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異種たちの慰安旅行  作者: 貴神
3/22

(3)復活祭前の異種たち

今回は、それぞれの異種の館での細切れの御話です☆


ほんと、名前が一杯出てきて、済みません。。。。


覚えられる範囲で、ぼちぼちで構いませんので~~(^^;

此の日も翡翠の貴公子は遅くに帰宅していた。


復活祭前の時期の異種は恐ろしく多忙であった。


其の為、金の貴公子は夕食を一人で食べる事が多く、


本日も翡翠の貴公子の顔を見る事なく就寝していた。


すると一階の方から、翡翠の貴公子が帰宅したらしい音が聞こえてきた。


ああ、帰って来た。


そう思い乍ら、金の貴公子は寝台でごろごろしている。


こんなに遅く帰る日は、翡翠の貴公子は湯浴みを済ませて直ぐに寝てしまうのだ。


顔を見に行こうかどうか迷う金の貴公子。


そう考えて、暫くしてから金の貴公子は、のそりと起き上がった。


そろそろ風呂から上がる頃だろう。


ぐずぐずしていたら主は直ぐに寝てしまい兼ねない。


其の前に顔を見に行こう。


金の貴公子は自室を出ると、翡翠の貴公子の部屋へと向かった。


そして軽くノックをして扉を開けると、翡翠の貴公子の姿はなかった。


もう奥の寝室の方へ行っているのだろう。


金の貴公子はいつも通り勝手に翡翠の貴公子の部屋に入り込むと、寝室の扉を開けて、


そろりと中を覗いた。


丁度、翡翠の貴公子がランプの火を消そうとしているところだった。


だが翡翠の貴公子は金の貴公子の存在に気が付くと、


「何だ??」


小さく言う。


問われて金の貴公子は、ぽりぽりと頭を掻き乍ら入って来る。


「いや、その・・・・もう寝るの??」


「ああ」


翡翠の貴公子のそっけない返事に、つまんないなー・・・・と、ぼやく金の貴公子。


翡翠の貴公子は暫し金の貴公子を見ると、椅子へ腰掛けた。


こう云う時の翡翠の貴公子は、少し話を聞いてやろうとしてくれているのだ。


金の貴公子は嬉しそうに、だが行儀悪く椅子に座る。


「今日さ商人が来てさ、メイド達が服やら何やら選んでたんだ」


昼間の出来事を話し始める。


「そうか」


淡白に答える翡翠の貴公子。


翡翠の貴公子は館の主では在るが、館の事の一切は執事やメイド達に任せていた。


彼は丸きり自分の館を支配掌握するつもりがなかった。


「主ってさ、服とかに興味ないの??」


「・・・・特にないな」


日々、翡翠の貴公子が着る服は、メイド達が夜の内に用意している。


なので翡翠の貴公子は、毎日、出されている物を着ているに過ぎなかった。


其れは或る意味、究極の着せ替え人形だなぁ・・・・と思った金の貴公子は、


ぼんやりと夜着姿の翡翠の貴公子を見る。


ああ、本当だ。


メイド達の言った通り、肩幅がそんなにない。


翡翠の貴公子の肩幅は女よりは在るが、普通の男ほどない。


背中も女よりは広いが、普通の男ほど広くもない。


芯は在るのに華奢なのだ・・・・そう思う。


「ねー、ねー、手、見せてよ」


金の貴公子が言うと、翡翠の貴公子は訝しそうにし乍らも右手を差し出した。


日焼けしない翡翠の貴公子の皓い手は、どきりとするほど綺麗であった。


女の様になよなよしいものではない。


だが男の様に、ごつごつもしていない。


真っ直ぐに綺麗に整った皓い手だ・・・・。


挿絵(By みてみん)


「・・・・・」


金の貴公子は思わず翡翠の貴公子の手を取り、見入ってしまう。


其れが不快だったのか、翡翠の貴公子は手を引っ込める。


「もう寝る」


そう言って立ち上がる、翡翠の貴公子。


其の主の細い手首を、金の貴公子は思わず、むんずと掴んでしまった。


そして、


「今日、一緒に寝ていい??」


等と、つい言ってしまった。


翡翠の貴公子は吃驚した様に金の貴公子を見下ろしたが、すう、と翡翠の瞳を細めると、


「冗談は辞めてくれ」


パシリと手を振り解く。


其の余りに冷ややかな怒りに、金の貴公子は慌てて立ち上がった。


「あ、ご、ごめん!! 冗談でした!! 済みませんっ!!」


わははは!! と空笑いをしてみせ、


「おやすみ!!」


金の貴公子は部屋を跳び出した。


金の貴公子はそそくさと自室に戻ると、寝台に潜り込んだ。


胸が部屋中に響き渡りそうな程に大きな鼓動を打っている。


「つ・・・つい、言ってしまった・・・・」


手には、まだ、主の温もりが残っている。


綺麗な手だったな・・・・と、しみじみ思う。


それから湯上りの良い香りもしていたな・・・・等と云う事まで思い出す。


「ああ・・・・」


毎日、顔を合わせているのに、何故こんなに胸が逸るのだろう??


