28話 戦果は上々だな
邪悪なる魔力を纏いながらも、膨大な神聖力を扱う機械仕掛けの大魔王ウルゴス。ダークヒーローっぽいその姿に人々は喝采をあげる。特撮ヒーローで怪人を倒した感じです。
「勝った! ウルゴスマン凄い!」
「ふぉぉぉ、かっこいい! サイン欲しい!」
幼女が興奮してぴょんぴょんと飛び跳ねて、天井から覗いていた祓い師の一人、フードをかぶった人も全力で拍手をしていた。
なんかとても恥ずかしい。おっさんが中身だとは思われたくないです。とりあえず腕組みをして、強者感を見せるかね。恥ずかしいと言いながらもカッコをつける出雲は、少しだけ調子に乗っていた。
倒したホウショクから魔力が漏れ出し、俺の身体へと入ってくる。
『奇跡ポイント30万取得』
調子に乗っていたおっさんの心は最低まで落ちた。あんまり貰えなかったことにしょんぼりである。魔王なのに安い報酬だ。ちくしょー。
灰の山から、欠けた茶碗を拾い浄化しておく。ポイントも欲しいしね。
『奇跡ポイント5万取得』
やっぱりあんまり貰えなかった。魔王なのに、魔王倒したのに。がっかりだよ。
『ふむ……恐らくはステータスカンストしておったな、こやつ』
『はぁ? 進化したんじゃないのかよ?』
『所詮は欠けた茶碗が核だったのじゃ。きっとレベル20でカンスト、進化先もなしという感じじゃ』
『あぁ、そういう……。本当に哀れな奴だったのね。この先の未来はなかったというわけか』
リムの言葉に納得する。なるほどねぇ、ゲームでもそういう仕様の育成ゲームあったなぁ。初期の魔物はレベルがすぐにカンストするから使えないんだよね。だから、ポイントも低かったのか、納得。
リッチとかなら、もっと強くなっていたんだろうなぁと思いながらも、どうやって立ち去るか考えようとして異変が起きた。
地下から膨大な魔力が噴き出してきたのだ。間欠泉のように噴き出してきて、その全てが俺へと集まり吸収していく。
『な、何だこりゃ?』
『地脈に配置した水晶が、所有者が滅んだことにより、内包する魔力を全て解放したのじゃろ。それを吸収力が暴走している壊れた掃除機が吸い込んでいるのじゃ』
『誰が壊れた掃除機だ』
驚きながらも、なるほどねとニヤついてしまう。周りにもその膨大な魔力は見えているらしく、喝采は止み、吸収している俺を注視している。
数秒で魔力の吸収は終わり、ボードに結果が表示された。
『奇跡ポイント:815万ポイント取得』
『キタキタキター! やった! 来たよこれ、キタキター!』
うひょおと、小躍りしそうになり、なんとか我慢する。その喜びの姿は数万円ぶっこんで、ようやくパチンコで確変を引いたおっさんの如し。内心は小躍りして喜びを表したいが、表面上はようやく当たったかと、冷静な表情を作っている感じだ。昔は7が揃うと5連チャンだったよねと、余計なことも思い出すおっさん。
「君は何者だね?」
喜ぶおっさんに、天井から軽やかに降りてきた祓い師たちが尋ねてくる。その身体に風を纏わせて、神聖力を宿られている神具を手に持ち、警戒の表情で。疲れてはいるみたいだが傷などは負っていない。ホウショクの攻撃を受けたら脆弱な人間では簡単に死ぬから、無傷か死なんだろうね。
「我はウルゴス。堕ちたる神にして、希望を集める大魔王なり」
かっこいい着地の仕方だなと、俺もそういう降り方したいなと思いながら答える。厨二病溢れる着地の仕方だし。浮遊術を使えるから、同じことができるよねと思いながら、冷静に周りを見渡す。
魔力を吸収したおっさんを、喝采をあげていた人々はどう考えれば良いかと戸惑っており、自衛隊員たちはアサルトライフルを構えている。祓い師たちは警戒しており
「ふぉぉぉ! マジックと色紙を買ってくる!」
フードをかぶった少女だけは、無警戒に猛烈な勢いで文房具店に走っていく。特撮ヒーローが好きっぽい。
