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バッドエンドスタート 〜世界は魔界と化しました  作者: バッド
3章 東北征伐

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112/120

112話 春に向けて準備するよ

 春までに軍の編成をと命じられても、簡単にはいかないのが現実である。茜が作りし量産型サンダルフォンたちの人数は1万。彼女等は思念にてやり取りをして、人間では不可能なレベルの連携をとり戦う。


 だが、皆が皆個性がなく画一的な天使というわけではないのだ。


「ねぇねぇ、新しいカフェにいかない?」

「パンケーキが美味しいらしいよ」

「私のルージュがどこにいったか知らなーい?」


 ワイワイとペチャクチャとお喋りをするその光景は女子高生の寮の如し。その会話は終わることはなく、やかましかった。この場合、姦しいと言ったほうが良いかもしれない。


 神の庭の訓練場の一つでサンダルフォンたちは気ままに座ってお喋りをしている。軍規が乱れていると言えよう。何しろお菓子を食べ始める娘もいる始末だ。


 皆を統率するべく、新潟方面隊の将軍である倉田トニーはそんな彼女らに、厳しい声音で一括した。


「お前ら、そろそろ訓練を始めるぞ! はじめますよぉ〜」


 もちろん強くてかっこよい倉田トニー。前言が小声、後半が大声である。普通の男だって2000人の若い娘に対して強弁はとれない。多分イケメンなら可能だろうと、トニーは偏見に満ちた心で思いながら困り果てる。この娘たちを制御するわけ? 幼女天使たちなら眷属だから命令できるけどさと、オロオロして隣に立つ天華へと助けを求めた。


 何しろトニーの声を聞いてサンダルフォンたちはちらりと見てきたが、すぐに無視をしてお喋りを再開したのだから。


 しかしトニーは予想どおりだと考えていた。ここはテンプレだ。オロオロとする彼氏に対してかっこいい彼女がびしっと決めてくれるのだとトニーはほくそ笑む。それでバカップルを演じるのだ。ありがとう天華さんとか言って。


 知力99である現代の今司馬懿であるトニーはこの作戦は上手く行くでしょうとクククと笑っていた。人形たちを制御して、僕の好感度もあげる一石二鳥の作戦だと自信満々だ。どっかのおっさんよりも思考回路が酷いニート魔王だった。


「申し訳ありませんが、トニーが指揮官です。話を聞いてください」


 きりっと凛々しい表情で声高に彼女である天華が声をかけると、サンダルフォンたちはまたちらりと見て面白そうに叫ぶ。


「きゃー、あの娘の首元見て〜」

「ほんとだ〜」

「蚊に食われたのかな?」


「ギャー!」


 顔を真っ赤にして蹲り首元を押さえる天華。キャーキャーと叫んで恥ずかしがってしまう。テンプレは上手くいかなかった模様。


「大丈夫ですよ、天華さん。首元は赤くないです。いや、今は耳も首元も真っ赤ですけど」


「キャーキャー!」


「そういう意味じゃなくて。というか、まだキスしかしていないでしょ。たしかに、首筋に残すのやってみたかったですけど、残らなかったですよ? あれってかなり強く吸わないとマークはつかないようですって」


 焦るトニーの言葉に凛々しい侍少女は、照れて動けなくなった。そうじゃなくてと慌てるトニーだが、もはや天華は話を聞かず、ひたすら恥ずかしがっていた。年頃の乙女なのだ。キスだけでもバレると恥ずかしいピュアな少女天華。からかっているサンダルフォンよりも遥かに天使である。


「ねーねー、魔王と人間の子供ってどうなるの?」

「半魔? なんかかっこいい!」

「ウルゴス様は人間の肉体だから、普通に人間だってさ」

「なんだ、つまんなーい」


「からかうのやめろよ、てめえら!」


 もはや羞恥でゴロゴロと地面を転がる天華を追いかけて、天使人形たちへと怒鳴るトニーだが、その程度でやめはしない。ますます面白がってからかう天使人形たち。


 収拾がつかないカオスな展開になり、隊の編成など無理かと思われたが


「わりぃが、やめてくれんかの?」


 着流しを着た青年がのっそりと会話に加わってきた。のんびりとした口調だが、その目は鋭く、纏う空気も剣呑だ。


「お、誰々?」


 天使人形の一人が首を傾げると、男は腰をかがめて手を下手に構えると口上を述べる。


「おひけえなすって。あっしは元はぬらりひょん、今は天使たるヒョンってつまらねえ輩です。親分にこの軍の副官を命じられましてやってきやした。力足らずで申しわけありやせんが、どうかあっしらに力を貸してくんなまし」


 副官のぬらりひょんのヒョンである。江戸時代の侠客のような口調で話す青年だ。


「てめえっ! なんで着流し? キャラ作りすぎだろ、こら! この間までスーツ姿だったじゃねぇか!」


「生き馬の目を抜く世界でやんすからね。あっしもこれぐらいはしないといけないんですよ」


 ヘヘッと鼻をこするヒョン。


「スーツ姿の悪魔はテンプレすぎやすからね」


 どうやらアホの呪いはしっかりとぬらりひょんにもかかった模様である。


 それはともかくとして、ヒョンは着流しの渋い青年の姿をとっている。斜に構えたその姿にサンダルフォンたちは興味を持ち注視してくる。その様子に、ヘヘッと鼻をこすりヒョンはさらに言葉を続ける。


「宇宙人、未来人……あとなんでしたったけ? あっしは小説に詳しくないんで……」


 なにやら自己紹介を続けようとしたが、首をひねり口籠った。なにを言おうとしたのかはわからないが、その足元にはふんすふんすと鼻息荒く『ぬらりひょん団』と描いてある脚本を手にしている幼女がいた。ワクワクした顔で、ヒョンの自己紹介を見守っている幼女の胸には『にい』と書いてある名札が付けてある。誰が黒幕かわかる姿だ。


