(7)慰安旅行の始まり
いよいよ、慰安旅行の始まりです。
異種全員が出てきて、名前が覚えられない!! になるかもですが、
ぼちぼちで知って戴けたらいいので~~。
復活祭が終わると、異種たちは、それぞれ宿や自分の館へと戻り、
翌日の「同族の結束を深めよう」と云う事を目的とした慰安旅行に備える事となっていた。
翡翠の貴公子と金の貴公子は宿に宿泊する事になっており、一晩を其処で明かすと、
昼には高級街ドトールへと馬車で向かった。
雪は止んでおり、空は澄み渡る青さを見せていた。
揺れる馬車の中で、金の貴公子はニヶ月も前に貰った慰安旅行の案内書を眺めていた。
「此処、此処、どうするんだよ?? 主??」
話し掛けられて、窓の外をずっと眺めていた翡翠の貴公子は隣の金の貴公子を見る。
「軍服、礼服禁止って、普段着で来いって事だろ??」
「そうだな」
「チェックインする際は異種で在る事が気付かれない様に変装をする事って、
俺たち何も変装してないじゃん??」
真面目に訊いてくる金の貴公子に、翡翠の貴公子はコートを目で示す。
「フードを被ればいいだろう」
「おお!! そうか!!」
俺、又、変な格好でもしなきゃなんないのかと思ったよ。
胸を撫で下ろすと、金の貴公子は更に言った。
「ナンパ禁止って書いて在るけど、蒼花の貴婦人を口説くのはいいんだよな??」
真剣な金の眼差しで見詰められて、翡翠の貴公子は、
「・・・・知らない」
呆れた様に窓の外へと目を向け直す。
「俺は今夜、蒼花の貴婦人を口説き落としてみせる!!」
ふふふ、と笑うと、金の貴公子は反対方向の窓の外を眺めた。
南部の街並みは綺麗だ。
実によく整えられている。
大陸最先端の都会と云えるだろう。
金の貴公子は暫く移り行く街の風景を眺めていたが、ふと空を見上げて言った。
「何か此処、数日・・・・凄い空が綺麗に感じるんだ」
俺って、ロマンチック~~。
へらへら笑って言う金の貴公子を、翡翠の貴公子は振り向かなかった。
だが。
「そうだな」
小さく答えた翡翠の貴公子に、金の貴公子は吃驚して彼を振り返った。
普段の主ならば、こんな自分の発言に答えたりはしない。
どうしたんだろう・・・・??
金の貴公子は暫く翡翠の貴公子を見詰めていたが、
彼は窓の外をぼんやりと眺めているだけだった。
日が暮れる頃、二人を乗せた馬車は高級宿シュリンプへと到着した。
翡翠の貴公子と金の貴公子はコートのフードを目深に被ると、
それぞれ自分のトランクを持って馬車を下りた。
シュリンプの門をくぐり、ロビーへと入ると、金の貴公子はひそひそと翡翠の貴公子に言った。
「ねーねー、御願いだからさ・・・・主が俺の分もチェックインしてよ」
「何故??」
「何故って・・・・判るだろう?! 俺、矢駄よ!! 言いたくない!!」
「プリティーフラワー団」の「ゴールド・チキン」。
其れが金の貴公子の予約された名前であった。
「・・・・・」
翡翠の貴公子は暫し金の貴公子を見たが、溜め息をついてカウンターの方へと向かう。
其の後ろを金の貴公子はくっついて歩いたが、或るものを目にして、
咄嗟に翡翠の貴公子の腕を掴んだ。
「??」
何だ?? と振り向く翡翠の貴公子の腕を引っ張ると、
金の貴公子は大きな観葉植物の陰へと彼を引っ張って行く。
「何だ??」
怪訝そうに言う翡翠の貴公子に、金の貴公子は「しーっ!!」と息を潜める。
そして、
「あれ・・・・あれ、見ろよ」
カウンターの方を指差す。
金の貴公子の指の先には、何やら派手な二人が居た。
其の二人はピエロの様なサテンの派手な衣装を纏い、更に怪しげな仮面を着けていた。
一見、変装している様に見えるが・・・・あれは・・・・
あの小柄な少女と二メートルは越す後ろ姿は・・・・。
紛れもなく、
「赤の兄妹だぜ」
である。
途端に金の貴公子はクスクスと笑い始める。
「おい・・・・マジかよ・・・・変装って・・・・普通、あんな格好するか?!
