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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
2章 地盤固め

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52話 新たなる魔王軍なのじゃ

 屋根の上に隠れ潜んでいた者は、べたりべたりと足音を鳴らして、屋根の上に立ち、天華たちの前にその姿を現した。それは四肢を持つ人型の異形であった。

 

 骨と皮だけで作られたような細い手足、皮膚はどす黒い赤で不吉な色であり、その顔は瞼が無く、目玉がギョロリと動き、口も尖っていて、とさかを生やしているトカゲと人間の合の子のような顔立ちだ。その口からどれほどの長さかは不明だが、ぬらりとした細長い舌を伸ばしている。ひと目で分かる。目の前の異形は悪魔だ。


「ケケケケ、強い祓い師は間引くように言われたが、まさかこぉんな所でつぇえ祓い師がいるとはねぇ。おらはラッキーだぜぇい」


 悪魔はチンピラのような言葉を吐いて、身体を持ち上げて2本足で立つとせせら笑う。


「悪魔。その姿は天井舐めですね?」


 天華はその姿を見て、すぐにその正体を看破した。有名すぎる妖怪『天井舐め』。夜半に天井に貼り付き、天井を舐めると言う妖怪だ。天井の染みは天井舐めが舐めた跡だと昔は言われていた。


「そのとおぉぉりいぃ。おらは魔王連合『唐傘』の魔王が一人。天井舐めの舌禍ぜっか! 暗殺部門の魔王よ!」


「魔王? 魔王なのですか?」


 意外な敵の言葉に驚き、天華は目を険しく変えて、全身に神聖力を満たす。鞭のような舌をびたんびたんと屋根に叩きつけて、舌禍は嘲笑う。


「そのとおぉぉりいぃ。おらは魔王よ! 誰にも気づかれずに相手を殺すことにはかけては追随を許さねぇぇ」


 調子に乗って、ポージングをとる舌禍。痩せているのではなく、元から肉がないように見える針金のような肉体なので迫力はない。


 だが、舌禍はその身体に昏き色の強力な魔力を纏わせており、周囲へと放つ。家屋が急速に朽ちていき、コンクリートがパラパラと粉へと変わっていく。強力な魔力から生じる瘴気による影響だ。


「わりぃなぁ、護衛していた人間を殺しちまってよぉ。一人で守っているからだぜぃ? こんなふぅにぃぃ」


 舌禍を気にせずに段ボール箱を運ぶリムへと舌禍は舌を突き出す。視認も難しい矢のような速さで放たれた舌は、20メートルは離れているリムへと伸びていき、トテトテと無防備に歩いていたリムはあっさりと胸を貫かれて倒されてしまった。


「ほらぁ、間に合わなかっただろ? 残念無念、やはり一人じゃ無理だったんだよぉ。ヒーローさん? いや、ヒロイン? 現実はこんなもんだぜぃ」


 今の一撃はたしかに私では守れなかったと、殺された少女を見て天華は冷や汗をかく。舌であるのに、矢のような速さだ。その一撃は自身へと向けられたら、なんとか躱すことができるだろうが、一般人を守ることなどできるわけがない。


「たしかに魔王の力というだけはありますね、天井舐め。しかし天井舐めが魔王?」


 恐ろしさを感じない妖怪なのに、なぜに魔王なのか理解に苦しみますと天華は疑問で小首をコテンと倒す。


「だろうなぁ。おらもそう思うぜぃ。それよりも護衛対象が死んじまったぜ? 良いのか?」


「護衛対象? あぁ、護衛対象ですか」


 舌禍に胸を貫かれて倒れているリムと御国父。胸に大きく穴を空けられて、絶命しているとひと目で分かる姿だ。だが天華は気にすることはなかった。なぜならば護衛対象ではないからだ。


