お前なんていらない
話が終わった後、シュンたちは白い大きな宮殿のような建物へと案内され、広間に連れてこられる。
そこで食事を与えられたが、固いパンと臭みのある羊乳を出された。
「申し訳ないのですが、流通の問題があってあまり多くの食料をここまで運べないのです」
ラルクが謝る。
「もう少し他の場所じゃダメだったのですか?」
鹿倉が探るような視線を彼に向けた。
「ええ。異世界から大規模な召喚を成功させるためには、この地の力がどうしても必要だったのです」
ラルクは気分を害した様子もなく、優しい微笑で答える。
「なるほど」
本当かどうかわからないけどなぁ──シュンはささくれた気分でうがった考えを浮かべた。
「個室をご用意しているので、本日はゆっくりお休みください。明日、みなさんにやっていただきたいことについて、本格的にお話ししましょう」
いきなり何もかも話さないのはあなたたちに配慮しているからだ、とラルクは言外に示す。
割り当てられた部屋すべてにベッドと布団が用意されている。
俺の部屋よりも広い──とシュンは思いながらベッドの上に寝転がった。
目を閉じたが、眠れるわけがない。
いきなり異世界に召喚され、明かされたスキルが外れだと笑われて、これからモンスターと戦うことになる。
何とか整理してみたものの、まだ心がついてきていなかった。
「プラモ作りってなんだよ……どうやって戦えって言うんだよ」
シュンの口から困惑と絶望が漏れる。
何かを作れというスキルならまだ理解はできた。
だが、こちらの世界の人が「プラモって何?」という顔をするのが現実だった。
「モンスターと戦わないに越したことはないじゃないか」
他に理由はない。
ラルクが許すかはわからないが。
どんどんと乱暴にドアが叩かれ、不思議に思いながらシュンが開くと御子柴とその仲間がにやにやしながら立っていた。
「よう、外れオタク野郎」
「え」
御子柴たちは無理やり部屋の中に入ってきてドアを閉めると、壁にシュンの体を無理やり押し付ける。
「よう、お前は出て行けよ。俺たちの集まりからさぁ」
胸倉をつかみながら御子柴は低い声ですごむ。
「な、なんで」
いきなりとんでもないことを言われシュンは頭が真っ白になる。
彼に理解できたのは理不尽なことを言われていることと、御子柴たちが間違えようもない敵意を向けていることだけだ。
「ラルクって奴が言ってただろ。三十人分の用意しかないって。足手まといのお前が消えればみんな助かるんだよ」
と御子柴は嘲りを込めて言う。
「そ、そんな」
三十人分しかないなら一人減ればよいという理屈はどうにかわかるが、シュンの感情が納得しない──したくない。
「わかんねえ奴だな」
御子柴は吐き捨てるように言いながらシュンの脇腹を殴る。
「うっ」
「お前なんていらないんだよ」
もう一度脇腹を、さっきより強い力で殴った。
「ぐっ」
「お前まさか、自分は必要だと思ってる?」
今度は蹴りを足に入れられる。
「あう」
御子柴は胸倉から手を離したと思ったら、今度はシュンの髪を鷲掴みにする。
「なぁ、おとなしく出て行けよ。そうすればこんな目に遭わなくてすむんだぜ? お前だって好きで殴られたいわけじゃないだろ?」
シュンは苦痛に表情をゆがめながらも答えない。
痛い思いを好きでしたいわけじゃないが、ここでうなずいて一人放り出されたら、その先はきっと地獄だ。
そんな思いが返事をためらわせる。
「がっ」
そこへ今までで一番強いパンチが腹にめり込んだ。
「クズオタクはどこまでも物分かりが悪いんだなぁ」
御子柴はイラついてそう言うと後ろにいる仲間に目をやる。
仲間はにやっと笑って青い炎を作り出して見せた。
「こいつのスキルは『業火』って言ってなぁ、人間の体を灰にするくらい簡単なんだよ。……つまり、お前は死んで行方不明になってもおかしくないんだぜ?」
御子柴と仲間は自分を殺す気なのか──シュンは恐怖で固まる。
いくらなんでもそこまではとどこかで思っていたのだが、彼は甘かったのだ。
「俺らがお前と対等なわけがないんだよ。なぁ、クズオタク。大人しく出ていくか? 行方不明にされたいのか? 選べよ」
御子柴の最後の恫喝にシュンは屈する。
「で、出ていくよ」
か細く弱弱しい涙声に、御子柴はにやりと笑う。
「わかればいいんだ。今すぐ出ていくなら、もう何もしねえよ」
と言った。