42話 これで国造りの準備はできたのじゃ
人形とルビーを前に出雲は新たなる悪魔を創造することにした。
「べんもらー、なんとらー。忘れたのです? 下僕、呪文を教えるのです?」
「たしかベンチャーラーアドベンチャーじゃなかったかと」
両手を掲げて、小柄な身体をフリフリと可愛く振るハクと、その横で太鼓を持つトニーがアホな漫才をしており、
「ずんちゃっちゃー、ずんちゃっちゃー」
エアオルガンを機嫌よくリムがかき鳴らしていた。正直、カオスな光景である。うーむ。俺の部下は知力1ばかりか。
おかしい。俺の部下なら強力で知性溢れる奴らばかりだと思っていたんだが。もしかして、もしかしなくても、悪魔を素材にしているからだろうか。
「はいほーらりほー」
「それだとヌリカべじゃなくて雪だるまになりますよ」
飽きたのか、新たな呪文を口にして、ちっこいおててを元気よく振って踊る幼女にトニーがツッコミを入れる。とりあえずはあの三人は無視しておこう。
手を翳して、マナを籠めるとルビーを嵌め込んだ人形に『受肉』を使用する。
「現れいでよ。勤勉の天使にして怠惰たる悪魔、人方茜よ」
その言葉を合図として、人形が光に包まれる。いつもと同じように、光の球体となり鼓動すると、一際輝き、人型として現れた。
「うしし。茜っす! 今後とも末永くよろしくっすよ、ご主人様」
軽薄な口調で現れたのは、ピンク色の髪の毛を肩で切り揃え、その顔立ちは多少おっとりとしたピンク色の瞳に艷やかな桜色の唇、可愛らしい顔立ちの美少女だった。背丈は150センチほどで、胸は平均より少し大きく、服はブカブカで手が裾で隠れて指先だけがちょこんと出ており、スカート姿である。その姿を見た者は可愛さからマスコットみたいに愛でたいと思うだろう。
人方茜
毎月の維持費:17万8300ポイント
体力:200
マナ:300
筋力:10
器用:300
敏捷:10
精神:10
神聖力:300
固有スキル:勤勉(量産品を作る際に一つ作れば最大で100まで増やせる)、怠惰(マナを使わなければ、最大量の3倍まで貯める)、人形操作、人形作成、疑似魂作成
スキル:体術1、彫刻術3
総計1783万ポイントかかった。これで、手持ちのポイントは660万程度だ。茜の良いところは、クラフト系の構成が最高なところだろう。ハクが施設専用だとしたら、細かいアイテムクラフト専用が茜といったところだ。人形作成も固有スキルなのでレベルを上げる必要もないようなので、グッドである。
「あれぇ、ボス? 僕のポイントだけ、やけに低いように思えるんですが?」
「総合で言ったら、トニーが上だろ。お前は薬を使用するのが前提だしな」
「う〜ん……たしかに。いや、騙されているような……あ〜、でもこの特化じゃ戦闘で使いにくいですもんね」
茜のポイントを聞いて、疑問を覚えるトニーだが、全体的に見るとトニーの方が使いやすそうなので、僕のポイントが少ないですよとは文句を言いにくそうである。トニーはスキル構成的に、戦士としてなかなか良いからな。ポイントが節約できるんだよ。
「あたしは兵力を揃えることを目的に、ご主人様に創られたたっすからね。これからよろしくっす、トニーさん」
「あ、どうもトニーです。よろしく」
茜が胸を強調するように腕を組んで、愛嬌のある笑みで挨拶すると、トニーは意外にもあっさりとした返答で終わらせた。もてたいトニーなのに珍しいな?
