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異種たちの慰安旅行  作者: 貴神
22/22

(22)最期の宴

長かった、この御話も、これで、ラストになります。


少しでも楽しんで戴けたら幸いです☆

慰安旅行も本日で幕下ろし、各自穏やかな朝を迎えた異種たちは、太陽が南中に昇る頃、


旅館の白薔薇庭園に続く渡り廊下へと集まった。


同族全員での最後の会食は、白薔薇に囲まれた中庭園でする事になっていた。


旅館のベルガール達が庭園の真ん中に酒と料理の乗ったトレイを運び、


其れを其のまま地面の上に置いて庭園から去って行くと、夏風の貴婦人が皆に声を掛けた。


「じゃあ!! 皆、行こうか!!」


夏風の貴婦人が快の貴婦人の手を取って、庭園へと出る。


其の後を同族たちがついて行き、


ベルガール達が用意して行った酒と料理の乗った盆の周りに集まる。


異種たちがそれぞれ地面に腰を下ろすと、夏風の貴婦人がワインボトル持って、


皆のグラスにシャンパンを注ぎ始めた。


其のグラスの乗った盆を蒼花の貴婦人が持って、快の貴婦人を始め、皆に配り出す。


此の最後の宴では、旅館のベルガールの手は借りない事にしていた。


トレイに並ぶ料理はサンドウィッチとチキンと果物だけと、実に軽食だ。


渡り廊下に控え乍ら、旅館のベルガール達は首を傾げていた。


「何で、こんな処で、宴会をするのかしら??」


白薔薇に囲まれた異種たちは地面に其のまま座り、会話をし乍ら、サンドウィッチを食べている。


其れは宴会と云うよりピクニックだった。


「うんうん。それに寒くないのかしら?? コートも着ないで真冬の寒空の下だなんて・・・・


一昨日から雪は降っていないけれど、外は、こんなに寒いのに・・・・」


ぶるる、と一人のベルガールが震える。


「そうよね。ほんと何でなのかしら??」


「うんうん。


それに、ほら、今日の異種様たち何か違うと思ったら、皆、真っ白な服を着ているわ」


「言われてみれば・・・・何なのかしら?? 今日が特別な日か何かなのかしら??」


「でも此処から見てると、まるで白い天使が集まってるみたいね」


「うん、うん。凄く綺麗」


渡り廊下で待機するベルガール達は遠目に異種を眺め乍ら、うっとりと溜め息をついた。









最後の宴会が始まると、快の貴婦人が可笑しそうに笑った。


「何か不思議に感じていましたら、皆が皆、白い服を着ているのですね」


そう言う快の貴婦人も又、純白のドレスを纏っている。


勿論、彼女の場合、自分付きの侍女に用意された物を着ているだけだったのだが。


すると、グラスを片手に持ち、同じく白のドレスを纏った夏風の貴婦人が、にこりと笑った。


「今日は、とても空が澄み渡っていて気持ち良いですし、皆、白い服を纏いたくなったのでしょう」


勿論そんな訳がない事は快の貴婦人には判っていたが、微笑む。


そして皆の手にグラスがいき渡ると、夏風の貴婦人が大きく言った。


「皆との慰安旅行も、此れで最後だ!! 短い時間だったが、同族がこうして揃えた事、


母様が御参加して下さった事に、皆、互いに感謝し合おうじゃないか!!


