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異種たちの慰安旅行  作者: 貴神
1/22

(1)温泉企画

異種たちが勢揃いで、温泉旅行に行く事になりました☆


笑いあり、シリアスあり、恋心あり・・・・と、色々な御話の予定です☆


異種が全員出てきて名前を覚えるのが大変かと思いますが、


覚えられる範囲で、ぼちぼちで構いません(^^;

夏風なつかぜの貴婦人が、


馬車で南部の白銀はくぎんの貴公子のシェパード家に到着する頃、


其れと同時にあかの貴婦人も又、馬に乗ってシェパード家を訪れていた。


「夏風のねえ!!」


馬車から下りて来た夏風の貴婦人を見付けた赤の貴婦人は嬉しそうに駆け寄ると、


「久し振りっ」


夏風の貴婦人は、にぃと笑う。


二人は館のメイドに案内されて屋敷内へと通された。


夏風の貴婦人の横にぴたりと付き乍ら、赤の貴婦人は其の屋敷の大きさに圧倒されていた。


「お、大きい・・・・王様の家みたいだ」


こじんまりとしたあかの館の数十倍は軽く在るであろう白銀の貴公子の館に、


赤の貴婦人は目を白黒させている。


「シェパード家は、此のゼルシェン大陸有数の上流貴族だからね。まぁ、当然よ」


夏風の貴婦人は可笑しそうに笑う。


「おお・・・!! 上流貴族!! 何だか白銀の貴公子に逢うの、緊張するなぁ」


同じ異種と云っても、人としての地位も生まれ乍らに持っている白銀の貴公子は、


赤の貴婦人には全く違う存在の様に思えてならなかった。


以前は少し顔を見合わせただけだったので、


きっちりと白銀の貴公子と逢うのは今回が初めてなのだ。


すると、


「やぁ。いらっしゃい」


金髪にターコイズブルーの瞳の長身の白銀の貴公子が柔和に迎えてくれた。


「ハイ!!」


夏風の貴婦人が軽くウィンクしてみせると、隣の赤の貴婦人が、わなわなと拳を握り締める。


そして、まじまじと長身の白銀の貴公子を見上げると・・・・


「やっぱ、マジ格好いい!! マジ王子様だっ!!」


興奮した様に顔を紅潮させる。


そんな赤の貴婦人に白銀の貴公子は可笑しそうに微笑むと、


「こんにちは。赤の貴婦人。君も、やはり愛らしい方だね。また御逢い出来て嬉しいよ」


大きな手を差し出す。


其の手を赤の貴婦人が握り返す。


すると、


「まぁ!! いらっしゃい!!」


白銀の貴公子の妻の、波打つ桃銀とうぎんの髪の春風はるかぜの貴婦人が現れた。


「おお!! 春風の貴婦人だ!!」


既に彼女とは面識が在る赤の貴婦人は若い娘同士の様に二人で掌を合わせて、再会を喜ぶ。


「では奥で話をしようか」


改めて白銀の貴公子が案内し始める。


夏風の貴婦人は、こうして他の異種の屋敷へ行っては、仕入れた情報を元に、


今後の政策や発案を異種同士で考察するのだ。


今回は新しく構えられた赤の館を含めて白銀の貴公子と今後の見通しを考えるべく、


シェパード家を訪れたのである。


一同は暫くサロンで話を続けていたが、漸く内容が煮詰まってくると、


赤の貴婦人が大声を上げた。


「あああ!!」


一体どうしたのか??


