116話 大きさは戦闘で絶対の差にならないんだぜ
トニーは最近パワーアップした。こんな感じ。
倉田トニー
体力:200→400
マナ:100→300
筋力:100→400
器用:100
敏捷:50
精神:50
神聖力:100→200
固有スキル:暴食、節制、物質同化、変身
スキル:体術2→5、眷属召喚術3→6(天使・餓鬼)
総合6200万ポイントを注ぎ込み、パワーアップしたトニーである。福島県、宮城県の半分を制圧し手に入れた奇跡ポイント8000万のうち、ほとんどをトニーに使用した。おかげさまで、幼女天使たちはパワーアップをして、乗る機体も大幅に性能を上げたのである。
月収があるとはいえ、出雲はかなり思い切った。そろそろ強化してくれないとこれからの戦争で天華が野菜王子に寝取られるかもと、よくわからん事をトニーが言って、脚にしがみついてお願いしてきたので。こいつは本当に魔王なのかと疑問を覚える一幕だった。
「天華の婚約者、倉田トニーただいま参上!」
雪玉から現れたトニーは口上をあげて、ぶえっくしょんとくしゃみをした。決まらない魔王である。そして天華はいつの間にか婚約者にランクアップした模様。さっきは恋人だったと思うのだが、チラチラとクイーンに視線を向けるので、反対されないか不安な様子。
「ぬぅ? ……神聖力は一見弱いが……がおかしな力の偏りを感じるな」
フロストは凍結の剣を身構えて、自身に比べるとあまりにも小さな男を睥睨する。その眼光は鋭く、油断はない。トニー相手に油断しないとはさすがは大悪魔だと言えよう。
「まずは召喚で天使を召喚! 肉壁にしている間に、僕は強力な技を使う……なーんてやらないからな」
召喚獣を使って戦うのは基本のはずだが、積雪の中で顔を覗かせて、今か今かと召喚を待つ小柄な何かを見てトニーは止めた。早くもトニーの最高スキルは封じられてしまった模様。
「えぇ〜、『かばわれる』スキルありましゅよ」
「『仁王立ちさせる』スキルも持ってましゅ」
「『大往生させた』スキルもあるよ」
「ふざけんなっ! お前らの新スキル危ないもんばかりじゃねぇか! しかも全部俺にとって! 悪魔かお前ら」
「悪魔でしゅ」
「そうだった!」
レベル6になった幼女天使たちが積雪の中で、ぴょこんと顔を覗かせていた。今日は雪うさぎポンチョを装備して防寒対策も完璧だ。頭にうさぎの耳が揺れてとっても可愛らしい。
そして天使の羽根をパタパタと羽ばたかせて移動していたので雪まみれにもなっていない。カマクラ作ろうと、何人かの幼女天使たちは雪遊びを始めようとしていた。
「遊んでいる暇は無いですよ、トニー!」
クイーンから天華の声が響き、トニーはすぐに身構える。その頭上からは大木のような大きさの剣が振り下ろされてきた。
「我を馬鹿にしてくれるっ!」
「いきなり攻撃するなよな!」
トニーは迫る剣へと手を翳す。しかしトニーの腕で対抗するにはあまりにも巨大な剣だ。トニーは潰されて死ぬだろうと思われた。
『発勁』
だが、剣に触れると同時にトニーは強く足を踏み込み、積雪を蹴散らして、呼気を吐き発勁を放つ。圧倒的な攻撃に対して、放ったトニーの一撃。
その一撃はフロストの凍結の剣に衝撃波を送り込み、その一撃をあっさりと弾き返した。
「ぬうっ」
フロストは勝利を確信していたが、剣がバチリと強い衝撃を受けて弾かれてしまったことに驚く。まさか矮小に見えるのに、簡単に弾かれたことに眉を顰める。
「やったぁでしゅ」
「さすがは主でしゅ」
「あたち、大往生を使わせようとしたでしゅよ」
きゃあきゃあと幼女天使たちは喜び、ぱちぱちと拍手をして褒めて称える。なにか怪しい言葉が混ざっていたようだが、気にしてはいけない。