そして此の旅行で得た感動と歓びを、永遠に忘れる事のない様に・・・・乾杯!!」


「乾杯!!」


皆が一斉にグラスを掲げると、シャンパンを口に含んだ。


すると白の貴公子が品良く立ち上がった。


其れに続いて、金の貴公子と赤の貴婦人も立ち上がる。


「紳士淑女の方々へ・・・・我々から贈り物です」


三人が右手を胸に揃って一礼すると、一瞬、同族たちの周りに円を描く光がパッと光った。


すると青く晴れ渡った空から、なんと雪が降り始めたではないか。


白い綿雪が次から次へと舞い降りて来る。


だが其れは積もる事はなく、異種たちの頭上で消えていく。


見上げると止め処なく降り注ぐ綿雪が、まるで星が降って来る様に見え、


宇宙に居る様な浮遊感を感じさせた。


其の光景に思わず見惚れる異種たち・・・・。


「綺麗・・・・でも、こんなに雪が降ってるのに寒くないわ」


ふと蘭の貴婦人が言葉を零すと、快の貴婦人が、からくりが解けたと云う様に頷いた。


「三人が力を合わせたからこそ出来る技ですね・・・・なんて素晴らしい」


其の言葉に皆も漸く、目の前の奇跡のからくりに気が付いた。


晴れ渡った空から雪を降らせているのは、白の貴公子。


そして其の光景を楽しみつつ、


暖かい空間で居られる様に赤の貴婦人の神力が同族たちをドーム状に囲み、


中を一定の温度に保っていた。


そして金の貴公子が光神こうしんならではの光迷彩で以て、


目の前の奇跡を外部には見えない様に隠していた。


三人の粋な演出に、快の貴婦人はターコイズブルーの瞳を微笑ませる。


其処は異種たちだけの空間。


他の者には、決して目にする事の出来ない空間。


美しく密かな異種たちの最後の宴会が始まったのだ。









食事も終え、弾んでいた会話も落ち着いてくると、宴も、もう終わるかに見えた。


だが夏風の貴婦人が皆に目配せして立ち上がると、


快の貴婦人以外の異種たちが同様に立ち上がった。


そして白銀の貴公子を左端に、皆、横一列に並んだではないか。


「??」


快の貴婦人は皆の行動の意味が判らず、地面に座った儘、目を瞬きさせる。


だが・・・・次の瞬間、彼女のターコイズブルーの瞳が見開かれた。


何故なら・・・・一列に並んだ同族たちが、右手を胸に当て左膝を着き、頭を垂れ・・・・


そして一斉に翼を広げたからだ。


それぞれの色鮮やかな翼が美麗な程に宙をゆらめき、其の予想もし得なかった光景に、


快の貴婦人は驚愕の儘に目を見開いていた。


だが・・・・直ぐに状況を飲み込んだ快の貴婦人は自分も立ち上がると、腰を屈め、今は、


もう羽ばたく事の叶わぬ純白の翼を露わにした。


今にも透けてしまいそうな其の白い翼に、皆が僅かに感嘆の声を漏らす。


腰を屈めた儘、向かい合う快の貴婦人と若い同族たち。


すると列の左端に並んだ白銀の貴公子が、快の貴婦人の前へと出た。


其れに気付いた快の貴婦人が背を伸ばして立つと、白銀の貴公子は彼女の前で再度、腰を屈め、


母親の右手を手に取った。


そして、そっと其の手の甲に口付ける。


「母上・・・・愛しています。此の世に私を産んで下さった事を、心から感謝申し上げます。


いついかなる時も母上が穏やかで在られます様、私は母上に尽くします」


静かな口調で告げる。


挿絵(By みてみん)


