64話 強敵フェイスレスなのじゃな
フェイスレスは一斉に飛びかかってきた。屋根から、車両を踏み越えて、道路の角から、続々と哄笑をあげてやってくる。
「ひょひょ〜」
「あとー!」
「おあたー」
どこかの世紀末聖帝軍団のように、のっぺらぼうたちはワラワラと攻撃を仕掛けてくる。しかし、チンピラやられ役軍団のような掛け声だが、繰り出される攻撃は鋭く強い。フェイスレスは魔王なのだ。
パンチは鉄板を貫き、キックは大木を折り倒す威力であり、その身体能力は人間の及ぶところではない。
「ウィーンウィーンガショーン」
ウルゴス君のふりをする俺は機械音を口にして立ち向かう。ロボットぽいから、駆動音は必要だよねと、おっさんはアホな考えをして身構える。一応真面目に考えてはいます。
風を貫き繰り出す拳を、俺は掌底を捻るように突き出し掠るように当てて受け流し、勢い余るフェスレスの頭に叩きつけた。
「ぎゃは」
へんてこな声をあげて、フェイスレスの頭が掌底を受けてザクロのように弾け飛ぶ。片足を踏み込ませて身体を半回転させて、蹴りを躱し肘打ちを次のフェイスレスの首に入れる。ボキリと音をたてて、首をへし折られたフェイスレスが倒れ伏すのを尻目にくるりと身体を曲げて、ハイキックを繰り出し、宙から襲いかかる敵の顎に入れる。首が直角に曲がり、力を失いフェイスレスは落ちていく。
「ひょ?」
「怯むな!」
「まだまだいきますよ〜」
余裕の笑みでフェイスレスたちは味方が倒されても気にせずに攻めてくる。
「くっ! これは厄介だな」
『奇跡ポイントを7万取得しました』
『奇跡ポイントを7万取得しました』
『奇跡ポイントを7万取得しました』
これは強いと出雲は顔をニマニマと変えてしまう。強い上に倒されても倒されても攻めてくる厄介な敵だ。ピンチだよね。
『セリフと顔が合っていないのじゃ』
『緊張すると笑っちゃうんだよ俺』
呆れる声音のリムの思念に真面目な声音で返す。ほら、緊張すると半笑いになるタイプいるだろ? そのタイプなんだ、俺。
次々と攻めてくるフェイスレスたちに、カウンターにて掌底を食らわし、蹴りで吹き飛ばす。くるくるとバレエダンサーのように回転して、動きを止めることなく攻撃を続けていく。
「ギャ」
「グッ」
「ゴハッ」
フェイスレスはウルゴス君に触れることもできずに倒されていき、屍を積み重ねていく。竜巻のように身体を回転させて、俺は止まることはない。
出雲の突きは、フェイスレスよりも僅かに遅く、攻撃の威力も弱い。しかし、的確に狙い澄ました攻撃を食らい、一撃でフェイスレスは倒されていく。群がるように襲いかかるが、淡々と作業のように俺は倒していった。
「ふふふ、まだまだ」
「そろそろ疲労を感じてきたのでは?」
「私たちは尽きることがありませんよ?」
『フェイスレスは分裂した!』
『フェイスレスPが現れた!』
『フェイスレスQが現れた!』
『フェイスレスRが現れた!』
余裕の笑みをのっぺらぼうは口を顔に生み出して嗤う。尽きることのないのっぺらぼうたち。全てを捌ききることはできずに、俺はフェイスレスの攻撃を掠らせてしまうが、怯まずに攻撃をして倒す。