三人が赤の貴婦人を見ると・・・・。


「もう直ぐ冬じゃん!!」


窓辺に駆け寄る赤の貴婦人が頭を抱えた。


「其れが、どうしたのよ??」


夏風の貴婦人が訊ねると、赤の貴婦人は半泣きの顔で言う。


「あたし達、冬、駄目なんだって!! 苦手なの!!」


「??」


「昔ね、一度、ゼルシェン大陸の近くで冬を過ごした事が在るんだけど、


もう余りの寒さに死ぬかと思った!!」


ぜぇぜぇと勢い良く語る赤の貴婦人に、漸く夏風の貴婦人は納得する。


「成る程。火系ひけいのあんた達は寒さに弱いのね??」


ゼルシェン大陸の冬は長くて寒い。


其の寒さは赤の貴婦人に限らず、他の異種たちにとっても厳しいものであった。


冬の始めの復活祭が終ると交易は一気に縮小され、多くの行政及び商業が春まで動く事はない。


ゼルシェン大陸の冬は、さながら冬眠の如しなのだ。


人々にとっても非常に行動を制限される季節で在るのだが、


どうやらあかの兄妹にとっては、殊更、辛い季節の様である。


「確かに冬一番活動的なのは、しろの貴公子としろの貴婦人だけだしね」


白銀の貴公子が納得と云う様に頷く。


しかし、そうなると、其の逆のタイプであろうあかの兄妹は、


冬が大の苦手と云う事になる。


「うち等、秋になると、いつも海のずっと向こうの南を目指して旅してたんだよね。


あああああ!! どうしよう!! 此の儘じゃ、凍死するよぉ!!」


冬は嫌だあぁぁ!!


挿絵(By みてみん)


一人苦悩する赤の貴婦人に、夏風の貴婦人は「諦めろ・・・・」と彼女の肩を叩く。


だが夏風の貴婦人は、ふと何か思い出した様に手を打った。


「おお・・・・そうだわ!!」


何事かとしろの夫妻と赤の貴婦人が夏風の貴婦人を見る。


「温泉よっ!! 温泉だわ!!」


夏風の貴婦人は拳を握り締めた。


「復活祭の後、皆で温泉に行こうじゃない!! ドトールの温泉!!」


「温泉か・・・・」


白銀の貴公子は暫く考える様にすると頷いた。


「確かに・・・・私たちはプライベートで全員と逢う事が、今まで一度もなかったしね。


復活祭後の数日の温泉で、赤の兄妹の冬凌ぎには、まぁ、ならないだろうけれど、異種同士、


親睦を深めると云う意味では、良い提案かも知れないね」


「そう!! 其れよ!!」


自信有り気に鼻息を荒くしている夏風の貴婦人は、既に赤の兄妹の冬対策など、


どうでもいいのか、温泉計画に顔を輝かせる。


「復活祭の後に、ドトールの温泉宿に二泊三日泊まるのよ!! 完全、御忍び!!


堅苦しいの一切無し!!」


勢い良く語る夏風の貴婦人に、春風の貴婦人も嬉しそうに顔を綻ばせる。


「素敵・・・・!! わたくし、温泉、初めてですの!!」


どうやら白の夫妻も乗り気の様である。


異種たちは式典や其の他の催しの度に集合する事は在っても、実際、


互いに言葉を交わせるのは控え室に居る僅かな間だけであった。


更に男女に至っては常に隔壁が在った為、親睦を深める等と云う事は無理に等しかったのである。


「そうと決まったら、直ぐにドトールの宿を取らなきゃ!!」


俄然遣る気の夏風の貴婦人である。


ドトールは南部に在る街の一つだが、


温泉の在る高級宿は秋口から復活祭前後に掛けて非常に込み始めるのだ。


今から予約を取らなければ、直ぐに満室になってしまう事だろう。


「じゃあ、此の件は私が進めておくから、日程がはっきりしたら、追って連絡するわ」


夏風の貴婦人は、にぃと笑うと、


「あ・・・・母様ははさまも行かれるかな??」


白銀の貴公子に問う。


「母上にも訊いておこう」


白銀の貴公子の母親のかいの貴婦人は既に隠居生活を送っている異種で在る為、


多くの行事にも滅多に顔を出す事はなかった。


「あのさぁ」


好い加減、赤の貴婦人が上目遣いに夏風の貴婦人を見上げる。


「個人的に、温泉どころじゃないんだけど」


無論、そんなささやかな訴えなど、夏風の貴婦人は最早、聞いてはいなかった。









後日、それぞれの異種の屋敷の下へ、温泉企画の書類が届いた。


翡翠の館では其れを見たきんの貴公子が嬉しそうに声を上げる。


「おお!! 慰安旅行だって!! しかも温泉!!


此れは蒼花あおはなの貴婦人に近付ける大チャンスだ!!」


夏風の貴婦人も、たまにはいい提案をするじゃないか!!