「こんな所で無防備に運ぶ人間がいるわけないでしょう。魔王と言うにはアホなんですね」


「なにっ? な、なんだ?」


 倒れている2人を見て、舌禍は目玉をギョロリと動かし驚く。舌禍が見ている中で、殺したはずの2人の姿がボヤケていき、消えていったからだった。


「これはなんじゃ? どういうこったぁ?」


 完全にその姿が消えた後には、2枚の破れた符が残っており、風に吹かれて飛んでいった。


「『紙兵』の符術じゃ。そんなことにも気づかないとは、所詮は雑魚妖怪と言ったどころじゃの。力を得ていい気になっているようじゃが、地は変わらないのかの」


 2トントラックのドアが開くと、褐色肌の悪戯好きそうな少女が降り立つ。口から小さな牙を剥いて、胸を揺らして、余裕の態度で現れ、手に持つ符をひらひらと揺らす。


「紙兵? なんじゃそれ?」


 舌禍はよく分からないのか頭を傾げる。その様子にリムは鼻で笑うと、トラックのドアを閉める。閉める寸前に御国父が符を持っているのが見えた。


「紙兵とは、符で作る式神よ。近距離であればあるほど、命令の符を持つ者は精密な動きをさせることができるのじゃ。先程までの妾たちは紙だったというわけじゃな」


 リムと御国父はトラックの中で、紙兵を操作していたのだ。これならば危険は少ない。


「卑怯! 卑怯じゃねぇべか? おらは祓い師の悔しがる顔を見たくて、祓い師へ攻撃するんじゃなく、わざわざおめえらを攻撃したんだぞ?」


 顔を怒りで歪めて、舌禍は騙されたことに憤る。天華はなぜ自分が最初に攻撃されなかったのかを理解し、悪魔の性格は腐っていると冷たい視線を舌禍へと向ける。


 リムはやれやれと肩をすくめて、呆れた表情で舌禍を見つめると、ふむと頷き顎に手を当てる。


「なるほどなのじゃ。厄災による雑魚悪魔たちの能力アップはこのような弊害も起こしたのじゃな」


「どういうことですか、櫛灘さん?」

 

 リムが天華の横と移動すると、侍少女は不思議そうに尋ねてくるので、人差し指を振って教えてやる。


「厄災により雑魚の魔道具は悪魔と化した。天井舐めもその一人じゃろうて。昨今、妖怪の存在は薄れて消えていくとアニメや小説などでたまに言われるじゃろ?」


「そうですね。私も多少漫画を嗜んでいますが、そういうストーリーって、昔からありますよね」


 ウンウンと天華は頷く。科学全盛時代。妖怪などの存在は信じられずに、オカルトな力をどんどん弱めて消えていくといった話は多い。


「あれ、嘘じゃ。実際は違う。世にどれだけの妖怪漫画、アニメ、小説などがあると思う? 昔と違いその情報も多くの人々に知られている。たしかに心の底から信じる者は少なくなったかもしれないが、その分、いれば良いのにという薄い信仰心を持つ者は比べ物にならないほど多くなった。分母の桁が変わったのじゃよ」


「そういうことですか! 100人の昏き思念よりも、1万人の弱き信仰心の方が大きくなったというわけですね」


 ピンときた天華は櫛灘の言うことに納得した。たしかに今は情報は全世界に行き渡る。数十億の人口だ。多くの人々が妖怪の名を知っている。その数は江戸時代の日本とは比べ物にならない。


「そのとおりじゃ。なので、天井舐めなどは妖怪となり、今回の厄災で遂に魔王となるほどに力を得たのじゃろう。だが、問題があったのじゃ。そうじゃろ天井舐めよ? さり気なく魔王である理由を言わなかったじゃろ、こやつ」


 悪戯な笑みで、からかう口調で見つめてくる小悪魔少女に、舌禍はギクリと身体を震わす。聞かれたくなかったことをこの少女は聞いてくると悟ったのだ。


「天井舐めは有名じゃ。妖怪の中でも有名すぎて、多くの人々が知っている。有名だからこそ、形を作り、妖怪となり、魔王へと至った。しかし、天井舐めは有名であるが、攻撃力が無いのは誰でも知っとる。だから魔王連合『唐傘』などと、支配ではなく連合を組んだのじゃろうて。どうせ、唐傘お化けや付喪神といった有名ではあるが攻撃力もない、しかしだからこそ魔王になってしまった奴らと組んだのじゃろ?」


「うぐぐ………おらたちの秘密をあっさりと見抜くとは、おめえは何者だべ?」


 まさか初めて出会った相手に見抜かれるとは予想だによらず、舌禍は怯む。見かけはただの少女だが、その瞳に底知れぬ力を感じて動揺を露わにしてしまう。


「そういうことですか。たしかに私の想像する天井舐めもそうですね。天井を舐めている変態としかイメージは湧きません」


 容赦のない言葉を天華は口にする。天井舐めは天井に貼り付き、ペタペタと天井を長い舌で舐める。それが一般に想像する姿だ。攻撃力があるなどとは欠片も思えない。


「じゃろ? だが、魔王となるほどにパワーアップをしたから、他の魔王に狙われないように、身を守るためにも連合を組んだのじゃろうて。情けない魔王じゃ。魔王ならば支配しろ、支配を。それに田舎者の素が覗いているぞ? 先程のチンピラ風な口調はどこへいったのじゃ?」


