72話 テンプレ主人公的な活躍なのじゃ?
夏も始まり、陽射しが暑い。今年は猛暑となるだろうこの地にて天使をトニーは召喚しようとしていた。額から汗が流れ落ちていき、緊張感が辺りを包む。
光り輝く魔法陣から無垢なる天使たちが姿を現した。ゆっくりと姿を現す天使は腰まで届く長い金髪で、艷やかなる髪には天使の輪ができている。愛くるしい顔立ちで天使にふさわしく無垢なる清らかそうな表情だ。
天使の姿を表すように純白なるワンピースを着込み、その手には銀の槍を持っている。背中には白鳥の如き、美しい翼が生えており、羽ばたくたびに、幻想的な光る翼の羽根が舞い落ちる。
神々しさを持つ天使たちが9体、その姿を現したのだった。
「これが天使。さすがは天使。その神々しさを肌で感じます」
「そうだね。無垢なるものだね。天使だね」
天華と音恩は感心して天使たちを見つめる。顔を引きつらせて、若干棒読みのような気がするが気のせいだろう。天使たちは注目を集めていることに気づいても気にせずに、動き出す。
「せいれーつ」
「ばんごーっ」
一人の天使がぴよぴよと雛のような可愛らしい声音で叫ぶと、天使たちはその天使の後ろへとトテチタと並び、ちっこいおててを胸の前に揃えて前習えをする。すぐにトニーの前に縦並びで天使たちが集結した。
「あれぇ? 僕、天使を召喚したような? 間違えたかな?」
口元を引きつらせてトニーは震える声で呟く。少し目の前の光景が信じられない様子。
「いえ、天使です」
「少しちっちゃいけど、たしかに天使だよ! 頭を撫でて良いかな?」
二人の言葉に、やはり眼前の集団は幻覚ではないと、心底がっかりしてしまう。ちらりと天使たちを見ると、早くも飽きたのか、もじもじし始める天使も出始めている。天使たちは飽きっぽらしい。
「天使ってか、幼女じゃないですか! え、なんで幼女?」
絶叫して膝から崩れ落ちてしまう。天使たちは背丈が少し足りなかった。大体平均80センチぐらい。ぷにぷにほっぺに幼女のいか腹、無邪気なスマイルの幼女だ。トニーの望んでいた天使たちとは違いすぎる。そして、パタパタと翼を羽ばたかせる姿は可愛らしすぎる。
「こんな幼女を召喚しようとしていたんですね?」
ある意味、全裸の天使を召喚するよりも酷い結果だと、天華たちの呆れた声に怯む。女好きと幼女スキーなら、女好きの方が遥かにマシだったトニーである。
このままだと、自分の評判が地に落ちる。落ちてしまうと焦り、仕方ないので、裏返すことに決めた。醜悪なる悪魔餓鬼の姿の方がマシだ。悪魔バレする可能性があっても、社会的な名誉をトニーは望んだ。
「デビルモードチェンジ!」
早くもお喋りを始めたり、車に入ってお昼寝をしようとする天使たちへと命令を出す。
「らじゃー! でびるもーどちぇんじー! ずんたった〜」
「べーんべーん」
「たらったー」
両手をあげて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、楽しそうに天使たちはそれぞれバラバラの歌を唄いながら、餓鬼へと変身を開始した。おててをくねくねと、身体を揺らして、ふんふんふふーと、変身を始める。お遊戯の始まりだと、楽しそうだ。
「へんしーん!」
まずは4人の幼女天使たちがぴよぴよと叫んで走り出す。へんしんへんしん叫びながら、わぁ〜っと駆けて、ジープへと近づく。
「へんしんがったい、じーぷおーが!」
「てれてれてーん」
「じゃじゃーん」
「てろてろてろ」
4人は背伸びをしてつま先立ちとなり、ぷるぷる震えて短い手を伸ばしてドアへと手をかける。懸命に引くとドアが開いたので、満面の笑みと変わる。
「ちめたいでしゅ」
「あちあち」
「はやくはいってよ〜」
「たおるけっと用意しましたでしゅ」
