〇。豆話 マモリリスのぽかぽかな一日
マモリリスは今日も忙しい。
まずは男たちの野太い声に、なんでしょうと顔を出した。
「今度嬢ちゃんが友達の結婚式で帰ってくるらしいぜ」
「へえ、宴会しなきゃ」
「社長が泣いて喜ぶぞ」
がっはっはと笑い合う元気な声は、男臭いにおいがする。
彼らがいなくなったのを見て走り出し、ちゅいと厨房に寄ってみる。
長い髪の、マモリリスに甘いものをくれる人間が、いつもの場所で鼻歌を歌いながらじゅうじゅうと料理をしている。
この場所は穏やかで、たぷん、たぷんとした
水と塩のにおいがする。
痩せたおばあさんが背筋を伸ばしてほうきをかけているのが見えマモリリスはさっと身を隠した。
こわいまるを置いた人だ。
あれ以来屋敷で見ることはなくなったが、見つかったら何かこわいことが起こりそうなのでマモリリスはこの人だけには見つからないように頑張っている。
こわそうな彼女からは、やさしい、さびしい、うれしい匂いがした。
マモリリスは屋敷を回る。
今日も屋敷をぽかぽかにするために。
話が違うぞ、倍の量と言ったはずだとこの屋敷の主人が、ちょび髭のおじさんと書類を挟んでやりあっている。
怒ったような声だがどちらからも怒ったにおいはしないので、『しょうばい』で何か必要なやりとりなのだろう。
2階の大きな寝室に立ち寄ってみる。
あのうつくしいおかたに似たうつくしいおかたはいない。
立ち上がり、ちょいと首をひねり
しっぽのリボンをちゅいちゅいいじってから
マモリリスはぴょんと飛び上がり階段を駆け下りた。
一階の、日の当たるお部屋に
あのうつくしいおかたに似たうつくしいおかたはいた。
壁に掛けられた、あのうつくしいおかたのきれいな服をじっと眺めながら優しく撫でるうつくしいおかたからは
やさしい、さびしい
満ち足りたにおいがした。
マモリリスは今日もお屋敷を走る。
あったかいぽかぽかをまき散らし、マモリリスは今日も走る。




