40話 ようやく地盤を固められるな
結局のところ、魔力吸収スキルはチートであった。運営が知ったら、即日、下方修正間違いなしのスキルだった。なにせ、あらゆる魔力を吸収できるのだ。これは他の魔力喰いとは違うらしい。
「他の悪魔の色のついた魔力を他の悪魔は普通吸収できぬのだ。たしかに吸収できる悪魔も少しはいるが、それでも出雲のように無限には吸収できぬ。訳わからん存在じゃの」
「あぁ、他の悪魔の魔力を吸収すると、存在が変わるとかそんな感じか」
「それに近いかの。だからこそ悪魔たちは色のついていない魔力を内包する魔王水晶を求めているのじゃよ」
なるほどねぇと、リムの言葉に俺は頷き、うーんと伸びをする。今、俺のいる場所は白亜の城。ウルゴス君の居城『神庭』だ。その謁見の間で、俺とリム、そしてトニーが車座になって座り込み話をしていた。ガランとしていてとっても寂しい謁見の間だ。玉座ぐらい作ろうかしらん。
「やりましたねボス。とりあえず、体術を10レベルに上げないですか? 一つ特化すればこれからの戦いは楽勝ですよ。それで俺にもスキルください。魅了スキルが良いです」
俺も魅了スキルがあれば、好き放題に女を喰えるとニヤニヤと厭らしい顔をするトニー。リムが冷たい視線を向けているぞ。
「今は1億あるから、10は無理だろうが、高レベルなら多分可能だ……。良いぞ魅了スキル。見た相手を魅了できるやつだろ。勇者を目指せよトニー」
「勇者………。主人公のハーレムを奪い取るやつですよね? やっぱり遠慮しておきます……ザマァとかされそうですし」
魅了スキルが解けた後のことを考える小心者の餓鬼王である。まぁ、俺も嫌だけどな。いつ魅了が解けるか怯えながらハーレムを作るなんて無理だ。魅了スキル持ちの勇者はその点、本当に勇気ある者だよね。
アホな会話を終えて気を取り直す。地脈からの膨大な魔力を吸収して、俺の奇跡ポイントは1億200万となった。例外はあるがレベルアップするのに、倍々にスキルポイントが必要となるので、多分7が限界だろう。
それに……どうも気になることがあるんだよ。
「なぁ、リムさんや? なんで、ヌリカベは強くなかったんだ? 出力の問題を抱えていたからか?」
「ん? なんのことじゃ?」
小首を傾げて、サラリと煌めく銀髪を靡かせながらリムは俺へと不思議そうに見てくる。なので、俺はニコリと微笑み、可愛らしい小悪魔へとそっと手を伸ばす。撫でられるのかと、リムは目を瞑る。
「おりゃ」
「あだっ」
そのままリムの額にデコピンをした。結構強めに叩いたので、リムは少し涙目になり仰け反って、こちらを不満そうに見つめてくるが、惚けたことを言うからだろ。
「ヌリカベはその保有スキルからスキル4以上の戦闘スキルを持っていてもおかしくなかった。なのに、そこまで圧倒的な力はなかったよな? なんでだ?」
亡きトニーが手に入れた情報と様々なアイテムを駆使しヌリカベを倒した俺だったが、なんとか倒せるレベルだった。もう少し強かったらやられていただろう。なので、不思議なんだよね。魔王水晶はかなりの魔力を内包していたし、余裕はあったはず。
「どうだったかのう。妾わかんなーい。それにヌリカベたちはゲーム仕様じゃないからの〜」
床に横たわり、赤いコートを開いて、胸元をチラチラと強調して妖艶な悪魔王。チラリズムって良いよね。
「まぁ、リムから答えを求めるつもりはなかった。なので、検証だ」
リムの足元側に移動して、スカートの中を覗きこもうとするニートを蹴飛ばして、奇跡を使用する。
『仮想体による検証』
手を翳すと、ホログラムが俺の前に現れる。俺の姿をしたホログラムだ。奇跡ポイントは数ポイントしか消費しなかったので、使い放題だなと少し安堵する。
「変装スキルを4に上げるとどうなる?」
俺の指示に従い、変装スキル4へと仮想体に付与した結果をホログラムは表す。人間の姿がウルゴスへと変わったり、人間の姿へと戻ったりした。
「ん? どうなったんだ?」
変装スキル4だと、なんでウルゴス君?
