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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
1章 プロローグ

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4話 ボス戦が初戦なのじゃ

 分厚いはずの天井。魔のアイテムを封印するために途轍もなく強固であり、シェルターにもなる金庫。コンクリート製だけではなく、金属製の壁もあったようなのに、あっさりと砕いてなにかが降り立つ。コンクリート片と金属の欠片がパラパラと落ちてきて、砂埃の中からなにかがガシャンと歩み出てくる。


 それは黒い西洋の鎧であった。面頬も下ろされており、その顔の中身は見えないが、極めて強大な魔の力を感じる。重そうな金属鎧に身を包んでいるはずなのに、重さを感じさせずにこちらへと歩いてくる。漆黒の鎧は光を返すこともなく、重厚で下手な攻撃は通じそうにない。


 手に持つ武器は騎士槍である。本来は馬に乗って戦うために、長大であり重いはずなのに軽々と片手で掴んでいる。


「出雲よ。妾の悪魔王アイの力を見せてやろうぞ。みゅいーん」


 アホな掛け声をあげて、額に手を翳してリムは敵を観察し、クワッと目を見開く。


「奴は血塗られた西洋鎧じゃな。人間の魂を取り込み、魔物化しておる。名前は名前は……」


 何にしようかなと、嫌な呟きをするリム。やばいな、こいつを受肉させるよりも、スキルを取ったほうが良かったか。


「リビングアーマー! リビングアーマーと名付けたのじゃ!」


「名付けているんじゃねーよ! 知っている知識から教えてくれるんじゃないのかよ? それとその名前だと弱そうだぞ!」


「核となる魔道具はわかるが、魔物化した結果はわからないのじゃ! だから、これからも妾が名付ける!」


 ネーミングセンスゼロの悪魔王の可能性があるのでジト目となるが、敵は待ってはくれなかった。


「カハァ」


 その口から紫色の息を吐くと、騎士槍を構えて一気に飛び込んでくる。ズガズガと金属の床をへこませつつ肉薄して、騎士槍を突き出す。


 突風が巻き起こり、巻き起こした風と共に騎士槍が出雲に迫る。


「頼むぞ、格闘スキル!」


 頭には格闘スキルがアプリのようにインストールされている。その格闘スキルは俺の身体をどう動かせば良いか教えてくれるのだ。


 騎士槍のぎりぎりを見極めて回避しようと身体をずらす。豪風が出雲の髪をなびかせて、服をはためかせる。


「シッ」


 気合の声をあげて、懐に入り込もうとするが、リビングアーマーは肘を動かし槍を引き戻して、強引とも言える動きで横薙ぎに振ってきた。


 出雲は腰を屈めて躱そうとするが、人では有り得ぬ動きを見せて、騎士槍の軌道を低く変えてくる。


「グウッ」


 ミシリと嫌な音を立てて、出雲の身体が吹き飛ばされる。激痛が走り金庫の壁に叩きつけられてしまう。


 こいつ、かなり速い上に筋力も高い。俺のステータスを大きく上回っている予感。


 すぐさまステータスを見る。


体力:2


 なんとまぁ、一発で瀕死だよ。驚きだね。リビングアーマーはこちらを見て余裕綽々に顎をしゃくるとゆっくりと歩いてくる。相手ではないと理解したな。


「まずいのじゃ! 予定と違うのじゃ。少し待っておれ、すぐに符を書くからの。まずは墨をするのじゃ」


 墨入れがないのじゃと慌てるアホ王を無視することにし、腰からポーションを取り出すとぐい呑みする。ガラス製の小瓶に見えるのに、割れていないし、ヒビも入っていない。かなり頑丈そうだ。


 ポゥと身体が仄かに光り、傷が癒える。普通ではない治り方だと、その瞬間悟った。人間ではない。ゲームのような回復で、折れたはずの骨などもあっさりと治ってしまった。体力という値で括られて、欠損しても、すぐに治りそうだ。


 ポーションは5本、2本飲むと騎士槍を振り下ろすリビングアーマーの横を飛び起きて駆け抜ける。リビングアーマーは片脚を踏み込むと、肘打ちをしてきて、出雲の身体に掠らせる。