他の祓い師たちは警戒しているのでマトモである。でもフードをかぶったあの少女がこの中ではずば抜けて強い神聖力を感じるんだけど。最強の少女が無警戒なんだけど。テナントが開いていないと、シャッターをなんとかして開けようとしているんだけど。
「神にして大魔王……。そのような悪魔が現れることは予想していましたが、人間の味方なのですか?」
細目の男。神勢衣を着た神官が俺に尋ねてくる。細目って、少し腹黒そうに見えるよねと失礼なことを考えつつ、お決まりのセリフを口にする。
「我は人の善意により神へと至り、悪意にて大魔王と成るであろう」
本当は少し空中に浮いて、腕組みをしながら悪魔っぽい態度を見せたいけどマナはすっからかん。マナポーションを飲めば回復するが、機械がポーションを飲むと疑われるので我慢する。
「機械仕掛け……なるほど」
なにがなるほどなのかは分からないが、分かった風に頷く神官さん。なんとなくわかるよ、機械仕掛けの大魔王なら、操ることができるかもとか考えているんだろうなぁ。
まぁ、良いや。ボロが出ないうちに退却をするかと考えていたら、リムから思念が飛んでくる。
『地脈を支配しておいた方が良いぞ? 誰にも使われないようにの』
『あぁ、また魔王が寄ってきたら困るしな。だがどうすれば良いんだ?』
『知らぬ。だが、奇跡の力ならなんとかできるのではないか?』
いい加減な答えを返すリムさん。この大魔王は肝心な点で役に立たないよね。だが、奇跡を使えとの言葉は理解した。
『奇跡よ、なんかこー、適当に地脈を支配できるアイテムを創り出せ』
雑なおっさんもいい加減だった。そろそろ疲れてきて、限界が近いのだ。冷静に行動するのもそろそろ限界だ。
『交換ポイント100万ポイント:おっさん神柱。地脈付近の地を支配できる。持続的に地脈に混ざる魔力を回収する。また、どのような土地にするか決められる』
『あの、奇跡さん? なんでおっさん神? ウルゴス神とかで良いんだよ? 俺の名前でも良いんだけど?』
仕返しかな? 仕返しだよね? すまん、大雑把な願いだったよ、謝るからと願うと、名前が変更された。
『交換ポイント100万ポイント:神柱。地脈付近の地を支配できる。持続的に地脈に混ざる魔力を回収する。また、どのような土地にするか決められる』
大雑把な願いは止めておこうと、安心しながら、奇跡を発動する。
祓い師たちを無視しての奇跡の発動。今まではポンと現れたので、たいしたこともないだろうと思いながら使ったが
「な! これは!」
「眩しい!」
「なにが起こったんだ!」
ゴウと突風が巻き起こり、純白の柱が聳え立つ。眩しいが目が潰れるような強い光ではなく、優しい光。今日は何回現れたかわからない光の柱。光が収まった後には、ウルゴスの像が宙に浮いていた。5メートルほどの高さの彫像だ。黄金の装甲に、宝石の瞳、純銀の歯車を持つウルゴス像だ。
神秘的なその彫像を前に人々はどよめく。
『地脈を支配しました。関東北東全域は出雲のおっさんの物になりました。土地の種類を決定してください』
雑な願いをした影響か、嫌味的な返答をする奇跡さん。とはいえ、種類か……。
頭の中に種類が表示される。味方のステータスを1%上げる、敵のステータスを1%下げる。毒沼から森林地帯。様々な内容だ。その中でも面白そうな物を知識の中に見つけて、ニヤリと嗤う。
『魔封地:倒した悪魔、魔物の魔力の1%を水晶に封印する』
これを上手く使えば、俺が動かなくても済むかもね。
『建国します。国名を決めてください』
なんかゲームっぽい表示がされてきたよ? どうしようかね。
『国名:神庭』
胡散臭い名前にしておく。なんか悪人が支配していそうな善人の国っぽいよな。でも、なんで国名?