「駄目でしゅよ。ちゃんと挨拶をしないといけないでしゅ」


 ふんすとにいは胸を張ると、小柄な幼女はえっへんと口を開く。


「天使、幼女、ケーキしかお友だちにいらないのでしゅ」


 自己紹介は自己中心的な幼女天使であった。最後は人間ですらない。


「きゃー、カワイイ!」

「お持ち帰り? お持ち帰り?」

「飴ちゃん食べる?」


 サンダルフォンたちは、一斉に幼女天使に群がった。きゃあきゃあとマスコットに群がっちゃう。


「きゃあ、くすぐったいでしゅ」


 トニーや天華、キャラを作ったヒョンは無視されて、幼女天使だけに反応する天使人形たち。幼女のような可愛らしい者は天使人形たちは大好きなのです。


 群がられて嬉しそうにきゃあきゃあと声を上げる幼女天使の頬をつつたり、くすぐったり、飴ちゃんをあげようとするサンダルフォンたち。


「あ〜、あっしの出番は?」


「ヒョン。よろしくな。僕の名前は倉田トニー。知っているとは思うけど、改めてよろしく」


 ポリポリと頬をかくヒョンに、その扱われ方に共感を覚えたトニーは仲間意識を持ってにこやかに握手を求める。ヒョンはなんだかなぁと思いながら握手をして将軍と副官は仲良くなるのであった。


 なお、天華は未だに転がっており、何人かの天使人形たちに何かを言われてからかわれていたりした。


 そうして、暫くして幼女に餌付けをする順番を決めるべくじゃんけん大会を始めた天使人形たちを半眼で見ながらも、数人の天使人形を捕まえて会話を始めることにしたトニー。どうせ思念で繋がっているので、一人に説明すれば良いのだ。


 天華も立ち直り、車座になって話し合う。後ろでじゃんけんぽんと叫ぶ天使人形たちの声がとてもうるさい。


「新潟県に向かうのに、注意することってあります?」


「ふむ………兵站だと思うぞ?」


「いやいや、情報でしょう? 何事も情報ですぜ」


「幼女に与えるお菓子ですね」


 なるほどとトニーは頷く。兵站と情報は大事だ。もしかしたら幼女に与えるお菓子も必要かもしれない。主に天使人形たちを制御するために。


 僕の眷属なんだけどなぁと、イマイチ納得していないトニーであるが、初めての軍の将軍だ。失敗はできない。


「冗談は抜きとして、私たちはその性能から訓練は必要ないです。連携は思念にて繋がることで行動できますので訓練の必要性を感じませんし、行動も一糸乱れぬ行動が可能ですよ」


「あの、いきなり真面目にならないでくれます?」


 真面目な顔のサンダルフォンにジト目となってしまうトニーだが、たしかにそのとおりだなぁと苦笑する。集まれと命じたら、即座に集まる事が可能だろう。即ち、ふざけていても、このメンバーは歴戦の兵士たちなのだ。


「なら、春を待たずに進軍しましょう。人々を救うのは祓い師の役目。私の新型も作ってもらいましたし。召喚機体を改造するとは、茜さんは素晴らしい腕ですね」


「姐さん、単に新型で戦いたいだけじゃないのかい?」


「そんな気持ちは半分ぐらいしかありません。ですが新型を用意されているのであれば、使うのはやぶさかではありませんね」


 明後日の方向を向いて天華はとぼける。だが、その目はバッシャバッシャと魚が泳いでいるので、どちらが優先されているかわかるというものだ。


「いや……彼女らは生まれたばかり。思念により知識の共有が可能でも経験は個別だと思うんです。個性ありますよね? 連携にノイズ入りません?」


「練習は必要ということですぜ。近場の魔王を片付けやすか? どうせ新潟県に入る前に片付けようと考えていたところです」


 ヒョンがトニーの言葉を聞いて、顎に生える無精髭を擦りながら提案をする。サンダルフォンはむぅと顔をしかめるが否定してこない。その可能性はたしかにあると考えたのだ。


「アニメとかでもあるんですよ。一糸乱れぬ行動を取る魔物とかなんですけど、一匹が動揺すると皆が動揺したりするんですよ」


 余計な一言を言うトニーである。アニメからかぁと皆は呆れるが一理あると納得する。


「たしかにそのとおりです。ならば、少数にて分散して進軍致しましょう。思念は最低限しか使用せず集団ごとに別れて戦闘。それにて練度を高めましょう」


「それは良いですね! 私も新型を使って攻めましょう」


 天華は嬉しそうに拳を握り締める。新型が使いたくて仕方ない模様。


「あ〜、それって新潟県に向かうのを早めるのと同じじゃないですかね?」


「他の部隊はまだ揃っていないですし、ここは功績をいち早く立てるチャンスですよ?」


「まぁ………無理はしない方向で」


 功績を立てるより、命の方が大事だよなぁと思いながらトニーは新潟県に春前に進軍することを決意する。


 まずは新潟県の制圧である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 量産型から然りげ無く流出するウルゴスマン中身人間説(笑)
[良い点]  何故に日常を嫌う女子高生のネタが?と思って(・Д・)あーぬらりひょんの新しい名前が“ヒョン”だからかーと納得、ちなみに最初“ヒョン”とあってあれ韓流ネームなの?とか意味もなく思ったのは金…
[良い点] 仲が良くて何より。 [一言] 茜は癖のあるものばかり作っているイメージなんだけど。 新型は変形できるやつかな?
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