118話 恐山に進軍なのじゃ
『北地方の地脈半分を支配しました、他の地脈も支配しますか?』
『はい、だ』
東北地方。半ばまで攻めていた出雲は、地脈を利用して全てを制圧しようとしていた。というから恐山の手前まで来ています。
「いいえじゃ! いいえじゃー!」
ぽよんぽよんと柔らかい胸を押し付けて、リムが俺にしがみついてくる。涙目となり、必死な様子の小悪魔だ。俺の腕を胸で挟むなんていけない子だ。剥がそうと、俺は腕を軽く揺らしちゃう。ぷにぷにだ、最高だね。
なので、リムの話を聞くことにしてあげる。
『はい』
とりあえず、制圧を選んで置いた後にね。
「ぎゃー、やりおったこやつ!」
アンビリバボーと俺から離れると、両手で頬を挟んで絶叫するリム。
「何か俺やっちゃった?」
「やっちゃったのじゃ! あぁ〜」
悲鳴をあげるリムは放置して、俺に魔力が集まってきた。およよ? なぜか空からも地上からも莫大な魔力が流れ込んでくる。天地は震え、俺の身体が弾け飛びそうなほどの重圧が……ふしゅるるると吸収したので、なかったけど。相変わらず空気を読まないおっさんである。
『奇跡ポイントを12億ポイント入手しました』
『東日本の地脈を全て支配しました』
「おぉ? なんか東日本を支配したね?」
東北地方を支配したんじゃないのか? なんで東日本? なんか莫大な魔力を吸収したよ?
「あぁぁ、県境が無くなっていると表記された時から嫌な予感はしていたんじゃ! やはりこうなったか!」
「そうか、そうだよね。県境が無ければ、神様仕様な俺だと地脈を半分以上支配すればこうなるよね」
予想して然るべきだったねとうんうんと頷く。やったね。東日本を支配したよ、奥さん。んんん? 北海道も制圧したのか? それはおかしくない? もしかして支配されたのは東北地方だけじゃなかったのかよ。
「神様って、ほんっとチートじゃよな。理不尽極まりないのじゃ」
「まぁ、神様だからね。でも成長テーブルを見るに足りないぜ。何しろ501からは1上げるのに1000万ポイント必要だし。スキルなら7レベルにスキルアップするにには1億、8レベルは10億だね」
これ、レート高すぎだろ。能力を上げさせるつもりないよね、奇跡さんや。
「とりあえず体術と短剣術をレベル7に。で、成長終わり」
なんとも悲しい成長。簡単に終わったのは、高レベルだからだ。だが、身体の動きが人外から、次元が変わったように感じさせてくれる。神の領域に入ったのかな?
恐山には多くの悪魔たちが立て籠もっており、こちらとの決戦に備えていたが、いきなり地脈を奪われたことに気づいたようで、動揺の気配を感じる。まだ十キロは離れているのに、感知できるとは、体術7レベルは本当に凄い。
しかし、俺が感心する間もなく、敵の雄叫びが響き、砂煙をあげて悪魔たちが一斉に降りてくる姿を確認できた。
「地脈を支配されれば、もうジリ貧だもんな。これでここも終わりかな?」
「またじゃ、まだ終わらんのじゃ! 大悪魔魂を見せるのじゃ!」
「なんで俺のパートナーは敵の応援をするのか、一から教えてくれ」
うぬぬと拳を握りしめて、敵を応援する悪魔王である。そろそろ殴っても良いと思う。とやっ、ぽよんぽよん。
「あーっ! ご主人様が遂に手を出したっす!」
合流していた茜が非難の声を上げて、俺を見てくるが仕方ないんだ。悪魔を退治しないといけない感情に襲われたんだ。
「攻めてくる悪魔はどうするんです?」
ハクがよちよちと幼女は抱っこされるのが大好きなのですと、リムによじ登ろうとしながら尋ねてくる。
たしかに結構な速さで山を降りてくる奴らはそこそこの魔力を持っている。平均70程度だろう。種類も羊頭のバフォメットから、狼男や虎男、魚の身体を持ち2本足で駆けてくるサハギンたちは強そうだ。
「だけどなぁ………時代遅れの敵だよな。茜、魔力の高い奴らは間引きしてくれ。翔、敵を混乱させろ。レンダは一斉射撃。ハクはそこにドーナツあるから食べていてくれ。リムは俺の肩の上な」
了解と、皆はテキパキと行動を始める。ポーン改の持つロングビームライフルが隊長らしき悪魔を狙い撃つ。空中を光線が飛んでいき、走る隊長悪魔を貫き倒す。翔が敵の進軍経路に落とし穴やマキビシなどを設置して、敵の体に取り付いてサクサクと猟奇的に肉を削っていく。
混乱する敵軍にビットをまるで雲霞のように解き放ち、空中を駆けてビームを撃ち放ち、一斉に敵を撃ち倒していった。
ハクが幼女天使たちとドーナツの取り合いをして、リムは空にふよふよと浮かび、俺の肩に胸を押し付けて半眼となって悲惨な光景を見ていた。最後が少し変だが、特に問題ないだろう。
「我が軍は圧倒的ではないか」
「兄上は存外厳しすぎる」
俺がフフンと倒されていく悪魔を見ながら呟くと、すぐさま合いの手を打ってくれるパートナーである。
「のぅ、これはさすがにずるいと思うのじゃ。機動兵器対騎馬隊とか、長篠の戦いよりも酷いぞ」
「三段撃ちって、嘘らしいぜ。まぁ、なんにせよ、あれじゃ対抗できないよぁ」
魔王レベルでも倒せそうなナイトたち。量産型として作られたアカネズの最新型機動兵器は、最強だ。量産型のビット搭載機動兵器は本当に強すぎると俺も同意である。
「でも、少し不思議なことがあるんだよ」
「なんじゃ?」
「東北地方だけじゃなくてな、北海道も支配できた。支配速度さすがに速くないか?」
春までに北海道まででって、さすがに早すぎる。大悪魔って、そんなに強いのか?