『神聖力による侵食により、ウルゴスへと変化』
奇跡さんの機械的な返答に、眉根を顰めてしまう。神聖力の侵食ってヤバそうなんだけど。
「変装5に上げた場合は?」
ホログラムはウルゴス君へと変化して、そのまま人間に変わることはなかった。
『神聖力による侵食により自我を失いました。以降はウルゴスとして活動します』
「へー。なかなか面白いな」
「知りませーん。妾はなにも知りませーん。おもっ!」
プイッと顔を背けるリムへとジト目を向けつつ、俺はその身体の上に座って脚を組む。重いのじゃと逃れようとするリムだが、どっしりと座って逃しはしない。うむ、リムのクッションはぷにぷにだな、このやろう。
「なぜこうなる? 原因は?」
『神聖力を扱うだけの身体能力が足りません。補助スキル4の場合、いずれかのステータスが最低200必要です』
「戦闘スキルの場合は?」
『4の場合、ステータスが300は必要になります。現在も浸食されていますが、大天使薬を飲むたびに、浸食は浄化されています』
ふむ、とその解答を得て推測する。スキルは知識だ。となると神聖力から生まれる知識の力は自我に影響すると。そして、ステータスが高ければ、その知識を得ても自我が消えないように耐えられると。なるほどねぇ。
………危ないところだった。本当にウルゴス君になるところだったのか。浸食は少しずつされるのだろう。天使薬や大天使薬は思いがけず、回復薬にもなっていたわけか。レベル4の戦闘スキルとか持っていたら浸食が速かったんだろう。
「これを知っていたなリム?」
「神対悪魔って、ハルマゲドンっぽくて楽しそうじゃと思わんかの?」
可愛らしい笑みで舌をチロッと出して、平然と悪気なく言ってくるリム。たしかに第三者目線だと楽しそうだな。この悪魔王め。舌を掴んでやる。嘘つきの舌はこれか? ヌラリとした感触になんとなく気恥ずかしくなり、離しちゃうけど。
「もっと舌を撫でても良いのじゃぞ? ウシシ」
「今度はペンチを用意しておく。それよりも、ステータスを上げないと、魔王たちも自我を失うから、そこまで一気に強くなれなかったのか。ステータスアップのレートは……」
まさかと思いつつ、ステータスを上げようとすると……。
101から、1上げるのにポイントが1万に。201から5万へと変わった。301からは10万ポイント必要、401からは100万かよ!
マジかよ。レート上がりすぎだろ。たしかにこれなら、簡単に上げられないよな。リムは浸食を受けないのか?
