第二話 始まり
「グッ、ウウッ……ッ!」
時間にすれば数分だが、距離にすれば長い事、僕は落下していた。
壁を転がりながら落ちていたから、衝撃はそれほどじゃなかった。
ただ、身体中ボロボロだ。
血も出ている。
立ち上がり、周りを見渡すけど、何も見えない。
そりゃそうか。ここは地下数千m。
明かりなんてどこにも――――。
ピカッ!
その時だ。何かが光った。
「誰だ! 誰かいるのか!?」
「…………」
返事はない。
けど、僕は自然と足を進めていた。
何も考えずに、ここがどういう場所かも忘れて。
「誰か、いるのか……? 助けてくれ」
さっき光った場所はここだったはずだ。
ギュシャァアアアアア!!
その時だ。
地面が無くなった。
直感で、このままでは死ぬと思い、ジャンプする。
「な、なんだ!?」
するともう一度、何かが光った。
「アンコウ……?」
見たことがない魔物だった。
深海魚のアンコウのようで、頭の上の提灯に光を付けている。
俺が見た光も、これか。
まあ、そりゃそうか。こんな場所に人がいるわけないもんな……。
その時だ。
アンコウの魔物が、大口を開けて地面を泳いできた。
「くっ……」
無様に転がりながら避けるが、アンコウの魔物はすぐに方向転換してくる。
幸いなのは、アンコウの居場所が光りで分かるってことだ。
「くそったれがぁあああああ!!」
そこからは、やけくそだった。
アンコウに飛び乗った。
しがみつく場所がないから、提灯の付け根を握る。
「うおおおおおおおお!!」
力いっぱい、提灯を引っ張った。
だが抜けない。
それならと噛み付く。
ヌメヌメする体液が気持ち悪いが、気にしていられない。
流石に痛みを感じたのか、アンコウも悲鳴を上げた。
壁にぶつかりながら、俺を振り落とそうとする。
だが俺は落ちない。
意地でも離れない。
「ふぉよふぁぜ!」
さらに追撃だ。
肌を撫でる程度の風を、アンコウのエラに向けて吹かす。
昔、何かの本で読んだことがあった。
魚はエラに空気を送られると苦しむ、と。
そしてそれを時間続けると、死に至る。
それから数時間の格闘が続いた。
俺の足元では、アンコウが横たわっている。
「…………ギュ…ャァ…………ァ」
一か八かだった。
見た目が魚でもコイツは地面にいたからな。
ぎゅるるうぅぅ……!
何の音だ!? とあたりを見渡すが、何もいなかった。
代わりに自分の腹を抑えると、音が鳴っているのがわかった。
「こんな時でも、腹は減るんだな……」
自然と視線がアンコウに向かった。
こんな見た目でも、魚なんだよなぁ……。
って、何を考えてるんだ!
魔物だぞ、こいつは!
でも……。
『『クライ』』
「~~~~ッ!」
ガブッとアンコウの肉に噛り付く。
アンバーの声と、グラディウスのにやけ面が浮かんだ。
絶対に許さない。
僕をこんな目に合わせたんいいだ。
絶対に生き残って、復讐してやる。
「マズ……」
マズイ。でも、食べる。
固い。苦い。筋っぽい。
それでも食べる。
明かりなんてない。
それでも食べる。
………絶対に、生き残る。
全部食ってやる。
雑魚スキル? 上等だ。
その雑魚スキルを、強くして、お前を殺してやるよ。
アルバ―。そして、グラディウス。
お前らをもう、家族だとは思わない。
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹け!」
ふわっ
「吹けぇえええええ!!!」
ブワァアアアアアッッッ!!!
突風が吹いた。
洞窟内に、風が通る。
「は、はははっ……。なんだよ、できるじゃねえか」
今まで僕は、諦めていたんだ。
やろうと思えば、そよ風だって、もっと強い風になれたのに。
僕の可能性を否定していたのは、僕だった。
グルルルル…………。
どこかから、猛獣の唸り声が聞こえた。
休む暇もないな。
まあ、いい。
拳を構え、風を吹かせる。
これからだ。
今日から始めるんだ。
「待っていろよ、俺が行くぞ」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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帝国に裏切られた死霊術師ですが、何故か死の女神に惚れられました。〜死の女神の力で最強の英雄達を生き返らせて、無敵の仲間達と一緒に楽しく暮らします〜
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誰も信用できないので絶対に裏切れない女奴隷を買うことにした〜帝国に裏切られた俺は奴隷たちに癒されながら、英雄になります〜
【一章完結しました】
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是非、読んでください。