其の息子の言葉に、快の貴婦人は、にこりと笑うと、


「わたくしも・・・・貴方が、わたくしの子供として生まれてきてくれた事に、


心から感謝します。わたくしの愛しい白銀の貴公子」


口許を綻ばせて言う。


白銀の貴公子が下がって元の位置に戻ると、次は春風の貴婦人が前に出た。


「御義母様。まだまだ至らぬ娘では在りますが、どうか、これからも宜しく御願い致します」


穏やかな桃色の瞳に見詰められて、快の貴婦人は娘を慈しむ目で笑む。


「此方こそ。至らない面も在るかとは思いますが、どうぞ、これからも母と慕って下さいね」


春風の貴婦人が下がると、次は夏風の貴婦人が前へ出た。


「母様」


快の貴婦人の手を取り乍ら、夏風の貴婦人は真っ直ぐな眼差しで、


快の貴婦人のターコイズブルーの瞳を見上げる。


「母様、愛しています・・・・母様と出逢って百年、


いつも若い私たちを優しく見守っていて下すった事に、心より感謝申し上げます。


母様に栄光を・・・・」


瞬き一つせずに見詰めてくる橙の瞳に、


「・・・・有り難う」


快の貴婦人は優しく微笑み乍ら頷いた。


翡翠の貴公子が前へ出る。


「母様・・・・此の百年、有り難うございました。又・・・・いつか・・・・」


「・・・・はい」


判っていると云う様に頷く、快の貴婦人。


白の貴公子が前へ出る。


「母様。貴女様は此の世のどんな貴婦人よりも御美しい御方です・・・・


其れは永遠に私の中では変わりません・・・・」


「有り難う」


嬉しそうに微笑む、快の貴婦人。


白の貴婦人が前へ出る。


「母様・・・・母様は本当に、身も心も御美しい御方です。


これからも変わる事なく母様を鏡として、わたくし励んで参ります」


「はい」


優しく微笑む、快の貴婦人。


漆黒の貴公子が前へ出る。


「母様・・・・いつも、どんな時も、母様が幸福で在らん事を、御祈り致します」


「有り難う」


快の貴婦人が笑う。


蒼花の貴婦人が前へ出る。


「母様・・・・母様は本当に御美しい御方です・・・・わたくしも、いつどんな時も、


母様を鏡に日々精進致します」


「はい」


快の貴婦人は優しく笑う。


金の貴公子が前へ出る。


「母様・・・・俺、母様の事、好きです・・・・外見も勿論、御美しいけれど、


何て云うか・・・・母様の取り巻く雰囲気が好きです。俺、自分は結構、


長生きしてるつもりだったけど、母様に比べたら、まだ全然駄目なんだなって思います。


だから、これからも母様を尊敬させて下さい!!」


「はい」


何処か恥ずかしそうに、快の貴婦人は笑った。


蘭の貴婦人が前へ出る。


「母様・・・・私、母様の事、大好きです。


これからは母様の様な素敵な女性になれる様、頑張ります!! また御話聞いて下さいね!!」


「はい」


快の貴婦人は口許を綻ばせる。


赤の貴公子が前へ出る。


「母様・・・・どうぞ、これからも宜しく御願い致します」


「はい」


快の貴婦人は優しく頷く。


赤の貴婦人が前へ出る。


「母様、あたしも母様の事、大好きです!! これからも一杯、母様の御世話にならせて下さい!!」


「はい。喜んで」


快の貴婦人は満面の笑みで頷いた。


赤の貴婦人が列に戻ると、異種たちは再度、敬意を表す様に腰を屈め、色鮮やかな翼を広げた。


其の同族たちに心から返礼する様に、快の貴婦人も腰を屈めると、


「皆様・・・・・此の度は本当に、有り難うございました」


美しいターコイズブルーの瞳に涙を浮かべ、純白の翼を広げた。


其の敬礼と共に異種たちの最後の宴は、幕を閉じたのである・・・・。









渡り廊下で待機していたベルガール達は、目の前の整然とした光景に目を奪われていた。


「ねぇ・・・・あれ、何を遣られているのかしら??」


「快の貴婦人様に・・・・御挨拶かしら??」


「一人一人、快の貴婦人様に何か言ってるみたいね・・・・」


でも・・・・


「見ていて凄く、うっとりする眺めだわ・・・・」


胸の奥から溜め息を吐き乍ら、頷き合うベルガール達。


白薔薇庭園で純白の衣を纏った異種たちが一列に並んだ姿は、壮麗とも云える光景だった。


ベルガール達が溜め息と共に見守る中、だが突然、驚愕の声が上がった。


「おおおぉ・・・・!! なんと・・・・なんと云う事だ!!


