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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
1章 プロローグ

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27話 平凡では無理なのじゃ

 ホウショクは悪魔の本能に引きずられていた。煮えたぎるほどの怒りが魂から湧いてきて、視界が真っ赤に染まる。だが、なんとか理性を持って耐えていた。


 気づいていた。戦いをするごとに、感情を抑えられなくなり、自らの意識が薄れていくことを。


 消えそうだ。敵の法術による大ダメージ。恐怖と怒りから、自身の自我が悪魔の本能に喰われていくのを感じる。わかる、わかってしまう。このままでは、魔王ホウショクは餓鬼の王として悪魔として存在を変えるだろうと。人間の時の記憶は薄れていき、転生したなどと楽しんでいた自分は消えてしまう。


 強い危機感を覚えてしまう。知っている。このようなパターンを見たことがあるのだ。漫画やアニメ、小説にゲームまで。だいたいこのようなパターンだと、哀れな犠牲者は悪魔に喰われて主人公に倒されてしまう。


 そんなことにはなるまいと深く深呼吸をすると、精神を落ち着ける。勝てる。このブリキ野郎には勝てる。勝てたあとに気を落ち着けよう。


「吾輩の力はこんなものではない!」


『引っ掻き』


 自分の背丈よりも長い、枯れ枝のように見えながら、鉄よりも硬く鉄をも切り裂く力を持つ左腕をウルゴスに振り上げる。金属製のブリキ人形。恐らくは既に人間の魂は喰われて、その自我はほとんどなくなり機械のように感情を見せない自分の末路のような存在へと。


 赤黒いオーラが軌道に残るが、ウルゴスは機械の体で無感情に冷静に動けるのだろう。僅かに後ろに下がると、その爪撃をスウェーで躱す。


「喰らえっ!」


『連撃爪撃』


 摺り足にてウルゴスとの間合いを詰めて、右の横薙ぎから、左腕の斜め切り、鷲掴みにするために、鉤爪をウルゴスの頭へと突き出す。


 餓鬼である自分の顔は醜悪だ。常に飢餓に苛まされて、ともすれば人間としての自我を消す。だからこそ、ホウショクはゲームのように、小説の主人公のように振る舞っていた。魔物に転生して成り上がる。そう考えて行動をしていた。


 しかし、横薙ぎをバックステップで躱し、斜めに振り下ろすホウショクの腕をウルゴスは左手を添えるように突き出すと受け流す。そのまま腹へと蹴りを繰り出してきて、なんとか耐えて鉤爪を突き出すと、掴まれる寸前で頭を僅かにずらして、ウルゴスは躱す。そのまま前に踏み込んできて、右拳を繰り出してきた。


「グウ!」


 悪魔たる餓鬼の内臓はほんの赤ん坊の拳程度の小さな胃だけである。しかもいくら食べても飢餓に襲われるように、その身体に比べると遥かに胃は小さい。しかしいくら内臓が無くとも、ウルゴスの攻撃により体は揺らされ、衝撃波が身体を奔り激痛が襲ってくる。


「負けぬ、吾輩魔王!」


「そうか」


 勝つのだ。焦燥が自身を襲う。せっかく薄れゆく自我をなんとか保たせて魔王水晶を盗み出し魔王へと進化したのだ。そうすることで自我が消えないようにしたのだ。


 消えたくないという意識を強く保とうとし、されど魔王の餓鬼の本能が強くなり、攻撃はより荒々しく、強く激しくなり、自我は薄れていく。


 もはや連撃は形をなしておらず、子供が泣きながら暴れるように手を振るう。だが当たらない。躱されて受け流されて、反撃を受けてしまう。


 何度目かの攻防にて、ホウショクは悟った。このブリキの野郎は格闘術を学んでいる。力任せの自分では倒すどころか、ろくに攻撃を与えることもできない。


 既に体の半分は崩壊している。奴は本当に大魔王なのだろうか。


「うおぉぉ!」


 両手で抱きしめるように捕まえにかかる。と、ウルゴスはホウショクの拳を掴んできた。


「力比べ、吾輩負けない!」


「そなたの力を検証し、これからの悪魔との戦闘の糧とする」


 冷静にして無感情な機械のようなウルゴスの物言いに激昂して、押し潰すように力を込める。


「よろしい。力比べといこう」


「吾輩の力を見よ!」


 3メートルの巨漢。その体重をも利用して、黄金に輝く装甲と宝石の瞳に、銀の歯車にて動く悪魔を破壊しようと力を込める。対して相手は2メートルも背丈はない。勝てる、勝てるはずだと信じていたが


