81話 城内を進まないといけないわけではないのじゃ
ポーンとウォーリアの機動兵器たちが城門を打ち砕き侵入を開始していた。ホーリービームマシンガンを撃ちながらポーンがゾンビたちを撃ち倒し、シックルを回転させて、ウォーリアがグールを切り裂く。
「フハハハ。これが機動兵器ウォーリア改。この天華の専用機です」
フハハハと楽しそうに笑いながらサクサクとグールを斬っていくウォーリアはその頭が人間のようにカメラアイが2つの目になっている。
「性能は変わらないのに、一機になった機体でしゅ」
「3機編成の方が使い勝手良かったでしゅよね」
「良いんです! これはロマン、ロマンなんです!」
「サンちゃんさぼり。トニーたんは?」
「大切な恋人ですよ。この間、カップでできるインスタントラーメンを作ってあげました。恋人の手料理と言うやつですね」
お湯を入れれば完成するタイプだ。
「……本人たちが幸せなら何も言わないでしゅ」
堂々とした態度で悪びれる様子もない天華の態度に、イチたちはツッコむことをやめた。恋人たちの間にはよくわからないこともあるんだねと。まぁ、侍少女がメシマズの可能性もある。それを考慮したら、トニーの選択はあっているのだろう。
ウォーリアたちはホーリーシックルの神聖なる軌跡が縦横無尽に空間に残像として残っていき、立ち向かうゾンビもグールたちも相手にせずに蹴散らしていく。
ポーンたちも戦闘に加わり、神聖力を付与されたマシンガンやガトリング砲の前には悪魔は案山子同然であった。しかしながら、さすがは魔王城。通路の影からは尽きることなくゾンビたちが現れている。都心というか、都内の住民は一千万人いたのだ。どこに消えたのかといえば、そういうことなのだろう。無限にストックがありそうである。
ウォーリアやポーンたちは、その機体自体が神器であり、強力な神聖力を宿している。なので、ゾンビはかするだけで、その肉体はトラックに吹き飛ばされたかのように大ダメージを受けて灰へと変わっていくので、人混みならぬゾンビ混みを前にすぐに攻撃をやめて、歩くだけに変えた。
巨大な金属の塊でもあるのだ。一歩歩くだけで、その凶悪な質量は武器になる。たとえグールであっても対抗できない。ゾンビ混みの中を掻き分けて進み、後には灰の山を作っていく。
「ウテッ」
銃眼から火縄銃を覗かせて、足軽ゾンビたちが射撃を開始する。パンパンと火薬の爆発音が響き、銃弾というにはお粗末な単なる丸い鉄球が雨あられとウォーリアたちに降り注ぐ。
「こちらの装甲を貫けはしないのでありますよ」
レンダが乗るウォーリアが弾丸の降り注ぐ中、まったく怯むことなく銃眼へとマシンガンを向けて撃つ。タララと神聖なるビームは放たれて、銃眼を砕き、足軽ゾンビたちを灰へと変えていった。
「ウォォォ」
もはやゾンビやグールも足止めにならないと悟ったのだろう。4メートル程の巨体を持つ武者鎧を着込んだゾンビが現れる。刃こぼれしてギザギザの刃となった5メートル程の長さの長刀を構えて咆哮をあげながら突撃してきた。
通路を埋めるゾンビなど気にもせずに、踏み潰しながら武者ゾンビたちは突進してくる。その数は次々と増えていき100体を数え、さらに後ろから現れてきた。
「数で押す作戦ですか。シンプルで強力な戦法でありますね」
レンダはモニター越しに現れる武者ゾンビたちの群れを見て対抗する搦手はないと判断した。
「仕方ねぇだろ! ここは正々堂々と迎え撃とうぜ!」
リーラが好戦的な通信をしてくるがそのとおりだ。ここを通り抜けるには倒すしかない。
「時代遅れの悪魔には退場してもらうとします」
レバーを強く握って、思念にてポーンを操作する。ポーンはホーリービームマシンガンを腰だめに構えると、カチリとトリガーを引いた。
「全機一斉射撃」
「近寄らせるなよ!」
レンダの指示にリーラが楽しそうに吠えて、仲間の皆も攻撃を開始する。
「ウォォォ……」
そのビームの嵐はゾンビたちの頭上。通り過ぎて、通路を埋め尽くし、武者ゾンビたちに命中する。1、2発ならば耐えれただろう。しかし数十の弾丸を受けては耐えられなかった。
武者鎧は破壊されて弾け飛び、内部へと弾丸は入り込み爆発する。神聖力という悪魔にとって猛毒である力が身体を侵食し、遂には膝をつき灰となって消えていく。
レンダたちサンダルフォンはその思念で連携を密にできる。脅威度を測り、敵の振り分けを行い無駄弾が出ないようにしながら倒していく。
「リロード!」
だが倒されても倒されても、敵は一向に減らない。弾丸が尽きて、素早くリロードし、再び攻撃をする。それらを何度も繰り返していき、やがて予備のマガジンはなくなってしまう。
「200体は倒したぞ! あいつらどうなってやがるんだ?」
「突破されないように全戦力を持ってきたのでしょう。ここからは近接戦闘に移るであります」
舌打ちするリーラの声を聞きつつ、レンダはグレイブの先端を神聖力にて光らせる。
「では私が前に出ましょう。近接戦闘はお手の物です」
「後につづけ〜でしゅ」
「予備のこんぴーたーぼーどをわすれるなよでしゅ」
ウォーリア改に乗る天華がシックルを構えて突撃する。続いてイチたちのウォーリアもシックルを手に突撃していく。相対する武者ゾンビと切り合う。
