表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
3章 東北征伐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/120

117話 東北方面軍なのじゃよ

 茜は西から攻めるようにとの命令を受けて進軍を開始していた。


 季節は春。暖かい風が冬の余韻を消していき、新たなる生命の息吹を感じさせてくる。平原には新芽が生えて、木々は葉が生い茂り緑の世界に辺りを変えていた。


 ズシンズシンと音を鳴らして、歩く機動兵器ポーン改の肩に乗りながら、茜は頬杖をつき眠そうに目をこする。


「眠そうでござるな、茜殿」


 ちょろちょろと茜の肩に乗ってきたくノ一人形。いや、人形ではなく分裂した翔が茜を覗くように見上げてくる。


「あたしは怠惰っすからね〜。軍の司令官とか似合わないんっすよ」


 ふわぁと大あくびをして、眠そうな茜を翔はなるほどとコクコクと頷く。そして、不思議そうにコテンと首を傾げてきた。


「ならば司令官は変わるでござるよ? 拙者は司令官とか慣れているでござるし」


「駄目っす。ここで引き篭もったら、あの人誰とか新人に軽んじられるっす。あたしは方針転換して、ご主人様の愛人枠に収まるつもりっすけど、その前に功績は立てないとまずいっすよ」


 可愛らしい自身の容姿は理解している茜。しかもご主人様の無意識の中にある女性像の一つを形成していると思っているので愛人枠は問題はないだろう。だが、皆から忘れられて、中華料理を食べる時、天津飯だけでいいよ、飲茶? いらないいらないとか言われたくないのだ。


「そんなもんでござるか。まぁ、気持ちはなんとなくわかるような?」


「そんなもんなの。それよりもトニーの部隊は北海道に回ったっすか?」


 ポーン改が歩くごとに揺られながら話を続けると、翔はコクリと頷く。


「新潟県方面はあっさりと片付けてしまったでござるからな。大悪魔がいなければ、戦闘は楽勝だったようでござるよ」


「先走ったことは怒られていたっすけどね。でも、予想通りあたしの機体は強いっす」


「しかも敵の眷属の10倍の戦力ですからなぁ。この先にも敵はいないと思うでござるよ」


 翔は常に分裂している。そして、各地に斥候として侵入しているが、魔力が高いので150程度の悪魔しか確認できていない。その程度ならばナイトで包囲すれば倒せるので、今のところ障害は全くなかった。


 たまに魔力が200を超えるものがいても問題はない。


「茜殿。この先、60キロに悪魔長を発見したでござる」


「了解っす。ポーン改、スーパーロングライフルセット」


 自身の作り上げた茜専用機に命じると、ポーン改はピタリと止まり、肩からスナイパーライフルを外して構えをとる。


 茜は鼻歌混じりに、人形を操る。たぶん出雲も忘れているだろうが、茜は人形遣いだ。直接操る人形の性能は他の3倍以上の性能となる。


 スラスターを吹かせて、ポーン改が空へと浮き上がる。高空まで浮くと、スコープを覗き翔の教えてくれた場所を確認する。


「いたいた。バフォメットっすかね? おぉ、焦ってる焦ってるっす。ナイトの侵攻に驚いているっすよ」


 ヘラヘラと笑い面白がる茜。スコープの先にはアカネズの侵攻を防ごうと躍起になって部下に命令している羊頭の悪魔の姿があった。


 だがビットを使いこなし、縦横無尽に空を飛行して敵を攻撃する量産型ナイトには悪魔たちはまったくと言ってよいほど対抗できていない。


 ゾンビは地をのそのそと歩き、撃ち倒される。グールはジャンプしてなんとかナイトにとりつこうとするが、遥かに下で手は届かない。下位悪魔たちは魔法を唱えて迎撃するが、蝶のようにひらひらと舞い、命中することはなかった。


 バフォメットは気が狂ったかのように怒鳴り散らしている。後少ししたら、自らが出陣しようと考えるだろう。


「だが、そうはいかないんすよね。やれ、ポーン改」


 冷徹なる瞳を輝かせて、茜は機械人形に命令する。カチリとポーンはライフルのトリガーを引くと、銃口から一条の光線が放たれた。


 空を裂き、遠くにいるバフォメットまで飛んでゆく。バフォメットは異様な神聖力を感じて不思議そうに顔を持ち上げて、上半身を光が通り過ぎっていった。後には下半身だけとなったバフォメットの体が残り、ぐらりと揺らぐと地面へと倒れ込み灰に変わるのであった。


「ナイスショットでござる。これで3匹目ですな」


「超超遠距離攻撃は悪魔は無防備っすね。未来兵器無双な感じっす」


 翔がぱちぱちと拍手をするので、肩をすくめて何ともないふうに答えると、ふわぁとアクビをする茜。


 だが、あることに気づいて苦々しい顔になる。


「これ、あっさりと倒しすぎて目立たない感じじゃないっすか?」


「下駄に乗っている敵が現れないとスナイパーは苦戦しないかもでござるな」


 せっかく前線に来たのに、まったく活躍の場がないと焦る茜。しかし、茜の能力は人形遣い。基本、前線には出ずに、後方支援が主だ。活躍するとなると、今回のような遠距離攻撃をするしかない。


