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亡き人  作者: あしゅ
7/40

亡き人 7

太郎の憤慨をよそに、ゼロはフラフラと飛んでいた。

えーと、ここまで電車1本だったよな?

この駅から何個目だったっけ?

どう考えても、飛ぶより電車の方が早いよな?

乗っちゃえ乗っちゃえー。

 

うお、ホーム、霊いっぱいーーーーーーー!

・・・駅って、こんなんだったんだー

霊感ある人、通勤通学大変なんだろうなあ。

あ、ドア閉まった、待ってーーーーー。

 

走り出している電車にすり抜けて入ったゼロの体を

電車がサーッとすり抜けて行った。

 

 

え? え? うそ、電車乗れないのー?

線路の上にポツンとひとり浮くゼロ。

 

いや、そんなはずはない!

さっき、霊っぽいのが電車の中に立ってたもん。

順番守ってドアから入って、気合いを入れて乗ればイケるはず。

 

 

次の電車を待つ間、何度も繰り返し電車に飛び込むシーンを再現する霊とか

延々と見せられて、ゲンナリさせられる。

 

自殺ってのはマジで浮かばれないんだな・・・

太郎にもよく言って聞かせとかないと。

自分も浮かばれていない霊なのに、他人事のように思うゼロ。

 

 

結局、普通には電車に乗れず

知らない人の体にしがみついて乗って

やっと最寄り駅までたどり着いたゼロであった。

 

何か、憑ける人と憑けない人がいるみたいだ。

どんな違いなんだろう?

いかにも人生にくたびれて絶望してそうなオヤジには憑けなかったし

性格うんぬんの問題じゃないような気がするなあ。

 

 

ゼロがくっついたのは、ケバやかな若い女性で

電車に乗っている間中、ケータイメールを打っていた。

 

ふーん、今時の若者のメールはひとことの応酬なんだー。

ほんとに会話してるのと一緒なんだな。

某巨大掲示板で、5行で “長文乙” とか

あおられる理由がわかったわ。

 

とりあえず電車内のマナーについては何も言わんよ

こっちも、とり憑いて無賃乗車してる分際だし。

おねえちゃん、どうもありがとう、ご健勝である事を祈っとくよー。

 

さて、こっからの道順がやっかいなんだよな・・・。

ゼロは駅前で既に迷っていた。

 

 

太郎が駅に着いたのは、夜の10時を過ぎていた。

「ああーーー、やっと帰って来たーーーーー!

 待ってたんだよーーーーーーーーーー!!!」

聞き覚えのある声にギョッとして、見上げるとゼロが浮いている。

 

「迎えに来てくれたんですか?」

「違うー、昼間からずっとここにいたんだよー。

 こっからの道順がわからなくてさー。」

 

太郎は思わず腕時計を見た。

「ええ? 8時間ぐらい経ってますよ?」

「うん・・・

 アルゼンチン経由で太郎のとこに戻ろうかとも思ったんだけど

 何か、あんまり迷惑を掛けるのも何だかなー、と思ってさ。」

 

 

珍しく気を遣うゼロに、太郎はついほだされた。

「そんな、迷惑なんかじゃないですよ。

 気を遣わないでくださいよ、ゼロさんらしくないじゃないですか。」

 

その言葉に、ゼロが一気に調子づく。

「そうお? じゃ、これからもよろしくお願いねー。」

太郎は自分の言葉を素早く後悔した。

 

「あっ、ほどほどに頼みますね?」

「わかってるってー。

 私、こう見えても和を尊ぶ人なんだからー。」

 

絶対それは思い違いだ! 太郎は心の中で叫んだ。

 

 


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