41話 部下を揃えよう
1時間後。なぜトニーが1時間後に決闘をすることに決めたのか、俺は理解して半眼となっていた。謁見の間にはトニーとハクが決闘をするべく対峙している。
「知力100の今孔明と呼ばれた僕は勝つべくして勝つんですよね。ウハハハ。変身!」
高笑いをしながら餓鬼王へと姿を変えてトニーは身構える。パワーアップしたトニーはその構えも達人のものだ。体術2は伊達ではないのである。
高笑いをする理由は簡単だ。トニーの周りには水をなみなみと入れたバケツが何個もあり、それでも安心できないのか、ビニールプールまで用意してあった。
「砂になった途端、お前は泥と化す! 吾輩の頭の良さに恐怖して恐れ敬うが良い。ガハハ」
牙を剥き出しにして哄笑する卑怯な魔王トニーに、ハクはなにも言わずに佇む。口がないから当たり前なんだけどね。その代わりに壁に文字が浮かぶ。
『アクマイチノワザノツカイテノチカラヲミヨ』
「へっ、手足も無いくせに技もないだろ! それじゃボス、合図を出してください」
セセラ笑い、餓鬼王は俺を見てくるので、片手をあげる。大丈夫かなぁ、ヌリカベ。
「はじめろ!」
「いくぜ!」
『リョウカイデス』
先手を打ったのは、トニーであった。爪を伸ばすと、マナを込めて爪を振り下ろす。マナの込められた紅き刃が飛んでいき、ヌリカベへと命中し爪痕を残す。
『遠爪』『遠爪』『遠爪』
「ウハハハ。粉々にして一掴みの砂へと変えてやるわ!」
ウハハハと調子に乗って、マナ消費の低い武技を使いまくるトニー。その爪痕が幾筋にも残るがハクは動かない。
「というか、あやつ動けるのかの?」
「うう〜ん、どうなんだ実際」
リムの問いかけに俺も答えることができない。せめて手足が生えていれば良いんだが、ただの壁だからなぁ。ズリズリと這うように移動したけど、ナメクジ並みに遅かったし。やられそうなら、止めるべきだろうけど……。
ハクのステータスを確認すると不思議なんだよ。………なんで体力が減っていないんだ?
不思議に思い、首を傾げてしまう中でもトニーは魔刃を飛ばし続ける。近づかないのは、きっと近接戦闘は不利になるかもとかセコいことを考えているからに違いない。
攻撃を受け続けるハクは身体を揺らして、その表面に文字を表示させる。
『トランポリンウォール』
トニーの周りにこの間プライドが使用した壁が生み出される。
「ぬ? だが、その体では素早く突進できまい!」
バケツに駆け寄り持ち上げて獣型に変身しようとしたら、水をかける気満々のトニー。その姿はどう見ても魔王には見えない戦いっぷりだ。おら、おらぁと、水をかけるフリまでする小物っぷりだ。
だがハクはゆらりと身体を傾けると
足元を爆発させて砲弾の如き速さで飛び出す。
「げっ、そんな行動もとれんのかよ! だが、ディフェーンス! 壁に当たるのを防いでやる! 硬度20合金パワー!」
突進するハクと壁の間に立ちはだかり、トニーは両手を振り上げて受け止めようと構える。砲弾の速さで突撃してきたハクだが、トニーもパワーアップしたのは伊達ではなく、身体全体で受け止める。
ズズッと身体がハクの突進で押し下がるがそれでも受け止めて、ニヤリとトニーは笑う。このまま倒してやると、勝利を確信し
「アーマーパージッ! ウォォぉぉ!」
ヌリカベから、すぽんとなにかちっこいのが抜け出して、ヌリカベはトニーの両手を振り解くと、ボディアタックを繰り出した。べちんべちんとボディアタック、ボディアタック、ボディアタック。
羽子板みたいに浮き上がり、餓鬼王をプレスする勢いで叩きつける。なんだか、ヌリカベの身体の端っこをちっこい誰かが掴んで、振り回しているようにも見える。
「ウォォぉぉ! 『砂変化獣型』」
「ちょ、ちょっと」
可愛らしい小鳥のような声音で雄叫びをあげ、ヌリカベは砂と化して、獣姿へと変形していく。トニーはなんとかバケツを手に取ろうとするが、床にめり込んでおり、身動きがとれない。
「ムォぉぉぉ!」
獅子の姿に変わったヌリカベの尻尾をちっこいなにかが掴むと、びたんびたんとトニーへと叩きつけ始める。ぬいぐるみでそんな使い方をしたらいけませんと母親に怒られるだろう使い方である。
「どこに技が……」
「ウォォぉぉ!」
「ストップ、ちょっとストップ」
「ムォぉぉぉ! ムォぉぉぉ!」
トニーが声をかけるが、ヌリカベは話を聞くことはない。ヌリカベは夢中になると周りの話が聞こえなくなっちゃうようだ。びたんびたんとヌリカベを叩きつける。ふんすふんすと鼻息荒く夢中になってヌリカベはボディアタックを繰り返す。本当にボディアタックなのかは不明だ。
『大柱崩し』
ヌリカベは手を翳すと、空中に巨大な柱を生み出す。天井までは50メートルはあるはずの高い謁見の間であってもぎりぎりの大きさだ。
「ふぉぉぉぉぉ!」
柱の端っこを紅葉のようなちっこいおててで掴むと、振りおろそうとする。どこらへんが崩しなのかさっぱりわからない技だ。
「ぎ、ギブ、ギブアップしますっ!」
そんなもんを振り下ろされたら、流石にぺちゃんこになると、トニーは震える片手を掲げて、負けを認めるのであった。
「ウォォぉぉ!」
ヌリカベは話を聞かないで、柱を振り下ろしちゃったが。
そして、大魔王軍総司令官の座から早くもトニーは滑り落ちた。
クレーターだらけとなり、めちゃくちゃとなった謁見の間。瓦礫が散らばり、床も砕けて、見るも無残な光景となったが、気にせずに再び全員で車座となって話し合いを再開することとした。
床にめり込んだトニーは、片手でハクが持ち上げて引きずり出した。物凄い怪力であるように見えるが……。どうなんだろう?