 ヘッと笑い、鼻を鳴らして馬鹿にする様子を見せるリム。どちらが魔王か分からないの悪辣な褐色小悪魔である。


 ぷるぷると舌禍は悔しさと恥ずかしさで身体を震わす。図星だったのだ。だが、息を吐くと気を取り直して、顔を醜悪に歪めて、手の中から小さな黒き水晶を取り出す。


「たしかにそのとおりだぁ、おらは急に力をつけて魔王と化した天井舐め。元は鬼瓦だぁ。だが、そんなおらが暗殺できるほどの力を手に入れたことを不思議に思わないべか?」


「む? たしかにあの舌の一撃は天井舐めの攻撃力とは思えません」


 怪訝に思う天華、そういえばそうじゃのとリムも首を傾げる。天井舐めの舌は柔らかく、人間の胸を貫く程、攻撃力は高くない。


「だべ? そうだべ? しかし、おらたち『唐傘』は、研究の元にこんなもんを作り上げたんだべ」


 もはや最初のチンピラ口調は欠片もなく、舌禍は手に持つ漆黒の水晶を掲げる。


「これは魔王たるおらたちがお互いの魔力を融通して、混合して慎重に作り上げた水晶。量産型魔王水晶『混沌』。この力を取り入れることにより、おらたちは強大な力を得ることに成功しただべ!」


 手にする量産型魔王水晶『混沌』をパリンと舌禍は割る。水晶から何体もの魔王の力を合わせただからだろう。純粋な黒き魔力ではなく、紫色の不気味に蠢く魔力が舌禍の身体を覆っていく。


 舌禍の皮と骨だけの身体が魔力を吸収して膨れ上がっていく。肉が生まれたのか、はちきれんばかりの筋肉の身体へと変貌し、その手足は伸びて、短剣のように長い爪が生えて、天井舐めの舌は柔軟性を持ちながらも皮膚が金属のような光沢を光らせる。


 2メートルもなかった背丈の天井舐めは、今やはちきれんばかりの筋肉の鎧に覆われて、太い血管がその皮膚に這い回る不気味な悪魔へと姿を変えた。


「見たか? この『混沌』の力を! おらのような攻撃力のない者も、パワーアップすることに成功したんだべ。この姿こそが、魔王たるおらの姿。死をもたらす舌禍よ!」


「愚かなのじゃ。そのようなことをすればアイデンティティが無くなり、天井舐めとしての存在がなくなるぞ? 単なる外道スライムに変わるだけじゃ」


「そんなことは研究当初にわかっているべ。失敗作をたくさん作ったからな。だから普段はほんのわずかを吸収して影響がでないように最小限にしているべさ。使うのは強敵相手だけだべ!」


 リムの言葉に、舌禍は既にわかっていると嗤うと、魔力を籠めた腕を振るう。


「きたれ、おらの眷族よ!」


『眷族召喚』


 その力ある言葉に反応し、リムたちを囲むように周囲に漆黒の渦が生まれる。そうして、ひたりひたりと足音をたてて、数十体の天井舐めが這い出てくる。その瞳には感情は無く、機械のようだ。


「どうもおめえは危ない感じがするべさ。なので、全力で相手をしてやるべ、この魔王舌禍様がよぅ!」


「なんと、妾の力を感じ取るとは、お主には才能があったかもしれぬが残念じゃ」


 ニヤニヤと嗤い、元悪魔王は符を翳す。バチリと火花が符から放たれて、神聖力がその身体から吹き出す。


「妾が相手をしてやろうぞ、舌禍よ」


 そうして、リムと天華は魔王舌禍との戦闘を開始するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、符術師っぽい! ちゃんとやり過ぎない程度に活躍できるかな? [気になる点] 一方その頃、正義感あふれる青年トニーは……雑魚狩りのつもりでピンチに陥ってないと良いけど……
[一言] 外道スライムで草。リッチ(くそっざこ頭蓋骨)でもいいのよ?
[一言] どーも魔王言うとちっぱいハーレム魔王さきもりしゃんが出てくるんだよな、天井舐め・・・・トニー君より雑魚っぽい
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