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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
2章 地盤固め

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50話 食べ物が欲しいのじゃ

 援軍がどこから来るのか? 順当な所だと、習志野、市ヶ谷か? 俺は自衛隊マニアじゃないから基地がどこにあるのかなんて知らないのだ。ネットで調べれば出てくるだろうけど、そのネットが今は止まっているからなぁ。練馬かな? 


「陸上自衛隊基地はどこにあるのでしょうか?」


「東京だけでもたくさんある。たしか10箇所以上」


 困ったおっさんに、あっさりとスエルタは答えてくれた。この子は頭が良さそうな感じがするな。俺がスエルタを見つめる中で、話を続けてくれる。


「………でも、今まで音信不通だった。全滅したと思われていた。だから、私たちは孤立無援の状態ではと危惧していた」


 スエルタは天華と顔を見合わせて頷き合う。自衛隊員は皆避難してきた悪魔に負けた者たちばかりだった。なので、援軍が来るとは誰も思っていなかったのだとのこと。


 ふむと、コツコツと指でテーブルを叩く。この場合、何種類か予想される状況があるな。


 最近、アホな悪魔たちに囲まれて、アホになるかもしれなかったおっさんは真面目に考えると、人差し指を立てて、推測を話す。


「ならば、今回は数パターンある。一つ目、本当に自衛隊は残っており、単に通信不通だった」


 中指を立てる。


「二つ目、軍としての体裁を保てないほどに少ない。即ち嘘をついている」


 薬指を立てる。


「三つ目。独裁政権を作ろうと密かに活動していた」


 ウンウンと周りが頷く中で、もっとも嫌な予測を口にする。当たっては欲しくない予測だ。


「四つ目は、悪魔と組んで活動し始めた。考えたくはないですが」


「その可能性が一番大きいと妾は思うぞ」


 リムがニヘラと笑いながら、四つ目を支持してくる。そうなんだよなぁ、俺もそう思うんだよ。この状況で悪魔と組む。ありそうな話じゃないかね?


 同意して俺は苦笑を浮かべるが、納得のいかない娘がいた。正義感に溢れた侍少女だ。


「そんなことがあるわけありません! 悪魔は人を苦しめて殺します。組むなどと選択肢にもならないでしょう」


「それは厄災前の話じゃな。そなたは前提が大きく変わったことを知らないのじゃ」


 ゾッとするような冷たい瞳を天華に向けて、リムは薄く笑う。その極寒の威圧感に天華は気圧されて、スエルタは目を細める。リムはその様子を見て牙を僅かに剥いて語り始めた。


「厄災前は時折一匹の悪魔が出てきて、大騒ぎじゃったよな? なので、悪魔はこの世界で魔力を喰い身体を維持し、そして楽しむためには、人を殺すのが一番じゃった。死の恐怖というのは、一番魔力が生み出されやすい。うかうかしていると祓い師に討伐されるしの」


「………そう………理解した。今はこの世界は魔力に満ち溢れて維持するために焦らなくても良くなった。しかも天敵の祓い師よりも数は増えたから、討伐されることもない。ゆっくりと人を苦しめて魔力を搾り取るというわけ?」


 頭の回転の早いスエルタは、リムの言うことをすぐに理解した。天華は眉を顰めてコテンと首を傾げてしまうが。


「それならば、やはり人と組むことなどあり得ないのではないですか? 人を苦しめて魔力を回収するのであれば」


「うしし、わかってないっすね〜。人が一番負の感情を生み出すのは、人と人との営みの中っすよ。悪魔のような人外から恐怖で支配されても諦めが生まれるっすが、人間同士で暮らしに格差ができればどうなるっすか? 以前の世界の格差なんて話にならないぐらいにっすよ? 物凄い負の感情が生まれると思うっす。悪魔よりも残酷に悪魔のようなことをするのが人間っすからね」


