表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異種たちの慰安旅行  作者: 貴神
16/22

(16)終宴

BL展開は、どうなるか? の御話です☆


少しでも楽しんで戴けたら幸いです☆

夜も深まる頃になっても、遊戯室では、それぞれが未だに酒を片手に遊び耽っていた。


異種の男子たちは低いテーブルを囲んで、カードゲームをしている。


一方、夏風の貴婦人と赤の貴婦人は、相変わらずビリヤードに燃えていた。


蒼花の貴婦人や白の貴婦人、蘭の貴婦人は、女三人集まって御喋りをしている。


其の三人の横で、春風の貴婦人がカクカクと眠りこけている。


遊戯室には度々ベルガールが出入りしては、空いたグラスや皿を下げ、新しい酒や肴、


菓子を運んで来る。


蘭の貴婦人は甘いカクテルを飲み乍ら、ボリボリとチョコレートを食べている。


此の時間帯になっても未だに食べているのは、蘭の貴婦人と赤の貴婦人、


そして金の貴公子くらいであった。


「貴女、本当によく食べるわね」


呆れた様に白の貴婦人が言うと、


「え?? だって此のチョコレート、美味しいわよぉ」


と答える蘭の貴婦人は既にかなり酔っていた。


それでも新たにチョコレートを鷲掴みすると、蘭の貴婦人は、


「だってさぁ。せっかくの主との旅行なのにさぁ。主、男友達とばっかり居るんだもん」


ぼりぼりぼりぼり・・・・食べ乍ら言う。


「あのねぇ。此れは皆で旅行なの。『主と旅行』じゃないのよ」


「プレイガールの白の貴婦人なんかに、私の主への純粋な愛は判らないわっ!!」


「はいはい・・・・」


うるうると泣き始める蘭の貴婦人に、


白の貴婦人はグラスに口を付け乍ら面倒臭そうに返事をする。


すると。


「確かに翡翠の貴公子様に恋をすると、とても困難な恋路になりそうよね」


泣き上戸になっている蘭の貴婦人に優しく声を掛けて来たのは、蒼花の貴婦人だった。


「そう!! そうなのよ!! とても困難な恋なの!!


ぶ厚い壁が立ちはだかっているのよぉぉっ!!」


拳を握る蘭の貴婦人に、蒼花の貴婦人と白の貴婦人は、


カードゲームをしている男子たちの方を見る。


異種の男子が集まる時、翡翠の貴公子が一人で居たり端の席に座っている事は、まずない。


改まった席では必ず中央の席に座っているし、こう云った自由な場だと必ずと云う様に、


赤の貴公子か金の貴公子か漆黒の貴公子かが隣に居る。


因みに、今の蘭の貴婦人の席からは翡翠の貴公子の後ろ姿しか見えない上に、彼の両側には、


ちゃっかりと赤の貴公子と金の貴公子が陣取っていた。


「あの赤と金の自称親衛隊もどきが邪魔なのよ~~!!」


悔しそうにチョコレートを噛み締める蘭の貴婦人に蒼花の貴婦人は困った様に笑うと、


グラスに残ったワインを飲み干して立ち上がった。


「では、わたくしは、そろそろ失礼しますわね」


「おやすみ」


「え~~!! もう寝るのぉ?!」


蘭の貴婦人は縋る様に目を潤ませたが、蒼花の貴婦人は「又、明日ね」と微笑むと、


横で眠っている春風の貴婦人を起こした。


「春風の貴婦人。もう部屋へ行かれては如何??」


さすられて、春風の貴婦人は眠たそうに目を開ける。


「・・・・ああ・・・・ええ。もう寝ますわ。皆さん、おやすみなさい」


ふらふらと立ち上がる春風の貴婦人を蒼花の貴婦人が支えて歩こうとすると、


春風の貴婦人の夫で在る白銀の貴公子が歩み寄って来た。


「済まないね。部屋まで私が送るよ」


そして、ひょいと妻を抱き上げ、


「今夜は、いつになく楽しい一時を過ごさせて貰ったよ。それでは諸君、また明日。おやすみ」


挿絵(By みてみん)


