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亡き人  作者: あしゅ
35/40

亡き人 35

松林の間から波の反射が煌めく。

足元には砂まじりの土が広がる。

海に臨んだ小高い丘に、墓地があった。

 

「くっそー、卑怯なぐらいにキレイなとこじゃねえか!」

山口が鼻をすする。

 

 

皆で参りに来たその墓は、地方都市の郊外にあった。

ゼロは結婚直後に、事故で意識不明になり

回復の目途が立たなかった事から

両親は婿を不憫に思い、離婚届を出させた。

 

「その事故というのが、落として転がる5円玉を追って

 歩道橋の階段を転落したんだと。」

 

仲間が一斉に笑う。

「ありそうで、ない事故よねえ。」

「何故5円?」

「でもそのせいで長野くんと、“ご縁” が出来たのかもね。」

「普通思っても言わないダジャレだよね。」

 

 

長野とゼロの縁は、はっきりしない。

しかし墓のある地方を聞いた時に、長野が言った。

「確か父方の祖母が、そこらあたりの出身だったはず。」

 

しかし長野の親戚で、その事について

知っている人は誰もいなかった。

仮に繋がりがあったとしても、そのぐらい遠い縁であろう。

 

「ぼくが迷っていたから

 ゼロさんが来てくれたのかも・・・。」

 

「俺たちの縁結びの神だよなあ、ゼロさん。」

山口が長野の肩に手を回す。

 

 

ゼロが生霊になって使っていた力は

生命力とも呼ぶ力だったようで

そのせいか、ゼロの内臓はボロボロだったらしい。

 

これらの事は、山口パパが雇った探偵と

スピリチュアル・長崎が調べたもので

ゼロ本人には会えなかったが

こうして墓の場所だけは、わかったのだと言う。

 

 

この話は血まみれちゃんにも伝えられた。

血まみれちゃんは、薄っすらと目を開けて聞き入り

話を聞き終えたら、またゆっくりと目を閉じた。

 

もう後ろの壁が見えるほど、透き通ってきている。

多分あと数日もすれば、完全に見えなくなるであろう。

 

静かに眠れるのなら、それが一番だよ・・・

長野は触れない血まみれちゃんの肩に、ソッと手を当てた。

 

 

一同はゼロの墓の前で、無言でしばらく立ちすくんでいた。

ゼロが確かに存在した、という証しのこの場所で

誰も最初に動き出したくない。

 

ふと、長野が振り向いた。

「どうした?」

山口の問いに、いや、やけに海が眩しくて、と答える。

 

「ゼロさんが微笑んでいるのかも。」

言った後、石川が涙声で笑う。

「何かの表現に、そういうのがあった気がするのよ。

 ね、キレイにまとめたと思わない?」

 

「ゼロさんの笑顔、輝いてなかったぜえ?」

山口がズケズケ言う。

 

皆で泣き笑いをした。

 

 

波が荒かったけど、優しい風に包まれていた春は終わった。

 

もう季節は夏なのだ。

 

 


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