もし叶うなら・・・・あの人を此の腕に抱き締めたい・・・・。


抱き締めて・・・・眠りたい。


そう思う。


「・・・・まぁ、そんな事しようものなら、殺されるだろうけどなぁ」


どんなに小柄で華奢でも、自分がどうこう出来る相手ではないのだ。


・・・・ふう・・・・。


溜め息。


「今年の冬は・・・・地獄かも知れない」


大陸の冬は極寒である。


冬になれば他の季節の様に、自由に飛んで遊びに行く事さえ叶わなくなる。


文字通り、冬は缶詰め状態なのだ。


そう。


此の屋敷に缶詰めである。


春が訪れるまでの数ヶ月、翡翠の館に主と二人で缶詰め状態なのだ。


「・・・・耐えられるだろうか」


蛇の生殺しとは、間違いなく此の事を言うのだろう。


其れを考えると金の貴公子は、頭から毛布を被らずにはいられなかった。









此の日、赤の貴公子が、ぼそりと発した言葉は、こんな一言であった。


「異種の仕事が、こんなにも暇だとは思わなかった・・・・」


赤の貴公子は巨体に似合わず暖炉の前で毛布に包まると、そう、ぼそりと言った。


其の隣で同じく毛布に包まっている妹の赤の貴婦人は、真っ赤な瞳で兄を見る。


「暇なのは、あたし達が新参者だからだよ。


きっと今頃は、夏風の姉や翡翠のにい、パーフェクトボーイなんかは大忙しだよ」


「・・・・・」


赤の貴公子は黙り込むと、ゆらめく炎をぼんやりと眺める。


其れに倣う様に赤の貴婦人も暖炉を見詰める。


それから、どれだけの沈黙の時が流れたであろうか。


そもそも兄が無口過ぎる人で在る事は判ってはいたが、


それでもとうとう我慢しきれなくなったのか、赤の貴婦人はもぞもぞと自分の膝を抱えた。


「あのさぁ。復活祭が終わったら、うちら数ヶ月、此の生活なんだよ??」


好い加減、不満を言い始める。


「今でさえ凍死しそうなくらい寒いのにさ、これから、まだまだ寒くなるんだよ??」


火系ひけいの兄妹には、ゼルシェン大陸の寒さは殺人並みであった。


「其の上、冬季は大してする事もないし、うちら、これから数ヶ月、毎日毎日、


暖炉の前で丸まってるわけ??」


「・・・・・」


ポンポン言う妹に、赤の貴公子は毛布を巻き直す。


だが、やはり沈黙の儘である。


そんな兄の態度に赤の貴婦人は頬を膨らませると、唇を尖らせた。


「あのさぁ。あたし、冬の間、太陽の館に行っていい??」


太陽の館には大好きな夏風の貴婦人が居る。


殺人的な寒さの中で過ごすのなら、愛する人の傍の方が断然良いに決まっている。


すると今まで沈黙を通していた赤の貴公子が、ぼそりと言った。


「なら俺は、翡翠の館へ行く」


翡翠の館には彼の愛する翡翠の貴公子が居る。


「二人とも館空けたら困るじゃん」


「御前が太陽の館に行くと言うのなら、俺は翡翠の館へ行く」


断固として言い放つ兄に、赤の貴婦人は仕方なく溜め息をついた。


「判った判った、わっかりました!! 二人で頑張って大陸の冬を越そうね~~」


愛する人の下へ行きたいのを我慢しているのは、御互い様なのである。


そして何より、自分たちは百年以上も共に生きてきた、切っても切れない兄妹なのだ。


赤の兄妹はぶるると身を震わせると、揃って暖炉の火に手を翳した。


もう間もなく復活祭だ。









「復活祭まで、あと少しねぇ」


ワイングラスを片手に微笑むのは、白風しらかぜの館に棲む白の貴婦人だ。


其の隣の席で珍しく一緒にワインを飲んでいるのは、蒼花の貴婦人だ。


白の貴婦人と蒼花の貴婦人は、南部の白風の館で共に暮らしていた。


白風の館は中流貴族出の白の貴婦人の親族の館の一部で在り、


彼女が異種で在る事に家族は理解が有り、此の屋敷に棲む事を許されていた。


一方、蒼花の貴婦人は小貴族の出で在り、異種の存在が公に受け入れられ始めたのは、


ほんの数十年前の事で、彼女は反異種派の親類に酷くいびられていた。


其の一方で白の貴婦人は幼少時代から親類からも異種としてきちんと認められており、


小さいが今の自分の屋敷を与えられ、なかなかに有意義な生活を送っていた。


そんな中、親族からの圧力を受けていた幼馴染みの蒼花の貴婦人を憐れに思い、


自分の屋敷に招き入れ、白風の館で二人で暮らす事になったのである。


だが男好きな白の貴婦人とは異なり、蒼花の貴婦人は大人しく酷く堅物な女性で在った。


緩やかなウェーブがかった蒼い長い髪に、控えめな白い顔、其の上、


幼い頃から教え込まれた彼女の舞いの才能は素晴らしく、多くの男たちの目を奪うものだった。


