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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
2章 地盤固め

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67話 拠点を再建しよう

 少し顔を持ち上げれば、水晶柱は煌めく透明な水を生み出している。ザァザァと滝のように降り注ぐ水に、そっと避難民の女性は手をつける。ひんやりとした感触が返ってきて、身体全体に涼しさが行き渡るような気がしてくる。思わず、手で水を掬い口につけると、人々の熱気で暑く火照る身体がひんやりとして涼しく爽快さを感じた。


「美味しいわ………」


 水を味わいしみじみとした口調で呟く。この水は大丈夫だ。お腹を壊すどころか、健康になると本能が告げてくる。一生でこれだけ美味しい水を飲んだことがあっただろうかと、コクコクと水を嚥下して飲み干す。


「おかーしゃん?」


 女性の飲む姿を見て、娘が顔を覗き込んでくるので、自分だけ飲んでしまったと少し赤面してニコリと微笑む。


「えぇ、飲んで大丈夫みたい」


「うん、ちべたっ」


 小さなおててで水を掬い、ごくごくと娘も飲む。最近はペットボトル一本の水も飲めなかったので、喉がカラカラだと滝に顔を突っ込み笑って口に入れていた。滝のような勢いで降り注ぐので、モゴモガと頭をビショビショにしながらも嬉しそうだ。我が子の楽しそうな姿にクスリと笑って、滝の中から引き戻す。


「たくさん待っている人がいるんだから、早く汲んでいくわよ」


 後ろに大勢の人が待っているので、ペットボトルに急いで水を入れる。娘も水筒に水を汲んで後ろに譲るのであった。


 久しぶりの水。しかも節約しなくても良いのだ。後で並び直せば手に入る。安心感を持ち母娘は笑顔で離れていく。他の人々も流れ落ちる大量の水に、歓喜の声をあげて水を汲んでいく。不思議なことに窪みに落ちた水は貯まりはするが、溢れることもない。その不思議光景を気にせずに、頭の回る人は洗面器で汲み、バケツで運んでいく者たちもいる。


「水が手に入って、人々はようやく安心したようですね」


 冬衣さんモードの出雲は歓喜に沸く大勢の人々を見て、穏やかな優しそうな胡散臭い笑みで口にする。掴みはオーケーだ。人々が集まってきたら、厳かに拠点再建をするつもりだったのだ。


 今なら大勢の人々が角砂糖に群がる蟻のように水晶に集まっているぜと、ふふふとほくそ笑み


「西瓜、西瓜もありますです? 一人ひと切れなのです」


 少し離れた場所で、ハクが余計なことを口にした。白いテーブルの上には西瓜が小さく切り分けられて並んでいる。大量に育てて腐るのを待つだけだった物を持ってきたらしい。シスコンのスエルタが隣でせっせとスイカを切っている。


 ワッと人々は雪崩のようにハクへと集まり、スイカを取ろうとするが、獅子の縫いぐるみが僅かに身じろぎ顔をあげると、きちんと並び始めた。皆は魔王パレスの力を目にしている。いかにつぶらな瞳のもふもふ縫いぐるみに見えても恐ろしい悪魔だと知っているので、眼前で奪い合うのは止めておとなしく並ぶのであった。


 小さく切り分けられたスイカだが、久しぶりの甘味だと口に入れる。正直、お腹が減っている中でのスイカは体に悪そうだ。それでも食べ物である。困窮した人々のことを考えない酷い幼女でもある。ハクの頭には腐る前にスイカを処分すること。それしか考えていないのであるからして。しかも、あんまり冷えていない。