 口をブカブカの裾で押さえながら、茜は人間の愚かさ、残酷さを嘲笑う。そのとおりだ。人間は同じ人間へとどこまでも残酷なことをできる。腹を空かせた子供の前で贅沢な食べ物を食べる聖帝さんとか。あれは、漫画だっけ? 漫画を現実に落とし込んじゃうが、現実でも同じことはあるだろうよ。特に世界が崩壊した今となっては人権団体とかいないしな。


「くっ………そういうわけですか。人の上に人を作る。悪魔はその中で時折人間を苦しめれば良いというわけですね」


 善人であれど、天華もその言葉に反論はしなかった。人間はそんなことをしないと、悪魔と組む者などいないなどと青臭いことを口にするほど、理想主義者ではなかったらしい。


「………冬衣の予想が当たっている場合、泥沼議員たちもその話に密かに乗っているかもしれない。とすると、祓い師は危険」


「たしかにそのとおりです! 私は避難所に戻り、皆に警告をしてきます!」


 直結思考なのか、気の早い娘なのだろう。早くも立ち上がり避難所へと向かおうとする。だが、スエルタがその肩を抑えて、目を細めて制止をかけた。


「………それは止めておいたほうが良い。きっと泥沼議員の配下が門番に紛れ込んでいるはず。もしも最悪の推測だとしたら、ゾンビと間違われて射殺されてもおかしくない」


 祓い師は悪魔たちに対抗できるが、銃相手には無力だ。たった一発の銃弾で殺される可能性がある。天華は口を開けては閉めて、開けては閉めてを繰り返したが、何も言わなかった。そんなことはありませんよと言いたかったんだろうなぁ。


「まぁ、待て待て。伝える方法は一つではないじゃろ? 妾が手伝ってやろうぞ」


 ピッと符を取り出して、珍しくリムが手伝うと口にする。符を見て、スエルタは僅かに怪訝な表情になるが何も言わず、天華は瞳を輝かす。


「符術ということは式神ですね。貴女も紫煙のように、いえ、符術使いなのですね?」


「うむ。少し待っておれ」


 リムは得意げに符をおりおりと織り始める。何をするんだと思っていたら、紙くずへと変えた。


「うむ。もう少し待っておれ」


 新しい符を取り出して、おりおりと織り始める。一回折って、二回目は折り返して、3回目でまたもや紙くずが創造された。くしゃくしゃで紙くずにしか見えません。妥協して毛玉かな? だから織るであっているよね。


「うむむ。し、しばらく待って」


「待て待て。わかった、わかったよ。なにを織れば良い訳? コホン。妻よ、なにを折れば良いのですか?」


 懲りずに新しい紙くずを生み出そうとするダストクリエイターの手を止める。リムは不器用なわけ? スエルタたちの見つめる目が痛いです。


「鳥じゃ。だが、妾は折ったことがないのじゃ。旦那様は折り方知っているかの?」


「知らないで折ってたのかよ。漫画とかでたまに見るあれですか。どうやって折っているのかさっぱりわからないやつですね」


 口元をきゅっと結んで、うるうるとした瞳で俺をリムは見上げてくる。できないなら最初からやるなよと言いたいが、見せ場だったんだよな。わかるわかるぞ。きっと、何でもない風を装って軽く作った鳥を渡すつもりだったんだろう。そういや、こいつ符にひらがなでほのおとか書いてたな……。


 この褐色少女は時折へっぽこで可愛いよなと、頭を撫でて慰めながら、その手に挟む符を受け取ると


「茜、よろしく」


「了解っす」


 自分も折れないので、おっさんは仲魔に任すことにした。できないことはできる奴に任すのが社会人の生きるコツなのだ。俺も鳥の形には折れません。


 ニコニコと笑みを浮かべて茜は受け取ると、あっさりと鳥の形に折る。早すぎて、どうやって折っているのかわからんかった。折り紙で色々な物を折れる人って、なんかわからんけどリスペクトしちゃうよね。


 何個か鳥の折り紙を茜は折って、ドヤ顔でリムに渡す。ムキィとリムが褐色肌を赤くして悔しそうにするが、それでもマナを込めると天華へと手渡す。


「祓い師は小賢しい術を使うじゃろ? 正面からの銃弾には弱くとも、わざわざ正面から戦う必要もあるまいて。使い方はわかるじゃろ?」


「おぉ、ありがとうございます、櫛灘さん。これがあれば伝達できます」


 込められた神聖力に目を見張り、天華は深々と頷くとそのままスエルタへと手渡す。んん?