 これは強すぎるのではと焦る茜だが、それ以降もまったく苦戦せずに進軍できたために、なにかご主人様に話せるような武闘伝はなかったのであった。





 それは出雲の部隊も同様であった。


「想定していたけど、敵は脆いなぁ」


 東から北上している出雲は強すぎる我が軍の強さに呆れていた。感心を通り過ぎて、呆れていた。だって、まったく敵が相手にならないからだ。


「量産型として最強です?」


「うーむ……まったく面白みがないのぅ」


 3000の兵を率いて東北を北上する俺たちだが、ビットが強すぎる。茜も凄いものを開発したもんだ。俺の出番がまったくない。


「成長テーブルがおかしいのじゃよ。妾はやり直しを要求するのじゃ。運営に神の弱体化を求めるのじゃ」


 ご不満な褐色少女はプンスコと口を尖らせて文句をつける。魔王レベルの機体だとはわかっていたが、これは酷い。


「でも、日本を制圧している間に、他の国を制圧してパワーアップしている大悪魔たちもいるだろ?」


 俺はジト目となり、元悪魔王に尋ねると、そっぽをむいて口笛を吹き始めた。この悪魔王は本当に詐欺師のような少女だ。いや、実際に詐欺師なのだ。


「世界には7億は生きている人たちがいるはずなのです。時間をかければ、こちらの不利になるのです?」


 ハクがコテンと首を傾げて疑問を口にするがそのとおり。長びけば負ける。そして、普通にやっていたら、日本制圧だけでも時間がかかる。


「今は圧倒的でも、直に俺の軍は圧されて崩壊しちゃうだろうね」


「この成長テーブルならば、ぎりぎり間に合うと思うぞ?」


 褐色少女が慰めるようにコウモリの羽をはためかせて言ってくるが誤魔化されないよ。


「俺は人間たちを守らなければならない。それは悪魔から助けるだけじゃない。生活を守るために、インフラを形成して、治安を維持し、日々の暮らしを与えないといけないんだ。好き勝手にやる悪魔に侵攻速度で勝てるわけ無いだろ」


「ふむ……随分と弱気の発言じゃの?」


「俺も考えたんだよ」


 東北地方が制圧されているとは、まさか考えもしなかった。たぶん2年くらい放置していれば、勢力を拡大する大悪魔たちが出てくるだろうと想定していたんだ。


 なのに蓋を開けたら、もう東北地方は支配されていた。と、なると近畿から西も怪しい。だってメフィストフェレスがいるんだぜ? あいつがどこを拠点にするにしても、支配地はかなり拡大しているはず。


「………それでは諦める……とはしないだろうから、他の手があるのじゃな?」


「神速の速さで進軍する方法を考え中」


 リムの顔が疑わしい表情に変わり、俺の顔をじっと見つめてくる。なにかろくでもないことを考えているのではと疑っているに違いない。


 なので、当たり障りのない返答をしておく。今は秘密にしておかないと、こいつは俺の作戦を必ず邪魔するに違いない。


「あたちに案があるのです! 月に言ってねんねころり砲を作るのです」


「それだと攻撃できるところ決まっちゃわない?」


「反射ミラーを軌道衛星上に配置すれば解決す、あいたっ」


 はいはいと、ちっこいおててをあげて、ハクが過激な提案をしてくる。リムがハクのポカリと頭を叩き、拳骨をグリグリと頭に乗せる。


「駄目に決まっているじゃろ! 運営としてその提案は却下じゃ、お主は本当にそんなことをしそうだしの」


 確かにハクなら作っちゃいそうだ。なるほど、意外と良い提案かも?


「契約者殿よ。こんなアホな提案は聞かない方が良いぞ? こやつはきっと設計をミスって月を落下させるぐらい平気でやるぞ?」


「やめておこう」


 即座に却下することに決めた。たしかにハクならやる。設計を間違えまちたです? とか言って地上に月を落としそうだ。世界滅亡待ったなしの展開が目に見えるぜ。


「地味に進軍するしかないかね」


「そうじゃろう、そうじゃろう。ならば急ぎ進軍するのじゃ」


 俺が諦めたことに、安堵の息を吐きリムは胸を撫で下ろす。ぽよよんと動いて、思わず注視しちゃうレベルだ。ハクはフラフラとおててを翳してゾンビの様にリムへと近寄っていた。


「まぁ、いいや。レンダ、進軍の状況はどうだ?」


「ははっ! 敵の抵抗は激しく数も多いですが、烏合の衆です。まったく我が軍の相手にはなりません」


 キビキビした軍人口調でレンダが思念を返してくる。順調だ。順調すぎるとも言う。


「しかし、人間たちが思いの外生き残っており、保護を求めてきております。ほとんどの人間が魔力を宿しておりますが、いかが致しましょうか?」


 やはり順調とは行かなかったらしい。


「ほらな? こんなふうに人間が足を引っ張るから、絶対に大悪魔たちの進軍速度には負けるんだ。荊州から逃げる劉備じゃないけど、人間たちを放置することもできないし」


「あれは連れて行った劉備が酷いとは思うぞ。だが、魔力を宿しておるのは悪人じゃ。保護するにしても難しい限りじゃの」


 なぜか嬉しそうに答える俺のパートナー。運営の思い通りに行動してくれて嬉しいわけね。こんにゃろー。


 俺の神聖力を叩き込んだら、狂信者が生まれるしなぁ。どうしよう。


「神聖力の込められたお風呂に入れればいいのです。薄い神聖力程度なら影響はないし、お風呂もあたちが作れるのですよ?」


「今日はなかなか良い提案をしてくれるね。良し、人間たちはハクに任せた。俺は恐山に向かっておく」


 東北地方の戦線はすぐに俺の支配地が半分を超えるはず。地脈を一気に支配して大悪魔とランデブーといこうじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  活報での突然のエンドロール発言に画面を切り替えて見て見れば昼からの怒涛の更新ラッシュに慌てふためく金具素屯♪しかも新作の表示まであるー(´Д` )バッド先生の止まらぬ執筆ゲインは化け物か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