 それでも困窮していた人々はスイカを齧る。シャリッと小気味よい音が口の中で響き、口の中に甘みが広がっていく。冷たくはないが、しっかりとした実で、しかもかなり甘い。


 美味いと叫ぼうとして、食べた男は身体に違和感を覚える。先程までは疲れ切っていたにもかかわらず疲れがとれた感じがするのだ。


「お前、その身体……」


「え? なんだこれ?」


 隣の男が指差して驚愕の表情となっている。指を指された男は自身の身体へほんの少しだが純白の粒子が集まっていることに気づいた。すぐに消えてしまったが、今の神秘的な光が身体の回復を手伝ったことは間違いない。


「凄え………神聖なスイカだったんだ」


「子供の肌に赤みが戻ったわ」


 痩けていた頬がふっくらと赤みが戻り、子供が元気になり、唇がかさかさで、体調が心配だったのにと、喜びの声を挙げる。


 他の人々も口々に自分の身体に起こったことに驚く。どうやら凄いスイカだったんだと感動し


「あわわわ。あたちは知らないのです? ただのスイカだと思っていたのですよ」


 両手で頭を抱えてハクは震えて縮こまっていた。副作用があるとわかり、やべえと責任逃れをする幼女である。なにか想定外のことがあったら、下僕のせいにしようと魔王らしい思考をしていたりする。考えすぎであり、杞憂だったのだが、本人は普通のスイカだと思っていたのでビビったのである。


 しかし問題は他に発生した。今から更地にして拠点を再建するはずの冬衣モードのおっさんをほとんどの人は見ていないのだ。おっさんよりスイカでしょうと言われたら、そのとおりだが。おっさんはスイカにも負ける存在なのだ。


 しかし、出雲はそんじょそこらのおっさんとは違う。対抗策はあるのだ。最近はアホっぽくなってきたが、会社に毎日出勤しなくて良くなり怠惰な生活をしているので、気が緩んできていたせいなのだ。地頭は良いのだ。たぶん。


 ふふふと薄ら笑いをして、秘策を発動させる。


「さて、これからこの地を浄化させたいと思います。我が妻の櫛灘が神への祈りの踊りを捧げ、神の奇跡を起こします」


 シャランと手首や手足、首から下げている装飾品を鳴らして、ほとんど水着のような、水着よりも扇情的な半透明の羽衣のような踊り子の服を着たリムが涼やかな笑顔で前に出て来る。


 皆はスイカを食べながら、ほほうとリムへと注目する。これぞ、お色気にて人々の注目を集めよう作戦だ。最初は水を生み出して、人々を集める。次は櫛灘の踊りを見せて、皆へと魅せて、完全に注目を集めるのだ。


 人間、食欲、睡眠欲、性欲のどれかを掴めば簡単に人を集めることができるのさと、ふふふとほくそ笑む。


『のぅ………この中を踊るのかの?』


『そうだ。踊り子を今まで数え切れないほど見てきたから踊れるんだろ?』


 この作戦の肝であるリムが、どことなくジトッとした思念を送ってくる。作戦前に確認したら、数千年生きている中で、王様の宴会や、サバトやらで見てきたらしい。ここで、罠に気づいた俺は踊れるんだろうなと、念の為にリムの踊りも確認した。よくあるテンプレ。見てきたけど踊れないというパターンを恐れたのだ。


 ウルゴス神の偉大さを示すためにも、見事な踊りを見せてほしかったのである。


『この衆目の中で踊るのか………』


『もしかして大勢の注目を集めると、緊張しておどれないとか?』


 その可能性は排除してたんだよなと、少し焦るがリムは否定してくる。


『いや、そんなことあるわけないじゃろ。悪魔王が一番慣れておるのが人々からの注目じゃて。それより周りを見てみよ』


 なんだよと、周りを見渡す。瓦礫の山の中で、人々は初夏の日差しを受けてこちらを見ている。もう夏に入り、みーんみーんとセミの鳴き声が聞こえる中で、スイカをシャクシャクと齧りながら。