「強くてかっこよい僕が負けるわけないんですよ。とあたっー!」
俺の筋力は400だと、自慢げにトニーは地面を蹴ると大きく跳躍した。拳を握りしめてフロストへと突撃する。
「おらの一撃をこの右手にすべ、へぶっ」
しかしながら、フロストの横薙ぎの一撃にあっさりとハエみたいに叩かれて、吹き飛んでいく。木をいくつか破壊して、強くてかっこよい魔王さんは雪の塊に頭から落ちて、その上にドサドサと雪が落ちて埋まったのであった。
「なんだ? その程度の速さで勝てるとでも?」
フロストは意外な敵の遅さに戸惑う。野球でいえば時速90キロ程度の棒球だった。打ってくれと言わんばかりだったので、罠かと思いつつ攻撃したのだ。
そうしたらなぜかあっさりと吹き飛ばすことができてしまった。
「ぐぉぉ、アンバランス。極振りやめておけば良かった。当てれば倒せると思ったのに」
雪山から抜け出してきたトニーは、ボスに極振りを頼み込んだことを後悔した。ダメージを受けずに、敵を一撃で殴り殺す。それがトニーの理想だったのだが、素早さが低すぎたらしい。
「はあっ!」
天華が掩護しようとクイーンのスラスターから粒子を吹き出すとフロストと間合いを詰めて刀を振るう。
「ふんっ! 貴様の戦闘力は既に見切ったわ!」
だがフロストは冷笑すると、凍結の剣を軽く振るう。凍結の剣から吹雪の暴風が巻き起こり、クイーンをその超低温で攻撃する。
「くっ!」
ラブフィールドを以てしても防ぎきることができずに、ノックバックして大きく後ろに下がってしまう。積雪が舞い散り、ノックバックしたことにより途上にある木々が砕けて倒れていく。
「とあたっー! ぶへっ」
再びトニーが飛翔して、ホームランを打ってくれと飛び込んでくるので、フロストは凍結の剣を叩き込む。再びトニーは吹き飛ぶが、その硬い感触に苦々しい顔になるフロスト。
「硬い奴め。貴様は防御特化、筋力特化というわけか」
「あっという間に見抜かれた!」
三流ピッチャートニーは自身の能力がバレて衝撃を受ける。器用も素早さもない魔王トニー。体術レベルが高くても、触れることができなければ無意味だったと悟るアホな男であった。
「仕方あるまい。面倒だが、粉々になるまで叩き潰す!」
「くっ! まずい!」
天華を助けに来て、きゃーありがとうマイダーリンと頬にキスされるまでが、魔王トニーの作戦だったが早くも頓挫しそうだと焦る。何気に想像内容が古い元ニートだ。
ジャキリと剣を構えるフロスト。剣を中心に吹雪が巻き起こり、氷の粒がキラキラと宙を舞う。絶望的な間合いだ。クイーンもマナ切れでビームが放てないので、攻撃を当てるには近接攻撃のみ。なので、押し負けることになる。
「あたちたちの出番のよーでしゅね!」
「とうっ!」
「たー!」
積雪からポコンと幼女天使たちが飛び出すと、玩具のようなちっこい羽根をパタパタさせて空を飛ぶ。
「む? 天使か?」
「そのとおりでしゅよ!」
小さい指をフロストに突きつけて、ビシッとポーズをとって、ふんふんと鼻を鳴らす可愛らしい幼女天使たち。6人の幼女天使たち、よっちゃんからきゅうちゃんまで揃っている。いっちゃんとにぃは他の戦線で機体を操り戦っている。
「だが、その程度の神聖力で我に敵うか!」
幼女天使たちはパワーアップしたとはいえ、平均ステータス100程度。フロストの相手にはならないと鼻で笑い、剣を振るう。
轟音を立てて、暴風を巻き起こし迫りくる巨大な剣。幼女天使のようなちっこい身体ならプチと潰される。そう思われた。
だが、きゅうちゃんがふっと笑うと、おててを翳す。
『かばわれる』
その法術により、トニーが目の前に現れると剣と激突する。
「ぐへぇっ」