身体を浮かせて、命中する軌道にある拳を受け止める。蹴りを防ぎ弾き飛ばす。
『2ダメージ』
『1ダメージ』
『1ダメージ』
『体力が5回復した』
『疲労が5回復した』
持続体力回復によりなんとか積み重なるダメージを耐えながら、魔王は倒さないといけないと正義の大魔王は目をドルマークに変えて戦い続ける。
『助けがいりますかマスター』
必死な様子で戦う俺にレンダの思念が飛んでくるので、かぶりを振って否定する。こいつは強い。レンダでは敵うまい。
『それよりも残りの味方を率いて、都心に攻め入るんだ。敵の魔王はかなり倒した。恐らくは放置されている魔王水晶や地脈があるだろうから回収よろしく』
『しかし、このままではマスターはピンチでは?』
『次は貯まったポイントで神の牧畜区画を作ろうと思うんだ』
『都心への進軍に行ってきます』
『攻め入るんだぜ!』
『牛豚鶏〜』
ポーンを率いて、ガショーンガショーンとレンダたちは走り去っていった。忠誠度マックスの娘たちである。
「こい! この堕ちたる神にして大魔王のウルゴスが貴様を倒す!」
「その痩我慢どこまで持ちますかねぇ!」
ケラケラと笑い、のっぺらぼうたちは砂糖に群がる蟻のようにフェイスレスは終わることなく攻めてくる。もちろん俺は対抗し、命を賭けて戦いを挑むのであった。
リムが符の効果が切れたらすぐに支援を使ってもらい、30分後。
「くっ。やるなフェイスレス!」
986万程、奇跡ポイントを手に入れた俺はフェイスレスへと恐怖を滲ませて告げる。俺の周りには倒したフェイスレスの灰が積り、山のようになっている。
「ななな、なぜだ! どうして倒れない!」
ワナワナと身体を震わせて、たった一人となったフェイスレスは叫ぶ。
「もう俺は限界だ。くっ、ゲルマニウムエネルギーが尽きてきた!」
これはピンチだよねと俺はふらついてしまう。もう軽くつつかれただけで倒されちゃうと思うんだ。
「ふ、ふざけるなぁっ! お前、まったくダメージ負ってないじゃないか!」
「自己修復機能があるからな。しかし、マグネシウムエネルギーがもはや枯渇し始めた。もうあと少しで倒れると思うんだ。お前が100体ぐらいに分裂して襲いかかってくれば、俺は倒されちゃうと思うんだよね」
「一瞬で燃え尽きそうなエネルギーではないですか! ぐぐ………ふざけおってぇ!」
フェイスレスは力を込めると再びスキルを使用して、5体に分裂をする。まだまだいけるらしいと、俺の心に巣食う恐怖が薄れる。やれやれもう限界だと思ったよ。
「うぉぉ!」
「ひょー!」
「ひょひょ」
同時にパンチを繰り出すフェイスレスたちだが、まったく芸がない。クイッと肘を動かしてパンチを弾き、ソバットを首に入れる。タンタンとステップを踏み、連続で掌底を残りのフェイスレスに決めて衝撃波を体内に巡らせて破壊する。
「ひょー!」
タックルをしてくるフェイスレスにカウンターの踵落としを食らわせて4体撃破です。
分裂したフェイスレスたちが倒されて、残る一体は後退る。
「身体能力は私が上! なぜ、なぜ、ここまで力に差が?」
「ピコンピコン。ウルゴス限界活動時間がチカイ」
小さく前習えをして、カクカクウルゴス君の姿を見せる。もう限界だ、本当だよ?