「フッ」


 再び激痛が走るが、気にせずにミドルキックを胴体に放ち、ガインと金属音が響き骨まで届くような衝撃が返ってきた。 


体力:5


「まずい! ゲームの影響を受けすぎていた!」


 ポーションを飲みつつ、出雲は少し勘違いをしていたことに気づいた。初戦はなんだかんだ言っても、そんなに強い敵ではないだろうと無意識で考えてしまったのだ。未知の力を手にして、知らず知らず調子に乗っていたのだ。


 そしてそういう時に、やれやれ仕方のない契約者様じゃ、戦いを教えてやるのじゃと助けに入り、颯爽とボスを倒してくれるテンプレ展開になるはずの悪魔王は墨がすれないと符も書けないのじゃと、バタバタと慌てているので、役にたたないことが証明された。


 ヒュンヒュンと騎士槍を剣のように振るうリビングーマーにより、身体が傷つく。視認も難しい速さで、予測だけで回避するが、躱しきれない。それだけ速いのだが。


「スキルレベルでは上回っているか」


 目を細めて、安堵と共に後ろへと下がる。リビングアーマーは余裕を見せているつもりなのだろう。追撃をすることなく、ゆっくりと歩みを進めてくる。


「その余裕が命取り。そこはテンプレで安心したよ」


 手に持つのは天使薬。ステータスをオール100に強化する薬だ。白い小瓶に天使の絵が描かれている。


 冷静さを取り戻して、天使薬をクイッと飲み干す。


「敵の強さ、俺のステータスの低さとスキルの性能の良さ、無能な味方、知りたいことは死ぬ前に知ることができて安心したぜ。こういうのって、初戦で色々と知っておきたいよな」


 身体に熱が駆け巡る。神聖力が俺の身体を一時的に強化していくのがわかった。これならいけるかもな。


「さて、ステータスが100になった場合はどうなるのか。試してみようか」


 ゆっくりと拳を突き出して身構える。ダンと足を強く踏み込みリビングアーマーへと肉薄する。先程と比べ物にならない速さで懐へと向かう。


 リビングアーマーも、出雲の速さに対抗するために騎士槍を横薙ぎに振るう。突きと違い、回避しにくい攻撃だ。躱そうとすれば、先程と同じく高い筋力で軌道を変えようとするつもりであろう。


 迫る金属の槍に、しかし出雲は冷静であった。先程のステータスで回避できたのだ。


「今のスキルなら、どうなるかな?」


 肘を折りたたむようにし、接近する騎士槍へと肘を押し上げて跳ね除ける。僅かに衝撃を感じるが、騎士槍は反動で大きく揺らぎ、リビングアーマーは体勢を傾げる。


「むん!」


 ガラ空きとなった胴体へと突きを入れると、今度は弾かれることなく、その金属の鎧をへこませた。金属の鎧に手形が残り、さらにぐらつくリビングアーマーへと蹴りを繰り出す。


 完全に体勢が崩れたリビングアーマーの懐へと入り込み、踏み足から腰に力を、腰を捻りその力を左腕に伝えると、ブローを脇腹に叩きつける。右足を素早く踏み出して、右ストレート、頭が下がったところに、アッパーを食らわした。


 綺麗なコンボが炸裂し、リビングアーマーは大きく身体を揺るがしてよろめき、ガシャガシャとうるさく足音を立てて後退る。


「む?」


 手応えがあったのに倒れないことに出雲は眉根を顰める。予想外だ。今の一撃は致命的だと予想していたのだ。だが、倒れもしないのは完全に予想外だ。


「リビングアーマーは無機物生命体じゃ。その内部は魔の瘴気、鎧は皮膚ではなくたんなる外装なのじゃよ!」


「早く言えよ! 漫画的忠告すんなよ!」


「いや、当然のことじゃからな。知っているとばかり考えていたのじゃ」


 気まずそうに頬をかくリム。たしかにリビングアーマーは無機物だよな。ゲーム的知識を持っていれば、わかったことだ。伊達に名前をつけているわけじゃなかったのか。すまない、適当に名付けた訳じゃなかったのね。


