拾う神
いつの間にか気絶していたシュンはハッと気がついて身を起こす。
そしてあたりを見回すと木造の部屋の隅に置かれたベッドのうえに、自分が寝かされていることを知る。
「ここはいったい……?」
彼は思わず疑問をつぶやいた。
自分が屋外でうずくまって泣いていたことまでは覚えているのだが、それ以降の記憶がまったくない。
その時ドアが開いて身長140センチくらいの赤い髪の女の子が入ってくる。
「あ、起きた?」
可愛らしいアニメ声にシュンがびっくりしていると、女の子はにこりと笑う。
「……はい」
もしかしたら助けてもらったのかもしれない──そう思ってシュンは返事をする。
「そっか、よかったよー。泣きながら気絶してるのを見つけた時、大丈夫かなって心配したからね」
少女は緑の瞳を彼に向けて微笑む。
「そ、それはどうもありがとうございます」
可愛らしい笑顔に照れると同時に、彼は泣き顔を見られたという羞恥心に襲われて耳まで真っ赤になる。
「あ、照れてる? かわいいー」
「か、勘弁してください」
年齢は同じくらいか年下かもしれないが、助けてもらった恩義があるのでとても強く出られない。
シュンの性格上、初対面の女の子に強く出ることは元々難しいが。
「何じゃ、起きたのか」
そこへ一人の豊かな白髭をたくわえた小柄な男性が入ってくる。
身長は150センチくらいだろうが胸は厚く肩幅は広く、シュンの目にはギャップがすごく映った。
「ダークブラウンの髪と瞳とは珍しい。もしやと思うが、異世界人か?」
「わかるんですか?」
いきなり老人らしき男性に言い当てられ、シュンは目を丸くする。
なんて説明をしたらいいのかという悩みを省略できるのはありがたいが、なぜわかったのか気になった。
「やはりか。二〇〇年ぶりというところかの」
男性は一人で納得している。
「二〇〇年……前にもあったんですか?」
シュンは必死に頭を動かすが、なかなか理解が追いつかない。
「まあな。それでお前さんはどうして一人で倒れていたんだ? 仲間はいないのか? お前さんを呼んだ者は?」
男性に聞かれてシュンは言葉に詰まり、表情をゆがめる。
改めて苦痛と恐怖を思い出してしまったのだ。
「……おじいちゃん、このヒューマン相当つらいことがあったんじゃない?」
「そうだな。すまんな、忘れてくれ」
少女にとがめるような視線を向けられた老人はシュンに頭を下げる。
「いえ、大丈夫です」
知らない相手が「何があったのか」と聞くのは当然のことだ──シュンはそう思うので、彼の謝罪を受け入れた。
沈黙が下りてシュンは気まずく思えてきたので、勇気を出してたずねてみる。
「あの、スキルについて質問してもいいですか?」
「うん? かまわんよ。ワシに答えられることならな」
男性がうなずいてくれたので、彼は本題に入った。
「プラモ作りってスキル、ご存じじゃないですか?」
「ぷらも? なんだそれ?」
「初めて聞いた言葉ね」
老人も孫娘もそろって不思議そうな顔で首をひねる。
「そ、そうですか……」
シュンは肩を落とす。
期待していなかったものの、やはり心にダメージは入ってしまった。
「ひょっとしてお前さんのスキルがそれか?」
老人は気づいたらしく、彼も隠せないと思っていたのでうなずく。
「それでどうしたらいいのかわからなくて、困っているんです」
どういうスキルなのかわかりさえすれば、まだつき合いようもあるのだ。
シュンの主張に老人はなるほどと言う。
「言葉の響きから察するに、物作り系スキルの一つだろう。ならばいろいろと試してみるのが近道だ」
彼はそう答えてから孫娘を見る。
「リア、せっかくだ。お前が手伝ってあげなさい」
「え、私が? おじいちゃんじゃなくて?」
リアと呼ばれた孫娘は祖父の言葉に目を丸くした。
「これも『継承』に必要なことだ。彼だけでなく、お前にもメリットがある」
「わかったわ」
何やらシュンには理解できないやりとりがおこなわれる。
ただ、彼の手助けをしてくれることだけはわかった。
「仕方ないわね。あなた、名前は?」
「シュンです」
シュンはリアの問いに答える。
「ふうん。珍しい名前ね。本当に異世界人なんだ」
彼女は感心してから言った。
「私はレフミリア。リアでいいわよ。よろしくね」
名乗りながら差し出された手をシュンは握る。