「なぜだ! 自称神などと怪し気なブリキの人形であるのにぃぃ」
「待ってるから。いや、俺を倒すチャンスだぞ?」
オロオロと動揺を隠せないフェイスレス。じっと見ているのに、哄笑をあげて分裂しない。なので、出雲はよろけて膝をつき、ぜぇぜぇと息を荒げてもはや力はまったく残っていない姿を見せてしまう。
「3分間が過ぎてしまう。我の超パワーがそろそろ尽きてしまう」
30分近く戦っていたように見えるが、それはアニメとかによくある異次元時間なんだよ。爆発まであと30秒しかないと言いながらBパートを丸々使う感じ。たぶんそう。きっとそう。そう思ってくれないかなと、フェイスレスを見る。
しかしフェイスレスは分裂しなかった。
「ちっ。貴様もはや限界か? ならば見逃そう。我は神。魔王にも慈悲を見せるのだ。回復したら再びかかってくるが良い。敗北イベントだったと思え」
見逃すから回復したら絶対に再戦しようぜと、神の慈悲を俺は見せるが
「もはやわたくしのマナは尽きた! 魔王水晶のマナを限界まで使ってしまった。分裂するのは不可能だ!」
「なぬ! お前、魔王水晶からマナを流用してたのかよ!」
「当たり前だ! 魔王は魔王水晶から力を使うに決まっているでしょうが!」
怒声を放つフェイスレス。ガーン、そういや魔王ってそんな存在だった……。うぬぅ。
『どうりで逃げないはずだ。もう後がなかったのか、こいつ』
『うむ。魔王水晶の力を限界以上に使用したから、もはや出雲を倒すしかなかったのじゃろうな。そなたを倒して新たなる魔王水晶を求めるしかなくなったのじゃろ』
『くっ、パチンコで生活費にまで手を付けたってやつか。そういうのをやるやつは大体破滅するんだぞ。俺は5倍位に増やしたけど』
『お主、生活費をぶっこんだことがあるのか』
数回だけなと答えて、嘆息する。もうこいつはカラッ欠なのね。納得。
「もういいや。それじゃフェイスレスよ。最後に言い残すことはあるか?」
「ぐぬぬ。なぜお前は私より強い? 内包した力は私よりも弱い。それなのに私たちを大した苦労もなく倒した。なぜですかぁ?」
やる気なくなったよ。そんなうまい話はなかったか。そりゃそうか。無から有は生まれるわけはない。ポイントやマナを使用して物も生み出しているし。
手をひらひらと振って、怒気を纏って怒鳴るフェイスレスを冷淡な目で見据える。怒っているように見えて、恐怖の色が見えているな。
「我と貴様たちでは大きな違いがある。これまでの戦闘でわかった」
「何をですかぁ?」
攻撃する様子を見せずに、フェイスレスは尋ねる。極めて怪しい。他の魔王に情報を伝えようとしているようにしか見えない。
「我が神にして大魔王というところだ。貴様らに対して特攻能力を持っている」
「な、そ、そういうわけですかぁぁ!」
嘘です。本当はスキルの違いだ。魔王はゲームで言うデフォルト能力しか持たない。身体能力を上げて、新たなるスキルを敵が手に入れても同じだろう。敵は自身由来のスキルしか手に入らないと推測する。
「かかってこい。もはや貴様は終わりだ」
「くけぇー!」
怪鳥のような奇声をあげて、突撃してくる。突風を巻き起こし、膨大なる魔力を周囲に放ち、拳を繰り出したと思ったら、俺の眼前にくる。
速い。たしかに速い。
だがそれだけだ。
俺も右足を地面に踏み込み、身体を捻る。足から腰へ、腰から腕へ、腕から拳に力が伝わり、迫るフェイスレスの拳に自身の拳をあわせるように突き出す。
お互いの拳がぶつかり合う。本来はフェイスレスの方が筋力が高い。だが、フェイスレスはそれだけだ。
拳に鈍痛が走るが、俺は拳にインパクトの瞬間に神聖力を集めていた。そして身体全体を使い拳を繰り出した。
「グギャァ〜!」
ぶつかり合った拳は、フェイスレスの拳が砕けて、その腕を潰して砕く。砕けた腕は灰へと変わり、フェイスレスは絶叫をあげる。
これが俺と他の魔王の違いだ。フェイスレスはたしかに身体能力は高い。しかし、そのパンチは腕の力だけでテレフォンパンチ。俺の身体全体の力を乗せたパンチとは違う。弱すぎる。フェイスレスと力において格差があるとはいえ、それは僅かな違い。
俺の体術はスキルレベル4。1が一人前、2が達人、3が天才としたら4は人外となる。そう簡単に単純に枠を分けられないが、だいたいのイメージとしたらこんなものだ。
体術も持たない筋力馬鹿に負けるなどあり得ない。
スキル。俺たちは様々なスキルを手にしている。それが魔王との違いだ。だから人型であり、同等か少しだけ格上の敵と戦って負けることはない。
『爆裂拳』
マナを集めて、拳に乗せる。拳が爆発したかのように加速して、フェイスレスの胴体に命中する。風船のようにパンと破裂して、フェイスレスはあっさりと灰へと変わるのであった。
『魔王水晶を回収するより良かったかな?』
『わからぬ。まぁ、魔王水晶を回収すれば良いじゃろ』
もう分裂する魔王はサクッと倒しておこうっと。
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