そんな彼女を男たちが放っておく訳がなく、彼女は絶えず紳士からの誘いを受けていたが、


其のどれ一つにも応えた事がなかった。


「貴女、男に興味が無いの??」


白の貴婦人がグラスを傾け乍ら言うと、蒼花の貴婦人はクスクスと笑った。


「そんな事ないわよ。紳士は好きよ」


「じゃあ、何で、いつも断るのよ?? ハープ家のディグラスなんて、イイ男じゃない??」


「そうね」


「でも気に入らないの??」


「・・・・・」


蒼花の貴婦人は静かにワインを飲むだけで、答えようとはしなかった。


「貴女が要らないなら、わたくしがディグラスを貰っていいかしら?? 前から狙ってたのよねぇ」


「ええ。御自由に」


面白半分に言う白の貴婦人に、やはり蒼花の貴婦人は顔色一つ変えず柔和な表情を浮かべている。


白の貴婦人はチーズを一口食べると、更に言った。


「復活祭の後に慰安旅行が在るじゃない」


「ええ」


「白の貴公子と金の貴公子、絶対、絡んでくるわよ」


どうする気??


「・・・・・」


しかし蒼花の貴婦人は答えなかった。


だが其の表情は、先程の様な柔和なものではなかった。


蒼の貴婦人はグラスの中のワインを飲み干すと、珍しく少し酔った様に頬を赤らめた。


「貴女が、わたくしの事をどう思っているかは知らないけれど、


わたくしだって・・・・恋くらいするのよ」


どうやら控えめな蒼花の貴婦人も、同族同士の旅行は楽しみにしている様であった。









ゆきの館では、白の貴公子が熱心に机に向かっていた。


彼の表情は真剣そのものだった。


そして漸く全てを終えたのか、机の上の紙を丁寧に折り畳むと封筒に入れ、


蝋を垂らしてシーリングする。


彼は真面目に仕事をしていた・・・・のではなく、真面目にラブレターを書いていた。


白の貴公子はプレイボーイで在り、女性に対して実にマメな男で在った。


関わった女性には愛の文と薔薇の花、そして贈り物を欠かさない、


白の貴公子は典型的な色男で在った。


「ふう・・・・年々、書く手紙の量が増えていくだなんて・・・・


なんて私は罪作りな男なんだ。まぁ・・・・私が美し過ぎる故、仕方ないか」


彼は、ずばり、ナルシストで在った。


「復活祭の後には御婦人たちと甘く過ごしたいものだが・・・・


夏風の貴婦人が慰安旅行なんてものを提案するし・・・・いや・・・・そんな事より・・・・」


白の貴公子には、此の上なく気に食わない事が一つだけ在った。


其れは。


「私の御婦人を・・・・四人も寝盗るとは!! 金の貴公子めっ・・・許っさん!!」


白の貴公子と金の貴公子は犬猿の仲で在った。


二人とも女好きの遊び人で在ったが、マメに女性と連絡を取り、


花束を欠かさない白の貴公子と違って、金の貴公子は女に貢いで貰う、


自分とは正反対のヒモな男で在った。


そんな男に自分の手の内に在ったと思っていた女を、四人も寝盗られたのだ。


許せん・・・・何とも許し難い事態だ。


あんな甘えっぱなしの男の何処が良いのか。


あの態とカールさせた前髪だって、ルーズそうで、だらしがない。


由緒正しき上流貴族出の白の貴公子には、金の貴公子の存在全てが、とにかく気に入らなかった。


そして何より輪を掛けて気に入らないのは、


「あの男が翡翠の屋敷に棲んでると云う事だっ!!」


なのである。


白の貴公子は翡翠の貴公子を見ると、苛々して堪らなかった。


あんな何処の馬の骨なのかも判らない様な男が異種の中心的存在になっている事が、


とにかく腹が立って仕方がなかった。


そして其処に一緒に暮らしている金の貴公子が、尚の事、気に食わなかった。


「復活祭の後の旅行では、金のあいつは絶対、蒼花の貴婦人を狙ってくる・・・・」


させん!!


其れだけは絶対にさせんっ!!


此の旅行を機に、白の貴公子は蒼花の貴婦人を口説く気でいた。


そして同時に金の貴公子も同じ事を考えているであろう事が判る故に、


白の貴公子は今から闘志を燃やさずには居られなかったのである。

この御話は、まだ続きます。


情報量が多くて「?」になってる方、済みません。


これから徐々に名前と人物が判っていくかと思いますので、


どうか気長に御付き合いしてやって下さいませ~~☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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