第四話 王都
さて。俺が住んでいた王都に向かおうか。
だけど方向がわからないな。
「風よ。俺に王都の場所を教えてくれ」
《空気》から王都の場所を探した。
すると、30km先のところに王都を見つけた。
うん。アンバーもグラディウスも生きている。
それに執事のジェイコブも元気そうに仕事をしているな。良かった。
もうすぐ太陽も降りてきそうだ。
早めに王都に行こう。
「《浮遊》」
身体に風を纏って、浮かせる。
そのまま王都まで飛んで行った。
王都に到着したのは夕暮れの頃だった。
そのおかげで王都に忍び込むことも簡単だった。
王都に入るためにはお金が必要なんだけど、俺は今お金を持っていない。
まあ、ダンジョンで手に入れた魔物の素材を売れば金は貰える。
明日の朝にでも関税を置いておけばいいだろう。
王都の様子はあまり変わっていなかった。
沢山の人がいて、様々な人種が集まっている。
笑顔が絶えず、活気あふれている。
まあ、これだけ人がいても俺を知る人物はいないだろう。
俺はほとんど友達がいなかったからね。
《そよ風》のせいで。
しばらく街を歩いて、路地裏に入る。薄暗く、人が歩いている気配がない。
だがこんな場所には必ず、裏買取屋がいる。
俺はそんな路地裏の建物で、唯一看板がある店に入った。《ダンテの買取工房》とだけ書かれた看板で、見た目は薄汚れている。だが、明らかに人の出入りがあるし、そういう素材の《空気》を感じた。
間違いなく、ここは裏買取屋だ。
「どうも」
短い挨拶で店に入る。カランコロン、と鈴の音が店に響いた。
「……いらっしゃい」
店の奥に座っている、ガタイの良いおっさんも短くそう答えた。
タバコを吸いながら、王国新聞を読んでいる。
俺には少しも視線を寄越さない。
まあ、俺を裏の客とは思ってないんだろうな。
「買取を頼みたい」
おっさんの近くまで行って、そう言った。
「ウチで買い取れるのは家具や―――」
「魔物の素材を頼む」
「…………そうかい」
ようやくおっさんは新聞を閉じて、俺と目を合わせた。その瞬間、少し驚いたようで顔を顰めた。
「それで、素材はどこだ?」
「ああ、これだ」
俺は異次元の扉から魔物の素材を取り出した。
といっても、全部はカウンターの上に収まらないから、一割くらいだけど。
それを見たおっさんは興奮して、椅子から立ち上がった。
「そ、それはアイテムボックスか!?」
アイテムボックスっていうのは、異空間に物を収納することができるスキルだ。持っている人は限られる、かなり珍しいスキルだ。しかも、収納できる量も人によって変わる。
一方の俺は、空間を捻じ曲げて無理やり異次元を開いて、そこに収納しているだけだ。用量に限界はないけど、力業でやっているだけだから、そんな便利なものじゃない。
時々、間違って別の次元を開いちゃうこともあった。というか、今もある。
「つうか、なんだ、この素材は! どれもレア物ばかりじゃねえか!」
俺が返事を言おうとすると、おっさんは素材を鑑定し出した。
集中した様子で、似合わない眼鏡をして集中している。
「おい、兄ちゃん」
邪魔するのも悪いので、店の中の物を見ているとおっさんからお呼びがきた。
大体、一時間くらいかかったかな。
「こりゃあ、どこで手に入れたんだ?」
「俺がダンジョンで倒した魔物の素材だ」
「………まあ、そういうことにしておくよ」
ああ、こりゃ信じてねえな。
まあ別にいいんだけどさ。
「それじゃあ、これが買取金だ」
そう言って、カウンターに白金貨十枚が置かれた。
「こんなにか!?」
「バカタレ! 全然足りねえよ!」
そして素材の半分をこちらに寄越した。
「これは買い取れねえ」
「どうしてだ?」
「ウチで買い取るには量が多すぎる。本当は全部買い取りたいんだが、そんな金はウチにはねえからな。すまねえ」
「そうか。なら、この白金貨、両替してくれないか?」
「まあ、それじゃあ使えないしな。いいぜ」
麻袋いっぱいの硬貨に変わった。
中には金貨が数枚、そして銀貨と銅貨になっていた。
「ありがとう」
「別にいいがよう、兄ちゃん。ちょいと薄汚れすぎじゃないか?」
「ん、そうか? 長い間、ダンジョンに潜ってたからな。風呂に入る余裕もなかったんだ」
「ったく、しょうがねえな。ウチで風呂に入っていきな」
「いいの!?」
「まあ、売り物を買い取り切れなかった、せめてもの詫びだ」
そう言って笑ったおっさんが、不覚にもかっこよく見えた。
暖かい風呂に入って、三年分の汚れを落とした。
鏡を見て気付いたけど、髪もだいぶ伸びたな。明日にでも切りに行くか。
その後、おっさんは夕食も食わしてくれたし、ついでに泊めてくれた。
久しぶりのベッドは心地よく、とてもよく眠ることができた。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ブックマークや評価(★★★★★)などよろしくお願いします。
帝国に裏切られた死霊術師ですが、何故か死の女神に惚れられました。〜死の女神の力で最強の英雄達を生き返らせて、無敵の仲間達と一緒に楽しく暮らします〜
https://ncode.syosetu.com/n2899gt/
誰も信用できないので絶対に裏切れない女奴隷を買うことにした〜帝国に裏切られた俺は奴隷たちに癒されながら、英雄になります〜
【一章完結しました】
【現在休載中】
https://ncode.syosetu.com/n8037gs/
是非、読んでください。