(18)二日目の朝
引き続きの慰安旅行は、今回は次に繋げる為の内容になっています。
少しでも楽しんで戴けたら幸いです☆
一方。
似た者同士で同室になってしまった犬猿の仲の金の貴公子と白の貴公子は、険悪な空気の中、
互いに敵意丸出しで昼食を食べていた。
「朝一番に目にした者が御前で・・・・朝一番に聞いた声が御前の声で・・・・本日、
最初に食卓を囲む相手が御前で・・・・!! 悪夢だ・・・・此れは、まるで悪夢の様だっ!!」
と絶叫する白の貴公子に、テーブルを挟んだ向かいの席の金の貴公子も睨む。
「其の言葉・・・・そっくり其の儘、御前に返す!!」
「何だと?!」
「やんなっちゃうね。空も飛べない孔雀と一緒の朝なんてなっ!!」
「失礼な!! 私の羽根は飛べるわっ!! 阿呆面の金鷺になど言われたくはないっ!!」
二人は、ぎりぎりと歯軋りをすると、
不機嫌を互いにぶつけるかの如く乱暴な手付きで食を進める。
白の貴公子は白ワインを飲み乍ら、目の前の金髪の男を睨んで言った。
「御前・・・・蒼花の貴婦人から手を引けよ」
「嫌だね。御前こそ手を引けよ」
即答する金の貴公子。
蒼花の貴婦人は同族の女子の中でも、男子に人気の高い女性異種だ。
そして当然ながらプレイボーイの二人は、此の慰安旅行で彼女を口説き落とす事に燃えていた。
「そもそも貴様、俺の御婦人に手を出すのを辞めろっ」
「んー?? 俺じゃなくって、御婦人たちの方から声を掛けてくるのさ。無下に断れないだろ~~??」
へへん、と笑う金の貴公子に、白の貴公子は米神に血管を浮かばせると、
ばくり、とメインの白魚をフォークで食べる。
懇意になった婦人とは長く付き合うタイプの白の貴公子とは違い、其の場、
其の場限りの関係を結ぶ金の貴公子は、大変手癖が悪かった。
例え一夜限りであろうと此のヘラヘラとした金の男に自分の息の掛かった女を獲られるのは、
白の貴公子は、どうにも我慢ならなかった。
「ふん!! 貴様は蘭の貴婦人とでも宜しく遣ってろよ」
白の貴公子が唾を吐く様に言うと、金の貴公子は眉を跳ね上げた。
「誰が、あんな女!!」
「あんな女じゃないだろ?? ファーストキスをした仲じゃないか??」
「ちっがーうっ!! 俺まで初めてだったみたいな言い方するなよなっ!!」
「まぁまぁ。でも向こうは案外、其の気が在ったりするんじゃないか??」
「其れ以上言ったら、てめぇ、マジで、ぶっ殺すぞ・・・・」
本気で睨み付けてくる金の貴公子に勝ったとでも云う様に、
白の貴公子は嘲笑の笑みでパンを口に運ぶ。
蘭の貴婦人のファーストキスの相手が金の貴公子であった事は、
慰安旅行一日目にして同族の間に広がってしまった事実だが、
当の金の貴公子と蘭の貴婦人は御互い大嫌いであった。
「あいつ、俺の事、ゴールド・チキンなんて名前付けたんだぜ・・・・マジ許せねぇ」
ガツガツとサラダを食べ乍ら、未だ怒り治まらぬ様子の金の貴公子。
今回、御忍びで泊まりに来た異種たちは、偽名で以て宿泊していた。
其の偽名を考えたのが蘭の貴婦人であり、
金の貴公子には悪意としか言い様がない「ゴールド・チキン」と云う名前が付けられていたのだ。
よって金の貴公子は蘭の貴婦人に対して、未だに怒り狂っているのである。
「例え此の世の女が蘭の貴婦人一人になったとしても、あの女だけは絶対に御断りだっ!!」
「いやいや、喧嘩するほど仲がいいって云うじゃないか」
「てめぇ・・・・マジで好い加減にしろよ」
目を据わらせる金の貴公子を、白の貴公子は「まぁまぁ」と宥めると、話を続ける。
「だが早いものだな。御前が来て、もう一年だ。蘭の貴婦人は、そろそろニ年になるな」
ベルガールが食後の紅茶を運んで来ると、白の貴公子はカップを手にしみじみと言った。
だが金の貴公子は首を振った。
「其れ、違う。俺、蘭の貴婦人より先に来たぞ」
「は??」
白の貴公子は首を傾げた。
「何を言ってる?? 御前が来たの、去年だろうが??」
「え?? 俺、ニ年目だぜ」
「??」
会話が噛み合わず、思わず手が止まる二人。
すると謎が解けたのか、金の貴公子はぽりぽりと頭を掻いた。
「あー・・・俺、最初、滅茶苦茶、夏風の貴婦人に嫌われてたからなぁ~~」
「??」
「ゼルシェン大陸に移ってから一年の間は、
夏風の貴婦人に『出て行け!!』って散々言われてたんだよ」
つまり夏風の貴婦人が認めるまで、金の貴公子は同族に紹介されなかったのである。
「そうだったのか・・・・初耳だ」
驚きの表情をする白の貴公子に、金の貴公子は紅茶に砂糖を入れると、
くるくるとスプーンで掻き混ぜ乍ら、ばつの悪そうな顔で言う。
「だから・・・・主には本当、世話になったよ。
今思えば俺いい歳こいて、すっごい不良だったし・・・・」
当時の事を思い出すと、金の貴公子は胸が詰まった。
本当に滅茶苦茶な事ばかり遣っていた・・・・。
夏風の貴婦人には見限られ追い出されそうになり、
でも・・・・それでも決して匙を投げなかった翡翠の貴公子・・・・。
そう思いだした時、金の貴公子は突然、立ち上がった。
「あああっ!! あ、主の部屋、行かないと・・・・!!