「のう。なんで茜に良い顔をせんのじゃ?」
リムも疑問に思ったのだろう。トニーへと尋ねると
「ピンク髪であざと可愛らしい女ってビッチじゃないですか。僕としてはビッチは遠慮したいんです。ゴホォ」
「死ねっす」
素直な返答をして、怒りの蹴りを茜から喰らった。
「どうして最近はピンク髪だとビッチとか言われるんすか? 納得いかないっす。昔は人間を使い魔にした魔法使いの女の子はピンク髪だったっすよね。最近は不運な男の子を守る一途な彼女もピンク髪じゃないっすか」
ゲシゲシと倒れたトニーを怒りの表情で容赦なく蹴る茜。うん、トニーが悪いな。俺はピンク髪好きだよ。なんでビッチとか言われ始めたのか、さっぱりわからないんだよね。あれはなんでなんだろう。
「というか、青髪もピンク髪も現実ではありえませんよ! いったいどうするんですか、ボス? って、蹴るのやめろってこら!」
蹴られても痛みを感じない最硬のトニーは俺へとハクと茜のことを聞いてくる。たしかに少しだけ髪の色が現実離れしているな。
「まぁ、良いんじゃないか? 可愛いは正義だし。それに現実離れした髪の色だが、コスプレみたいに蛍光色の不自然さではなくて、滑らかな感じの自然な色合いに見えるしね」
全て可愛いで解決するおっさんだった。可愛らしければ良いと思うんだ。だから大丈夫と、おっさんは楽観視した。
「さすがはご主人様! 一生ついていくっす!」
「あたちもついていくです?」
茜が喜びで感極まった表情で抱きついてきて、ハクは茜の太ももにしがみついた。年頃の少女に抱きつかれるのは少しだけ照れてしまう。嬉しいけどね。
「そういうの主人公補正というんですよ、ボス! ずるい、僕にも早くお姉さん系天使を用意してくださいよ!」
言動で嫌われることに気づかないトニー。言葉を吐くごとに茜の好感度が下がっている予感。まぁ、トニーは無双してモテるつもりらしいから良いだろう。
「次に大量にポイントが手に入ったら召喚系統も取得を考えている。お前の眷属専用とかな」
「天使にして餓鬼ですか。うへへ、天使は僕は転生5は認めていませんから。僕は目隠ししている天使にしますよ、絶対に」
早くも妄想して鼻の下を伸ばすトニーは放置して、くっついている茜を離すと、ハクにも顔を向けて真面目な顔で問いかける。そろそろ真剣に考える時だ。俺の真剣な表情に雰囲気が変わったことを感じて、茜は人形のような無感情の表情で正座し、ハクは茜の膝の上に乗って、儚げな笑みでこちらを見てくる。
「さて、クラフトするにあたり、欲しい物か必要な物はあるか?」
「あたちは思考を反映する魔法の設計図が欲しいのです? 集中して建物を建てるのも限界があるので、簡単に使える設計図が欲しいのですよ」
「なるほどな、奇跡にて交換。思念反映型神聖設計図を出してくれ」
もっともな話だ。思念を反映する設計図など、便利極まりないし、必須なことがわかる。アホに見えたが、頭は悪くなかったか。
『交換ポイント100万:神鏡設計図。思念を反映する設計図。何度も使える』
キラキラと俺の手元が神々しく光ると、手のひらサイズの半透明の水晶板が現れる。宙に浮いているそれを手に取り、ハクへと手渡す。
ハクは水晶板を手に持ち、裏返したり、軽くつつくと、理解したのかコクリと頷く。
「わかったのです? 思念を送るとこうなるのです」
水晶板に手のひらを添えて、穏やかな笑みを浮かべ思念を送る。水晶板は光を放ち、俺達の前に立体型のホログラムを映し出した。庭には噴水に刈り込まれた庭園、城は意匠が彫り込まれて、かなり精緻に作り込まれている白亜の城だ。ウルゴス君の城らしい。俺が作り上げた物よりも遥かに立派だ。さすがは建物専門のヌリカベなだけはある。
「これはアップすることもできるし、通路だけを取り出すなど、1部分だけを取り出すことも可能なのです? これを元に建物を建設するのですよ」
「了解だ。次は茜だ。人形の兵士を作るのには何が欲しい?」