 出雲の追撃がないので、リビングアーマーは騎士槍を手前に掲げて体勢を立て直す。黒い瘴気とやらが吹き出して、身体を覆っていく。


「何やら技を使うつもりかな?」


 やばいなと思いつつ身体を引き、出雲も気を取り直し身構える。武技、スキルは俺に教えてくれる。敵は魔力を使った武技を使うつもりだと。どれぐらいの威力か知りたいね。


『黒閃槍』


 ヴン


 羽音のような音がしたと思った時には、出雲の目の前に騎士槍があった。視認できないどころか、その行動の起こりも見えなかった。


 普通ならば、その一撃で頭を貫かれて、出雲は死ぬだろう。ゲームオーバーとなる運命である。


 しかし、その一撃は出雲の目の前で停止する。空間にビシリと蜘蛛の巣のようにヒビが入り、その動きを止めた。


『透明氷障壁』


「氷の透明度を上げて壁を作る。なぜ漫画や小説だと、誰も使わないのかと思っているんだが、使い道はあるよな。今みたいに」


 敵のスキルレベルは俺よりも低い。ステータスが同等ならば、武技といえど防げると信じていたのだ。なので、予め透明度が高い氷の壁を作り出しておいたのだ。


 力を込めて、騎士槍を氷の壁から引き抜こうとするリビングアーマーに、出雲はパチリと指を鳴らす。氷の壁はサラサラと粉のように崩れて、槍を引き抜こうとしていたリビングアーマーは再び体勢を崩す。


「今度は俺の武技の出番だよな」


 出雲は体勢を崩したリビングアーマーの頭上へと飛翔して逆立ちとなり、そのヘルムを両手で掴む。


首捻ネッキングスクリュー


 身体を高速で横回転させると、両手に掴むリビングアーマーのヘルムが捻じられてバキリと金属音が響き、破砕した。金属の欠片が飛び散る中で、そのままヘルムが破砕されて空洞となった首の穴へと両手を付ける。穴の中は黒い靄が漂っており、禍々しさを感じさせてくる。


『浄化水流』


 神聖力を宿した水が水流となって、鎧の中に入り込み、黒い靄は浄化され、同化していた人の魂を解放すると、ガクリと膝を付き動きを止めるのであった。


 くるりと身体を回転させるとと、床に出雲は降り立つ。


「まったく。いきなり特殊な倒し方が必要とはチュートリアルにしては酷くないか?」


「現実はチュートリアルとはいかないからじゃの」


「やれやれだぜ」


 ただの置物となった金属の鎧に手を当てると、ポゥと鎧が輝くと純白の粒子となって、出雲の身体へと吸収されるのであった。


『奇跡ポイント5万取得』


「んん? こいつたったの5万しか貰えなかったんだけど?」


 数百万とか貰えるんじゃないの? バグかな?


「だから言ったじゃろ。ここの金庫の物は超級なのじゃ。その価値はそこらへんの雑魚とは違うのじゃよ」


「え? もしかして、最強を倒して最弱に苦戦していた?」


「そのとおりだの。妾の契約者殿」


 嘆息混じりに呆れた様子のリムの態度に青褪める。やばい、そこまで力は変わらないと思っていたぞ?


「なぁ、まだ吸収できるアイテムはないか? 今度はステータスを上げることにするからさ」


「ない。それか知らぬ。諦めるのじゃな」


「マジかよ!」


 こりゃ大変だと出雲は慌てるが、時すでに遅し。取り返しのつかぬ行動をとっちまったと、おっさんは慌てるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「氷の透明度を上げて壁を作る。なぜ漫画や小説だと、誰も使わないのかと思っているんだが、使い道はあるよな。今みたいに」 むかーし星座の戦士が使ってるの見た気がするな 水瓶座か白鳥座かは忘れ…
[良い点] 序盤に強くなりすぎても困りますからね! [気になる点] 幼女になると思った悪魔王が美少女に! [一言] 舞台がである世界が崩壊してるとわかりやすくていいですね。 ローファンタジーは政治と…
[良い点]  オッさんひとりでチュートリアルを乗り越えた!ほんとにこのオッさん数時間前まで一般社畜だったのだろうかってぐらいTueee!ですな(^ ^) [気になる点]  リムの舐めプじみたポンコツム…
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