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第13筆 美しい花には棘があり


 一通りの出来事をルリアから聞き、ラウルがため息をつく。


「あら、ラウル様。シンバルでは、ため息をつくと幸せが逃げると言われておりますよ」

「だったら、ため息をつかせるな」

 椅子に座るルリアを、ラウルが睨みつけた。


「そう仰られても。(わたくし)も困っておりまして」

 襲撃された当事者とは思えないほど、のほほんとルリアは微笑む。傍らに控えるシズナが、肩をすくめた。


「リットとジンの話と合わせると、すべて第二王女の仕業で間違いないな?」

 ラウルの言葉に、()()()()()()()()()()()()()


「何か思うところがあるのか。リット」

 目ざとく、ラウルが気づいた。


「言え。言わなければ、斬るぞ」

「うっわ。こわ」

 リットの軽口にジンが顔を曇らせる。肘で突く。


「ラウル殿下が斬首を命じる前に話せ。おれは友の血で汚れたくない」

「ジン。お前も十分に怖いことを言う」

 降参とばかりに、リットが両手を胸の位置に挙げた。


「一件がすべて、夢の世の住人サマの仕業なら。ただの宮廷書記官の私は、もう部外者でありませんか?」

 わざとらしく、リットが首を捻る。


「襲撃の報告は済ませましたし、もう下がっても?」

「まだ、お前に用がある。リトラルド・リトン・ヴァーチャス」

 無遠慮に王前名(おうぜんめい)を呼ばれ、ひくりとリットの口の端が引き攣った。

 獲物をなぶるように、ラウルが嗤う。


「ルリア王女はな、〈白雪騎士物語〉の愛読者なのだそうだ」

「えーと。それが……、何か?」

 リットが愛想笑いを浮かべる。ジンとトウリが目を見合わせた。


「ルリア王女。この者が正体不明の物書き、トリト・リュート卿の――」

 ラウルの言葉に、ジンとトウリが驚愕する。


「原稿運びだ」

「……仕返しにしては、辛辣ですね。ラウル第一王子殿下様」

「敬語を重ね誤るほどに、堪えたか?」

 紫の瞳がリットを見つめる。


「一級宮廷書記官、兼、宮廷書記官長補佐」

「一矢報いられました」

 リットが深くため息をつく。


「ああ、幸せが。リット様」

 ルリアの言葉に、リットは首を横に振った。茶髪の三つ編みが尾のように揺れる。


「ルリア王女。呼び捨てで構いません」

「ですが。あのトリト・リュート卿の原稿を手にされる方なのでしょう? 羨ましいわ! 書籍商から勧められて〈白雪騎士物語〉や〈花の名は〉や〈世界の果てで真実を誓う〉を読みました!」

 ははは、と乾いた笑いをリットは返す。


「ご本人には、お会いするのですか?」

「いえ、ルリア王女。原稿が送られて来るので、私が誤字や脱字がないかどうか……確認をするのです。そうして、城下の職人に原稿を渡し、本にしてもらいます」

 トウリが生温かい視線を主人に投げた。


 ふん、とラウルが鼻を鳴らす。

「それで、近衛騎士団副団長」

「はっ」

 ジンが畏まる。


「今回の親善試合の相手が決まった」

「はい。どなたでしょう」

「そこにいる」

 ジンとシズナの目が合った。


 かつん、とシズナが靴の踵を響かせる。


「シンバル王国、第一王女ルリア様付き騎士シズナ・レイトリアと申します」

「フルミア王国、近衛騎士団副団長のジン・ジキタリアだ。よろしく頼む」

 ルリアとトウリが、恍惚(こうこつ)とした息をつく。


「かっこいいわ……」

「かっこいいです。騎士同士の名乗り……」

 ふむ、とリットが口元に手を当てた。


「賭けネタができたな。宮廷書記官と、近衛騎士団の連中に話を投げてみよう」

「リット様。夢を(かね)にしないでください」

 トウリが目を据わらせる。


「はっはっは。『光るもの、すべて銀ならず』だぞ、トウリ」

「よくわかりませんが、後でジン様に殴ってもらいます」

「わかった。右手だな」

 ジンが拳を握った。


「待て待て。王族方々の御前だぞ!」

 リットの言葉にジンが頷く。


「ああ。後で覚えていろよ」

「それはお前が言う台詞(セリフ)ではない!」


 リットの焦りの声が、紋章の間に響いた。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] リット様の三つ編みは、背中の肩甲骨辺りまでの長さですか?意外に腰まで? [一言] ラウル殿下の強権仕返し発動してますね!いいぞもっとやれ。(*´꒳`*)
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