あれじゃ、まるで、ださいピエロだぜ!!」
「・・・・・」
笑いが止まらんと云う金の貴公子の横で、
翡翠の貴公子はきょとんとした顔で遠くの二人を見ている。
金の貴公子は口許に手を当て、
「赤の貴公子・・・・まさか本当に言うんじゃ・・・・」
瞬きもせずに赤の兄妹を見詰める。
言うのか??
あの予約名を??
あの食○倒○人形の様な格好で?!
カウンターのボーイが必死に笑いを堪えようとしているのが、遠くからでもよく判る。
「言うのか・・・・??」
言わないよな・・・・??
だが赤の貴公子は、陰で潜む金の貴公子の期待を裏切らなかった。
ピエロの様な衣装で、カウンターにずいっと出ると、
「プリティーフラワー団のレッド・マッチョ」
はっきりと言った。
「は、はい?? ええっと・・・・プリティーフラワー団様ですね」
引き攣りそうになる顔を必死に抑え乍ら、ボーイは名簿に目を通す。
心無しか、名簿をなぞるボーイの指が小刻みに震えている。
「ええっと・・・・プリティーフラワー団様の・・・・」
「レッド・マッチョだ」
抑揚の無い声で答える赤の貴公子。
其の姿を遠くから眺めていた金の貴公子は床に崩折れていた。
「ぶは!! ・・・・い・・・言った・・・・あいつ・・・・!!
本当に言いやがった・・・・ぶふ・・・・うはははは!!」
レッド・マッチョ!!
レッド・マッチョ!!
「うはははは!! は・・・腹が・・・・よじれる・・・・!!」
金の貴公子は、ひーひー言い乍ら床を叩く。
「信じらんねー!! 言うか?? 普通?! だから冗談が通じない奴って嫌なんだよっ!!」
ひーひっひっひっ!!
笑い死ぬ金の貴公子を翡翠の貴公子は静かに見下ろすと、彼の笑いが治まるのを待っている。
金の貴公子は漸く立ち上がると、涙目を拭う。
「主、よく笑わずにいられるな??」
だが翡翠の貴公子は平然と答えた。
「仕方ないだろう。そう名簿に書かれて在るのだから」
「えー!! でも普通、言わないって!!」
「・・・・・」
考えてみれば此の翡翠の貴公子も、恐ろしく冗談の通じないタイプだった。
赤の貴公子同様、一般人とは笑いのツボが違うのかも知れない・・・・。
いや、そもそも翡翠の貴公子に笑いのツボと云うものが在るのかどうかも謎であるが。
翡翠の貴公子はカウンターへ向かうと、二人分のチェックインを済ませた。
そして、ボーイに案内された場所は、宿の中でも最も奥だった。
「此処から先の棟一帯が、プリティーフラワー団様の貸し切りとなっております。
個人の部屋の割り当ての詳細は、
先に来られましたファイティングガール様が御決めになられると仰っておられましたので、
まずは大広間の方へ御案内致します」
話を聞き乍ら、金の貴公子は成る程なぁ、と思った。
棟一帯を貸し切ってしまえば、他の客には自分たち異種が宿泊している事は、
まず判らないだろう。
一際大きな扉の前までボーイが案内すると、
「此方が大広間になります。常にベルガールが待機致しておりますので、
御用の際はベルを御鳴らし下さい」
礼儀正しく言って去って行く。
翡翠の貴公子が扉を開けると、中では笑い声が飛び交っていた。
「うはははは!! 最高!! 赤の貴婦人と赤の貴公子!!」
「信じられないわ!! そんな格好で来たの?!」
「だって変装してって書いて在ったじゃーん!!」
「ほほほほほ!! 仮面舞踏会でも、そんな格好はしなくってよ!!」
皆が笑い狂っている部屋の中へ入ると、翡翠の貴公子と金の貴公子はフードを取った。
「お、来たか来たか」
夏風の貴婦人が、にぃ、と笑う。
翡翠の貴公子はトランクを床に置くと、コートを脱ぎ乍ら言った。
「個人の部屋は、どうなっている??」
見ると皆、未だ個室に行っていないのか、傍らにトランクとコートが置いて在る。
「うん。部屋なんだけどね」
夏風の貴婦人が言い掛けると、横から蘭の貴婦人が跳び出して来た。
「きゃー!! 主ぃぃ!! 其のセーター凄く似合ってるぅ!! 胸元のクロスも素敵ぃぃ!!」
「・・・・・」
駆け寄って来る蘭の貴婦人を、翡翠の貴公子は見ようとしない。
構わず蘭の貴婦人は目をキラキラと輝かせていたが、隣の金の貴公子を見るや否や顔色を変えた。
「な、何よ、金の貴公子ったら!! 主と御揃いのセーター?! 辞めてよね!! 図々しい!!」
「ふふん!! いいだろう!! 商人から俺が選んで御揃いで買ったんだぜ・・・・てか!!