皆に優雅に会釈すると、愛する妻を御姫様だっこして遊戯室を出て行く白銀の貴公子。


其の余りにも完璧な紳士の光景に、


「いいなぁ~~、春風の貴婦人は~~」


羨ましそうに声を上げるのは蘭の貴婦人だ。


「さ。もう、わたくし達も部屋へ行きましょう」


白の貴婦人は肩を竦めると、蘭の貴婦人に声を掛けた。


「いつまでも此処で愚痴を零していても、今日は無理よ。


翡翠の貴公子の事は、明日、気を取り直して考えましょうよ」


「・・・・うん」


ぽんぽんと肩を叩かれ、蘭の貴婦人は名残惜しそうに翡翠の貴公子の後ろ姿を、もう一度見ると、


席を立った。


すると。


「んー!! 私も寝るか~~。皆、又ね~~」


夏風の貴婦人は背伸びをし乍らキューを投げると、皆に手を振る。


「夏風の姉が寝るなら、あたしも寝ようっと」


後を追う様に赤の貴婦人がついて行く。


異種の女子五人は男性陣に挨拶をして広間を出ると、各自くじで割り当てられた部屋へと向かった。


蘭の貴婦人と赤の貴婦人は同室であり、夏風の貴婦人と蒼花の貴婦人、


白の貴婦人は別々の部屋だ。


「また明日ね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


「おやすみっ」


それぞれが割り当てられた部屋に入って行くと、最後に回廊に残ったのは、


夏風の貴婦人と蒼花の貴婦人だった。


蒼花の貴婦人は黙って歩いていたが、隣を歩く夏風の貴婦人が突然、拳で肩を小突いてきた。


何?? と蒼花の貴婦人が振り向くと、夏風の貴婦人は笑っている。


「良かったじゃん」


歯茎を見せて笑う夏風の貴婦人に、蒼花の貴婦人は何を言われているのか判らず、


ただただ目を白黒させる。


「何、あんた?? 此の私が気付いていないとでも思ってたの?? ま、頑張んなさい」


にぃ、と笑って自分の部屋に入って行く夏風の貴婦人に、蒼花の貴婦人は湖深の様な目を瞠ると、


呆然として足が止まってしまった。


知られていた・・・・??


いつから・・・・??


いつものポーカーフェイスは何処へいったのか、蒼花の貴婦人は白い頬を真っ赤に染めていた。









一方、遊戯室に残っている男子五名も、そろそろ就寝すべく席を立ち始めた。


漆黒の貴公子は挨拶もせず無言で部屋を出て行こうとしたが、突然、誰かにグッと肩を掴まれた。


訝しげに振り向くと、後ろには真剣な眼差しをした白の貴公子が居た。


「御前、絶対に絶対に、蒼花の貴婦人に手を出すなよ」


「そうだぞ。其れだけは無しだからな!!」


加勢する様に言ってくるのは、普段は白の貴公子とは犬猿の仲で在る金の貴公子だ。


「・・・・・」


漆黒の貴公子は物静かな黒い眼差しで二人を見ると、


「別に蒼花の貴婦人に興味は無い」


ぼそり、と答える。


今回の慰安旅行では、漆黒の貴公子と蒼花の貴婦人は同じ部屋に割り当てられており、


蒼花の貴婦人を日々狙っている白の貴公子と金の貴公子としては気が気ではないのだ。


しかし蒼花の貴婦人どころか異性に対して興味が無いのか、漆黒の貴公子は、


どうでも良さそうに遊戯室を出て行った。


そんな漆黒の同族に二人は舌打ちする。


「澄ました顔しやがって!! 切手オタクめが!!」


悔しさで胸がムカムカしたが、しかし腹を立てたところで部屋を替えられる訳でもなく・・・・


俺たちも部屋へ行くか・・・・そう溜め息をついて、金の貴公子は翡翠の貴公子に声を掛けた。


「主~~。もう部屋へ行こうぜ」


まだ椅子に座っている翡翠の貴公子の顔を覗いて見ると、


よりにもよって彼は椅子で眠りこけていた。


「主~~、起きろよ~~」


金の貴公子が強く揺さぶったが、翡翠の貴公子は全く起きる気配がない。


此れは・・・・まずい。


金の貴公子が、そう思った時、ふわりと翡翠の貴公子の身体が浮いた。


「あ、てめぇ!! 何すんだよっ!!」


金の貴公子が慌てて大声を上げると、


「同じ部屋だ。俺が運ぶ」


身長218センチの大男、赤の貴公子が軽々と翡翠の貴公子を抱えて歩き出す。


赤の貴公子と翡翠の貴公子は、よりにもよって同じ部屋であった。


大股で遊戯室を出て行く赤の貴公子の服を、後を追って来た金の貴公子が渾身の力で引っ張る。


「てめぇ、畜生!! 主を下ろせっ!!」


俺の主に触るなぁぁ!!


