覆う。リムは俺と背中合わせになり、なるべく小さくなるように縮こまった。
他者から見るとひどく間抜けな光景だが仕方ない。背に腹は変えられないのだ。氷は半透明で外の光景が見れるようにしていたのだが、大迫力である。
雲まで聳え立っていた城が潰れるように崩壊していき、その質量により、まるで火山が爆発したかのように、砂煙が吹き上がる。
目の前が砂煙と爆風で埋め尽くされる。びゅうびゅうと砂煙が勢いよく流れていく様子に、アトラクションじみた感じだねと感動してしまう。こんな感動は伝説のアトラクションでスペースシップに乗った以来だ。子供心に本当にスペースシップに乗っているようだと感動したもんである。
「すごい光景だよな」
「うむ。コーラとポップコーンが欲しいの」
この光景はしばらく続くだろうと、俺とリムはのんびりと体育座りの体勢で眺める。美少女の体育座りの横でおっさんの体育座り。ここは青年とかなら、愛の告白とかするパターンだよなぁとくだらないことを考えて、眺めている。
「ウォォォ! 俺っちがぁぁ」
何やら砂煙の中で悲鳴が聞こえてきた。
『奇跡ポイントを50万取得しました』
ふしゅるるると魔力が俺に流れ込んきて、奇跡ポイントへと変換された。………んん? なにこれ?
「なんかポイント増えたよ?」
「うむ………ポイントの高さから推測するに魔王じゃな」
「なんか見えた?」
「んにゃ。砂煙だけじゃの」
未だにゴゴゴと轟音が鳴り、砂煙が瀑布のように外を流れている。何も見えないです。
お互いにたらりと汗を流して黙り込む。嫌な予感がする。とっても嫌な予感がするよ?
「魔王なんだから物理的な攻撃は効かないよね?」
「それなんじゃがの。もしかしたら数十万トンの質量であれば死ぬかもしれん。出雲が逃げたのは英断だったの」
「連合の魔王なんだから、きっと大丈夫。高笑いと共に少し怒った顔で現れるよ」
「唐傘に顔はないと思うがの」
二人してまたもや黙り込む。しばらくの間、沈黙が続くと、ようやく砂煙はおさまって、視界が開けてきた。
視界が一気に開けていた。先程までは存在していた魔王城は瓦礫の山となり、ちょこんと金シャチホコが瓦礫の山に乗っているのが哀愁を誘う。
「おぉ………欠陥住宅だったみたいだね」
「そうじゃの……」
俺たちは、顔を背けて軽口を叩く。物の見事に破壊できちゃったよ。
ひらひらとボロボロの傘が舞い落ちてきて、ポテリと瓦礫の山の上に落ちた。その傘に魔力は感じるが、もはや残滓であり動くことはなさそうだった。
「………」
「………」
「やっぱり死ぬところだったじゃん! 俺、死ぬところだったよね?」
「躊躇いなくスイッチを押したのはお主じゃろ!」
うぎゃぁと、お互いの頬を引っ張り合う醜い争いを始める出雲とリム。どうやらボスを倒したようだけど、見なかったことにするつもりだ。言い合いをしながら、ソロリソロリとその場を離れようとする空気を読めなかった神と悪魔王だが
カッ
と、瓦礫の山が内部から光り、瓦礫が吹き飛ぶ。
「これは驚きました……城を破壊するとは思い切った者たちです」
そうして、やけに気障ったらしい男の声が聞こえてくるので……。
二人は良かったボスが残っていたよと、満面の笑みで、喧嘩を止めるのであった。良かった、良かった。