「くっ、ぬぬぬな」


 実際は押し負けていた。ホウショクの筋力は一トンの重さも持てる。それなのに金属製のブリキ悪魔は一歩も押し下がる様子はなく、反対に押し返してきていた。


「ごあっ!」


 メシリと音がして、肘が極められて、折れようとする。力比べでもこの小兵に負けたと悟り、慌てて乱暴に手を振り払い押し下がった。


「はあっ!」


 その隙を逃さず、ウルゴスは押し下がったホウショクへと、ふわりとジャンプすると、華麗に身体を縦回転させて、頭へとサマーソルトキックを繰り出した。


 自身の身体は特殊合金だ。いかなる攻撃も耐えられるはずと信じていたが、神聖力の籠もった蹴りはホウショクの頭を体にめり込ませるほどの威力を見せた。


「が、ガバッ」


 よろけながら、悪魔であって良かったと、ホウショクは思いながら構え直す。人間ならば、頭を身体にめり込ませたら死ぬ。悪魔だからこそ、耐えられたのだ。


「部位破壊は無意味か? しかし、目がなくなるとどうなる? やはり見えなくなるのか? 要検証だな」


 ピカピカと金色の身体を持つブリキ野郎は淡々と作業のように結果を確認し呟く。


「魔王たる吾輩を前に不遜不遜」


 怒りにより悪魔の本能が表に出てきて、言葉足らずになりながら憎々しげにブリキ野郎を睨む。喰ってやると、喰いたいと強烈な飢餓を覚えながらも、なんとか打開策はないかと、ホウショクはウルゴスを観察し、あることに気づくとニヤリと嘲笑う。


 逆転できるかもしれない。吾輩天才と。




 ウルゴスこと出雲は、ホウショクを逐一観察しながら戦っていた。そしてわかったことがある。


『こいつ、戦闘もちぐはぐだな。考えているようで、途中から大雑把に変わる。怒りと恐怖が伝わってくるが、その感情が足を引っ張っている』


『うむ……もはやここまでダメージを受けたら人間の自我は保ってられんじゃろ。所詮喰われた魂の記憶が水面に写り込んでいたようなものよ。人間本人ではないのじゃ。水面が揺れれば消えてなくなる程度、哀れな悪魔よ』


『そうか。こいつは人間のフリをしていた悪魔か……たしかに哀れだな。……だが、それでもなにか方法を考えついた様子だぞ』


 リムのセリフは哀れではなく、嘲笑うような声音であった。元悪魔王だからだろう。餓鬼として生まれて、人間の記憶を反映してしまったとは哀れだと俺は思いながら、なにやらホウショクが雰囲気を変えたことに気づく。


 どうやらろくでもないことを考えついたらしい。その顔は醜悪で下卑た笑みを浮かべている。


「お前、後ろ見ろ!」


「ん? あぁ、そういう意味か」


 見なくともわかる。後ろには野次馬と化した人間たちがいる。狐のぬいぐるみを持った幼女も一緒だ。逃げて欲しかったけど、逃げなかった人々だ。日本人の平和ボケした性格が悪いところで表れていた。


「ぐはは、吾輩天才。お前避けられない。ヌゥゥゥゥン」


 ボロボロの餓鬼王は哄笑しながら、その両腕にマナを籠め始める。わかる、物凄いわかる。あれだろテンプレだろ? 本当にこういうパターンあるのね。


 はちきれんばかりに筋肉を膨張させて、ホウショクは武技を鉤爪を伸ばし、両腕を振るう。振るわれた爪の軌道跡に赤黒い光る刃が生み出されて飛んでくる。


『剛力飛爪』


 両腕をクロスさせて俺はその攻撃を素直に受ける。5本の爪は身体を僅かに切り裂いて、金属片が散らばっていく。結構な痛みを感じながら、金属片をちらりと眺めると、白き粒子となって、空気の中に溶けていった。


 本来は血のはずだ。だが、変装スキルはしっかりとその点もフォローしてくれる模様。そして俺の血も床に落ちる前に溶けて消えることが判明しました。これ、大怪我できんな。


「躱せば後ろの奴らまっぷたつ! お前躱せない! シネシネ!」


 遠距離攻撃に切り替えた理由。俺が躱せば後ろの人間が死ぬからである。こんなことって、本当にあるんだなと感心しながら体力を確認する。


 どうやらステータスボードは俺とリム以外は見れないようで、哄笑しながらホウショクは攻撃を繰り返してくる。


 体力82


 ガツンとまた攻撃を受ける。


 体力77


 傷跡が装甲に残り、またもや体力が減る。たった5であった。これは魔力値が絶望的に餓鬼は低いからなんだろう。ふむふむ、武技は魔力値が関係すると。たぶん遠距離攻撃系統の武技は魔法扱いなんだろうと推測する。近接は筋力も関係するからな。


「カチカチ、ワガハイカチ!」


 得意げに攻撃を繰り返すホウショク。こいつのマナってどれぐらいあるわけ? ゲームキャラじゃないんだから、マナの容量もあると思うんだけど。威力なさすぎな武技である。もしかしてレベル1……マナ消費2とかかな? それなら魔王のマナが100とかなら、まだまだ尽きないか。


 冷静にして機械的に淡々と情報を集めていく俺を他所に、ホウショクは勝利が近いと考えてますます調子に乗り、人間たちは逃げないで固唾を飲んで俺を見つめている。あの、逃げてほしいんだけど? これは特撮ヒーローショーじゃないんだけど?