「………北海道まで支配できたのか? それはたしかにおかしいの……あそこには他の大悪魔がぁぁぁぁっ! 駄目じゃ、早く退却しよう。ここにいるととてもまずい!」
この悪魔王はやはり大悪魔のいる場所を掴んでいるらしい発言である。俺の背中をぐいぐいと押して退却しようと言ってくる。
「なるほど、ここにいるとまずいのか。俺を気遣ってくれるのか?」
「そのとおりじゃ。ここにいるとまずい!」
「わかった、ここにいよう」
「逃げようと言っているのじゃ!」
こんなに焦るリムはあまり見ない。なるほど危険なのか。なら待とう。何しろリムの優しい気遣いだからね。
俺が頑として動かないことに、リムは再度大声をあげようとするが、遅かった。どーんと轟音をあげて、俺の目の前で粉塵が舞い上がり、何者かが落下してきた。
「ふん、やはりいたかよ」
もうもうと砂煙が舞い上がる中で、クールそうな男性の声が聞こえてくる。
「ふむ、ですがやはり私たちに気づいてはいなかったようですよ」
「ギャハハハ! ここでお前らは終わりだ!」
砂煙が収まっていくと、3つの姿が見えてくる。一人は捻じくれた角を生やしコウモリの羽根を生やす灰色の髪の男だ。2枚目だが、いかにも私は大悪魔ですといったクールそうな顔である。マントを羽織り中世の貴族のようだ。
一人はタキシードを着込んだ男だ。その瞳は赤く、顔色は青白い。口から覗く尖い牙が私は吸血鬼とアピールしていた。なるほど、だから、狼男に虎男が敵にいるのか。ビームに撃たれて吹き飛んでいるけど。
最後は龍の姿をしていた。半透明の身体を持つ水龍だ。面白そうに口を開けて嗤っている。
3人ともに強い魔力を持っている。平均500といったところだ。
「驚きましたか? 私たち大悪魔が組むとは考えていなかったでしょう?」
「くっ! まずいのじゃ。大悪魔3匹は敵わぬ! ここは妾に任せて逃げるのじゃ!」
懸命な表情で俺を逃がそうとするリム。その優しさに涙が出るよ。
「おっと、そうはいきませんよ? 貴女が神もどきに私たちの情報をリークしていると考えていましたが、やはり当たっていたようですね。そして私たちは貴方を逃がすつもりは毛頭ありませんよ!」
「私の名前はノスフェラトゥ。真祖のヴァンパイアとしてお知りだと思います」
タキシードの男がせせら笑いながら名乗る。
「俺の名前はリヴィアサン。全てを洪水に沈める龍だ!」
「最後に私がアスタロト。魔界の公爵にして、次期悪魔王! この3人が組むことは予想もしていなかったでしょう?」
ポーズをとりはしなかったが、3人は名乗りをあげて、魔力を体に集め始める。
「逃げるのじゃ、出雲!」
叫ぶリムだが、既に敵は3人の合体魔法を使う。
『深淵血獄霧』
リヴィアサンの身体が霧に変わり、ノスフェラトゥも同じく霧に変わり融合する。アスタロトが手を翳すと莫大な魔力を放ち、その霧に強化の力を使う。
禍々しい赤黒い霧が辺りに広がっていく。
「これこそ、我らの合体技! この霧はノスフェラトゥの吸血の力と抵抗を打ち破るリヴィアサンの力が籠もっています。そして、最後に私がそれらを強化増幅する魔法を使い、完璧な技となった! 貴様の部下は全て吸血され枯れた木のようになり、我らの不死の眷属と化す!」
口上をあげて得意げに告げてくるアスタロト。霧が辺りに散らばり………。
ふしゅるるると全てを吸収した。
『奇跡ポイントを1億1500万取得しました』
「………」
「………」
アスタロトは手を翳して動かない。顔が硬直している模様。
「前、言ったじゃろぉぉ! こやつは魔力を吸収するから自然系統は駄目じゃと! 本来の流れは天華が吸血鬼に寝取られて、トニーが苦しむ面白イベントになったはずなのに!」
地味に酷いことを口にする元大悪魔である。
「言ってましたっけ?」
アスタロトがキギッと首を動かして尋ねてくる。
「定期会合に来ないから、そうなるのじゃ! 重要情報ということで、何回もリマインドしたわ!」
人の個人情報をリークしている犯人が判明した瞬間であった。
「………最初の会合以外出ていなかったので………」
どうやらノスフェラトゥとリヴィアサンは出落ちだった模様。なるほど、俺に対して霧とかでの攻撃は最悪だよね。
なるほど、本来ならば北海道に攻めたトニーたちはノスフェラトゥに苦戦するのか。そして、天華が吸血されちゃったりするイベントをリムは考えていたと。
酷いことを考える悪魔リムだ。トニーは落ち込み絶望しちゃうぜ。
「………」
「………」
気まずい時間が過ぎる………。
「ふははは! 神よ、この魔界公爵アスタロトがお相手をしてあげましょう!」
「ならば、この俺が貴様を倒す! 変身っ!」
仕切り直しをする二人であった。
ノスフェラトゥにリヴィアサン? そんな悪魔はいなかったのだよ。