と、あくまで心の中で叫ぶ金の貴公子の肩を、ガシリと白の貴公子が掴んだ。


「おい。私たちの部屋は、こっちだぞ」


犬猿の仲で在る白の貴公子と金の貴公子は、此れ又よりにもよって同じ部屋であった。


其の上、赤の貴公子たちの部屋とは逆方向に在る。


「マッチョ!! 絶対、絶対、絶対、主に何もするなよっ!!」


服を掴んだ儘ギャンギャン吠える金の貴公子を、赤の貴公子は暫し無言で見下ろしたが、


「そんな無理な約束は出来ん」


平然とそう言い放つと、背中で軽く金の貴公子の手を振り払い、廊下を歩いて行ってしまった。


「何だとぉ~~!! てめぇ~~!! マッチョ~~!!


主に何かしたら、絶対絶対絶対、許さねぇからな~~っ!!」


雄叫びを上げる金の貴公子は、だが、ずるずると白の貴公子に引き摺られて行ったのであった。









宴会場で眠りこけてしまった翡翠の貴公子を抱えた赤の貴公子は、


割り当てられた部屋に入ると、彼を寝室へ運んだ。


靴を脱がせて、寝台に横たわらせる。


翡翠の貴公子はぐっすりと眠っていて、全く起きる気配を見せない。


此の分だと、朝まで目を覚まさないだろう。


それは赤の貴公子にとって好都合以外のなにものでもなかった。


赤の貴公子は十代の子供の頃から、翡翠の貴公子に熱い想いを抱いていた。


だが其の頃は互いに旅路であった為、直ぐに別れ、彼の恋心が成就する事はなかった。


しかし自分たちは再会したのだ。


記憶に在った翡翠の少年は、更に磨きを掛けたかの如く美しく成長していた。


其の姿を目にした途端、百年振りの想いが赤の貴公子の身体中に燃え上がっていた。


それから、どんなに此の翡翠の男に想いの丈をぶつけてきただろう。


だが其の想いは、いつも躱され続けてきた。


力尽くで手に入れるには、此の翡翠の男は強過ぎたのだ。


しかし・・・・今日は違う。


意中の男は酒に酔い潰れ、無抵抗な赤子の如く眠っている。


こんな絶好のチャンスを、赤の貴公子が逃す筈がなかった。


閉ざされた儘の皓い瞼を、赤の貴公子は、じっと見下ろした。


長い翡翠の睫毛。


其の目元に掛かる切ったばかりの翡翠の髪が、普段よりも少々彼を幼く見せている。


そして弧を描いた綺麗な鼻筋を通り、下へと視線を落とすと、


上品なまでの紅桜色のふっくらとした唇が在る。


其れを間近で見ているだけでも動悸が増し、奪いたい衝動が込み上げてくる。


赤の貴公子は、ゆっくりと顔を近付けると、愛しい其の唇に己が唇を重ね様とした。


が。


突然、翡翠の瞳が開いたではないか。


まさか勘付いたのか?? と赤の貴公子は思ったが・・・・。


翡翠の貴公子は赤の貴公子から擦り抜ける様に起き上がると、


よろよろとした足取りで洗面室の方へと走って行く。


そして間も無くして、


「うっ・・・!!」


と云う嘔吐の音が聞こえた。


どうやら胃の中の物を全て吐いてしまった様だ。


「・・・・・」


まぁ、仕方のない事だなと思いつつ、赤の貴公子は黙って寝台に座って待っていたが、


いつまで経っても翡翠の貴公子が戻って来ないので、気になって洗面室へ行ってみると、


翡翠の貴公子は・・・・床に座り込んで寝ていた。


一頻り吐いて、また眠ってしまった様である。


「・・・・・」


其の見慣れない想い人の姿を見下ろすと、赤の貴公子は備え置かれたタオルを水で濡らし、


彼の口許を拭いて遣り乍ら声を掛ける。


「主、大丈夫か??」


だが返事は無い。


赤の貴公子は再度、翡翠の貴公子を抱えて寝台へと運ぶと横に寝かせた。


翡翠の貴公子は気持ち悪そうに顔をしかめては、時折、唸っている。


流石に此の状態で手を出すのは可哀相だろうと、赤の貴公子も思った。


