120話 妾のせいではない
漆黒の空間に多くの人影があった。人影はそれぞれ多彩な姿をしている。4本の腕を持っていたり、目が体中にあるもの。金属の体を持つもの。様々だ。そこには大悪魔、そう呼ばれる者たちが集まっていた。
その中心で抱えきれないほどのコインを腕に持っている者がいた。コウモリの羽根と捻じくれた角を持つ褐色の美少女であるリムだ。
本来は嬉しそうにするはずが、気まずそうな顔になっている。
「妾のせいではない」
開口一番、リムは弁解の言葉を口にする。
「それなら、今回の賭けは無効ということで良いですね?」
ボロボロのタキシードを着込んでいるメフィストフェレスがジト目で尋ねるが
「それはそれ、これはこれじゃ。今回も妾の勝ち。2連覇で悪魔王となったのじゃ」
「詐欺だ! 今回の賭けは無効でしょう!」
「そうだそうだ!」
「いくら払ったと思ってるんだ!」
「一人勝ちはないだろ!」
「なんとでも言うが良い。魔界のルールは何をしても勝てば良いのじゃからな」
ジャラジャラとコインを手にして、うししとリムは嗤う。コインは大悪魔たちの魂の欠片。彼らを眷属にした証だ。
「……たしかにそのとおりです。ですが、今回は明らかに別の存在がいました。神が介入するのはルール違反だと思いますが?」
倒されたはずのアスタロトがため息混じりに、リムへと聞いてくる。
「まぁ、妾もしてやられた。たしかにこの仕様は酷かった。やっぱりベータ版でテストをするべきじゃった」
「現実を舞台にするんですから、テストはできないのはわかっていたはずです。わかっていたはずですよね? 私の天才的仕様が火を吹いちゃました」
大悪魔たち以外は入れない空間に神聖なる声が聞こえて、皆はギクリと身体を強張られせる。
「そもそも、滅ぼされないように、魔道具をアバターにして、本体は魔界に置いておくなんてことをするからいけないんです。自分は命をかけないで、戦いに挑もうなんて、とってもずるいと思うんですよ。思っちゃいます」
軽い口調だが、その莫大なエネルギーから放たれる圧に大悪魔たちは苦しそうな顔になる。
「うぬぅ………」
皆は黙り込み、反論する者はいなかった。
「多元世界にて遊ぶのも程々にしておいた方が良いでしょう。ではでは」
フッと圧が消えて、皆は冷や汗を拭う。
「仕方あるまいて。神に勘付かれた時点でこのゲームは破綻していたのかもしれぬ」
「ならば無効に」
「ゲームは成立したのじゃ。返さんぞ」
絶対にこれは妾の物だと、譲る気はない。
「今回は妾の魂が削られたしの」
パチンと指を鳴らすと、漆黒の空間にモニターが現れて、出雲たちが忙しそうに走り回っている。その後ろでふよふよと浮いてついていくリムの姿もある。
神聖力の魂となったリムだ。もはや思念での通信は可能だが別の存在となっている。融合するのはもはや不可能だった。
「皆から徴収した魔力で充分に回復できるでしょう?」
「まぁ、それはそうなんじゃがな」
メフィストフェレスの言葉に頷き、リムは出雲たちを観察する。
「あのようなバカげた法術を使うとはの。結果がああなるとは考えなかったのかの?」
「ある意味、神らしいでしょう」
世界は神聖力が満ち溢れ、人間たちは消えて天使たちだけとなっていた。天使の羽根を羽ばたかせて、空を飛んでいる。
「あれを元に戻すのは大変そうじゃ」
「地脈から抜き出した魔力を撒き散らすしかないでしょうな」
「まぁ、ゲームは終わりじゃ。妾たちはもうこの世界から去る」
「神に目をつけられても困りますからね」
そうして漆黒の空間に存在していた大悪魔たちの気配は消えていく。この世界から大悪魔たちは去ったのであった。
「おかしいよね? 皆虚ろに空を飛ぶ天使たちになっているよ?」
出雲は空を飛び、のほほんと暮らす天使たちを見て顔を引きつらせていた。迂闊な法術を使ってしまった結果であった。
「大丈夫ですよボス。天華は正気でした。音恩も大丈夫でしたよ。機体に乗っていたから影響を受けなかったようです」
トニーは幸せそうである。
「天華たちだけ正気でも仕方ないだろ。これ参ったなぁ。どうしよう?」
もはや天使たちは食事も必要なさそうだ。これはやばいやつだよね。
「だから使うなと言ったであろうが! 地脈の魔力を抽出して、世界に散らばる神聖力を薄めていくしかないの」
「おぉ、それならば10億近く奇跡ポイントがあるから、神聖力除去装置を出してもらおう」
とことん奇跡さんに頼るおっさん出雲である。
「なんというか……」
「なんというか?」
「バッドエンドというやつじゃな」
「ロウルートと言ってくれ」
仕事をするかぁと俺は嫌な顔をして、皆に指示を出す。まずは日本を修復するとするかね。
世界を元に戻すのは5年かかったとか、ウルゴスマンの唯一神の宗教が生まれたとか、大変な未来となったのだが
とりあえず、魔界から天界にしたのだから、ハッピーエンドで良いよね?
〜おしまい〜
新作モブな主人公を書き始めました。