「スエルタ、任せました。私はこういうのは苦手なので」


「ん。スエルタに任せる。シュウたちと連絡を取り合っておく」


 清々しいほどに他力本願の侍少女だった。自身の行動を微塵も疑問には思っていない模様。脳筋なんだな、この娘。しかも自覚のある脳筋だ。まぁ、自覚がある分マシなのかね。


「では、なにか動きがあったら考えるということで。で、次は食糧なのです。恥ずかしながら、カップラーメンなどしかありません。ウルゴス様は食糧を生み出すのが苦手なようなので、ようやく種籾を一粒下賜されたのですよ」


「なるほど。だから先程増やしていたんですね。そうなると困りましたね……」


「む。だけど妹にはあまり無理をさせられない」


 正直に食べ物ないよと伝えると、スエルタ、天華や御国父が困り顔になり、


「……あの、農協で種や苗を持ってくれば?」


「え?」


 御国母が不思議そうに聞いてくる。え?


「この土地は不思議な種しか育たないのでしょうか?」


「いえ、マナの最大値を増やす種はありませんが、たしかにそのとおりです。盲点でした。全てをウルゴス様に頼らなくてはと考えていたのです」


 もっというと奇跡さんに頼り切っていた。なるほど、パンがなければ、小麦を育てる苗を農協から買ってくれば良いのか。


 おぉ、と皆で御国母を褒め称えて、ぱちぱちと拍手する。御国母はこの人たちは少し抜けているかもと、そこはかとなく不安に思ったが、混乱した状況ですしと、とりあえずは流すことに決めた。何しろ自分の常識外の力を使うアニメから抜け出てきたような人たちなのだから。


「では、農協に………ここらへんって農協あるのでしょうか? 地図で調べますか」


「そうですね。僕も手伝いますよ。苗などを持ってくればいいんですよね? 大型免許持ってます。どこかでトラックを拾いましょう」


「助かります。では、櫛灘が護衛につきましょう。これでも符術は凄腕です。私はウルゴス神に新たなる農地を頂けるように祈ります」


「私も行きましょう。これでも祓い師です。ゾンビなどには負けません」


「スエルタは妹が心配。ついている」


「うしし。あたしはちょっとやることがあるので」


 御国母は洗濯などがあるし、玉藻ちゃんについていたいとのこと。了解ですと頷き、皆は行動を開始する。


『不謹慎だが、なんだかサバイバル感が出てきてワクワクしてきたよ。そう思わないか?』


『台風が来る前の準備とか非日常感があるからじゃろ。しかしようやく拠点作りができるの』


『米と野菜が欲しいから、どの程度で野菜が育つか、明日は検証だな』


 リムと思念のやり取りをしながら、奇跡ポイントを確認する。残りは30万。農地区画を2個作ろうかな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人材があると柔軟性が出ていいですね [気になる点] まさか魔王達の事知っていてあんなことを? こんな状況で悪魔と組むって正気か? うーん正に泥沼 [一言] 避難所思ったより早く持たなくなる…
[良い点] 言われてみれば確かにポストアポカリプスとはいえ、現代が舞台なら農協あるはずですし、野菜増やすにはベストな選択ですわな [一言] 主人公夫妻共に鳥折れなくてワロタ まぁ普通知らんよね 鶴なら…
[一言] 農協がなければ、最悪スーパーから家庭菜園用のF1種を掻っ払ってきてそこから固定種に変える奇跡とか種のレベルを上げる奇跡使えばよいですものね。
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