「・・・・・」


赤の貴公子は翡翠の貴公子に毛布を掛けてやると、其の寝顔を見下ろした。


そして熱い想いを、今は堪える。


まぁ、いい。


今日が駄目なら明日が在る。


楽しみは、もう少し後にとっておこう。


静まり返った寝室には、翡翠の貴公子の小さな寝息と唸り声だけが響いていた。









ネグリジェに着替えた夏風の貴婦人は、橙の猫目を、それは丸くして言った。


「何、あんた?? 本当に、もう寝るの??」


意外だと云わんばかりの彼女の橙の目の先には、早々と寝台に潜り込んだ白銀の貴公子が居た。


白銀の貴公子は妻在る身だが、くじで夏風の貴婦人と同じ部屋になってしまったのだ。


だが異性と同室になった事など気にも留めないかの様に寝る白銀の貴公子に、


夏風の貴婦人は信じられないと云う顔をしていたが、口の端を吊り上げると彼の寝台に跳び乗り、


其の身体に馬乗りになった。


そして、ねーえ・・・・と甘い声を出し乍ら上から見下ろす。


だが。


「就寝するには遅過ぎるくらいだよ。おやすみ」


白銀の貴公子はにこりと笑うと、やはり寝るつもりの様である。


だが夏風の貴婦人は白銀の貴公子の身体の上から一向に退こうとしない。


「何?? もう私って魅力無い??」


挑発する様に言ってくる夏風の貴婦人に、白銀の貴公子は笑った。


「君は、いつでも魅力的だよ」


「だったら抱きたいと思わない??」


大きな橙の猫目が近付いてくると、唇と唇が付きそうになる。


だが・・・・。


白銀の貴公子は起き上がると、夏風の貴婦人の頭を自分の肩に埋めた。


そして微笑混じりで言う。


「思うよ。そんな姿で、こんなに近くに居たらね」


夏風の貴婦人は彼の肩から顔を離そうとしたが、強く抱き締められていて、そう出来ない。


彼女を抱き締めた儘、白銀の貴公子は呟く様に言った。


「君を・・・・愛していた。何よりも・・・・愛していたよ。けれど・・・・手に入らなかった」


勝気な彼女の瞳は、いつも翡翠の幼馴染みを追っていた。


「過去には・・・・戻れない」


彼女を抱き締める腕を緩めると、白銀の貴公子は真正面から真っ直ぐに夏風の貴婦人を見る。


そして優しく笑った。


女の方から誘ってきた事に恥をかかせない様に・・・・。


宥める様な優しいターコイズブルーの瞳に見詰められて、だが、


それでも夏風の貴婦人は推してきた。


「でも今、此の瞬間なら、過去に戻れるわ」


橙の強い眼差しが色っぽく見上げてくる。


其の二人の視線がぶつかり合い、過去を呼び起こした。


自分たちが過去に、どれだけ愛し合ったか。


そして、そうしなくなって、どれだけの年月が経ってしまったか・・・・。


懐かしむ様に白銀の貴公子はゆうるりと瞬きをすると、彼女の肩に手を置いて、


そっと自分の身体から離した。


そして優しいターコイズブルーの眼差しで、だが、はっきりと言った。


「今は何よりも誰よりも、妻を愛している。どんな瞬間もね」


だから彼女を裏切る様な真似は決してしない。


「・・・・・」


全く自分に応じ様としない、かつて愛し合った男に、夏風の貴婦人は橙の瞳で凝視していたが、


「あーあ!! あんたって本当、パーフェクトボーイなんだから!!」


詰まんない!!


大きな欠伸をして隣の寝台へと戻った。


そして二人の異種の男女は何事もなく、ランプの火を消して就寝したのだった。

この御話は、まだ続きます。


翡翠の貴公子を抱きたいのに、出来なかった赤の貴公子。


白銀の貴公子と少し遊びたかったのに、断られてしまった夏風の貴婦人。


それぞれの想いは、まだまだ続きます☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