「がんばれ、ウルゴスマン!」


 拳を握りしめて、狐のぬいぐるみを持つ幼女がふんすふんすと応援をしてくる。3分間しか戦えなさそうなリングネームをつけられたよ。


 見た目には魔王の攻撃を耐えているヒーローに見えるんだろう。たしかに体力は50を切りそうだな。


『しゃあない。そろそろ決着をつけるぞ。支援よろしく』


 俺は一人じゃないんだ、ホウショクよ。残念だったな。


『了解じゃ!』


 不可視のリムがカサカサと近づいてきて、そっと俺の背中に何かを貼る。符なのだろう。


『対抗魔法障壁改』


 貼られた符が力を発揮する。ウルゴスの身体から金色の粒子が爆発的に溢れ出し、神々しい光が金色の身体を覆う。この輝きにより、ウルゴスの姿は光の人型にしか見えなくなり、キラキラと粒子が宙に舞う。


「ウルゴスマンの必殺モードだ!」


「勝ったな!」

「おぉっ!」

「やったぁ!」


 金色の大魔王は最終モードに変身したように見えて、幼女は興奮してぬいぐるみをぶんぶん振り回す。周りの観客もその姿を見て、勝利を確信した喝采をあげる。


『どうじゃ、一分間敵の魔法攻撃を5減少させる符術じゃ。改なのは黄金のエフェクトを入れたからなのじゃ』


 余計なことをするリムである。こういうのよく思いつくよな。たしかに見た目は完璧だ。超パワーアップしたように見える。特撮ヒーロー物なら勝利パターンだよね。


 感心する俺にホウショクの飛爪が飛んでくるが、今度は黄金の粒子に触れると弾けて消えてしまう。


「ナ、ナニガオコッタ?」


 諦めることなくホウショクは飛爪を繰り出してくるがその全てが黄金のオーラに弾かれて消えていく。その様子を見て、ホウショクは恐怖の表情となる。なにか俺って物凄いパワーアップ感出してるしね。わかるわかるよ。


『神聖小剣創造改』


 降臨エフェクトを使い、純白の光の柱を生み出すと、リムはその中に符の小剣を創り出す。見た目は完璧だ。神々しさと強力な力を秘めている。まさに最強の剣という感じ。


 ゴウッと突風が吹き荒れて、神聖な眩い光が辺りを照らし、光の柱の中に神聖なる短剣が宙に浮いて現れて、人々はその力を見て、感動と感嘆の声をあげる。


 神聖小剣作成:攻撃力5。効果時間1分間。効果時間をすぎると消える。


 見た目だけは。銅の剣にも負ける攻撃力だけど。リムめ、さすがは詐欺悪魔。騙すことに関しては天才的だな。小剣なのが少ししょぼい。でもそれしかスキルないんだ。


 とりあえず、重々しい歩きで柱へと近づくと、小剣を掴み取る。


「キ、キサマ! ソノケンハ」


 恐ろしい力を感じると、ホウショクは見た目だけで判断した。アホな悪魔だが、無理もない。それだけ、見た目は神々しい。でも、神聖力を感知すれば低いレベルだとわかるんだけどね。


「終わりだな」


 リムのマナもそろそろ尽きるはず。俺の大天使薬の効果もあと数分だ。


 完全に萎縮しているホウショクへと小剣を持って、間合いを詰める。


「近寄るなぁ! 吾輩は成り上がって、無双して」


 めちゃくちゃに振るってくる腕を、ステップを踏みながら躱していく。踊るようにホウショクの攻撃を寸前で回避しながら、小剣に残りのマナを注いでいく。


『鋭刃』


 切れ味を武技で上昇させると、純白のオーラが小剣を覆う。


「さらばだ、ホウショク」


 左足を支点に、身体を回転させながら、ホウショクの身体を切り刻む。もうマナがないので、ひたすら攻撃だ。必殺技が欲しいところだよ。


 だが、ステータス200の速さを持つ攻撃は、人の目には視認も難しかった。ウルゴスの身体がブレていき風のように素早い攻撃を見せて、ホウショクは切り刻まれていく。


「あ、ワガハイハ」


 血風の中でホウショクはその身体を灰へと変えていき、崩れ落ちる。そうして、最後に手を振るおうとした体勢で灰の山へと変わる。


 古びた欠けている茶碗を残して。昔、腹を空かせて死んだ者が持っていた茶碗だったのだろう。


「それがそなたの正体であったか」


 飢餓に苦しんだ怨念が魔道具となり餓鬼となったのだろうと思いながら小剣を一振りし、出雲ことウルゴスは魔王ホウショクの討伐を終える。


 勝利した金色の機械仕掛けの大魔王の姿に人は喝采をあげるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] サマーソルトじゃなくて、踵落としなんじゃないかな?
[気になる点] その隙を逃さず、ウルゴスは押し下がったホウショクへと、ふわりとジャンプすると、華麗に身体を縦回転させて、頭へとサマーソルトキックを繰り出した。 自身の身体は特殊合金だ。いかなる攻撃も…
[一言] はえーそら幼女の純粋な祈りを捧げられた神()は強いですわ 神にも悪魔にもなれるウルゴスカイザーZをダンボールで作らなきゃ
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