「あたちの名前は城内白。ハクとおよびください創造主様。しゃららーん」
目の前にはアーマーパージをした中の人がいた。白い壁はヌリカベアーマーらしい。スカートの裾を掴んでペコリとカーテシーをしてくる。
天使の輪っかができているほど、艷やかな蒼い髪の毛は膝下まで伸びており、その瞳はサファイアのように深く美しい。薄い桜色の唇をしており、小さな顔は美しく、背丈は1メートルもなく、肌は透き通るほどに色白だ。フリルのついた白のドレスを着込んでいる美しい幼女であった。見た目は儚げで病弱そうに見える女の子だ。
「しゃららーんって、なんだ?」
「漫画でしゃららーんと書かれると、礼儀正しいお礼になるらしいです?」
コテンと首を傾げるハク。なるほど、なるほど?
「やばいですよ、ボス。こいつアホでグフゥっ!」
トニーの座っている床から柱が飛び出して、天井まで吹き飛ばしていった。ペチャリと天井に叩きつけられて、再び床へと墜ちるニートはスルーして、ハクのステータスを確認するとする。
こんな感じである。
城内白
毎月の維持費:29万5300ポイント
体力:200
マナ:400
筋力:10
器用:10
敏捷:5
精神:5
神聖力:300
固有スキル:謙譲(作った物を固定化し世界に設置する)、傲慢(見下すことによりその物体の重量をゼロにする)、空間創造(一時的に空間を創造できる)、装甲脱着、砂化
スキル:体術1、大地術4、建築術4
総計2953万の悪魔ヌリカベである。
なぜか幼女である。儚げな幼女である。見かけだけは儚げな幼女である。
なぜこうなったのか、よくわからないので、オレも混乱しています。
「まぁ、それは後で良いや。創造主はやめてくれ。なんだか気恥ずかしいしな」
「わかりまちた、出雲たん」
素直に頷き、ポテリとあぐらをかいて座るハク。その姿はどう見ても、儚げな幼女だ。そういうことにしておこう。
「出雲よ。お主よりもポイントを使ったのじゃな。ステータスは微妙じゃがの」
リムがハクのぷにぷにほっぺをつつきながら尋ねてくるが、そりゃそうだ。ハクは嬉しそうにキャッキャッと頬を突かれており微笑ましい。
「建築関係なんだ。最初からスキルレベルは高くしておいた方が良いだろ」
「あ〜、そうなんですよね。ゲームでも兵士を育てるより、鍛冶屋を育てた方が良いですもんね」
青銅の剣を装備しているエリート兵よりも、鋼の剣を装備している凡兵の方が強いんだ。しかも消耗しても凡兵ならすぐに補充できるし。
イタタと頭をさすって復活したトニーが同意してくれ、平坦な胸を反らして、ふんすとハクも得意げに言う。
「何でも作るのです? サン・ピエトロ大聖堂とか複雑なものでもドンと来いなのです? 職人技を見せちゃうのです?」
何故か語尾が疑問系だが、自信がありそうなので安心する。それなら任せても良いだろう。
「それじゃ、この城から手を付けてくれ。後、土の改造もして欲しい。農業とかやりたいしな」
そのために大地術と建築術を4にしたのである。期待しているぜ。
「で。それは良いんだが、砂化とかできるのか?」
人間型から砂になるのかと尋ねるとコクリとハクは頷き、ちっこいおててを天にかざす。
『砂化獣型』
その手の先から砂が集まると獅子が現れて
「ウォォぉぉ!」
また尻尾を掴んで、トニーを叩き始める。
「なんで叩くんだよ、てめえ!」
「大魔王そーふ司令のあたちの躾なのです。せっかくマナを使ったから、使うのです」
「やっぱりアホですよ、こいつ! チェンジした方が良いですよ!」
「ウォォぉぉ、ワンチャンあると信じてたのです」
ゲシゲシとトニーを夢中になって叩くハク。そのカオスな光景を眺めて、ふむふむと俺は頷いて
「さて、次は兵力の補充だな」
見なかったことにした。砂になれねーじゃねーか。この間のプライドはどこに消えたわけ? かっこいい男が仲魔になるんじゃないのか?
「扱いにくそうなあやつよりもマシじゃろ」
「俺に情報を与えないように何かしたな?」
「黙秘を貫くのじゃ」
口笛を吹いてそっぽを向くリム。こいつ……。俺の周りはろくな人材がいないのかもしれん。
「はぁ……次に期待するか」
呪われた人形とリッチを倒した際のルビーを取り出すと、床に置く。人形にルビーをかけておけば、合体悪魔になると信じています。
「ネクロマンサーと人形遣い。この2つを合わせた悪魔が生まれれば、維持費の必要のない兵士を揃えることができるはずだ」
「なるほど、人形作成とか召喚系統ならば、維持費は必要ないというわけか。考えたの」
「だろ? というわけで、兵力担当を作り出すつもりだ」
リムが感心して、戯れていたハクとトニーもこちらへと興味深げにやってくる。
さて、上手く作れるかなっと。