マッチョが・・・・マッチョが・・・・!!」
主に何かしてたら、どうしようっ!!
ひいいぃぃ!! と金の貴公子は青ざめると、部屋を跳び出そうとしたが、
「おい」
ぐいっと、白の貴公子に腕を掴まれる。
「そんな事より、行くぞ」
「そんな事とは何だよっ!!」
「御前が実はホモだって事は、もう判ってる。ほら行くぞ」
「はあああっ?! ざけんなっ!! 俺はノンケだっ!!」
ぎゃんぎゃん叫ぶ金の貴公子の腕を掴んだまま部屋を出ると、
白の貴公子は彼の腕を引っ張り乍ら回廊をずんずんと歩いて行く。
「離せよっ!! 何処、行くっつーんだよっ?!」
「中庭だ」
「中庭?! 何で御前なんかと一緒に・・・っ!!」
「下見しなくて大丈夫なのか??」
そう言われて、金の貴公子は、はたと大人しくなった。
そして大事な事を思い出した。
そうだった。
自分は夏風の貴婦人から、或る事を頼まれていたのだ。
其の任務を思い出した金の貴公子は、今し方までの威勢は何処へいったのか、
大人しく白の貴公子について歩く。
二人が着いた場所は、白い薔薇に囲まれた広い中庭だった。
「雪は昨夜から止めてある。明日には地面も乾くだろうが、やはり日の入りが悪い」
白の貴公子の言葉に、金の貴公子は判った様に頷いた。
「此のくらいの雲なら問題無いな。
白の貴婦人が上手く雲を流してくれれば、自然に光を落とせるよ」
話し乍ら、二人は中庭の中央へと歩いて行く。
「でもさ。こう云うのは、白銀の貴公子がした方が早いんじゃないのか??」
後ろ頭に腕を組み乍ら金の貴公子がぼやくと、白の貴公子は呆れた声で言った。
「馬鹿か。白銀の貴公子が神力を使えば、直ぐにバレるだろうが」
「・・・・そうだった」
納得する金の貴公子。
「後は俺の光迷彩だけか」
「そうなるな」
「う~ん・・・・自分の光迷彩は、よく使うんだけど・・・・全員となると・・・・
上手く出来るかどうか」
光迷彩とは、光神の異種が使う事の出来る、姿を消す技である。
だが金の貴公子は今一、自信無さげに額を掻く。
そんな金の同族に、白の貴公子は鼻を鳴らした。
「御前、それでも主神なのか??」
「それはそうだけどさ・・・・神力自体、殆ど使わないし・・・・俺自身、
何で自分が主神なのかも全く判んないし」
「・・・・・」
主神とは其の属性の中の精霊たちに最も愛されている者で、大きな神力を秘めている者が多い。
だが金の貴公子は主神で在り乍らも大して神力は使えず、何故、自分が主神なのかも不思議だった。
「とにかく広さを認識して遣ってみろよ」
白の貴公子に促されて、
「うん、そうだな」
金の貴公子は難しい顔をしつつ、小さく頷いた。
冬の寒空の下で何やら佇んでいる異種の男二人を、
宿のベルガール達が回廊から不思議そうに見ていた。
「金の貴公子様と白の貴公子様だわ。二人して何をされていらっしゃるのかしら??」
「明日のランチは此の中庭で摂られるのよね」
「そうそう。でも、こんな真冬に中庭でなんて・・・・寒くないのかしら??」
すると。
「おお・・・・!! おおおっ!!」
打ち震える様な声が、ベルガール達の耳に届いた。
振り向いて見ると、回廊の窓際には見慣れない中年の痩せた男が立っていた。
男は目を此れでもかと云う程に見開くと、中庭を見詰める。
「ちょ、ちょっと!! 貴方、何ですか?!」
我に返ったベルガール達が声を上げると、男は興奮しているのか声を震わせる。
「あれは・・・・異種の白の貴公子と金の貴公子ではないかね??