エアコンを効かせて、ひんやりとした冷気が車内から出てきて幼女たちの顔を撫でる。もう夏は暑いよねと、んせんせと車内へとよじよじ登ると入っていきバタンとドアを閉めた。
トニーは背伸びをして、窓越しに何をするのかと観察すると4人は椅子に寝そべり、タオルケットをかけて、すよすよと気持ち良さそうにお昼寝しちゃうのだった。真夏の暑さは耐えられなかったらしい。
変身終了。ジープオーガが誕生した模様。きっと世界の紳士たちは誕生した悪魔の光景を見て、身体を震えさせるのは間違いない。
「くっ、ジープオーガは駄目だ。他の子はどうだ?」
可愛らしいけど、全然役に立たねぇ悪魔のような幼女だと舌打ちして、顔をしかめて残りの5人に顔を向ける。
「お前らだけが頼りだ!」
醜悪なるドン引きの餓鬼へと姿を変えてくれと神に祈りながら、観察する。自身の信ずる神様がウルゴスだとは忘れた模様。覚えていたら、神様に祈りはしないに違いない。
「へんしんっ!」
5人はビシッと整列して、真面目に変身を始めた。
まずは肩に付いた留金を外します。パチンと音がして天使の翼が地に落ちる。取り外し可能らしい。
続いてワンピースをうんしょと一気に脱ぐ。かぼちゃパンツを見せながら、幼女たちは頑張ってワンピースを脱ぐと裏返す。パサリと音を立てて、ワンピースは裏返り赤い服と変わった。どうやらリバーシブルのワンピースらしい。
んしょんしょともう一度着て、皺となった部分をおててで延ばすと、最後に小さな角が付いているヘッドバンドを頭に着けてニパッと微笑み
「餓鬼参上でしゅ」
「天使な餓鬼なのでしゅ」
「エンジェルオーガ見参!」
3人の幼女たちは手をビシッと伸ばしてポーズをとって、かっこよく決め台詞を言う。その姿は神々しく、紳士ならば撮影良いですかと群がるに違いない。
残りの2人はワンピースが脱げなくて、頭に引っ掛かり、茶巾袋のようになっていた。しかも、ヨロヨロと揺れて倒れちゃう。そうしてジタバタと転がっちゃう。
大丈夫なのかと、天華たちが駆寄ろうとするが、
「ひとりでおきがえできるもん!」
「もうおとななのでしゅ!」
天使の誇りを胸に叫ぶ幼女たち。おきがえはひとりでできるのだ。大人の手伝いは必要ないのだと、コロコロと地面に転がり泥だらけになって叫ぶのだった。後でお風呂一直線になる予定だ。
「あの……幼女の着替えを見たかったんですか? そんなに興味あったんですか」
ずりずりと後退り、無邪気な音恩であっても、ドン引きしている視線に遂にトニーは崩れ落ちた。もはやトニーのヒットポイントは枯渇した。
「ぬぉぉぉ! 『送還』!」
もう耐えられねぇと、トニーの精神を破壊した悪魔たちを血涙を流して送還する。やはり悪魔を召喚するには代償が必要らしい。トニーは完全に社会的評判を喪った。悪魔を召喚する代償はとてつもなく大きいとトニーは悟ったのだった。
ばいばいとおててを振って、3人の悪魔がトニーの描いた魔法陣の中に消えていく。
「悪魔は去ったか」
恐ろしい悪魔だったとトニーは汗を拭って安堵の息を吐く。
残りの幼女たちはなぜか送還されなかったが、考えないことにして、コホンと咳を一つ。
「さて、今度こそ天使を召喚します」
今の幼女天使たちはなかったことにして、レベル3の天使を召喚することに決めた。レベル1なら天使を9体、レベル2は新たなる天使は無し。3はエンジェルウォーリアを3体召喚できると知識が訴えかけている。
「今度こそ、まともな天使を召喚します!」
『戦天使召喚!』
先程よりも二周りは大きい魔法陣が描かれて、すぐに新たなる天使が現れる。
「おぉ〜! これこれ、これだよ! こういうのを待っていたんですよ」
姿を現したのは、流線型のフォルムを持つ白いラインが走っている漆黒の機体であった。鋭い切れ味を示す刃を光らせるシックルを持ち、筋肉隆々の人間が重装甲の鎧を着ているような姿だ。脚部分が少し広がっており、水晶のスラスターが取り付けてある。腕部分にガトリングが取り付けられており、背中にはバックパックは搭載されておらず、簡単な仕様の機体だ。