ウォーリアがシックルを振るい、刃こぼれの激しい刀で武者ゾンビが斬りかかる。ガキンと重々しく鈍い音が響く。
武者ゾンビはウォーリアよりも身体は小さいがそれでもパワーはある。皮膚が破れて骨が見え、その体躯は細いがアンデッドのパワーは同じ体格の生命体よりも遥かに高い。限界を越えて繰り出される一撃は装甲車すらも潰してしまうだろう。
「ゴアッ!」
「甘いっ!」
しかし武者ゾンビが繰り出す刀の一撃を天華の操るウォーリアは僅かに身体を引いて躱すとシックルを翻して袈裟斬りにする。ボロボロの古い鎧はたいした防御力がないようで、あっさりと切り裂いて致命的な一撃を与え灰へと変えた。
そのままホバーによる摺足のような動きで次の武者ゾンビへと間合いを詰める。未だ刀を構えたままの武者ゾンビは反応できずに、懐へと入ったウォーリアは胴を横薙ぎにし、さらに加速すると次々と武者ゾンビを切り裂いていく。
滑らかなる動きにて振るうその動きは淀みがなく、熟練の剣士にも見えた。
『呪撃』
色の深い鎧を着込んだ武者ゾンビが大きく刀を振り上げると、禍々しい紫のオーラを包み武技を放つ。呪われた一撃は命中したものに呪いを与えて動けなくする。瘴気が身体を覆っていき、最後にはゾンビへと変える恐ろしき一撃だ。
床を踏み込みにて爆発させて武者ゾンビは斬りかかってくる。
対する天華は怯むことなくシックルを構えて迎え撃つ。加速して間合いを詰めてくる武者ゾンビに冷静に対峙する。
「空流し」
目の前まで迫ってくる刀の一撃に、シックルの先端をコツンと当てると僅かに軌道をずらす。強力な振り下ろしだからこそ、その僅かな威力でも簡単にずらされた。
ホバーを吹かせて砂煙をあげながらくるりと機体を回転させて刀に当てた反動で弾かれたシックルを後ろに引いて武者ゾンビの横を通り過ぎる。武者ゾンビの横合いにシックルの柄を喰らわせてその身体を吹き飛ばす。
「てや」
よろけた武者ゾンビを逃さずに、イチが追撃の一撃を頭に入れて倒す。後ろからポーンたちも詰めて来て、グレイブで掃討していく。
天華の操る自称ウォーリア改は鋭い斬撃を繰り出し、先頭に立ち次々と敵を倒していく。そのシックルの動きはひらひらと蝶が舞うような動きで、右からの袈裟斬り、翻して足元を、引き戻して唐竹割り。クイッとシックルを下げると敵の刀を刃に添わせて受け流し、機体を揺らしながらフェイントをかけながら、陽動に踊らされた敵の隙をついて倒していった。
「見ましたか。この私のパイロットぶりを!」
アハハハと楽しそうに高笑いをする天華。その機体の動きは明らかにパターン化されたものではなく、マニュアル操作だ。
そう、天華はマニュアル操作を熟知していた。完徹は当たり前のゲーマーは目に隈を作りながらも楽しそうに操作方法を学んだのである。ディープなゲームオタクはゲームとなると全てを費やすことができるのである。
まだまだ武者ゾンビは城内からやってきて、倒しがいがありますねと天華たちは斬りまくるのであった。
その様子を城の屋根にへばりつき、おっさんがこっそりと眺めていた。無双ゲームと思える活躍っぷりだなぁと思いながら。おっさんの肩にはリムがちょこんと頭を乗せている。
「あの機体って物凄く操作方法が難しくなかったっけ?」
おっさんこと出雲はキレの良い動きをするウォーリアを見てドン引きである。天華の動きは本来のパイロットであるイチたち幼女天使たちよりも良い。新人類かな? それとも遺伝子操作された人間かしらん。
「うむ………あれじゃ。オタクは強化人間を超えると言うことじゃの」
リムも半眼となって、その活躍っぷりを見て嘆息する。どうやら俺と同じ思いらしい。ゲームオタクの操作技能は強化人間を遥かに超えそうだよね。
「そうだな……ディープなゲームオタクはコーディネートされた人間よりも強いと俺も思う。好きこそものの……なんだっけ? ことわざあったよね」
「好きこそものの上手なれ、じゃ。だがアニメ化は無理なパターンじゃな」
「アニメと違って、ゲームオタクは二枚目や美少女じゃないからな。ふつーの人たちだからな」
「太った身体で鉢巻を頭につけてアニメのプリントが入ったシャツを着るゲームオタクとか2次元の中にしかいないからの。だが、個性が全然ないぞ」
「嫌なロボットアニメになりそうだな……。やはりそこに二枚目や美少女は欠かせないよね」
ゲームの話ばかりする普通の顔立ちのゲームオタクな主人公たち………。戦闘もまったく心に傷を負うことなく、攻略サイトを更新して、次々と強敵を倒していきそうな予感。斬新すぎるアニメである。
アホな考えだなと頭を振って気を取り直す。益体もないことを考えても仕方ないよね。それよりも作戦はうまくいっているようだ。
「陽動としては充分だ。敵は山ほどいるみたいだけど、全て迎撃に出ている」
「浄化水晶を割りながら進んでも良いと思うが、逃げられても困るしの」
「マッドサイエンティストとかは、すぐに逃げるからなぁ。それじゃ城内の最奥に向かいますか」
屋根瓦を踏んで俺は奥へと走り始める。わざわざ戦闘をする必要はないもんな。ゲームと違うのだ。
ボス部屋まで一直線といこう。




