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亡き人  作者: あしゅ
33/40

亡き人 33

「何だね、拓也、用があるなら家の方に来なさい。」

山口パパが威厳と共に入ってきた。

 

「緊急なんだ、頼む、おやじ、力を貸してくれ!」

山口は、ガバッと机に両手をついた。

 

 

一通りの話を聞いて、山口パパは疑問を口にした。

「しかし、ゼロさんが生きているのは喜ばしい事じゃないかね?」

 

山口は表情を暗くした。

「俺にはそうは思えないんだ・・・。

 ゼロさんはフワフワ浮いてるから、ゼロさんであって

 普通の人間になったら、それはもう

 “長野の” ゼロさんじゃ、なくなる気がするんだ。」

 

 

スピリチュアル・長崎がヌケヌケと言う。

「それはヒドい話ではないかね?

 どんな状態であっても受け入れるのが仲間だろう?」

 

山口はキッと睨んだ。

「あんたら大人は、よくそう言うけどよお

 俺らの周りじゃ、色んなものが

 毎日毎日変わっていってるんだよ!

 この上、大事な仲間にまで変わってほしくねえんだよ。

 ついていけねーんだよ!」

 

山口のこの “泣き言” に、大人ふたりは

自分の若い頃の葛藤を思い出した。

 

 

「長野、泣いたんだよ、ゼロさんがいない、って。

 あいつには、ちゃんと人生の目標があるんだよ。

 そういうヤツの大事な時に

 そんなデカい悩みを与えたくねえよ。」

 

山口も感極まって泣き始める。

「あんたらは気楽に考えてるけど

 長野からゼロさんを奪うなんて

 あいつの人生を潰す事になるかも知れねえんだぞ。

 一生残る傷ってあるんじゃねえんかよ?」

 

 

山口パパは感動していた。

自分の息子が、大学生にもなったくせに泣き喚いている。

しかもその涙は、自分のためではなく友人のためのものなのだ。

 

途中でこいつはダメかも、と思った時期もあったが

奇跡的な方向転換をしてくれたようだ。

こいつをそうさせたのは、長野くんとゼロさんなのだろうな。

 

 

「それで、わしに何をしてほしいのかね?」

山口パパの質問に、山口は目を拭いながら即答した。

 

「ゼロさんの本体を探してくれ!

 そして長野に事実を伝えるかどうか

 “ちゃんとした大人” のあんたらが考えてくれ!

 俺じゃ、どうしたら良いのか、わかんね。

 ゼロさんの居場所はこいつが占うから。」

 

山口に腕を引っ張られたスピリチュアル・長崎は戸惑った。

「いや、大まかなとこまでしか視えないんだが・・・。」

「だから、おやじの財力にも頼るんじゃないか!」

 

ああ、そういう事か!

大人ふたりは、やっと山口の意図を理解した。

 

 

山口パパもスピリチュアル・長崎も、無言だったが

山口の目を真っ直ぐに見つめた。

 

山口には、それだけで充分だった。

自分がすべきは、長野を支えて知らせを待つ事のみ。

成功するとは限らないので、仲間にも何も伝えない。

 

持っていても辛いであろう現実なんて

あえて分け与える必要はないんだ。

 

 

山口は、全部ひとりで抱え込む覚悟をした。

 

こんぐらいしなきゃ、ゼロさんに

長野の友達として認めてもらえないもんな。

 

 


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