御前、変な名前、付けるなよな!!」
ゴールド・チキンって、何だ!?
黒のセーターを着る翡翠の貴公子とは正反対に、
真っ白のセーターを着る金の貴公子は蘭の貴婦人を睨んだ。
「いーっだ!! 私、あんたの事、嫌いだもん!!」
「って事は、意図的に付けやがったな?!」
「だから何よー!! べーっだ!!」
蘭の貴婦人が、はしたなくも舌を出していると、
夏風の貴婦人が「はいはい」と言い乍ら手を叩く。
「部屋なんだけど・・・・まだ白の貴公子が来てないのよね」
そう言ったところで、丁度タイミング良く扉が開かれた。
「はーはっはっは!! 諸君よ、こんばんは!!」
格好良く挨拶のポーズを決めると、白の貴公子が入って来る。
「ふう・・・・変装するにも私って美し過ぎるからね・・・・
隠すに隠しきれないと云うか・・・・」
言い乍らコートを脱ぎ、更に白の貴公子は一人でべらべらと話し始める。
「ふっふっふ・・・・見給え諸君!! 私の服を!!
此れは今年流行のアンゴラのセーターでね、軽くて非常に温かく、
無地なのにゴージャスに着られる、レアな一品なのだよ」
コートを脱いだ白の貴公子は、毛の長い真っ白なセーターを着ていた。
真っ白な・・・・ふわふわの・・・・そう・・・・誰もが先ほど目にした・・・・。
すると間もなくして、白の貴公子は声を上げた。
「あーっ!! き、貴様、何故、同じ物を!!」
白の貴公子と同じアンゴラの白のセーターを着ていた金の貴公子は眉を跳ね上げた。
「其れは俺の台詞だ!! 真似しやがって!!」
「何だと?! むうぅっ!! 翡翠の貴公子、御前もかっ!?」
「・・・・・」
色は違えど同じデザインのセーターを着ている翡翠の貴公子は沈黙を守っている。
翡翠の貴公子に至っては、メイドに用意された服を着ていただけに過ぎないのだが。
だが白の貴公子は流行の服を先取られたのが気に入らないのか、
金の貴公子とギャンギャン口喧嘩を始める。
其れを諌める様に、夏風の貴婦人が再度、手を叩いた。
「とにかく!! 全員揃ったわね!!」
夏風の貴婦人の声を合図に二人は口篭ると、互いに視線を外す。
今、此の部屋には、異種が全員揃っている。
翡翠の貴公子、白銀の貴公子、金の貴公子、赤の貴公子、白の貴公子、
そして漆黒の貴公子の男六人と、夏風の貴婦人、蘭の貴婦人、赤の貴婦人、白の貴婦人、
春風の貴婦人、そして蒼花の貴婦人と快の貴婦人の女七人である。
計十三名が普段着姿で集まっていた。
御互い初めて見る姿も多く、酷く新鮮な気分である。
「で、部屋割りなんだけど」
夏風の貴婦人の言葉と共に、皆が一斉に視線を寄せた。
「母様はシングルで、其の他はツインを六部屋取ったの」
其の言葉に、皆は吃驚した様に目を見開いた。
「六部屋?!」
「どう云う事よ?!」
「一部屋に二人って事?!」
口々に言う皆に、夏風の貴婦人は頷いた。
「親睦・・・・深めなきゃねぇ・・・・と云う事で!!」
夏風の貴婦人は一枚の紙を取り出した。
「誰と同じ部屋になるかは、此のあみだくじで決めるわよーっ!!」
「はああああ?!」
勿論、男女問わずにね!!
にぃ、と笑う夏風の貴婦人に、一同は驚愕の顔を露わに言葉を失った。
慰安旅行は、まだ始まったばかりである。
この御話は、まだ続きます。
早速、ギャグから始まった慰安旅行の御話です☆
まだまだ、ギャグが続きますので、笑って貰えたら幸いです☆
少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