悲鳴をあげなからもトニーは剣へと発勁を叩き込み弾く。
「ぬ? 面妖な技を!」
フロストが驚きの声をあげると、むふーときゅうちゃんは自慢げに告げる。
「天使の本能、自己犠牲なのでしゅ!」
「本当にそんな技が使えるのかよ、お前らっ!」
さっきのはジョークではなかったのかと、トニーは青ざめて怒鳴る。しかし、幼女を守るのは紳士の本能だ、自己犠牲なのだ。なので、幼女は護られる技に長けているのだ。
「ならば、この連撃ならどうだ!」
フロストはゆらりと剣を揺らすと高速での剣撃を繰り出す。
『凍結乱撃』
フロストの身体はあまりの速さに残像を残し、高速の剣撃は煌めく蒼き輝線となる。宙を浮く雪が斬られていき、突風が舞う。
「そうはいかないでしゅ!」
『仁王立ちしてもらう』
「ふざけんなよ、てめえらぁっ!」
高速の攻撃を前に、トニーも高速で動き盾となる。『仁王立ち』は味方への攻撃を全て自分を盾にして防ぐ武技だ。尊い自己犠牲心を持つトニーである。叫んでいるのは、幼女を助けることができて嬉しいに違いない。幼女天使たちは良い子なので、少なくともそう思い込んだ。
「くっ! 小さい癖にやるな、貴様ら」
ガンガンと音を立てて、トニーシールドが攻撃を防ぐので、天使の戦闘力を考え直すフロスト。弱くとも、フロストを倒せる力を持っているようだと評価を上げる。
「ならばこれで倒す!」
他の戦線にも救援に向かわなければならないフロストは焦って攻撃を急いでしまう。膨大なマナを剣に送り込み、切り札を放つ。
『極限凍土撃』
剣を地面につき立てるフロスト。突き立てられた剣から波動が放たれて、全てが真っ白に凍りついていく。
フロストの切り札。全てを凍らせる絶対の技だ。空中に飛んでいても逃れることは不可能。凍りつき地面に彫像となって残るだろう。だが、幼女天使たちはその攻撃が来ても焦ることは無かった。
「あたちたちも切り札をきりましゅ!」
「りょーかい!」
「暴食発動でしゅ!」
一斉に迫る雪の嵐にちっこいおててを翳すと、ふんすと叫ぶ。
『食べてもらう』
そのおててが輝くと、トニーが幼女天使たちの前に瞬時に移動する。何人ものトニーたちは変身状態となっており、餓鬼王になっている。
バカリとトニーは大口を開けると、凍結の波動を全て吸い込んでいく。みるみるうちに凍結の波動は素麺のように吸収されて、全てが餓鬼王の腹に収まった。
「なにっ!」
あり得ない光景に驚愕するフロストだが、それで終わりではなかった。
「今でしゅ。トニーたん、『暴食の息吹』」
きゅうちゃんはトレーナーだよと、ちっこいおててを振り下ろす。餓鬼王は一人を残してすべて消え、魔力を食べて限界まで腹が膨らんでいる。
吸収した魔力によりはちきればかりの膨らんだ腹に亀裂が入ると口となり開く。そして、溜め込んだ魔力をエネルギーとして、極太のエネルギーが餓鬼王の口から放たれると、フロストに向かう。
「がっ! まさかこのようなぁぁっ!」
ブレスがフロストの身体を貫き、そのエネルギーが体内を暴れる。驚愕の表情のままでフロストは膝をつき、サラサラと灰に変わっていくのであった。
「ふっ。大きさは絶対の戦力差にはならないのでしゅよ」
平坦なる胸を反らして幼女天使たちはドヤ顔になるのであった。
大悪魔を倒した幼女天使たち。その姿は幼女だが、レベル6の大天使たちだったのだ。愛と勇気と正義の気持ちを胸に激闘を終えたのであった。
「そのスキルは封印だ、おまえらっ! ねぇ、聞いてる? おかしいだろそのスキル」
「自己犠牲が本能だから仕方ないのでしゅ」
「お前らのどこが自己犠牲心を見せているのっ?」
勝利を祝う喜びの声が響き渡り、新潟県はこれ以降、あっさりと制圧できるのであった。