『なんもないな』


『あるぞ! なんだか田舎の祭りの演目に出る場末の芸人っぽいではないか』


 怒鳴るリム。なるほどなぁと、もう一度見渡す。たしかに暇な人たちが演目を見に来たようなほのぼのさだ。スイカを片手に食べているのが、拍車をかけている。未だに大勢の人々がワイワイと水を汲んでいるしね。想像力逞しいなリム。言われてみれば、たしかにそのとおりだわ。


『問題ない。やれ』


 だが、作戦に変更はない。やれ。ここでやらねば、いつやるんだよ。


『くっ。……仕方あるまい。わかったのじゃ。後でマッサージを所望するからの』


『へいへい、肩でも足でも腰でも胸でも揉んでやるから』


 さり気なくおっさんは自分の欲望も混ぜた。


『ふふっ。仕方のない契約者殿じゃ。まぁ、任せておけ』


 この田舎の縁日の空気を変えてやるわと、ニヤリと笑い、リムはBGMスキルを使用する。シャララとアラビアンナイト風な音楽がどこからか聞こえてくる。人々は驚き、辺りを見渡すが、音楽が天から聞こえてくるので息を呑む。


 おっさんも驚いた。清らかなる音楽と伝えたはずなのに、妖しさとエロティックな雰囲気の音楽だったからだ。事前と演目を変えやがったな、小悪魔め。


 そのままシャランシャランと装飾品を鳴らして、リムは踊りだす。スイっと水の中を泳ぐように優雅に腕を伸ばして、軽やかに飛翔する。くるりと回転しながら足を高く持ち上げて、倒れる寸前まで胸を張り、ひらひらと羽衣が揺れて、舞い踊る。まさにアラビアンナイトで出て来る踊り子のようだ。田舎の演目の空気は消え失せて、リムの素晴らしい舞台が現れたのだった。


「では、ウルゴス様の奇跡を起こします!」


 ひらひらと舞い踊るリムを見ながら、俺はバッと両手を翳して、奇跡ポイントを使用する。冬衣モードの俺の身体から純白の粒子が広がっていく。優しい光が瓦礫の山を通り過ぎていくと、灰へと変わって消えていき、コンクリート床は消え失せて、地肌が現れて更地と変わっていった。


『奇跡ポイント200万:半径500メートルを更地にする。任意で消せるものは選択可能。神聖力、魔力の込められたものは消去不可』


 人々の荷物やショッピングモールにあった商品は残して、瓦礫を消していく。白き波動が通り過ぎると瓦礫が消えていく不思議な力を見て、人々は静かになる。


 やがて、全てが消え失せて商品の山と人々の荷物だけが残った。視界が通り、団地の姿が目に入る。


「これにてウルゴス神の奇跡を終えます。これ以上の奇跡をお求めの場合、皆さんの祈りが必要となります」


 続きは契約してからねと、セールスマンの様な口ぶりで伝える。祈りではポイントを貯めることはできない。なので祈りは無意味なのだが、人々の活用方法を考えたのだ。なので、ウルゴス像を改造したのだ。


『ウルゴス像:半径500メートル内のウルゴス神に祈る人々からマナを1割徴収する』


 調べたところ、人々の神聖力は平均5。祓い師は最低でも30はある。スエルタなんて200はある。そして人々はマナも持っているのだ。マナを徴収すれば、色々なことに使用できるエネルギーとなるだろう。


 そして……神聖力の高い者ならば武器のエネルギーにも使用できる。これで俺の国は強国になるだろうと、ニヤリと悪そうな笑みを作る。宗教国家となるかもしれないけど、その場合は教義はどうするかね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ※但し小数点以下は切り捨て ……とアース世界なら世知辛いことを言われそう
[気になる点] トニー君の霊圧がきえた?でもまぁウルゴス配下の魔王と言う事実があるから挽回は可能・・・化膿かも知れない [一言] 俺の国・・・・メイン戦力はグフ・・・・銀河万丈ボイスで演説しようw
[一言] 神様だって無償奉仕はしてられんからね。普通の対応なのだ。
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