第一話
今日からよろしくお願いします。
皆さんに長くご愛読いただけるように頑張ります。
風が吹いている。
草原でしか感じられない、心地良い風だ。
僕の名前はクライ・デューク。
今日で十二歳になる、貴族の次男だ。といっても、肩書だけだけどね。
僕は風を感じる時だけが幸せを感じられる。
ずっと、ずっとこうしていたい。
でもそうはいかないみたいだ。
「坊ちゃん。当主様がお呼びです」
僕を呼びに来たのは壮年の執事、ジェイコブだった。
彼には僕が小さい頃から、よくお世話になっていた。
「うん。今日までありがとう、ジェイコブ」
「……仕事、ですので」
そう言いながら、苦い表情をするジェイコブ。
彼も分かっているんだ。
僕が今日、実家を追放されるのを。
部屋の前に立ち、三度ノックをする。
「失礼します」
「うむ。入れ」
部屋に入ると、豪華な机に父が座っていた。
仮にも武官なのだ。傍らには剣があり、それもかなりの業物だと分かる。
父の名前はアンバー・デューク。
爵位は公爵で、このスクオーラ王国でもかなり上位の貴族だ。
かつては冒険者として一躍、英雄として称えられた。
その功績を国王に認められ、今は武官として王国に仕えている。
「今日でお前も、十二歳か」
「そう、ですね……」
長い沈黙が続く。
「……今日でお前から家名を剥奪。同時に、デューク家から追放とする」
そしてアンバーが言った。
けれど僕は驚いていなかった。
当然だ。
母が死んでから、毎日のように言われ続けていたんだから。
「お前が悪いのだ、《そよ風》などと言うゴミスキルを持って生まれたのだ」
人は生まれ持つ才能というものがある。それがスキルだ。
僕が持って生まれた才能、スキルは《そよ風》というスキルだった。
肌を撫でる程度の風を起こすスキル。
本当に、ただそれだけのスキルだ。
「情けない、本当に俺の子か?」
僕のスキルが《そよ風》だけだと分かった時、そう言ったんだ。
「恥ずかしくて、お前を社交界にも連れていけない。もう、家から出ていけ。二度と性を名乗るな」
父親が息子に言う言葉じゃない。
でも、僕も納得してしまった。
だって、そよ風だよ?
はは。弱すぎる。武官の息子がそよ風なんて。みんな笑うよ。
父はすぐにでも追放したかったけど、僕がある程度の年齢になるまで我慢した。
少しでも僕を息子だと思ってくれたのか、それとも世間体の問題か。
どちらでもいいさ。
もう僕は、ただのクライだから。
「馬車を用意した。それに乗って別の街に行け。二度と、俺の前に現れるな」
それがアンバーの最後の言葉だった。
僕は無言で部屋を出た。
馬車に乗って、しばらく経った。
「どこに向かっているんですか?」
聞いても、誰も答えない。
馬車に乗っているのは、僕と御者、デューク家の私兵が数人だけだった。
後ろにももう一台、馬車が着いて来たみたいだ。
追放した息子に随分と労力を使うな、と思っていると馬車が止まった。
兵士達が一気に馬車から降りていった。
「クライ様。到着しました」
降りろ、ってことか。
素直に降りると、そこには兵士で出来た道と―――
「兄、上…………?」
そこにいたのは、兄のグラディウスだった。
僕の一つ上、十三歳になる。
「汚らわしい!」
「グウッ!?」
剣で腹を思い切り殴られた。
刃は潰してあるが、鉄の塊だ。
とても痛い。
「おえッ……」
地面を転がり、這いつくばった。
酸っぱいものが腹の底から上がってきて、吐いた。
なんで? そう思いながら、兄を見上げると……。
「ハハハハハッ! 良い様だな、ゴミが!」
笑っていた。
「なんで、兄上……」
「なんで? ふざけるな! お前のようなゴミが弟っていうだけでも腹立たしいのに、いつもいつも「兄上」と後ろをついて回る。……限界なんだ! 気持ちが悪い! 汚らわしい、ゴミめ!」
なんだよ、それ……。
俺は弟だぞ?
「だが、それも今日で終わりだ。お前は死ぬんだからな!」
「…………は?」
死ぬ?
どういうことだ?
「あ? ああ、そうか。お前はまだ聞かされてないんだったな~ぁ!」
心底愉快そうに笑うグラディウス。
「お前は今日、死ぬんだよ! だからこんな森の中に連れてきたんだ! お前を殺すために、僕が来たんだからな!」
なんだと?
「ふざ、けるな。父上が黙って……」
「お前を殺す命令をしたのは父上さ」
「ぇ……?」
「ハハハハッ! 言葉にもなってないみたいだな!」
そんな、父上が?
嘘だろ。
実の息子を、殺すのか?
「父上は言ってたよ。殺したくても、世間体があって殺せなかったってな。まあ、この場所なら事故ということにして殺せるからな」
「……さっさと殺せ」
「まあ、慌てるな。僕は考えたんだ。ここで僕自身の手で殺しても良いが、それではお前は苦しまずに死んでいく。もっとお前を苦しませたい。絶望させたいんだ」
クソみたいな理由だな……。
「そこで、ここさ!」
「ウッ……!」
グラディウスに首を掴まれ、持ち上げられ、ある場所に運ばれた。
そこは巨大な穴だった。
地の底が見えないほどに深い。
僕はこの場所を知っていた。
「まさか、【帰らずの洞穴】か!?」
「その通り」
【帰らずの洞穴】。
かつて、この穴には何人もの探検家や冒険者が捜索に入った。
だが、帰ってくる者は誰もいなかった。
中は高難易度のダンジョンになっているらしく、危険度はSに認定されている。
「中には魔物がたくさんいるからな、お前は魔物に貪られながら死ね」
そう言って、手を離した。
僕は落ちていく。
深い深い暗闇に。
「許さない、許さないぞグラディウス……ッ!」
僕は、落ちていく。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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帝国に裏切られた死霊術師ですが、何故か死の女神に惚れられました。〜死の女神の力で最強の英雄達を生き返らせて、無敵の仲間達と一緒に楽しく暮らします〜
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誰も信用できないので絶対に裏切れない女奴隷を買うことにした〜帝国に裏切られた俺は奴隷たちに癒されながら、英雄になります〜
【一章完結しました】
【現在休載中】
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是非、読んでください。