まだ三ヶ月近く先の話に、金の貴公子は胸を高鳴らせる。


だが翡翠の貴公子は一人考える様に机に肘を着くと、何処かしかめっ面になる。


そんな翡翠のあるじに、金の貴公子は目を丸くする。


「主、温泉嫌いなのか??」


「いや・・・・別に」


翡翠の貴公子は首を振る。


「何?? 何か気になる事でもあんの??」


「・・・・・」


翡翠の貴公子は金の貴公子の言葉には答え様とせずに黙りこくっている。


だが其の理由が何なのかは、金の貴公子には知る由もなかった。


それでも内心、納得のいかなかった翡翠の貴公子は、後日、


東部の会議場で夏風の貴婦人を捕まえた。


翡翠の貴公子の方から声を掛けて来るのは実に珍しい事で、


夏風の貴婦人は自分より頭一つ高い翡翠の貴公子を不思議そうに見上げた。


すると翡翠の貴公子は、いつになく険しい表情で言った。


「何なんだ・・・・あの慰安旅行は」


夏風の貴婦人は翡翠の貴公子の稀有な行動に暫く目を白黒させていたが、


「あ、そっか!!」


ぽん!! と手を打つ。


それから少し考える様にすると、


「まぁ、いいじゃん」


がはははは!! と笑う。


だが、


「良くない」


翡翠の貴公子が睨んでくる。


そんな翡翠の貴公子に、夏風の貴婦人は宥める様にぽんぽんと彼の胸を叩く。


「何とかなるって」


「・・・・・」


仏頂面の翡翠の貴公子に、夏風の貴婦人は唇を尖らせた。


「だってねぇ・・・・」


「・・・・・」


「冬は寒いとか云う話をしてたらさぁ」


「・・・・温泉に行きたくなったんだな」


「そうそう。よく判ってんじゃん」


白い歯を見せてニカッと笑う夏風の貴婦人に、翡翠の貴公子は、もう何も言う気がしなかった。


彼女は、こう云う女なのだ。


諦める他あるまい・・・・。


翡翠の貴公子は深く深く溜め息をついた。


ただただ、ひたすら、復活祭が訪れるのが憂鬱だ・・・・と。









秋口になると高級街に在る温泉宿ドトールには、予約が次から次へと舞い込んでくる。


其の多くは、二ヶ月以上も先の復活祭前後の予約ばかりである。


何故ならば、ゼルシェン大陸の復活祭には、大陸各地の貴族から商人、


芸人と云った者たちが集まって来るからだ。


其の為、此の秋から冬に掛けて、南部の宿と云う宿は大忙しなのである。


或る高級宿でも、ベルガール達が夜遅くまで予約の書類を捌いていた。


此の高級宿シュリンプは、温泉が有名で、中でも競争率の激しい人気の宿である。


更に客の殆どは貴族や大富豪ばかりなので、一つの客の接待にも、


より高度な対応力と準備が必要とされるのだ。


其の為、支配人だけでなく、ベルガール達も目をぎらぎらと光らせて書類に目を走らせていた。


忙しなく作業を続ける張り詰めた空気の中で、


だが一人のベルガールが突然「ぷ」と笑い出した。


其の緊張感のない声に、皆が一斉に彼女を見る。


「何だね??」


いかにも不謹慎だと云う様に支配人が咳払いをすると、其のベルガールは更に笑い出した。


「此れ・・・・此れ見て下さいよ!!」


ベルガールが一枚の紙を差し出すと、他のベルガール達も興味津々に覗き込む。


すると・・・・。


皆、一斉に大笑いし始めたではないか。


高級宿の事務室が一気に笑いの渦と化す。


支配人とチーフの中年の女性だけが皆を諌め様としたが、


腹を抱えたベルガールが涙ながらに言った。


「だって・・・・だって・・・・此の団体の御客様・・・・名前の所に・・・・


『プリティ・フラワー団』って書いて在るんですよ!!」


きゃはははは!! と更に一同が笑い始める。


「しかも・・・・しかもですよ・・・・!!」


ベルガール達が笑い混じりに必死に訴えてくる。


「一人一人の個人名の所、見て下さいよぉ!!」


ベルガール達は堪えられんと云う様に腹をよじった。


支配人は一枚の紙を見詰めると、


「聞いた事のない団体だ・・・・人数は十三名か」


考える様に首を傾げる。


すると、


「最近は遠方からの予約も増えてきていますし、もしかしたら、


どこか遠い国の王室御用達の芸団ではないでしょうか??」


チーフが真剣な眼差しで紙を見詰める。


「何で在れ、御客様で在る事には違いない。皆、好い加減、笑うのは辞めなさい」


其の団体の正体を彼等が知るのは、まだ二ヶ月以上も先の話であった。

この御話は、まだ続きます。


まだ温泉旅行の計画が立ったばかりですが、


これから、どうなっていくのか、楽しみにして貰えた嬉しいです☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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