「工具っすね。大きさや形をある程度変形できるのがあればバッチリっす。それと人形の素材っすね」
ニヒヒと笑い、ハクの髪の毛を撫でながら茜が望みを口にする。
「よし、良いだろう」
『交換ポイント100万:神聖工具。12本の工具。メンテナンスフリーで、ある程度の大きさや形状を変形可能』
先ほどと同じように奇跡を使うと、純白の粒子が俺の手のひらから生まれて、ハンマーやノミ、彫刻刀など、合わせて12本の様々な水晶製の工具へと形を変えた。それを茜へと手渡す。
ひんやりとした感触を受けて、おぉと茜は一度も使っていないにもかかわらず、手のひらに馴染む工具に感動し目をキラキラと輝かす。
「これならバッチリっすね。あとは素材っす」
「それはあたちに任せてくださいです? 大地術とあたちの空間創造スキルを使えば、こんなふうに力ある物を作り出せるのです」
茜の膝に座っていたハクが紅葉のような小さなおててを翳す。俺と同じように純白の粒子が生み出されて、形作る。俺たちの前にドスンと音を立てて、3メートルはある長方形の純白の壁がプルンと震えて現れる。
「これは神聖鉄なのですよ。込められた神聖力は40ほど。グール程度ならこの鉄で叩き潰せるのです」
「それにしては、柔らかいようすっけど?」
茜が神聖鉄とハクが言う塊をつつく。プルンと震えて柔らかそうだ。とてもグールを叩き潰すことができるようには見えない。
「その神聖鉄はまだこの世界に固定されていないのです。なので、茜たんが彫刻を終えた後に固定化させるのです?」
「それは凄いっすね! これだけ柔らかいなら簡単に精緻な細工もできるっす。最初から歯車とかの形状で生み出すことはできないっすか?」
「簡単なのです? お茶の子さいさいなのですよ」
ムフンと平坦な胸を反らし、手を軽く振るハク。ポテンと新たに小さな白い長方形の神聖鉄が現れた。
「……歯車っすか?」
「削れば歯車になるのです。そこまで簡単にするのはクリエイターとしては許可できないのです?」
「あぁ、そういうことっすか。それなら仕方ないっすね。大きさだけでも変更して貰えれば楽っすよ」
茜はなるほどと頷く。クリエイターの誇りと言うことなのだろうな。
「それじゃあ、最後は俺だな。ハクと茜が用意する間、俺とリムは一般人として行動する」
手のひらをくるりと回すと薬指に嵌めた銀の指輪を見せる。リムもふふふと笑みを浮かべて、同じように薬指に嵌めた指輪を見せる。神聖力も隠蔽されて、なんの変哲もない結婚指輪に見える代物だ。
『交換ポイント100万:拠点転移の指輪。自宅及び支配した地脈に1日に3回だけ移動できる』
「これからは玉座に置いてあるウルゴス像の前で跪いて指示を受けるふりをするんだ。俺たちは一般人として、知り合う予定で身バレを防ぐ」
3人へと目を細めて真剣に告げる。
「ハク。この土地を改修せよ」
「ははっ。ヌリカベハク、ご用命承りしましたのです」
茜の膝から動かずに、コクンと頷く幼女。
「茜、兵士を作って兵力を整えよ」
「はっ、すぐに人形を作り上げます」
真剣な表情で茜はハクを撫でる。
「トニー、魔王水晶を奪われて弱体化した元魔王たちを狩り尽くせ。万が一のために、大天使薬も持っていくんだ」
「了解です。全て狩り尽くします」
トニーだけ跪き、俺の指示を受けて頷く。
「俺とリムはここらへんのコンビニや倉庫を回って、水や食糧を確保する」
「妾たちはオチ担当かの? セコすぎるぞ」
ぷっくりと河豚みたいに頬をリムは膨らませるが仕方ないだろ。必要なことなのだ。
「恐らくは避難所の配給品はあと数週間で尽きる、そこまでに準備はしておきたいんだ。ウルゴスの用意する神の庭と、俺の神の庭だ」
多くの人々が避難所に集まっている。もう1万2千人とボードには表示されている。水も食糧も足りなくなるだろう。
「混乱と混沌の時代が訪れる。サバイバルをしないといけない時期だ」
大変な時代になるだろうなぁと思いながら、俺は顎を擦りニヤリと嗤うのであった。
…………しかし、こいつら、忠誠度低そうだなぁ。