素晴らしい・・・・なんと素晴らしい光景だっ!!」


一人の痩せた中年の男が、渡り廊下で全身を震わせている。


「あっ・・・貴方は!!」


其の男の顔を、ベルガール達は覚えていた。


「また貴方ですか!! 此処は貸し切りです!! 出て行って下さい!!」


「そうですよ!! 早く出て行って!!」


ベルガール達が男を押して追い出そうとしたが、男は手足をばたつかせて足掻く。


「私はトロヤの王宮付きの画家、ガガーリンだ!!」


「誰だろうと駄目です!! 出て行って下さいっ!!」


ベルガール達の騒ぎを聞き付けて二人のベルボーイが走って来ると、


男を貸し切り棟から引き摺り出そうとする。


それでもガガーリンと名乗る男は激しく抵抗し乍ら叫んだ。


「君たちには見えないのかっ?! あの美しい翼がっ!!」


「は??」


男の言葉に、ベルガールとベルボーイ達は思わず庭園を振り返ったが、


其処に並ぶ異種たちは白い服を着ているだけで、他に何か変わりはない。


「もうっ!! 変なこと言っていないで、出て行って下さい!!」


「早く出て行って!!」


ベルガールとベルボーイに引き摺られ乍ら、しかし、ガガーリンは一層声を張り上げた。


「私には見える・・・・そう・・・・此の肉眼を通してではない・・・・!!


内に在る目を通してだ!! 君たちには見えないのか??


あんなにも荘厳美麗な光景が・・・・!!」


感極まる表情で、わなわなと唇と手を震わせる男に、


ベルガール達は頭がおかしいのではないかと思い乍ら、男を棟から追い払った。


だが、やがて此の男ガガーリンが、異種全員が翼を広げた「天使の参列」と云う、


世紀に残る絵を描き残す事になろうとは、まだ誰一人として知る者は居なかったのである。









異種たちの親睦を深める為の慰安旅行は、終わった。


夕暮れを前に馬車の待機場へ向かうと、互いに軽く挨拶をして、


異種たちはそれぞれの馬車に乗り込んだ。


此れが同族たちが顔を合わせる、最後の冬の日だった。


ゼルシェン大陸の冬は長く、其の間は大陸の機能が殆ど停止する。


降り積もる雪とマイナス四十度の世界に、馬車を走らせる事も出来なくなる。


つまり・・・・春が訪れるまで、顔を合わせる事はないのだ。


其の想いを胸に少しばかり物寂しさを感じ乍ら、それぞれの馬車が出発して行く。


だが夏風の貴婦人と蘭の貴婦人の乗る馬車が、もう出ようとした時、


毛皮のコートを着込んだ金の貴公子が駆け寄って来て、扉を叩いた。


「何??」


夏風の貴婦人が訝しい顔で少し扉を開いた。


すると息を切らせ乍ら、金の貴公子が小声で言った。


「その・・・・前から訊こうと思ってたんだ。時々、主、


酷く夢に魘されてるって云うか・・・・とにかく昼寝してると、時々、凄く苦しそうなんだ」


主、大丈夫なのかな??


夏風の貴婦人なら何か知っているだろうと云う目で、金の貴公子が見上げてくる。


「ああ・・・・あれね」


夏風の貴婦人は理解した顔を見せたが、首を振った。


「私も判らない。昔からよ・・・って云うか、シェパード家に来てからね」


「え?? 白の館で何か在ったのか??」


答を求める金の貴公子に、だが夏風の貴婦人は肩を竦めた。


「判らない。別に特になかったと思うけど、シェパード家で暮らす様になってから、あいつ、


夢に魘される様になったのよ。


私も何度か、あいつに訊いたけど、何か、はっきり答えないのよね」


「そうなんだ・・・・」


「あいつ、昔の話したがらないから、あんま訊かないでやって」


でも夢に魘されている時は起こしてやって・・・・。


念を押してくる夏風の貴婦人に、金の貴公子は頷いた。


「判った・・・・有り難う。じゃ、また来年な!!」


「うん。来年」


夏風の貴婦人が扉を閉めると、馬車の車輪がゆっくりと動き走り出す。


其の馬車の後ろ姿を見送ると、金の貴公子は毛皮のコートに首を縮め乍ら空を見上げた。


楽しくて、でも何処か少し切ない同族たちとの旅行は終わった。


これから長い冬が続くのだ。


寒い寒い大陸の季節が・・・・。


だが見上げた空は目を瞠る程に青く美しく、硝子の様に何処までも澄み渡っていた。

長い長い御話を、此処まで読んで下さり、有り難うございます。


まだ、きっと、異種の存在が謎だとは思いますが、


この慰安旅行編で少しだけでも、異種を想像して戴けたなら、幸いです。


異種達の御話は、これからも沢山ありますので、是非、読んでみて下さいね☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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