此処には今、異種が泊まっているのかね?!」
明らかに不審者で在る男に、ベルガール達は両手を広げて声を上げた。
「何ですか、貴方?? 直ぐに此処から出て下さい!! 此処は今、貸し切りなんです!!
関係者以外入らないで下さい!!」
メイド達が男を押し出そうとすると、男は慌てて言った。
「私はトロヤ王付きの画家、ガガーリンだ。此処には他にも異種が泊まっておるのかね??」
「誰であろうと駄目です!! 出て行って下さい!!」
「貸し切りと云う事は・・・・もしや異種が全員、泊まっておるのかね??」
「とにかく出て行って下さいっ!!」
ベルガール達の騒ぎを聞き付けたベルボーイ二名が加勢に来ると、
画家と名乗る男は直ぐに貸し切り棟から追い出された。
だが此の男が、後に翼在る異種の姿を描いた有名な絵を残す画家となるとは、
まだ誰一人として知る者は居なかったのである・・・・。
慰安旅行、二日目の夕方。
異種一同は、母様こと快の貴婦人の部屋の小広間に集まり、皆で夕食を摂っていた。
二日目の此の日は、一日目の沢山の大皿料理を前にゲームをして盛り上がる様な事はなく、
穏やかに世間話をし乍らコース料理を食べていた。
そして最後のデザートが運ばれ其れを食べ終わると、異種たちは隣の居間へと移動した。
居間は割りとこじんまりとした部屋で既に暖炉が点いており、部屋の空気は暖められていた。
其の暖炉の斜め前に大きな一人用の椅子が一つ在り、
其れを囲む様に半円を描いて長椅子や単椅子が置かれている。
椅子の前には所々小さなテーブルも在る。
快の貴婦人が暖炉の傍の椅子に腰を掛けると、皆もそれぞれ自由に椅子に座り始めた。
白銀の貴公子と春風の貴婦人は夫婦仲良く長椅子に腰掛け、
夏風の貴婦人はドカリと単椅子に座る。
白の貴婦人は大胆にも赤の貴公子の腕を取ると、彼を二人用の長椅子に座らせ、
其の隣に自分も座った。
白の貴公子と金の貴公子は何としてでも蒼花の貴婦人の隣に座ろうと意気込んでいたが、
目の前の信じ難い光景に目を疑った。
蒼花の貴婦人は漆黒の貴公子と仲睦まじく並んで座っていた。
度々視線を合わせる二人の姿を見れば、其の理由は一目瞭然である。
「何だよ・・・・デキてんじゃん」
「うぬぬ・・・・漆黒の貴公子め・・・・!! 興味が無いとか抜かしていたくせに!!」
かつてない敗北に呆然とし乍らも、歯軋りする二人。
そんな同族たちには構わず、翡翠の貴公子は長椅子の端に座って頬杖を着いていた。
其処へ、ずっともじもじしていた蘭の貴婦人が勇気を振り絞って声を掛けて来た。
「と、隣、いい??」
翡翠の貴公子はちらりと蘭の貴婦人を見ると、「ああ」と短く返事をした。
内心「やったあ!!」とガッツポーズをし乍らもカチコチになり乍ら、
翡翠の貴公子の隣に座る蘭の貴婦人。
一同が席に着くと、ベルガール達が酒や茶、つまみに菓子を、
各テーブルに置いて部屋を出て行く。
部屋の明かりは暖炉にゆらりと燃える火と、扉の傍に灯る一つのランプだけだ。
今、此処に居るのは、異種と呼ばれる者たちのみ。
皆に飲み物が行き届いた事を確認すると、
夏風の貴婦人がブランデーの入ったグラスを片手に口を開いた。
「皆、今宵は、母様の御話を聞かせて戴こう!!」
そう言い乍ら快の貴婦人を見る。
「母様。今宵、私たちは、母様の御話が聞きたいのです。ですから愛する母様に・・・・乾杯!!」
「乾杯!!」
皆が、それぞれグラスを掲げた。
快の貴婦人は少し恥ずかしそうに笑っていたが、
「わたくしの話など、長く詰まらないものですよ」
美しい声で言った。
皆が、ただ静かに快の貴婦人を見詰める。
快の貴婦人は困った様に微笑すると、ティーカップを手に取った。
「そうですね・・・・では、わたくしの詰まらない御話を一つ」
この御話は、まだ続きます。
今回は余り動きが無くて、済みません。
次からは、快の貴婦人の御話を絡めての異種についての物語です☆
少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆




