3話 まずはチュートリアルだよな
金庫には多くの美術品が仕舞われていた。絵画、家具、食器や宝石などなど。大量の品物が仕舞われている。刀剣や柱時計、拷問器具のアイアンメイデンも置いてあり、どれも高価そうだ。たぶん1つで俺の年収はするだろう。
だが一つ問題がある。
「悪魔の物ってどれだ?」
『魔道具というのじゃ』
目を細めて、周りを見渡すが見た目だとまったくわからない。大きな宝石が怪しいが、普通の美術品もあると思うので、困ってしまう。
『ククク。妾が教えてやろうか? 新たなる契約を結ぼうではないか?』
「呪われし悪魔契約は吸収したから、悪魔王はお困りかな?」
ニヤリと口の端を持ち上げて、からかうように嗤う。まだ契約が残っているということは、吸収が正確に働いていないということだ。そして、その場合は願いは叶っていない。契約不履行であり俺の魂を奪うことはできない。
『妾が呪われし悪魔の力と言っただけで魔力を吸収することにしたのかの?』
「いや、部長も魔力とか言ってたからな。一か八か魔力を吸収することにした」
『! その場合、魔力以外だとお主は死んでたぞ? 躊躇いはなかったのか? 魔力って、心躍るキーワードじゃないかの?』
「魔の力。現実だとやばいんだろうなぁと思ったんだ」
悪魔の力を借りるから、魔力。なるほど、現実だと極めてヤバそうな力である。心躍るけど、魔法って、本来は悪魔の力を借りてるだろ。なので、危険だと判断したんだ。
少しの会話だけで決めたのかと驚く悪魔王に、肩をすくめて飄々と答える。たしかに魔力以外の力とかを悪魔王が使う可能性はあった。その可能性は俺の頭をよぎったよ。
「その時は死ぬだけではなくて、魂も奪われて怨嗟の声をあげて永遠にお前に囚われるんだろうな」
『お主……。いや、妾の契約者は博打好きか? 有り得ぬ可能性ではなかったのだぞ?』
「わかっているよ。だけどなぁ、どう考えても俺に選択肢はなかったんだ。確かめないで勝負に出る必要があったんだ。命をベットするには相応しい賭けだろ?」
ゾンビとか現れたしな。このまま状況を確認しているような時間が無さそうだった。なので、力をすぐにでも手に入れる必要があったんだよ。
悪魔王は出雲の瞳を見て、その蛍のような光の身体を揺らして震わす。出雲の瞳がビー玉のように感情を乗せていなかったからだ。不気味な怪物のように見えた。自分の命を賭け金にすることに躊躇わない狂気が混じる瞳だ。
これは面白そうだ。それに自分の呪いを解いた頭の良い人間でもある。
『よろしい。妾との新たなる契約を』
「悪いが時間がない。なんかお前が呼んだ奴来るんだろ?」
残りの奇跡ポイントは少ない。スキルと交換する際に、交換ポイントがどれぐらいかかるかわからないのが弱点だ。でも『鑑定』とかチートスキルと交換を………できそうにないな。予想するに、チートすぎるからポイントたりなさそう。
『奇跡:鑑定スキル取得』
『奇跡ポイントが足りません』
とりあえず試してみるが、やっぱり足りなかった。どれだけ足りないかも教えてくれればなんとかなったのに。残念無念。
『ククク……ねえ、ちょっと? 妾、怪しい雰囲気出してるよね? 新たに契約を結ぼうと考えるつもりはないかの? ねぇ、ないかのぅ?』
「力を失った蛍には用はないな」
バッサリと断ち切る。いらないよな、この蛍は残りカスだろ。
『ムカーッ! そなたが奪ったのだぞ? そのセリフは悪役じゃからな? そなた神聖力を使う聖人になったのじゃ。もう少し善なる行動を取れと申しておる!』
まんま悪役だと悪魔王は羽虫のように俺の周りを飛び交う。たしかにそうかもなぁ……少し俺も混乱しているようだ。気遣いを忘れたかも。
「悪い悪魔王。善なる行動を取ることを検討しておく。で、善なる行動だから、お前とは契約を」
『結ばないとか言うんであろ? だが今回の契約は裏切り行為ができない貴重な契約であるぞ?』
パタパタと羽虫を寄せ付けないように手を振る俺に悲鳴混じりに悪魔王が告げてくる。ふむ?
「どんな内容だ?」
『妾を受肉させよ。そなたの力を分け与えてくれれば良い。そなたが死ねば妾も肉体を失う。それならば裏切ることはできぬ。人間は簡単に裏切るからの。ちなみに妾が死んでもそなたは死なない不平等契約じゃ』
ウシシと笑う悪魔王の言葉に、ほほうと腕組みをして考える。その内容は考慮に値するな。
『妾はこれでも長年生きてきたし、なぜゾンビが現れたか? なにが起こったのかも説明できるし、あらゆる情報を知っている知識の蔵じゃ。そなたに従おう。従者になろうではないか。対価は妾の受肉。どうじゃ、夜の営みもサービスするぞ?』
ウフンと蛍の光が瞬くが、まったく色気がないのでわからない。だが、人間よりはマシだと思えるな。人間はあっさりと裏切るからなぁ。金にしろ愛情にしろ、理由は様々だが裏切ることが多い。
「残りのポイントで足りるか?」
『お、契約するつもりになったのかの? それならは、ここに転がっている魔道具を全て教えてやろうではないか。全て吸収するが良い』
「問題なく吸収できるのか? 抵抗されない?」
『既に人間と融合している者たちは倒さなくては吸収できぬ。しかしこの金庫は聖別されているので魔道具のみじゃ。妾の魔力をも吸収したチートなお主の吸収スキルなら他愛もない』
それとそれと、これじゃなと悪魔王がフヨフヨと動いて教えてくれるので、片端から触ってみる。魔道具は僅かに怨嗟の悲鳴を上げるが、すぐに純白の光の粒子となり、俺へと吸収されていく。
急いでペタペタと触っていく。あまり数はなかったようだが、奇跡ポイントはべらぼうに増えた。
『奇跡ポイント:4433万』
「なかなかだな。では必要なスキルを創造」
『なかなかって、ここの魔道具は外に出せぬ、超級危険すぎる物ばかりなのに……』
なにか悪魔王が言っていたがスルー。急がねばなるまい。
『奇跡:交換ポイント視覚化』
これでどれぐらいの交換ポイントでできるかわかるようになる。100万がごそっと無くなった。
『奇跡:神聖力適性。交換ポイント1000万』
神聖力が使えなければ、法力的なものも使えないので取得。どうやら神聖力適性がない場合、まったく力を使えなかった模様。物凄い罠だよな、これ。
『奇跡:フレーバーテキスト追加。交換ポイント100万』
手に入れるスキルの能力を詳しく知りたいのだ。
『奇跡:スキルレベル追加。交換ポイント100万』
スキルを手に入れるにしても、常に最大パワーはいらないよな。ポイントを節約したいのでスキルレベルを追加。必要な分の力だけ欲しい。
『奇跡:魔力感知レベル1。交換ポイント10万、100メートル圏内の呪力感知可能』
『奇跡:魔力感知レベル2。交換ポイント50万、500メートル圏内の呪力感知可能』
『奇跡:魔力感知レベル3。交換ポイント100万、1キロメートル圏内の呪力感知可能』
『奇跡:神聖力感知レベル3。交換ポイント160万、1キロメートル圏内の神聖力可能』
『奇跡:隠蔽レベル3。交換ポイント160万、スキルレベル2以下の看破を防ぎ、力を隠す』
これも必須。俺の予想通りならだけどな。レベル2以下ってのがどれぐらいかわからんけど、気休めでも良いや。最後にこれだ。
『奇跡:受肉。交換ポイント2000万、配下の魂を受肉させることができる』
これで、一通り揃ったかな?
『よし、よしよしよしよし! 契約するかのう? するよな? 今しかないぞ、妾の契約者出雲よ!』
「興奮するなって。では俺のステータスを上げるとするか」
『体力1につき交換1000ポイント必要』
体力を1上げようとステータスボードを押下すると……。マジかよ、1000必要だ。
『永続的な物じゃからだの』
「さよけ。そうか……先にステータスを上げておくべきだったか? だが地力がないのにパワーアップすると足元を掬われそうだし仕方ないか。それにいきなり1000万パワーとかになったら、身体が操ることができずに自爆しそうだし」
舌打ちするが仕方ない。ステータスのレートがこんなに高いとは思わなかった。
「アイテムはどうだ?」
『奇跡:ポーションレベル1。交換ポイント1000、体力を10癒やす』
漠然としすぎてよくわからん。検証必要。
『奇跡:天使薬レベル1。交換ポイント1万、10分間ステータスをオール100にする。100以上のステータスには効果なし』
これは使えそうだ。永続的な性能アップじゃなければ、かなり安いのか。いいね。
「それじゃ、こうしておく」
天神出雲
体力:10→20
マナ:0→20
筋力:10→20
器用:10→20
敏捷:10→20
精神:10→20
神聖力:0→20
固有スキル:魔力吸収、魔力反転、奇跡、器の成長、神聖力適性、受肉
スキル:魔力感知3、神聖力感知3、隠蔽3、new隠れ身3、new変装3、new格闘2、new短剣術2、new氷術2、new水術2
隠れ身。変装は3を取得。逃げる際に必要かもと思ったのだ。格闘、短剣術は基本だろ。そして法力? 何でも良いがファンタジー溢れる力もゲット。
ステータスはよくわからんから、とりあえず平均で。
で、悪魔王の肉体も……。
チリリとうなじが焼ける感じがする。魔力が接近中だとスキルが教えてきているのだろう。かなり速い。急がないとやばいな。
「悪魔王、神聖なる俺の契約によりお前を従者にする。報酬は受肉。対価はお前の忠誠だ。問題ないな?」
『なんだか反対の立場になっているが……良いじゃろう! 契約しようではないか!』
面白そうな声音で蛍が光を瞬かせるので、手のひらを向ける。使い方は既に頭にインストールされている。少し怖いが問題ないな。
『受肉』
俺の手のひらから、純白の粒子が生み出されて、蛍を包む。神々しい光を宿し……。
ピロリン
『ステータスを振ってください』
「ゼロスタートかよ」
全部ステータスはゼロ。スキルはなしだった。どうやら新たにポイントを使わなければいけない模様。これはポイント無くなるな、うん。
『妾は法力使いになりたいのじゃ。マナ多め、スキルも法力にお願いするぞ。法力は符術でよろしく。符術は触媒が必要なのじゃが、万能での。妾の契約者を殺しに来る巫女が使っていたのを見て、いつか使いたいと思ってたのじゃよ』
悪魔王、符術に憧れる。似合わないと思うが別に良いか。
で、こんな感じとなった。
リム
体力:20
マナ:30
筋力:10
器用:20
敏捷:10
精神:20
神聖力:30
固有スキル:浮遊、不可視
スキル:符術2
固有スキルは悪魔王の本来の物らしい。符の紙束と墨と筆も奇跡で創り出し終了。薬もいくつか創造しておく。奇跡ポイント5万を残し使い切った。
「これで良しと」
名前ばれしている悪魔王のステータスを完成させて、ステータスボードをポチリと押下する。純白の光は一つに集まっていき、人型へと変わっていく。
光がおさまると同時に、しなやかな細い腕を伸ばして、ポーズをとりながら少女が現れた。
「クハハ。妾たんじょー!」
見かけは16歳ぐらい。ショートカットの銀髪に羊の巻き角を生やし、爬虫類のような縦に割れている黄金の瞳、褐色肌で豊満な胸にくびれた腰、悪戯そうな小悪魔の笑み、赤いコートを羽織り、ヘソ出しルックの少女だ。背中にちこんと小さなコウモリの翼、お尻からもよくある悪魔の黒い尻尾を生やして、まさに小悪魔といった感じ。
「妾は呪われし最強の悪魔王リム! 呪い解けたし、最強でもなくなったけどの。その場合は悪魔少女リム?」
ポーズをとって俺へと小さな牙を覗かせて、フフンと胸を張る。ブルンと揺れる豊満な胸は目に毒だけど、その口上は少し情けない。それに聞いている時間はなさそうだ。
「タイムアップだな」
「ん? なにが?」
「歓迎しないといけない輩がやって来たみたいだ」
コテンと首を傾げて戸惑うリムへと天井を指し示してみせる。感知スキルがリムも必要かもな。それにお前が呼んだんだろ。鳥頭か。
メシリと天井に大きくヒビが入る。ズシンと音を立てて、ビルが揺れる。ズシンズシンと音がして、なにかが天井を砕いてくる。
遂に天井が砕けると、土埃と共になにかが降り立つのであった。