亡き人 6
「ねえ、何か飽きたんだけどー。」
太郎の背中でゼロがゴネ始めた。
「そんな事を言われても、まだ講義がありますし
その後はバイトに行かなきゃいけないんですから。」
「うーん、ガッコの授業、ほんと退屈ー。
スーパーの前に繋がれている犬の気持ちがわかるわー。」
ゼロが太郎の背中でユサユサ揺れる。
「もう・・・、我がまま言わないでくださいよ。
ついて来たがったのはゼロさんでしょう。」
「だって何も出来ないって、地獄なんだよー?
コントローラーでも握れるなら
太郎にWiiを買わせるのにー。」
「・・・握れなくて、ほんと良かったですよ・・・。」
「よし、ちょっと冒険してみるわ。
私、太郎から離れて浮遊してみる。」
ゼロが太郎の背中から離れた。
「え、そんな事をして大丈夫ですか?」
「わからない。
もし今夜アパートに戻ってなかったら、成仏を祈ってくれ。
それでは、さらばだー。」
「ちょ、待・・・」
太郎の静止も聞かずに、ゼロは窓の外に出て行った。
まったく、ほんとに自分勝手なんだから・・・
でも大丈夫かな、何かあったらどうすれば良いんだろう
太郎は、死んだ人の心配をしている自分に気付いていない。
ゼロは大学の構内をフワフワとさまよっていた。
おおー、自由に動けるじゃん
これならアルゼンチンにも行けるかもー
ああっ!
次の瞬間、ゼロは太郎の鼻っ面の先にいた。
動揺を必死に抑えつつ、太郎が
何やってるんですか、とノートに書く。
講義中なので声が出せないのだ。
「いやね、結構フラフラ出来たんだけど
アルゼンチンに行こうとすると
引き戻されるみたいなんだよ。」
何でアルゼンチンなんですか?
「ナチスの残党が作った村、っちゅうのがあるという噂があってさ
そこでは、高度な技術を使って飛行物体を作ってて
それが宇宙船、つまりUFOに間違われているという説も・・・」
もういいですから、勉強の邪魔をしないでください
「あ、ごめんね。
じゃあ、アパートまでブラブラ帰ってみるわ。
迷子になった時には、アルゼンチンに行こうとしたら
太郎のとこに戻れるとわかったし。」
はい、気をつけてくださいね
「うん、太郎もしっかり勉学に励めよー、じゃっ。」
で、窓から出て行くかと思いきや
ゼロは講義をしている教授の隣に行って
幽霊の定番のヒュードロドロのポーズをとった。
それどころか、こともあろうに教授の回りで
お笑い芸のズグダンズンブングンまでやり始めた。
ネタの選択が微妙に古いのが、何とも言えない。
太郎が血相を変えて睨むと、すんません、と拝みながら
やっとヘコヘコと窓から出て行ったゼロ。
太郎は、はあー、と頭を抱えた。
ふと見ると、山口がこっちを見て腹を押さえて笑いをかみ殺している。
太郎もつい、すまん、と拝んでしまった。
まったくゼロさんのせいで、何でぼくまで・・・
イライラしながら、さっき書いたゼロへの言葉を消した。