なんじゃ? と俺を退かそうと艶かしく身体をよじるリム。羊の角にコウモリの翼に悪魔の尻尾。うん、全く神聖さを感じない。エロさしか感じない。こいつ耐性を持っていやがるな。
「どこまでその耐性が通じるか、スキルレベルを上げてやりたいが、俺より強くすると不安しかないからな。俺を上げるとするか……」
アイテム頼りの戦闘には限界がある模様なので、ため息交じりにポイントを使用する。
天神出雲
体力:100→300
マナ:20→200
筋力:100→300
器用:100→300
敏捷:50→200
精神:20→100
神聖力:50→200
スキル:体術2→4、短剣術2→4、氷術2→3、水術2→3
計2918万ポイント使用なり。精神は少し怖いので100に抑えておく。人外の精神になりそうだし。
次にリムだ。
リム
体力:50→200
マナ:30→300
筋力:20→100
器用:20→100
敏捷:10→100
精神:20→100
神聖力:100→300
スキル:体術1→3、符術2→4
計1703万ポイント使用なり。
倉田トニー
毎月の維持費:22000ポイント
体力:100→200
マナ:10→100
筋力:10→100
器用:10→100
敏捷:5→50
精神:5→50
神聖力:10→100
スキル:体術1→2
トニーは195万ポイント使用。毎月の維持費があるので、後はドーピングで良いだろ。
3人共に奇跡によるパワーアップ。俺の体内に保管されている神聖力が形を変えて、染み渡っていき、身体能力が強化されるのを感じる。
そして、俺から純白の神聖力が放たれて、リムとトニーへも吸収されていった。
「ふむ。これは凄いの。もはや邪神級じゃて」
「くくく、僕は罪を重ねるごとに強くなっていくのか………クククク」
「弱いな、邪神」
まだ300程度だぞ。それだけ前の世界は悪魔は弱かったと。あと、額に手を当てて不気味に笑うニート魔王はスルー。
「よし、では次は拠点の強化だな。考えたんだが、クラフト系統の悪魔を創れば、ポイント節約できないか?」
「それはいい考えかもしれないですね、ボス。一瞬で完成させるには大量のポイントが必要になりますけど、人に任せて建築すると時間はかかるけどポイント節約できるシム系統ゲームありますもんね」
わかるわかるとトニーも同意する。だよな? 俺もそう思うんだ。クラフト系統の悪魔を揃えれば、この先のポイントがかなり節約できるはず。
「だろ? ちょうど良い魔道具も手に入れたしな」
古びた絵巻物を床においてニヤリと笑ってみせる。こいつは建築関係の悪魔に違いない。
というわけで、悪魔創造を開始します。立ち上がると、絵巻物へと手を翳す。
「ジャッジャジャーン」
待ってましたと、リムが荘厳なBGMを奏でて、エアオルガンを叩く。どうやら必要なことらしい。
「謙譲の天使にして、傲慢なる悪魔。ヌリカベよ現れよ。名前は城内白」
キラキラと純白の神聖力が俺の手のひらから放たれて、絵巻物を包む。絵巻物は空中に浮くと光の球体に包まれてドクンドクンと鼓動をたてると、一際輝き辺りを照らして、形をとった。
「………」
堂々とした威容を見せて、それは立っていた。純白の壁。灰色ではないのは神聖力の影響だろうか。なにも言葉を発することはない。3メートルほどの白い壁だ。目も鼻も口もない。脚もない。単なる壁だった。
「あれ? これ失敗したか?」
単なる壁を作ったかと戸惑ってしまう俺だが、ヌリカベの表面に文字が浮いてきた。
『ヌリカベ、ハク、コンゴトモヨロシク』
「あぁ、よろしく。う〜ん……。クラフトできるか?」
それ系統のスキルを付与して作ったんだけどと不安に思うが
『デキマス』
壁に肯定の文字が現れて、ホッと安堵する。できないかと思ったが、できるらしい。良かった良かった。
「おぅおぅ、僕は大魔王軍総司令官の倉田トニー。僕の部下として謙虚に頑張るように」
早くも先輩風を吹かすトニー。オラオラと塗り壁へとガンつけして、凄んでいた。傍目から見ると壁に凄む変人にしか見えない。
『ワタシハジャクシャノブカニハナラナイ。ケットウデチカラヲシメセ』
「へっ。いい度胸じゃないか。僕のパワーアップした力を見せるチャンスということですね。オーケーオーケー。それならば1時間後に決闘と行きましょう」
ホホホと笑うトニーに、ハクは『了解』と答える。……今戦えばいいのに、なんで1時間後なんだ?
「それじゃ後でお願いします!」
謁見の間を去っていくトニー。その横顔には外道な笑みが浮かんでいる。
「あいつ……ろくなことを考えていないな」
「だの。きっと卑怯なことをするつもりじゃぞ」
俺とリムはお互いに同じ考えを持ち、トニーを見送るのであった。