亡き人 32
「そんで、何でここらをまたウロついてんだよ。
ゼロさん、この周辺にいるのか?」
山口の厳しい突っ込みに、スピリチュアル・長崎は正直に答えた。
「いや・・・、あの霊は確かに消えた・・・。
私はあの青年に会いたかったのだ。」
「長野にか?
あいつに何の用だよ
ゼロさんをやっつけました、って言うんかよ?
今のあいつにそんな事言ったら、あいつ死んでしまうぞ
許さねえぞ、おっさん!」
山口に首元をひねり上げられながら
スピリチュアル・長崎は、必死に言った。
「ちちち違うのだ!
あれは霊ではない、生きているのだ!」
「へ?」
絞めを止めて、スピリチュアル・長崎の目を見る山口。
「あれは死霊ではなかったのだ。
生霊だったのだよ。
何故それを見抜けなかったのか・・・。
そのせいで、私のほとんどの術が効かなかったのだ。
多分今頃、自分の体に戻っている。
どこかで生きているはずだ。
あの青年が縁者じゃないか、と思ってな。」
山口はしばらく、呆然としていた。
それが良い知らせか悪い知らせか、わからなかったからだ。
ただ、もう元に戻れない状況だというのは
山口にも何となくわかって
それは長野にとって、致命的な事じゃないか?
と、迷ったのだ。
「おまえ、ちょっと一緒に来い!
おーい、タクシー!」
山口は、スピリチュアル・長崎を強引に引っ張って
タクシーに乗り込んだ。
着いた先は、大きなビルだった。
受け付けを素通りする山口。
秘書に通されたのは、豪華な社長室だった。
「俺のおやじんとこだ。」
「きみ、ものすごい坊ちゃんなんだな。」
「そう。 だから逆らわない方が良いぜ。」
山口は表情ひとつ変えずに呟いた。