ピコンとステータスボードが宙に映し出されて、性能を表示してきた。
YA1式 ウォーリア
マナ:50
攻撃力:40
防御力:50
機動力:70
稼働時間:1日
天使チタリウム製:物理、魔法耐性小
エンジェルハンドビームガトリング:攻撃力30消費マナ:1
エンジェルシックル:攻撃力45 消費マナ:1
「来たー! きたきたきたー! これ、こういうのを待っていたんですよ!」
やったねとトニーは小躍りして喜ぶ。こういうかっこいいリアルロボットがほしかった。機械の神様ウルゴスの使徒たるグラトニーに相応しい悪魔だ。
「たしかに……現実でドライセ」
「ん〜。凄いね、機械天使だね。でも黒いね?」
「凄いよな! いやぁ、苦労したんです。ありがとうございますウルゴス様」
結局、倒れた幼女のお着替えを手伝いつつ、ウォーリアを見て天華が目を輝かす。音恩が首を傾げるが、天使であり、悪魔なので仕方ない。トニーは鼻高々で胸を反らす。ポーンと違い、召喚獣は稼働時間が長いので素晴らしいと得意満面だ。ロボットが召喚獣なのは機械神の特徴だ。決しておっさんの趣味ではない。
周りを見ると、一旦は召喚時の余波で消滅したゾンビたちであったが、再び集まってきていた。かなりの数だ。ぞろぞろと通路から歩いてきている。後ろには10メートル程の背丈のスケルトンが車両を蹴散らし、家屋を踏み潰し迫ってきていた。
「やれ、ウォーリア! ゾンビたちを蹴散らすんだ」
調子に乗ったトニーが指をゾンビへと指すと、ウォーリアはカメラアイの1つ目を光らせて動き出す。その脚が光り、僅かに機体を浮かせると走り始める。ホバークラフト式のウォーリアはポーンと違い素早い。
シックルを持ち上げるとその刃に純白の光を纏わせて、ウォーリアは横薙ぎに振って突進する。ゾンビたちは一瞬で身体を切り裂かれて灰へと変わる。グールが飛翔してウォーリアに取り付こうとするが、ホバーを吹かして軽やかに後ろへとスライドし、腕を突きつけてガトリングを放つ。ビームのシャワーが降り注ぎ、肉片へと変える。魔力皮膚を持っているグールでも、一瞬で数十のビームを喰らえればひとたまりもない。2体のウォーリアたちは巨大なシックルを振り、無双ゲームのように倒していく。
「ふはは、見たか。我が軍は圧倒的ではないか。……んん? 2体?」
腰に手を当てて高笑いをする調子に乗ったトニー。だが、なぜ2体と首を傾げて、残りの1体へと視線を向ける。
なぜかウォーリアは動くこともせずに、ただ突っ立っていた。故障かなとトニーが不安に思うと、ガションとウォーリアの胸部装甲が開いた。コックピットが姿を現す。
「キャッ。間違えちゃったでしゅ」
テヘヘと小さな舌を出して、パイロットがてれてれと顔を赤らめる。大きな椅子にちょこんと座っているのは幼女だ。片手に分厚い説明書を持ち、片手にコントローラーを手にしている。真面目な娘なので、まずは説明書を読もうと考えたらしい。
「さっきの幼女じゃねぇかぁ〜!」
トニーは絶叫した。薄々嫌な予感はしていた。幼女アーマー、略してYAじゃねと。
幼女をこき使うトニー。もう最悪であると頭を抱えて落ち込む魔王であった。
「幼女よ、私が代わろう。危険な戦場だ。私に任せておきなさい」
ゲームオタクの天華が肉を前にした虎のような速さでコックピットによじ登り、説得を開始していた。ゲームオタクにとって、ロボットに乗れるのは夢なのだ。真剣な表情でギラギラと目を輝かせて、フンカフンカと鼻息が粗い。
もうなんでもいいやといじけるトニー。駄目だと地面にのの字を書き始めて、音恩がさすがに同情して頭を撫でて慰めるのであった。
 