よくわからないなぁと思っていたら予想外の表示が記載された。
神庭
土地:魔封地
支配者:大魔王ウルゴス(出雲のおっさん)
支配している街:1
支配している地脈:1
人口9658人
毎月の税収:96ポイント
地脈からの毎月の収入:10万ポイント
施設:なし
兵力:2人
なんかゲームっぽい。
『ゲームにしてくれと願ったからじゃろ』
『く、こんなことにもなるのかよ。たしかに秀吉立志伝とか、ゲームであったよ、そんな感じのゲーム。国作りもできるやつ! あと、この奇跡さん、名称に悪意を感じるよ? そして、あっという間に滅亡しそう! 兵力2だし!』
最低500人は兵士っているんじゃないのかと文句をつけるが、出雲よりも戸惑っている細目の男が話しかけてくる。そういや、完全に無視してたわ。
「この彫像はなんですか? 何をしました?」
「この地は我の支配する地へと変わった。汝らが落ち着いた時に続きは話すとしよう」
ごめん、放置プレイも良いところだったな。イベント中に、ステータスボードを操作するマナーのなっていないプレイヤーみたいなもんだし。
なので興奮冷めやらぬ人々を指差して、俺が落ち着いたら連絡するよと答えておく。だいたいそのような引っ越しみたいな場合、近所とは縁が切れて連絡はしても最初の数回で終わるんだけど。
とりあえずは落ち着くのは俺である。この膨大なポイントを有効に使わなければならない。なので脱出アイテムを作成。
『交換ポイント10万:転移の羽。1キロ圏内にテレポートする。消耗品』
天井があると使えなさそうなアイテムをこっそりと作り出して手に持つ。
「支配地? どのような話なのかわかりません。ウルゴスよ、ここは話し合いの場を」
ウルゴスマンとは話し合いによる解決ができると考えた神官さん。でも、今はかんがえを纏めないといけないので、あとでな。
「無用だ。時が来ればわかるであろう」
それらしいセリフを吐いて煙に巻く。なんだかとっても意味ありげなセリフだ。
時が来れば。良いセリフだ。なるほど、漫画とかのボスはこう言って何も考えていないことを誤魔化していたのか。時が来れば。便利なセリフだよね。きっと漫画のボスも考えなしだったんだよと、自分を基準に考えるおっさんである。
細目の神官の言葉を制止して、転移の羽を使う。一瞬でウルゴスは消えてしまい、人々は戸惑いの中、聳え立つ神聖さを感じさせるウルゴス像を眺めるのであった。
「まだサイン貰ってない!」
ふんぬーと怒る少女の叫びが木霊したりもした。
転移の羽。覚えている場所へと転移する神具。ゲーム的に転移できるので、ハエとか埃とかと融合はしない安心安全なアイテムだ。
それを使い終わった出雲は転移した場所をきちんと思い浮かべないとだめだと痛感していた。
「どこだよ、ここ?」
ウルゴスの変装を解いて、這うように出てくる。なにか狭いところに転移したのだ。俺は人気のない、監視カメラもない所にテレポートしようと願ったんだけど?
見ると、自分は冷蔵庫から這い出してきていた。
粗大ゴミ置き場
「なるほど、俺の強運を褒めないといけないか?」
回収シールを貼られて、虚しく置かれている電化製品たち。その場所に転移したらしい。この場所ならば、誰にも気づかれまい。感知にも人は引っかからないし。
「粗大ゴミを回収して貰うのは高いんだぞ」
おっさんは即ち高いのだと皮肉げに口元を笑みへと変えて歩きだす。さて、この国システム。俺は天下を狙わないといけないのかしらん。